※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。遺言書が必要かどうかは、ご家族の状況や財産の内容によって変わります。実際のお手続きの前に、公証役場、税務署、または司法書士・税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
「遺言書は作ったほうがいいのだろうか」
終活を意識しはじめた方から、よくいただくご質問です。書店には遺言書の本が並び、専門家は「作りましょう」と言う。けれども、自分の家にとって本当に必要なのかは、なかなか判断がつきません。
遺言書は、すべての方に必要なわけではありません。
一方で、「作っておけばよかった」と遺されたご家族が困るケースも、実際にあります。この差はどこにあるのでしょうか。
この記事は、遺言書を作るべきか迷っている方が、ご自身の状況を整理するための判断材料を示すものです。まず「いま急いで作らなくてもよい場合」からご説明し、そのうえで必要性を判断する5つの軸を、行政書士の立場から整理してご説明します。
目次
- 遺言書は、すべての人に必要なわけではありません
- いま急いで作らなくてもよい場合もあります
- 判断の5つの軸
- 軸1・2|相続人の人数と関係を確認する
- 軸3|財産が分けにくいと、遺言書の必要性は高まります
- 軸4・5|渡したい相手が決まっているなら
- 遺言書があっても、遺留分には注意が必要です
- 作ると決めたら|方式と進め方
遺言書は、すべての人に必要なわけではありません
遺言書がなくても、相続の手続きは進みます。
亡くなった方が遺言書を残していない場合、財産は相続人全員の話し合い——遺産分割協議——によって分けることになります。法律は、誰が相続人になるか、どれだけの割合を相続するかをあらかじめ定めていますので、それを目安に話し合いを進めることができます。
つまり、遺言書は、すべての相続手続きで必ず必要になる書類ではありません。
では、なぜ遺言書をすすめる声が多いのでしょうか。それは、遺言書があることで避けられる困りごとが実際に多いからです。
- 相続人全員の合意が得られず、手続きが止まってしまう
- 疎遠な親族に連絡を取って、署名押印をお願いして回ることになる
- 亡くなった方の意向とは違う結果になる
- 法定相続人ではない人に財産を残したい場合、遺言書などの備えが必要になる
これらの困りごとが起きやすいかどうかは、ご家庭の状況によって大きく変わります。必要性には濃淡があるということです。
🌱 この記事の位置づけ
この記事は「あなたには遺言書が不要です」と判定するものではありません。ご自身の状況を整理し、必要性が高いのか、いまは急がなくてよいのかを考えるための材料としてお読みください。
いま急いで作らなくてもよい場合もあります
まず、必要性が高くないケースからご説明します。
次の3つがそろっている場合、いまの時点で急いで遺言書を作る必要性は、それほど高くないと考えられます。
- 相続人が少ない(たとえば配偶者と子1人、または子2人だけなど)
- 相続人同士の関係が良好(連絡が取れ、話し合いができる)
- 財産が預貯金中心で分けやすい(不動産の比重が小さい)
このような場合、遺産分割協議はスムーズに進むことが多く、法定相続分を目安に分ければ大きな問題は起きにくいといえます。
⚠ 「いま」の話であって、「将来も不要」ではありません
これは今の時点で必要性が高くないという意味です。将来も不要という意味ではありません。ご家族の状況や財産の内容が変われば、必要性も変わります。
そして、状況は変わります。
- 相続人の1人が高齢になり、判断能力に不安が出てくる
- 相続人となるはずだった子が、親より先に亡くなる(孫が代わりに相続人になることがあります。詳しくは代襲相続の記事でご説明しています)
- 自宅を購入する、事業を始めるなど、財産の内容が変わる
- 戸籍を調べたら、把握していなかった相続人が判明する
- 家族関係が変化する
特に、相続人の1人が認知症などで判断能力に不安がある場合、遺産分割協議をそのまま進めることが難しくなり、成年後見制度の利用が必要になることがあります。この場合、手続きは大きく長引く可能性があります。
つまり、「いまは必要性が低い」という判断は、そのときの状況にもとづく暫定的なものとお考えください。数年ごとに見直すのが安心です。
判断の5つの軸
では、ご自身の状況をどう整理すればよいのでしょうか。次の5つの軸で考えてみてください。
- 軸1:相続人は何人いるか
- 軸2:相続人同士の関係はどうか
- 軸3:財産は分けやすいか
- 軸4:自宅など不動産が主な財産か
