相続の権利・割合

相続人が行方不明のときはどうする?|不在者財産管理人と失踪宣告の使い分け

掲載:Officeうりずん社会保険労務士・行政書士事務所 代表・資格情報

相談室で50代の女性が行政書士と向かい合い、戸籍の写しと戻ってきた封筒を前に相続人の所在について相談しているイラスト

※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。相続人の所在が分からない場合に、不在者財産管理人と失踪宣告のどちらを検討することになるか、どの手続が必要になるかは、その方の状況、連絡が取れなくなった経緯、被相続人が亡くなった時期によって一人ひとり異なります。実際のお手続きの前に、戸籍や戸籍附票の取得については市区町村の窓口、不在者財産管理人の選任や失踪宣告など家庭裁判所の手続については家庭裁判所や司法書士・弁護士、不動産登記については法務局や司法書士、相続税については税務署や税理士、相続人調査や相続関係の整理については行政書士にご確認ください。

遺産分割の話を進めようとしたら、相続人のひとりと連絡が取れない。戸籍や戸籍附票などを調べても所在が分からず、連絡を取ることができない。相続のご相談では、こうした場面があります。

所在が分からない相続人がいると、遺産分割協議はそこで止まってしまいます。かといって、その方を除いて話を進めることもできません。

この記事では、相続人の所在が分からないときにどのような制度があるのか、2つの制度をどう使い分けるのかを整理します。


目次

  1. 行方不明の相続人を除いて、遺産分割はできません
  2. 2つの制度の全体像
  3. 不在者財産管理人とは
  4. 失踪宣告とは
  5. 失踪宣告をすると、誰の相続がどうなるのか
  6. どちらを選ぶか
  7. 手続を始める前に確認すること
  8. どこから専門家へつなぐか
相続人のひとりと連絡が取れず所在が分からないとき、その人を除いて遺産分割はできないこと、家庭裁判所の制度が二つあり効果が異なることを、行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

行方不明の相続人を除いて、遺産分割はできません

まず押さえておきたいのは、連絡が取れないからといって、その相続人を外して遺産分割を進めることはできないということです。

遺産分割協議を成立させるには、共同相続人全員の合意が必要です。行方が分からない相続人を除外して遺産分割協議を成立させることはできません。

では、どうするか。

相続人の所在が分からず、不在者にあたる場合に検討される制度として、不在者財産管理人があります。 また、長期間にわたり生死が明らかでない場合には、失踪宣告という制度もあります。 この2つは、目的も効果もまったく違う制度です。

なお、相続人の所在が判明しており、単に連絡に応じない場合や、話し合いがまとまらない場合は、これらとは別の問題です。相続人間で協議が調わないときは、家庭裁判所の遺産分割調停や審判という手続があります。連絡に応じないだけの相続人がいる場合と、所在そのものが分からない場合とは、分けて考える必要があります。


2つの制度の全体像

先に、両者の違いを整理しておきます。

不在者財産管理人失踪宣告
前提従来の住所・居所を去り、容易に戻る見込みがなく、財産管理人がいない(生死不明でなくてもよい)生死が7年間(危難失踪は危難が去った後1年間)明らかでない
効果選任された管理人が、本人に代わって財産を管理・保存する失踪者が法律上死亡したものとみなされる
申立てができる人利害関係人・検察官利害関係人(検察官の申立権は規定されていません)
遺産分割・相続への影響不在者は相続人のまま。遺産分割には家庭裁判所の権限外行為許可が必要死亡とみなされる時点と、被相続人が亡くなった時点の先後により、相続関係が変わる
公示催告なし3か月以上(危難失踪は1か月以上)

大きな違いは、失踪宣告が「死亡したものとみなす」制度だという点です。 単に手続を前に進めるための道具ではありません。


不在者財産管理人とは

行方が分からない方(不在者)の財産を、家庭裁判所が選んだ管理人が管理する制度です。民法25条に定めがあります。

条文でいう不在者とは、従来の住所または居所を去った方のことで、裁判所は「容易に戻る見込みのない者」と説明しています。

生死不明である必要はありませんが、単に連絡が取れないだけで当然に利用できるわけではありません。 従来の住所・居所を去り、容易に戻る見込みがなく、その方に財産管理人がいないことなどが前提になります。

申立てができるのは、利害関係人または検察官です。相続の場面では、共同相続人が利害関係人にあたります。申立先は、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。

申立てに必要な費用は、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。郵便料は裁判所ごとに異なるため、申立先の家庭裁判所で確認することになります。

これに加えて、財産の内容によっては予納金を求められることがあります。 管理人の報酬を含む管理費用に不足が出る可能性がある場合に、相当額を納めることになります。金額は事案によって変わります。

