※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。内縁・事実婚に当たるかどうかは、一般に、婚姻の意思や共同生活の実態などから判断されますが、具体的な事案で認められるかどうかは、個別事情によって変わります。実際のお手続きの前に、公証役場、保険会社、税務署、または司法書士・税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。

長年連れ添ってきたパートナーがいる。生活も家計もひとつにして、周囲からも夫婦として見られている。けれども、婚姻届は出していない——。

こうした内縁・事実婚の関係は、決してめずらしいものではありません。再婚をためらう事情があった、姓を変えたくなかった、それぞれの子どもへの配慮があった。理由はご家庭ごとにさまざまです。

ただ、相続の場面では、この「婚姻届を出していない」という一点が、大きな違いを生みます。何十年一緒に暮らしていても、内縁・事実婚のパートナーは、当然には相続人になりません。

この記事では、内縁・事実婚のパートナーに財産を残したいと考えている方に向けて、何もしなければどうなるのか、住まいが持ち家か賃貸かで何が変わるのか、そして生前にどのような備えができるのかを、行政書士の立場から整理してご説明します。


目次

  1. 内縁・事実婚のパートナーには、当然には相続権がない
  2. 遺言書がないと、どうなるか|3つのケース
  3. 持ち家に一緒に住んでいる場合|配偶者居住権は使えない
  4. 賃貸に一緒に住んでいる場合|借地借家法36条で承継できることがある
  5. 財産を残す中心は遺言書|公正証書遺言で備える
  6. 遺言書以外の手段|生命保険・死因贈与・生前贈与
  7. 見落としやすい注意点|遺留分・相続税・遺族年金
  8. 遺言がなかった場合に残る手段|特別縁故者という最後の選択肢
内縁・事実婚のパートナーには当然には相続権がないこと、持ち家と賃貸で備え方が変わること、公正証書遺言で備える方法について、60代の男性が行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

内縁・事実婚のパートナーには、当然には相続権がない

まず、いちばん大事なところからお伝えします。

内縁・事実婚のパートナーには、法律上の相続権がありません。 民法が「配偶者」として相続人に定めているのは、戸籍上の婚姻関係にある人だけです。同居していた年数の長さも、生計をともにしていた事実も、この点を変える力を持ちません。

では、誰が相続人になるのでしょうか。

亡くなった方に子どもがいれば、子どもが相続人になります。子どもがいない場合は、親などの直系尊属。親もすでに亡くなっていれば、兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹も亡くなっていれば、その子である甥・姪へと引き継がれていきます。

つまり、何十年も一緒に暮らしてきたパートナーではなく、何十年も会っていない兄弟姉妹や、顔も知らない甥・姪が財産を受け取る、ということが起こりえます。相続人の順位や取り分の考え方については、法定相続人と法定相続分の記事で詳しくご説明しています。

そして、相続人が一人もいない場合には、財産は原則として国庫に帰属します。この場合でも、パートナーが自動的に受け取れるわけではありません。

⚠ 内縁かどうかの判定はこの記事では行いません
内縁・事実婚に当たるかどうかは、一般に、婚姻の意思や共同生活の実態などから判断されます。ただし、具体的な事案で認められるかどうかは、個別事情によって変わります。この記事では、内縁関係に当たるかどうかの判定までは行いません。

なお、内縁関係が問題になる場面は相続だけではありません。遺族年金のように、内縁・事実婚の関係が認められることのある制度もあります。この点はあとの節で触れます。


遺言書がないと、どうなるか|3つのケース

「相続権がない」と聞くと不安になりますが、実際に何が起きるかは、お二人の住まいがどうなっているかで大きく変わります。

ご自身がどのケースに当てはまるか、確認してみてください。

ケース状況何もしないと
ケース1亡くなる方が所有する持ち家に同居自宅は相続人へ。住み続けられなくなる可能性がある
ケース2賃貸住宅に同居/借主に相続人がいない借地借家法により、同居者が借主の権利義務を承継することがある
ケース3賃貸住宅に同居/借主に相続人がいる賃借権は相続人へ。パートナーが当然に守られるわけではない

