
※この記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説です。遺言の内容がどのように扱われるかは、遺言書の記載や事情によって異なり、判断するのは当事務所ではありません。不動産の登記については司法書士、遺留分の請求や相続人の間で争いがある場合については弁護士、相続税については税理士、公正証書の作成については公証人、遺言書の文案や相続人・相続財産の調査については行政書士にご確認ください。
父が亡くなり、自宅の机から遺言書が出てきました。家庭裁判所での検認は済んでいます。
「自宅は長男に相続させる」と書いてありました。私が長男で、妹が2人います。3人とも、父の気持ちだからそのとおりにしようと話しています。
遺産分割協議書は要らないと聞きました。ただ、それならこのまま何もしなくてよいのかが分かりません——そうしたご相談をいただきます。
このコラムでは、「相続させる」と書かれた遺言について、いま何を確認すればよいのかを整理します。
目次
- 遺言に「自宅は長男に相続させる」と書いてあった
- 「相続させる」と書かれた遺言は、どういう位置づけか
- 最高裁は、何と述べたか
- その財産については遺産分割協議を経ません。でも手続きは別に必要です
- 法定相続分を超える部分は、登記がなければ第三者に対抗できません
- 遺言執行者がいる場合
- 遺留分侵害額請求の相手方になる場合があります
- ご相談いただけること
遺言に「自宅は長男に相続させる」と書いてあった
遺言書でよく使われるのが、「相続させる」という書き方です。
「長男に相続させる」「妻に相続させる」。ご自身で書かれた遺言書でも、公正証書遺言でも、この言葉をよく目にします。
ご相談の例のように、相続人の間で内容に異論がないことも多くあります。それでも、そのあとどう進めればよいのかが分からず、手が止まってしまいます。
遺言書の種類や書き方そのものについては、遺言書の作成ガイドで解説しています。ここでは、「相続させる」と書かれていた場合に何を確認するかに絞って整理します。
「相続させる」と書かれた遺言は、どういう位置づけか
民法には、遺産の分割の方法の指定として、遺産に属する特定の財産を相続人に承継させる旨の遺言を「特定財産承継遺言」と呼ぶ定めが置かれています。
聞き慣れない言葉ですが、「この財産は、この相続人へ」と分け方を指定した遺言、という意味です。
⚠ 「相続させる」と書いたかどうかで決まるわけではありません
条文は、遺言の書き方ではなく、内容で定義しています。最高裁も、遺言は書いた方の意思を尊重して合理的に解釈すべきだと述べています。使われている言葉だけで扱いが決まる、というものではありません。
最高裁も、遺言書の記載から遺贈であることが明らかな場合や、遺贈と解すべき事情がある場合には、別の扱いになると述べています。
最高裁は、何と述べたか
「相続させる」と書かれた遺言について、最高裁は平成3年(1991年)4月19日の判決で考え方を示しています。
亡くなった方が4通の自筆証書遺言を残し、それぞれの土地について「相続とする」「相続させて下さい」などと書いていた事案です。
判決は、まず遺言の読み方について、「遺言者の意思を尊重して」合理的にその趣旨を解釈すべきだと述べています。そのうえで、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨が表明されている場合には、「遺贈と解すべき特段の事情」がない限り、その遺産をその相続人に単独で相続させる「遺産の分割の方法を定めた遺言」と解すべきだとしています。
さらに、効果についてはこう述べています。
「特段の事情のない限り」、「何らの行為を要せずして」、亡くなった時点で直ちにその遺産がその相続人に承継される、と。
つまり、承継そのものについて別の意思表示や遺産分割を経ることなく、死亡時にその財産が承継される、という考え方です。
その財産については遺産分割協議を経ません。でも手続きは別に必要です
この判決は、その遺言の対象になった財産について、「協議又は審判を経る余地はない」とも述べています。
こうした最高裁の考え方から、その遺言の対象となった財産については、あらためて遺産分割協議を経る必要はないと整理されます。ご相談の例でいえば、自宅について、3人で話し合って決め直すことはしない、ということになります。
⚠ 「その財産について協議を経ない」と「何もしなくてよい」は違います
その財産については遺産分割協議を経ずに承継されるとされていますが、登記などの手続きは別に必要です。
遺言に書かれていない財産があれば、そちらは相続人の間で話し合うことになります。遺産分割協議書については遺産分割協議書の書き方と雛形をご覧ください。
法定相続分を超える部分は、登記がなければ第三者に対抗できません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
現在の民法では、相続による権利の承継のうち、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない、と定められています。