主な添付書類は次のとおりです。

  • 不在者の戸籍謄本と戸籍附票
  • 財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
  • 不在の事実を証する資料
  • 不在者の財産に関する資料
  • 申立人の利害関係を証する資料

ここで注意が必要なのは、管理人が選ばれただけでは遺産分割協議に参加できないという点です。管理人の権限は財産の管理・保存が基本で、遺産分割は権限の外にあたります。家庭裁判所の権限外行為許可を得たうえで、はじめて協議に参加できます。

もうひとつ押さえておきたいのは、不在者は依然として相続人のままであるということです。失踪宣告と違い、その方が相続人でなくなるわけではありません。管理人は、あくまで本人に代わって手続に関わる立場です。

なお、「相続人が行方不明」と「相続人がいない」は別の問題です。相続人がまったくいない場合の手続については、相続人がいない場合の財産で説明しています。


失踪宣告とは

長期間にわたって生死が明らかでない方について、法律上死亡したものとみなす制度です。民法30条に定めがあります。

期間は2種類あります。

  • 普通失踪 … 生死が7年間明らかでないとき
  • 危難失踪 … 戦争、船舶の沈没、震災など死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後1年間生死が明らかでないとき

この記事では、相続実務との関係が分かりやすい普通失踪を中心に説明します。

申立てができるのは利害関係人です。 不在者の配偶者、相続人にあたる方、財産管理人、受遺者など、失踪宣告を求めることについて法律上の利害関係を持つ方が該当します。不在者財産管理人と異なり、検察官の申立権は規定されていません。

申立てに必要な費用は、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、そして官報公告料5298円(2026年9月現在)です。官報公告料は、失踪に関する届出の催告3359円と失踪宣告1939円の合計で、裁判所の指示があってから納めます。

手続には時間がかかります。多くの場合、申立人や不在者の親族などに対して家庭裁判所調査官による調査が行われ、その後、公示催告という手続に入ります。不在者本人に生存の届出をするよう、また生存を知っている方には届出をするよう、官報や裁判所の掲示板で呼びかけるものです。

この期間は法律で定められています。 普通失踪は3か月以上、危難失踪は1か月以上とされており(家事事件手続法148条3項)、この期間内に届出がなかったときに失踪の宣告がされます。申立てからすぐに結論が出る手続ではありません。

審判が確定したら、10日以内に市区町村役場へ失踪の届出をする必要があります。届出先は、失踪者の本籍地または届出人の所在地の市区町村です。届出には審判書謄本と確定証明書が必要になります。


失踪宣告をすると、誰の相続がどうなるのか

ここが、この制度でもっとも誤解されやすいところです。

失踪宣告を受けると、その方は法律上死亡したものとみなされます。 ただし、死亡したとみなされるのは「失踪宣告がされた日」ではありません。

  • 普通失踪 … 生死不明の状態が7年続いた、その期間が満了した時
  • 危難失踪 … その危難が去った時

民法31条に定めがあります。申立てから審判が確定するまでには公示催告の期間もありますので、実際に宣告を受ける日と、死亡したとみなされる日は、かなり離れることがあります。

2つの相続が登場します

ここで整理が必要になります。この場面には、性質の違う相続が2つあります。

  • いま遺産分割をしようとしている相続(もともとの被相続人が亡くなったことによるもの)
  • 失踪者自身を被相続人とする相続(失踪者が法律上死亡したものとみなされることによる相続)

失踪宣告の効果は、失踪者自身が死亡したものとみなされることです。いま困っている遺産分割が、それだけで自動的に解決するわけではありません。

死亡とみなされる時点と、被相続人が亡くなった時点の前後関係

相続人になるかどうかは、原則として被相続人が亡くなった時点で、その方が生きていたかどうかによって決まります。

そのため、次の前後関係が結論を左右します。

失踪者の死亡とみなされる時点が、被相続人の死亡より後の場合

失踪者はいったん相続人となります。その後、失踪者自身について相続が開始するため、元の相続で失踪者が承継した権利義務は、失踪者の相続人へ承継されることになります。

失踪者の死亡とみなされる時点が、被相続人の死亡より前の場合

失踪者は、その相続の相続人にはなりません。この場合、失踪者と被相続人との続柄によっては、代襲相続が問題になることもあります。

どちらに当たるかで、遺産分割に参加する顔ぶれが変わります。 失踪宣告を申し立てる前に、この点を確認しておく必要があります。

なお、具体的にどうなるかは事案によって異なります。 前後関係だけで機械的に決まるものではありませんので、専門家に確認しながら進めることになります。また、死亡時点の先後が明らかでない場合などは、同時死亡の推定を含めて別途検討が必要です。

