遺言書は、「自分の財産を、誰に、どのように引き継いでもらうか」を、法律にのっとった形で残しておく書面です。きちんとした遺言書があれば、残された家族が遺産分割で迷ったり揉めたりするのを防ぎやすくなります。一方で、遺言書には書き方の決まりがあり、要件を満たさないと無効になってしまうこともあります。

この記事では、はじめて遺言書を作る方に向けて、遺言書の種類・書き方と要件・費用の目安、遺留分や検認といった気をつけたい点まで、行政書士の立場でやさしく整理します。遺言書がない場合は、法律で決まる法定相続分をひとつの基準にしながら、相続人全員で遺産分割協議を行い、合意内容を遺産分割協議書にまとめて分けることになります。なお、相続登記は司法書士、相続税は税理士の業務になりますので、本記事は遺言書づくりの全体像をつかむための解説としてお読みください。


目次

  1. 遺言書とは|遺言書でできること・できないこと
  2. 遺言書を作ったほうがよい人|こんな家庭は特に必要
  3. 遺言書の種類|自筆証書・公正証書・秘密証書の違い
  4. 自筆証書遺言|手軽さ・財産目録・法務局保管制度
  5. 公正証書遺言|確実性・証人・公証役場での手続き
  6. 遺言書と遺留分|「全部あげる」が通らない理由
  7. よくある失敗|検認・無効・見つからない・執行できないケース
  8. 作成の進め方と相談先|遺言執行者・行政書士に相談できること
遺言書の作成ガイドを8コマで解説。遺言書の種類、自筆証書遺言の財産目録と法務局保管制度、公正証書遺言の証人、遺言でも侵せない遺留分、日付なしや検認を知らないなどのよくある失敗、遺言執行者と行政書士への相談までをやさしくまとめた図解

遺言書とは|遺言書でできること・できないこと

遺言書は、自分が亡くなったあとの財産の分け方などについての意思を、法的な効力を持つ形で残す書面です。遺言書があると、原則として法定相続分や遺産分割協議よりも遺言の内容が優先されます。ただし、遺留分や、相続人全員の合意による別の分け方など、例外的に調整が必要になることもあります。

遺言書でできる主なことは、誰にどの財産を相続させるか(相続分の指定・分割方法の指定)、相続人以外の人への遺贈、子の認知、遺言執行者の指定などです。一方、「介護をしてほしい」「兄弟仲良く」といった希望(付言事項)は書けますが、法的な強制力はありません。また、後で見るように、遺言書でも遺留分までは自由に奪えません。


遺言書を作ったほうがよい人|こんな家庭は特に必要

遺言書はどなたが作っても構いませんが、特に次のような場合は作っておく意味が大きくなります。

  • 子どもがいない夫婦(配偶者と、亡くなった方の親、親がいなければ兄弟姉妹が相続人になり、話し合いが複雑になりやすい)
  • 相続人の数が多い、または疎遠・不仲な相続人がいる
  • 自宅などの不動産が主な財産で、現金が少ない(分けにくい)
  • 内縁の配偶者や、相続人でない人(お世話になった人など)に財産を渡したい
  • 事業用資産や農地など、特定の人に引き継がせたい財産がある
  • おひとりさまで、特定の人や団体に財産を遺したい

遺言書がないと、相続人全員での遺産分割協議が必要になり、話し合いがまとまらないと手続きが長期間止まってしまうこともあります。


遺言書の種類|自筆証書・公正証書・秘密証書の違い

遺言書には主に3つの方式があります。

  • 自筆証書遺言:自分で書く遺言書。手軽で費用もほとんどかからないが、要件を満たさないと無効になりやすい
  • 公正証書遺言:公証役場で、公証人に作成してもらう遺言書。費用はかかるが、無効になりにくく、原本も公証役場に保管される
  • 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま、存在だけを公証役場で証明してもらう方式

このうち秘密証書遺言は、実務上はあまり使われておらず、一般には自筆証書遺言か公正証書遺言を検討することが多いです。迷ったときは、確実性を重視するなら公正証書遺言、手軽さを重視するなら自筆証書遺言、というのが基本の選び方です。


自筆証書遺言|手軽さ・財産目録・法務局保管制度

自筆証書遺言は、遺言者本人が全文・日付・氏名を自分で書き、押印して作成します。紙とペンと印鑑があればすぐ作れ、費用もほとんどかかりません。主な要件は次のとおりです。

  • 本文は全文を自書する(パソコンや代筆は不可)
  • 日付は「令和○年○月○日」と特定できる形で書く(「○月吉日」は無効)
  • 氏名を自書し、押印する
  • 加筆・訂正は、法律で決まった方式で行う

押印は実印でなくても有効とされますが、本人が作成したことを明確にするため、実印を使うこともあります。

また、財産目録には例外があります。2019年(平成31年)の改正により、本文と別紙にする財産目録は、パソコンで作成したり、預貯金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を添付したりする形でも認められるようになりました(財産目録の全てのページに署名・押印は必要)。財産が多い方には負担が軽くなる改正です。

