※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。遺言執行者を誰にするか、どのような内容にしておくかは、財産の内容やご家族の状況によって変わります。実際のお手続きの前に、公証役場、家庭裁判所、または司法書士・税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。

遺言書を作ろうと考えている方から、「遺言執行者は指定したほうがいいのでしょうか」というご質問をいただくことがあります。

一方で、「亡くなった方の遺言書に、自分が遺言執行者として指定されていた」と、突然の役割に戸惑ってご相談に来られる方もいらっしゃいます。

遺言執行者は、遺言書に書かれた内容を実際に実現する人です。指定しておかなくても遺言書は有効ですが、指定がないために手続きが進まないという場面は少なくありません。逆に、遺言執行者がいなければ実現できない手続きもあります。

この記事では、遺言書を作ろうとしている方に向けて、遺言執行者とはどういう立場なのか、指定するとどう変わるのか、誰を選べばよいのかを整理します。あわせて、すでに遺言執行者に指定された方が最初に知っておきたい基本もご説明します。


目次

  1. 遺言執行者とは|遺言の内容を実現する人
  2. 指定しないと、どうなるか
  3. 遺言執行者が必要になる手続きもあります
  4. 誰を指定できるか|未成年者と破産者はなれません
  5. 公正証書遺言の証人とは、別の話です
  6. 誰を選ぶか|ご家族か、第三者か
  7. 指定された人がすること|通知と財産目録
  8. 報酬はどう決めるか
遺言執行者は遺言の内容を実現する役割であること、指定しておくと相続手続きが進めやすくなること、誰を選ぶかの考え方について、50代の男性が行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

遺言執行者とは|遺言の内容を実現する人

遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を実現するために必要な手続きを行う人です。

遺言書は、書いただけでは効力が形になりません。預貯金を解約する、不動産の名義変更に必要な手続きを進める、指定された人へ財産を引き渡す——こうした手続きを誰かが実際に行う必要があります。その役割を担うのが遺言執行者です。

民法は、遺言執行者について「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定めています(民法1012条1項)。

ここで押さえておきたいのは、遺言執行者は相続人の代理人ではないという点です。遺言執行者は、亡くなった方の遺言の内容を実現する立場にあります。相続人の意向に従って動くわけではありません。そのため、相続人の一部が反対しているからといって、遺言執行者が有効な遺言の内容を勝手に変えることはできません。

もっとも、遺言執行者がその権限の範囲内で行った行為の効果は、相続人に対して直接及ぶこととされています(民法1015条)。

遺言書の全体像については遺言書の書き方の記事でご説明しています。

🌱 指定しなくても遺言書は有効です
遺言執行者を指定しなかったからといって、遺言書が無効になるわけではありません。ただし、次の節でご説明するとおり、指定しておいたほうが手続きが進めやすくなる場面が多くあります。


指定しないと、どうなるか

遺言執行者がいない場合、遺言書の内容を実現する手続きは、原則として相続人が行うことになります。ここで問題が起きやすいのが、相続人側の関与を求められるという点です。

預貯金の解約

金融機関の窓口では、遺言書があっても相続人全員の署名や印鑑登録証明書を求められることがあります。遺言執行者が指定されていれば、金融機関の確認を受けながら、執行者を中心に手続きを進められるため、相続人全員に協力を求める負担を減らせます。

相続手続きで必要になる書類については相続手続きに必要な書類一覧の記事でご説明しています。

相続人以外の人へ財産を渡す場合

遺言で相続人以外の人に財産を渡すことを遺贈といいます。遺言執行者がいる場合、遺贈の履行は遺言執行者が行います。一方、遺言執行者がいない場合は、相続人側の協力が必要になり、相続人の1人でも協力を拒めば、手続きが止まってしまうことがあります。

相続人が遠方にいる、疎遠である場合

相続人が海外に住んでいる、長年連絡を取っていない、といった事情があると、書類を集めるだけで数か月かかることもあります。遺言執行者がいれば、こうした負担を減らせます。

⚠ 相続人による処分を防ぐ効果もあります
遺言執行者がいる場合、相続人が遺言の執行を妨げるような処分をしたときは、その行為は原則として無効とされます(民法1013条)。遺言の内容が実現されないまま財産が動いてしまう事態を防ぐ意味があります。