亡くなった日を基準に相続関係を確認するという考え方は、古い相続を調べるときにも共通します。この点については昔の相続の調べ方で整理しています。


どちらを選ぶか

2つの制度は、目的も効果も違います。「どちらでも遺産分割を進められる」というものではありません。

所在が分からず、民法上の「不在者」にあたる相続人を含めて遺産分割を進める必要がある場合は、不在者財産管理人の選任を検討します。管理人が選ばれ、家庭裁判所の権限外行為許可を得れば、協議に参加してもらうことができます。この場合、不在者は相続人のままです。

長期間にわたって生死が明らかでない場合には、失踪宣告が問題となることがあります。ただし、こちらは法律上死亡したものとみなす制度です。相続関係そのものが変わりますので、遺産分割を進めるための手段として選ぶという性質のものではありません。

そして、前半でも触れたとおり、所在は判明していて連絡に応じないだけ、あるいは話し合いがまとまらないという場合は、これらとは別の問題です。 家庭裁判所の遺産分割調停や審判を検討することになります。

まず、いまの状況がどれに当たるのかを見極めることが出発点になります。


手続を始める前に確認すること

いずれの制度を使うにしても、その前にやっておくことがあります。

戸籍と戸籍附票で所在を確認する

戸籍附票には住民登録上の住所の履歴が記載されています。まずはここから、住民登録上の住所を追えるかどうかを確認します。手紙が届かない、転居先が分からないといった状況を確認することが、申立ての際の資料にもなります。戸籍の取り寄せ方については戸籍収集の方法で説明しています。

いつから所在が分からないのかを確認する

失踪宣告を検討する場合、生死不明の状態がいつから続いているかが要件に関わります。最後に連絡が取れたのはいつか、その時の状況はどうだったか。失踪を証する資料の準備にもつながります。

相続関係を時系列で整理する

被相続人が亡くなった日、所在が分からなくなった時期、その後に別の相続が起きていないか。古い相続が絡んでいる場合は、この整理が特に重要になります。 時系列が見えていないと、どの制度が適切かも判断できません。


どこから専門家へつなぐか

相続人の所在が分からない場面では、関わる専門家が内容によって変わります。

内容主な専門家
戸籍収集・相続人調査・相続関係の整理・争いのない場合の遺産分割協議書の文案行政書士
不動産の登記・家庭裁判所に提出する書類の作成司法書士
家庭裁判所の手続を代理して進める場合・相続人間に対立がある場合・遺産分割調停や審判弁護士
相続税の申告が必要かどうかの判断・税額の計算税理士

不在者財産管理人の選任申立てや失踪宣告の申立ては、家庭裁判所に対する手続です。 司法書士は家庭裁判所に提出する書類の作成を業務として行うことができますが、この申立手続を本人に代わって代理するものではありません。代理を含めて手続を依頼する場合は弁護士の領域です。

うりずん相続手続き相談室がお手伝いできるのは、その前段にあたる部分です。戸籍等を収集して相続関係やこれまでの経緯を整理し、家庭裁判所の手続などが必要となる可能性がある場合には、内容に応じて司法書士や弁護士などの専門家へおつなぎします。

どの専門家に相談すればよいか迷われる場合は、相続の相談先の選び方もあわせてご覧ください。


まとめ

相続人の所在が分からないときのポイントを整理します。

  • 行方が分からない相続人を除外して、遺産分割協議を成立させることはできない
  • 所在が分からず不在者にあたる場合は、不在者財産管理人の選任を検討する
  • 管理人が遺産分割に参加するには、家庭裁判所の権限外行為許可が必要
  • 長期間生死が明らかでない場合は失踪宣告が問題になるが、これは死亡したものとみなす制度
  • 失踪宣告で死亡とみなされるのは、宣告の日ではなく、普通失踪なら7年の期間が満了した時
  • 死亡とみなされる時点と被相続人が亡くなった時点の前後で、相続関係が変わる
  • 所在は判明していて連絡に応じないだけの場合は、遺産分割調停や審判の問題

所在の分からない相続人がいると、手続はそこで止まってしまいます。まずは戸籍と戸籍附票で追えるところまで確認し、いつから所在が分からないのかを整理するところから始めることになります。

相続のお手続きでお困りの方へ

うりずん相続手続き相談室では、相続人の所在が分からないご相談について、まず戸籍の収集による相続人調査、財産調査、相続関係の整理など、行政書士として対応できる手続きを中心にお手伝いしています。家庭裁判所の手続や相続登記、相続税申告、紛争対応が必要な場合には、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携し、必要な専門家へ適切におつなぎします。

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