- 軸5:相続人以外に渡したい人がいるか
このうち、軸5に当てはまる方は、遺言書の必要性がかなり高いと考えられます。法定相続人ではない方に財産を残したい場合、遺言書が中心的な備えになるからです。
軸1から軸4は、程度の問題です。当てはまる数が多いほど、また程度が大きいほど、遺言書の必要性は高まります。
次の節から、それぞれの軸を順に見ていきます。
軸1・2|相続人の人数と関係を確認する
まず、相続人が誰になるかを確認してください。
これは思い込みで判断できるものではありません。相続人が誰かは、法律で順番が定められています。
- 第1順位:子ども
- 第2順位:ご両親などの直系尊属
- 第3順位:ご兄弟姉妹
配偶者は常に相続人になり、これに加えて上の順位の方が相続人になります。なお、ご兄弟姉妹が先に亡くなっている場合には、その子である甥・姪が相続人になることがあります。詳しくは法定相続人と法定相続分の記事でご説明しています。
相続人が多いほど、話し合いは難しくなります。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。多数決ではありません。1人でも反対すれば、協議は成立しません。人数が増えるほど、全員の予定を合わせ、意向を調整する手間は増えていきます。
関係が疎遠であることも、大きな要素です。
相続人同士が長年連絡を取っていない、住所が分からない、海外に住んでいる——こうした事情があると、書類を集めるだけで数か月かかることもあります。
⚠ 話し合いがまとまらない場合
どうしても合意が得られない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停へ進むことになります。調停は、相続人の一部が、ほかの相続人全員を相手方として申し立てる手続きです。話し合いから一歩進んだ手続きになりますので、時間も労力もかかります。調停や審判の代理は弁護士の業務ですので、うりずん相続手続き相談室では、提携する弁護士と連携してご案内しています。
判断のめやす
- 相続人が少なく、全員と連絡が取れ、関係も良好 → 必要性は低め
- 相続人が多い、または連絡が取りにくい方がいる → 必要性は高め
- 相続人同士に感情的な対立がある → 必要性は高い
軸3|財産が分けにくいと、遺言書の必要性は高まります
相続人の人数と関係の次は、財産の内容を見ます。
分けやすい財産と、分けにくい財産があります。
預貯金は、金額で分けやすい財産です。
一方、分けにくいのは次のような財産です。
- 自宅などの不動産
- 事業用の資産、農地
- 非上場株式(家族会社の株式など)
- 美術品、骨董品など評価が難しいもの
特に、自宅などの不動産が主な財産の場合は要注意です。
ご家庭の財産が「自宅と多少の預貯金」という構成は、めずらしくありません。この場合、自宅を誰が相続するかで話し合いが難航しやすくなります。
自宅を相続する方が、ほかの相続人の取り分に見合うお金を用意する——代償金といいます——という方法もありますが、預貯金が少なければ実現できません。結果として、住み慣れた自宅の売却を検討せざるを得ないこともあります。
⚠ 配偶者居住権は自動では発生しません
配偶者が自宅に住み続けられるようにする配偶者居住権という制度があります。ただし、この権利は遺産分割の話し合いや、遺言書による遺贈などで配偶者に取得させる形をとる必要があります。何もしなければ自動的に発生するものではありません。制度の内容については配偶者居住権の記事でご説明しています。
判断のめやす
- 財産が預貯金中心で、金額で分けられる → 必要性は低め
- 自宅などの不動産が財産の大部分を占める → 必要性は高め
- 事業用資産や農地があり、特定の人に引き継がせたい → 必要性は高い
軸4・5|渡したい相手が決まっているなら
ここが、遺言書の必要性を決める最も大きな要素です。
「誰に、何を残したいか」がはっきりしている場合、遺言書はその希望を形にするための中心的な手段になります。
遺言書がない場合、財産は相続人全員の話し合いで分けることになります。亡くなった方の意向は、話し合いの参考にはなっても、法的に相続人を拘束するものではありません。
次のような場合は、遺言書の必要性がかなり高いとお考えください。
相続人以外の方に財産を残したい
お世話になった方、内縁のパートナー、団体への寄付など。法定相続人ではない方に財産を渡すには、遺言書が中心的な備えになります。内縁・事実婚のパートナーに財産を残す方法については内縁の妻・事実婚の相手に財産を残すにはの記事で詳しくご説明しています。
子どものいないご夫婦