このうち、もっとも備えが必要なのはケース1です。持ち家の場合、法律が用意している救済の仕組みが、賃貸に比べてほとんどありません。

一方、ケース2にあたる方は、法律上の承継の仕組みがあります。ただし条件があり、誤解されやすい点もありますので、あとの節で正確にご説明します。

ケース3は、ケース1と同じように、生前の備えが必要になる場面です。

なお、住まい以外の財産——預貯金、有価証券、自動車など——についても、遺言書や生命保険、死因贈与などの別の備えがなければ、パートナーへ当然に渡るわけではありません。ここは共通です。


持ち家に一緒に住んでいる場合|配偶者居住権は使えない

亡くなる方が所有する家に、パートナーと二人で暮らしている。このケースが、もっとも注意が必要です。

遺言書などの備えがないまま相続が起きると、その家は相続人へ引き継がれます。相続人が「そのまま住んでいていいですよ」と言ってくれれば問題は起きませんが、それはあくまで相続人の好意によるものです。売却してお金に換えたいと言われれば、パートナーは家を出ることになりかねません。

ここで「配偶者居住権があるのでは」と思われた方もいるかもしれません。残念ながら、配偶者居住権は内縁・事実婚のパートナーには使えません。

配偶者居住権は、遺された配偶者が住み慣れた家に住み続けられるようにするための制度ですが、対象は戸籍上の配偶者に限られています。制度の内容については配偶者居住権の記事でご説明していますが、内縁・事実婚の方はこの制度の対象外である、という点だけ押さえておいてください。

つまり、持ち家のケースでは、生前に遺言書で備えておくことが、もっとも現実的で確実性の高い方法になります。

🌱 不動産を残すときは相続登記が必要です
自宅などの不動産をパートナーに残す場合、亡くなったあとに不動産の名義を変える手続き(相続登記)が必要になります。登記の申請は司法書士の業務ですので、うりずん相続手続き相談室では、提携する司法書士と連携してご案内しています。


賃貸に一緒に住んでいる場合|借地借家法36条で承継できることがある

賃貸住宅にお住まいの場合は、事情が少し変わります。

借地借家法36条では、賃貸住宅の借主に相続人がいない場合、亡くなった借主と事実上夫婦と同様の関係にあった同居者が、借主の権利義務を承継することがあります。

ただし、これは「承継したい人が1か月以内に申請する」という制度ではありません。承継したくない場合には、死亡を知った時から1か月以内に、貸主へ反対の意思表示をするという建て付けです。

ここは誤解されやすいところですので、もう一度整理します。

  • 承継は、条件を満たせば自動的に生じます。申請の手続きが必要なわけではありません
  • 1か月というのは、承継したくない人が反対の意思表示をするための期間です
  • したがって、「1か月以内に手続きをしないと住めなくなる」という理解は誤りです

⚠ 相続人がいる場合は対象外です
この規定が働くのは、借主に相続人が一人もいない場合に限られます。相続人がいる場合は対象外です。この場合、賃借権は原則として相続人へ引き継がれ、パートナーが当然に保護されるわけではありません。

相続人がいる賃貸のケース(ケース3)では、パートナーが住み続けられるかどうかは、相続人との関係次第という不安定な状態になります。実務上は、貸主と相続人の双方との話し合いが必要になることが多く、そこで折り合いがつかなければ、住まいを失うことにもなりかねません。

こうした不安定さを避けるためにも、賃貸であっても、生前の備えを考えておく意味は十分にあります。

🌱 賃貸契約の内容もあわせて確認を
賃貸住宅にお住まいで、パートナーが相続人でない場合、契約名義、同居者としての記載、連帯保証人の状況なども、あわせて確認しておくと安心です。契約内容によっては、借主が亡くなった時点で取り扱いが変わることもあります。