遺言執行者が必要になる手続きもあります

遺言の内容によっては、遺言執行者がいなければ実現できないものがあります。

たとえば、遺言による子の認知や、推定相続人の廃除がこれにあたります。遺言による認知では届出が必要になり、推定相続人の廃除では家庭裁判所への請求が必要になります。いずれも相続人が代わりに手続きできるものではなく、遺言執行者が行うことになります。

こうした内容を遺言書に含める場合は、遺言執行者の指定が欠かせません。

🌱 どんな遺言書に必要か
認知や廃除は、どのご家庭にも当てはまるものではありません。ただ、「遺言執行者が必ず必要になる場面がある」という点は、遺言書を作るときに知っておくと役に立ちます。ご自身の遺言に必要かどうか迷われる場合は、内容を整理する段階でご相談ください。


誰を指定できるか|未成年者と破産者はなれません

遺言執行者になれる人には、ほとんど制限がありません。

民法が定める欠格事由は、未成年者と破産者の2つだけです(民法1009条)。この2つに該当しなければ、誰でも遺言執行者になることができます。

対象遺言執行者に指定できるか
相続人できる
受遺者(財産を受け取る人)できる
相続人以外の第三者できる
法人できる
未成年者できない
破産者できない

複数人を指定することもできます。この場合、任務の執行は過半数で決めることになります(民法1017条1項)。

⚠ 指定しなかった場合はどうなるか
遺言執行者が指定されていない場合や、指定された人が就任を辞退した場合には、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に選任を申し立てることができます(民法1010条)。ただし、申立てには手間と時間がかかります。家庭裁判所への申立書類の作成は、司法書士・弁護士の業務領域です。


公正証書遺言の証人とは、別の話です

ここで、混同されやすい点を整理しておきます。

公正証書遺言を作るときには、証人が2人必要です。この証人には、なれない人が決まっています。未成年者、推定相続人、受遺者、これらの配偶者や直系血族などは、証人になることができません(民法974条)。

一方、遺言執行者にはこうした制限がありません。

対象公正証書遺言の証人遺言執行者
推定相続人なれないなれる
受遺者なれないなれる
未成年者なれないなれない
破産者なれるなれない

※破産者は、民法974条上の証人欠格事由には含まれていません。ただし、実際に証人を依頼する場合は、公証役場にも確認しておくと安心です。

つまり、財産を受け取る配偶者やお子さんを遺言執行者に指定することはできます。 証人にはなれないけれど、執行者にはなれる——この違いを押さえておくと、遺言書を作るときに迷わずに済みます。

公正証書遺言の作り方や証人については公正証書遺言の作り方の記事でご説明しています。

🌱 財産を受け取る人が執行者になってもよいのか
利益が対立するのでは、と思われるかもしれませんが、受遺者であること自体は、遺言執行者の欠格事由には当たりません。遺言執行者は遺言の内容を実現する立場ですので、その内容が自分に有利であっても、遺言書に沿って役割を果たすことになります。


誰を選ぶか|ご家族か、第三者か

では、実際に誰を指定すればよいのでしょうか。ご事情によって変わります。

相続人同士の関係が良好で、財産の内容も複雑でなければ、ご家族の中から遺言執行者を指定する方法もあります。配偶者やお子さんを指定するケースは実際に多くあります。

一方で、相続人が多い場合、相続人同士が疎遠な場合、相続人以外の人へ遺贈する場合などは、第三者や専門家を遺言執行者として指定する方法もあります。

判断のめやすとして、次のような点を考えてみてください。

  • 相続人が何人いるか。全員と連絡が取れるか
  • 相続人同士の関係はどうか。対立が予想されるか
  • 相続人以外の人へ財産を渡す内容が含まれているか
  • 不動産や事業用資産など、手続きが複雑な財産があるか
  • 指定しようとしている人が、手続きを進められる状況にあるか

内縁のパートナーなど、相続人以外の方へ財産を残す場合の考え方については内縁の妻・事実婚の相手に財産を残すにはの記事でも触れています。

⚠ 指定する前に、本人の意向を確認しておく
遺言執行者に指定されても、就任を辞退することができます。遺言書を作ってから「引き受けられない」と言われては、備えた意味が薄れてしまいます。あらかじめ本人に伝えて、了解を得ておくことをおすすめします。