ここでいう「対抗できない」とは、第三者との関係で自分の権利を主張できない、という意味です。
⚠ 以前とは扱いが変わっています
従前は、「相続させる」趣旨の遺言による権利の承継は、登記がなくても第三者に対抗できるとされていました。2019年(令和元年)7月1日施行の改正で、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件が必要になりました。
法務省の資料でも、この点が整理されています。
| 従前 | 2019年7月1日施行の改正後 | |
|---|---|---|
| 「相続させる」趣旨の遺言による承継 | 登記がなくても第三者に対抗できるとされていた | 法定相続分を超える部分は、登記などの対抗要件を備えなければ対抗できない |
なお、相続による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができるとされています。登記をご自身で申請することもできますが、専門家に依頼する場合は司法書士へ相談します。 必要な書類や進め方も、司法書士にご確認ください。
相続登記の期限や過料については相続登記の義務化とは?期限・過料・「実家が親名義のまま」の進め方で整理しています。
遺言執行者がいる場合
遺言で遺言執行者が指定されていることがあります。
民法には、特定財産承継遺言があったときは、遺言執行者が、その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる、という定めがあります。預貯金については、払戻しの請求もできるとされています。ただし解約の申入れは、その預貯金の全部がその遺言の対象になっている場合に限られます。
遺言に別段の定めがあれば、そちらに従うことになります。
⚠ 遺言をした時期によって、扱いが変わります
遺言執行者の権限についてのこの定めは、2019年7月1日より前にされた遺言には適用されないとされています。基準になるのは、相続が始まった日ではなく、遺言をした日です。
遺言執行者を誰にするか、どこまでしてもらえるのかについては、遺言執行者とは?指定するメリットと選び方で解説しています。
遺留分侵害額請求の相手方になる場合があります
「相続させる」と書かれた遺言があっても、ほかの相続人の遺留分がなくなるわけではありません。
民法は、特定財産承継遺言により財産を承継した相続人も、遺留分侵害額請求の相手方に含めています。
先ほどの最高裁の判決も、その相続人が相続放棄をする自由は残っており、場合によっては、ほかの相続人が遺留分の請求をすることを妨げるものではない、と述べています。
「相続させる」と書かれた遺言によって財産を承継した相続人も、遺留分侵害額請求の相手方になる場合があります。
実際に請求されるかどうかは、遺言の内容と財産の状況によります。遺留分の割合や計算、請求の進め方については遺留分とはで解説しています。請求を受けた場合の対応は、弁護士にご相談ください。
ご相談いただけること
うりずん相続手続き相談室では、行政書士として、次のお手伝いをしています。
- 遺言書の文案の整理と作成(争いのない案件)
- 戸籍の収集による相続人の調査
- 相続財産の調査と相続関係の整理
- 公正証書遺言を作るための準備(必要書類の整理、公証役場との日程の調整)
なお、お手元の遺言書がどのような扱いになるかの判断は、当事務所では行いません。 個別の判断が必要な場合は、弁護士にご相談ください。
不動産の登記は司法書士、遺留分の請求や相続人の間で争いがある場合は弁護士、相続税は税理士、公正証書の作成は公証人の分野です。
まとめ
「相続させる」と書かれた遺言について整理しました。
書き方ではなく、内容で扱いが決まります。 民法は、遺産の分割の方法の指定として特定の財産を相続人に承継させる旨の遺言を「特定財産承継遺言」と定めています。
最高裁は、特段の事情がない限り、亡くなった時点で直ちに承継されると述べています。 平成3年(1991年)4月19日の判決です。
その財産については遺産分割協議を経ずに承継されますが、登記などの手続きは別に必要です。
法定相続分を超える部分は、登記がなければ第三者に対抗できません。 2019年(令和元年)7月1日施行の改正で変わった点です。
遺留分侵害額請求の相手方になる場合があります。 「相続させる」と書いてあっても、ほかの相続人の遺留分がなくなるわけではありません。
相続のお手続きでお困りの方へ
うりずん相続手続き相談室では、相続人調査や相続財産の調査からお手伝いしています。戸籍の収集、相続関係の整理、争いのない案件での遺産分割協議書案の作成など、行政書士として対応できる手続きを承ります。相続登記や相続税、相続人の間で争いがある場合には、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携し、必要な専門家へ適切におつなぎします。まずはお話をお聞かせください。どうぞ安心してご相談ください。
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