財産を残す中心は遺言書|公正証書遺言で備える

ここまで見てきたとおり、内縁・事実婚のパートナーに財産を残すための中心は、遺言書です。

遺言書があれば、相続人ではない人にも財産を渡すことができます。この、遺言によって財産を渡すことを「遺贈」といいます。パートナーは相続人ではありませんので、「相続させる」ではなく「遺贈する」という形になります。

遺言書には自筆で書く方法もありますが、内縁・事実婚のケースでは、公証役場で作る公正証書遺言をおすすめしています。 理由は3つあります。

ひとつめは、方式の不備で無効になるリスクを大きく下げられることです。自筆証書遺言は、日付や署名、押印などの要件を満たさないと無効になります。パートナーに財産を残すという目的が、形式の不備で果たせなくなるリスクは、できるだけ避けたいところです。

ふたつめは、原本が公証役場に保管されるため、紛失や隠匿のおそれがないことです。内縁・事実婚のケースでは、相続人とパートナーの関係が良好とは限りません。遺言書が見つからない、という事態を防げます。

みっつめは、遺言の内容が争われにくいことです。公証人が本人の意思を確認したうえで作成しますので、「本当に本人が書いたのか」「判断能力があったのか」といった点で争いになりにくくなります。

公正証書遺言を作る手順や必要書類については、公正証書遺言の作り方の記事で詳しくご説明しています。遺言書全般の遺言書の書き方もあわせてご覧ください。

🌱 遺言執行者も決めておきましょう
遺言書のなかで、遺言執行者を決めておくことをおすすめします。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、預貯金の解約や名義変更などの手続きを進める人です。内縁・事実婚のケースでは、相続人の協力が得られないこともあります。パートナー本人を遺言執行者に指定できる場合もありますが、相続人との対立が予想されるときは、第三者や専門家を指定することも検討しておくと安心です。

⚠ パートナー本人は証人になれません
公正証書遺言では証人が2人必要です。ただし、未成年者、推定相続人、受遺者、これらの配偶者や直系血族などは証人になれません。内縁・事実婚のパートナーに財産を遺贈する場合、そのパートナー本人は受遺者になるため、証人にはなれない点にも注意が必要です。


遺言書以外の手段|生命保険・死因贈与・生前贈与

遺言書のほかにも、パートナーに財産を残すための手段はあります。ただし、いずれも遺言書の代わりになるものではなく、組み合わせて使う補助的な手段とお考えください。

生命保険

生命保険は、遺産分割とは別に、受取人へ直接お金を残せる手段になることがあります。ただし、内縁・事実婚のパートナーを受取人に指定できるかどうかは、保険会社ごとの取扱いによります。同居期間、生計同一、法律上の配偶者の有無などを確認されることがありますので、加入や変更の前に保険会社へ確認しましょう。

死因贈与

死因贈与は、「自分が亡くなったらこの財産をあげる」という約束を、生前に交わしておく方法です。効果は遺贈と似ていますが、遺言と違って契約ですので、相手の承諾が必要になります。つまり、パートナーに内容を伝えたうえで合意しておく必要があります。ご家族に関係を知られたくない事情がある場合には、この点が支障になることもあります。

生前贈与

生前に少しずつ財産を渡していく方法です。確実ではありますが、贈与税の負担を考える必要があります。

⚠ おしどり贈与は使えません
婚姻期間20年以上の夫婦の間で居住用不動産を贈与した場合の特例(いわゆる「おしどり贈与」)は、法律上の婚姻関係が要件となっています。内縁・事実婚の場合には使えません。


見落としやすい注意点|遺留分・相続税・遺族年金

遺言書を書けば安心、とは限りません。あとで思わぬ問題になりやすい点を3つ挙げます。

遺留分

内縁・事実婚のパートナーへ遺贈する場合でも、法定相続人の遺留分に注意が必要です。たとえば、亡くなる方の親が相続人になる場合には、遺留分が問題になることがあります。一方、相続人が兄弟姉妹だけの場合、兄弟姉妹には遺留分がありません。具体的な割合や請求への対応は、遺留分の記事や弁護士への相談につなぎます。