指定された人がすること|通知と財産目録

ご自身が遺言執行者に指定された、という方に向けて、最初に行うことをご説明します。

就任を承諾したら、相続人へ通知します

遺言執行者は、任務を開始したときは、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならないとされています(民法1007条2項)。相続人が遺言の存在や内容を知らないまま手続きが進むことを防ぐための決まりです。

相続財産の目録を作成し、相続人へ交付します

遺言執行者は、遅滞なく相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりません(民法1011条1項)。どのような財産があるのかを明らかにする役割です。

なお、相続人から請求があった場合には、相続人の立会いのもとで目録を作成するか、公証人に作成してもらう必要があります(同条2項)。

🌱 一人で抱え込む必要はありません
遺言執行者は、遺言で別段の定めがない限り、必要に応じて第三者に任務を行わせることができます。そのため、指定された人がすべてを一人で抱え込まなければならない、というわけではありません。不動産の登記は司法書士、相続税の申告は税理士、相続人との間に争いがある場合は弁護士といったように、必要な場面で専門家の力を借りることができます。

⚠ 就任するかどうかは選べます
遺言執行者に指定されていても、就任を辞退することができます。また、相続人などから「就任するかどうか返答してほしい」と相当の期間を定めて求められた場合、その期間内に返答しないと、就任を承諾したものとみなされます(民法1008条)。指定されていることに気づいたら、早めに判断することをおすすめします。


報酬はどう決めるか

遺言執行者の報酬について、押さえておきたい点が3つあります。

遺言書の中で定めておける

遺言書に、遺言執行者の報酬を定めておくことができます(民法1018条1項但書)。あらかじめ決めておけば、相続が起きたあとに報酬をめぐって話し合う必要がなくなります。

定めがなければ、家庭裁判所が決める

遺言書に報酬の定めがない場合、家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情によって報酬を定めることができます(同項本文)。ただし、そのためには家庭裁判所への申立てが必要になり、手間と時間がかかります。

報酬は相続財産から支払われます

遺言執行者の報酬は、遺言執行に関する費用として、原則として相続財産から支払われます。ただし、これによって遺留分を減らすことはできないとされています。

⚠ ご家族に頼む場合も、決めておくと安心です
配偶者やお子さんを遺言執行者に指定する場合、報酬を定めないことも多くあります。ただ、手続きには実費もかかりますし、時間も取られます。あとで気まずさが生じないよう、遺言書の中で扱いを決めておくと安心です。なお、家庭裁判所への申立書類の作成は、司法書士・弁護士の業務領域です。


まとめ

遺言執行者について、押さえておきたい点を整理します。

  • 遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人
  • 指定しなくても遺言書は有効だが、指定がないと相続人側の協力が必要になる場面が多い
  • 遺言による認知や推定相続人の廃除は、遺言執行者がいなければ実現できない
  • 未成年者と破産者は遺言執行者になれない。それ以外に制限はない
  • 相続人や受遺者も遺言執行者になれる。公正証書遺言の証人とは制限が異なる
  • 関係が良好で財産が複雑でなければご家族から、相続人が多い場合や遺贈がある場合は第三者や専門家という選択肢もある
  • 就任したら、相続人への通知と財産目録の作成・交付を行う
  • 必要に応じて第三者に任務を行わせることができる
  • 報酬は遺言書の中で定めておくとよい

遺言執行者を誰にするかは、遺言書の内容そのものと切り離せません。財産の分け方が決まれば、それを実現するために誰が動くのかも自然に見えてきます。

うりずん相続手続き相談室では、遺言書を作成する際に、遺言執行者を指定する条項を入れるべきか、誰を指定するか、どのような内容にしておくかについて、遺言書全体の構成とあわせて整理をお手伝いしています。戸籍の収集、財産の整理、遺言内容の原案整理、公正証書遺言を作るための準備など、行政書士・社会保険労務士として対応できる手続きを中心にご相談を承ります。相続人同士の争いや遺留分、遺言の有効性をめぐる紛争がある場合は弁護士、不動産の登記は司法書士、相続税の申告は税理士と連携してご案内します。

遺言書の内容をどう組み立てるか迷われている方は、川崎・横浜エリアを中心にご相談を承っておりますので、どうぞお気軽にお声がけください。