お子さんがいらっしゃらない場合、配偶者だけが相続人になるとは限りません。ご両親、ご両親も亡くなっていればご兄弟姉妹が相続人になります。配偶者にすべて残したい場合は、遺言書での備えが必要です。詳しくは子どものいない夫婦に遺言書が必要な理由の記事でご説明しています。
特定の相続人に多く残したい
同居して介護をしてくれた子、家業を継いでくれた子に多く残したい——という場合も、遺言書がなければ実現しにくくなります。法定相続分は、貢献の度合いを自動的には反映しないためです。
🌱 迷ったときは「何もしなかったらどうなるか」を考える
遺言書を作るべきか迷われたときは、「何もしないまま相続が起きたら、財産はどう分けられるか」を一度考えてみてください。その結果がご自身の希望と大きく違うなら、遺言書の必要性は高いといえます。
遺言書があっても、遺留分には注意が必要です
ここまで「遺言書があれば希望どおりにできる」とご説明してきましたが、万能ではありません。
遺留分という制度があります。一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分のことで、遺言書の内容にかかわらず請求できます。
遺留分が認められるのは、配偶者・子ども・直系尊属です。ご兄弟姉妹と甥・姪には遺留分がありません。
たとえば「財産はすべて長男に相続させる」という遺言書を作っても、ほかのお子さんから遺留分を請求されることがあります。この場合、長男は遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求められることがあります。
⚠ 遺言書を作るときは、遺留分を織り込んで考える
遺留分を無視した内容にすると、かえって相続人同士の争いを生むことがあります。具体的な割合や計算方法については遺留分の記事でご説明しています。遺留分をめぐる交渉や紛争への対応は弁護士の業務ですので、うりずん相続手続き相談室では、提携する弁護士と連携してご案内しています。
とはいえ、遺留分があるからといって遺言書が無意味になるわけではありません。遺言書があれば遺産分割協議は不要になりますし、遺留分は、権利を持つ相続人が請求することで、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いの問題になります。内容を工夫すれば、争いを避けながら希望を実現しやすくなります。
作ると決めたら|方式と進め方
遺言書を作ると決めたら、次は方式を選びます。
主な方式は2つです。
自筆証書遺言は、自分で書く方法です。比較的費用を抑えて、いつでも作成できます。ただし、日付や署名、押印などの要件を満たさないと無効になります。法務局で保管してもらう制度もあり、詳しくは自筆証書遺言の保管制度の記事でご説明しています。
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう方法です。証人が2人必要で、公証人の手数料がかかりますが、方式の不備で無効になるリスクを大きく下げられます。原本が公証役場に保管されるため、紛失や隠匿のおそれもありません。
自分で書く方法もありますが、形式不備や紛失を避けたい場合、相続人同士の関係が不安な場合、不動産や遺贈がある場合は、公正証書遺言を検討すると安心です。
書き方の詳細は遺言書の書き方、公正証書遺言の手順は公正証書遺言の作り方の記事でご説明しています。
🌱 作った後も、見直しが必要です
遺言書は、一度作れば終わりではありません。財産の内容が変わったとき、家族関係が変わったとき、相続人が先に亡くなったときなどは、内容を見直す必要があります。遺言書は何度でも書き直すことができ、内容が前の遺言書と矛盾する部分は、後から作った遺言書が優先されます。
まとめ
遺言書が必要かどうかを判断する材料を整理します。
- 遺言書は、すべての相続手続きで必ず必要になる書類ではない
- 相続人が少なく、関係が良好で、財産が分けやすければ、いま急いで作らなくてもよい場合もある
- ただし「いまは必要性が低い」であって「将来も不要」ではない。数年ごとの見直しが安心
- 相続人が多い、関係が疎遠であるほど、遺産分割協議は難しくなる
- 自宅などの不動産が主な財産の場合、必要性は高まる
- 相続人以外に渡したい方がいる場合、子どものいないご夫婦の場合は、必要性がかなり高い
- 遺言書があっても遺留分は残る。内容を工夫することが大切
- 方式に迷う場合は、公正証書遺言を検討すると安心
遺言書の必要性は、いまの家族関係、財産の内容、誰に残したいかによって変わります。ご自身の状況に照らして、一度考えてみてください。
相続のお手続きでお困りの方へ
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