自宅保管は紛失・改ざん・発見されないリスクがありますが、2020年(令和2年)7月から始まった法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を使えば、法務局で保管してもらえ、家庭裁判所での検認も不要になります。ただし、この制度で受けられるのは、民法上の方式に合っているかという外形的な確認までで、遺言の内容についての相談や有効性の保証まではされません。内容に不安があるときは、専門家に文案を確認してもらうと安心です。


公正証書遺言|確実性・証人・公証役場での手続き

公正証書遺言は、公証役場で、証人2人の立ち会いのもと、公証人が遺言者の意思を聞き取って作成する遺言書です。特徴は次のとおりです。

  • 公証人が関与するため、要件不備で無効になるリスクが低い
  • 原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんの心配がない
  • 家庭裁判所での検認が不要
  • 公証人手数料がかかり、金額は財産の額に応じて変わる

作成には、本人確認書類、財産関係の資料(不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書、預貯金の通帳など)、相続人との関係がわかる戸籍などが必要です。なお、証人は誰でもなれるわけではなく、相続人や受遺者、その配偶者・直系血族などは証人になれません。適切な証人が見つからない場合は、専門家に証人を依頼することもできます。


遺言書と遺留分|「全部あげる」が通らない理由

遺言書では財産の分け方を自由に決められると思われがちですが、ひとつ大きな制限があります。それが遺留分です。

遺留分とは、配偶者・子・直系尊属(親など)といった一定の相続人に法律で保障された、最低限の取り分です(兄弟姉妹には遺留分はありません)。たとえば「全財産を長男に相続させる」という遺言を書いても、ほかの相続人は遺留分を侵害された分について金銭の支払いを求めることができます(遺留分侵害額請求)。なお、遺留分侵害額請求には期間制限があるため、請求を受けた場合・請求したい場合は早めの確認が必要です。

そのため、遺言書を作るときは遺留分にも配慮した分け方にしておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。遺留分の考え方は遺留分とはで詳しく整理しています。


よくある失敗|検認・無効・見つからない・執行できないケース

遺言書は、作っただけでは安心とは限りません。実務でよくある「つまずき」は次のようなケースです。

  • 形式の不備で無効:日付がない/「○月吉日」と書いた/押印がない/本文をパソコンで作成した/加筆・訂正の方式が違う
  • 財産の特定があいまい:「自宅は家族に」など、どの財産を誰にか分からず、手続きに使いにくい(不動産は、所在・地番・家屋番号など、登記事項証明書に沿って特定すると安全です)
  • 見つからない・気づかれない:自宅で保管していて、相続人に発見されない
  • 検認が必要だと知らなかった:自筆証書遺言(法務局保管以外)は、相続開始後に家庭裁判所の検認が必要。公正証書遺言や法務局保管の自筆証書遺言なら検認は不要です
  • 遺言を実行する人がいない:遺言執行者を決めておらず、預金解約や名義変更がスムーズに進まない
  • 遺留分を無視して争いに:取り分を保障された相続人が遺留分侵害額請求をして、かえって揉める

こうした失敗の多くは、要件を正しく押さえ、財産・相続人を具体的に特定し、保管と執行まで考えて作ることで防げます。


作成の進め方と相談先|遺言執行者・行政書士に相談できること

遺言書づくりは、おおむね次の順で進めます。

  1. 財産を洗い出す(不動産・預貯金・有価証券・負債など)
  2. 相続人を確認する(戸籍で法定相続人を確定)
  3. 誰に何を遺すかを決める(遺留分にも配慮)
  4. 方式を選ぶ(自筆証書か公正証書か)
  5. 遺言書を作成し、保管方法と、誰に実行してもらうかを決める

最後の「誰に実行してもらうか」が、遺言執行者です。遺言執行者は、遺言の内容に従って、預貯金の解約・払い戻し、遺贈の実行、不動産については司法書士と連携した登記手続きの手配などを行う人です。あらかじめ遺言書で指定しておくと、相続人の負担が軽くなり、手続きもスムーズに進みやすくなります。

行政書士には、紛争性のない範囲で、遺言書の原案作成支援、公正証書遺言作成の段取り、必要書類の収集、財産目録の作成支援、証人対応、遺言執行者としての関与などを相談できます。一方で、相続人どうしに争いがある場合や遺留分侵害額請求への対応は弁護士、相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士の業務になりますので、必要に応じて適切な専門家におつなぎします。


まとめ

遺言書は、残された家族の負担と争いを減らすための、いちばん確実な準備のひとつです。

  • 遺言書があると、原則として遺言の内容が法定相続分や遺産分割協議より優先される(遺留分などの例外あり)
  • 主な方式は、手軽な自筆証書遺言と、確実な公正証書遺言(秘密証書遺言は利用が少ない)
  • 自筆証書は要件(自書・日付・押印)に注意。財産目録はパソコン作成も可。法務局保管制度を使うと検認も不要
  • 遺言書でも遺留分は侵せない。配慮した分け方にしておくと安心
  • 作って終わりではなく、保管・検認の要否・遺言執行者まで考えておくと安心

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遺言書は、思い立ったときに正しい形で残しておくことが何より大切です。どの方式が合うか、何を準備すればよいか迷ったら、早めにご相談ください。初回のご相談は60分無料です。土日祝のご予約にも対応し、秘密は厳守、いただいたお問い合わせには翌営業日までにご返信します。どうぞ安心してご相談ください。