相続税

パートナーが財産を受け取った場合、相続税の計算では不利になる点が2つあります。

ひとつは、相続税額の2割加算です。被相続人の一親等の血族および配偶者以外の人が財産を取得した場合、税額が2割加算されます。内縁・事実婚のパートナーはこれに当たります。

もうひとつは、配偶者の税額軽減が使えないことです。この制度は法律上の配偶者に限られますので、内縁・事実婚のパートナーは対象になりません。

「遺言書で残せる」ことと「そのまま全額が渡る」ことは、同じではありません。実際の税額の計算や申告については、税理士にご確認ください。

遺族年金

年金の手続きでは、内縁・事実婚の関係が認められることがあります。詳しくは、遺族年金の請求手続きの記事で解説しています。

つまり、年金では内縁の関係が認められることがある一方で、相続では当然には相続権がない——制度によって扱いが違うのです。ここは混同されやすいところですので、「年金がもらえるなら相続もできるはず」とは考えないようにしてください。


遺言がなかった場合に残る手段|特別縁故者という最後の選択肢

最後に、遺言書がないまま相続が起きてしまった場合について触れておきます。

相続人が一人もいない場合には、「特別縁故者への財産分与」という制度があります。民法958条の2に定められたもので、生計を同じくしていた人や、療養看護に努めた人などに対して、家庭裁判所が相続財産の全部または一部を与えることができる、というものです。内縁・事実婚のパートナーは、この特別縁故者にあたる可能性があります。

ただし、これは簡単な手続きではありません。

まず、相続人が本当にいないことを確定させる必要があります。そのために相続財産清算人が選任され、相続人を捜すための公告が行われます。この期間が満了してから3か月以内に、家庭裁判所へ財産分与の申立てをすることになります。全体として、1年以上に及ぶこともあります。

そして何より、認められる保証がありません。 財産を分与するかどうか、どの範囲で分与するかは、家庭裁判所の判断によります。申立てをしても認められないことや、一部にとどまることもあります。

⚠ 家庭裁判所の手続きは専門家の領域です
特別縁故者として財産分与を求めるには、相続財産清算人の選任や家庭裁判所への申立てが必要になります。家庭裁判所へ提出する書類の作成は司法書士・弁護士の業務領域であり、代理人として手続きを進める必要がある場合や争いがある場合は、弁護士への相談が必要になります。うりずんでは制度の概要をご説明し、必要に応じて専門家と連携してご案内します。

また、この制度が使えるのは、相続人が一人もいない場合に限られます。疎遠な兄弟姉妹や甥・姪が相続人として残っている場合、特別縁故者の制度は使えません。

長く、不確実で、そもそも使えないこともある。だからこそ、生前に遺言書を残しておくことが、もっとも確実な備えになります。


まとめ

内縁・事実婚のパートナーに財産を残すために、押さえておきたい点を整理します。

  • 内縁・事実婚のパートナーには、当然には相続権がない
  • 持ち家に同居している場合、配偶者居住権は使えず、遺言書での備えがもっとも現実的
  • 賃貸で借主に相続人がいない場合は、借地借家法36条による承継がありうる。ただし相続人がいる場合は対象外
  • 財産を残す中心は遺言書。方式不備や紛失のおそれがない公正証書遺言をおすすめする
  • 生命保険・死因贈与・生前贈与は補助的な手段。それぞれに条件がある
  • 遺留分、相続税の2割加算、配偶者の税額軽減が使えないことに注意
  • 遺言がなければ特別縁故者の制度が残るが、条件が厳しく、時間もかかり、確実ではない

婚姻届を出していないというだけで、これだけの違いが生まれます。逆にいえば、生前に手を打っておけば、その多くは避けられるということでもあります。

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