※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。昔の相続について、どの法律が適用されるか、また誰が相続人になるかは、亡くなった日、当時の戸籍上の身分関係、その後の相続の重なり方によって一人ひとり異なります。実際のお手続きの前に、戸籍については市区町村の窓口、不動産登記については法務局や司法書士、遺産分割調停など家庭裁判所の手続が関係する場合は家庭裁判所や弁護士、相続人調査や戸籍収集などについては行政書士にご確認ください。

亡くなった方の名義を調べていたら、その前の代で止まっていた。実家の土地の登記を取ってみたら、祖父の名前のままだった。相続のご相談では、こうした場面がしばしばあります。

こうしたとき、いまの民法の考え方だけで相続人を決めてしまうと、結論が変わってしまうことがあります。相続には、亡くなった日によって適用される法律が違うという仕組みがあるからです。

この記事では、特に家督相続が関係する古い相続について、昭和22年から昭和23年にかけての大きな制度の切替を中心に整理します。

なお本記事では、混同を避けるため、明治31年法律第9号の親族・相続法制を「明治民法」と表記します。


目次

  1. 昔の相続は「今の民法」で決まるとは限りません
  2. 最初に見るのは「亡くなった日」です
  3. 古い相続を調べるときの順序
  4. 家督相続と遺産相続は何が違うのか
  5. 明治民法施行後〜昭和22年5月2日|明治民法の時代
  6. 昭和22年5月3日〜同年12月31日|応急措置法の期間
  7. 昭和23年1月1日以後|改正された民法へ
  8. どこから専門家へつなぐか
  9. このあと詳しく扱うテーマ
祖父名義のまま残る土地について、まず亡くなった日を確認すること、当時の戸籍上の立場によって適用される決まりが変わることを、行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

昔の相続は「今の民法」で決まるとは限りません

いま相続が起きたとき、誰が相続人になり、どのくらいの割合で財産を受け取るかは、現在の民法で決まります。配偶者は常に相続人になり、子がいれば子と一緒に相続する。この考え方は、多くの方がご存じのとおりです。

けれども、これは「いま亡くなった方」の相続の話です。

何十年も前に亡くなった方の相続がまだ終わっていない場合は、原則として、相続が開始した当時の法令と、その後の改正法の経過措置を確認することになります。あとから法律が変わっても、すでに開始した相続にさかのぼって適用されるとは限らないからです。

古い名義のまま残っている不動産を調べていくと、この違いが実際の結論を左右します。誰が相続人だったのかが変われば、いま必要な手続きも、集めるべき戸籍も変わってきます。


最初に見るのは「亡くなった日」です

古い相続を調べるとき、最初に確認するのは、名義人がいつ亡くなったかです。

昭和22年から昭和23年にかけて、相続の制度は大きく切り替わりました。しかも、この切替は一度ではなく、二段階で起きています。

相続が開始した日適用される規律
明治民法施行後〜昭和22年5月2日明治民法(家督相続と遺産相続の2つの制度)
昭和22年5月3日〜同年12月31日応急措置法と、明治民法の遺産相続に関する規定
昭和23年1月1日以後改正された民法(昭和22年法律第222号)

「相続が開始した日」とは、その方が亡くなった日のことです。手続きをした日でも、名義を変えた日でもありません。

⚠ この3つの区分だけでは終わりません
昭和23年1月1日以後も、相続に関する民法はその後何度も改正されています。具体的な相続人や相続分を判断するときは、相続開始日ごとの改正法と経過措置を確認する必要があります。


古い相続を調べるときの順序

古い名義にぶつかったとき、いきなり「これは家督相続だろう」と当たりをつけるのは危険です。名義が古いことと、どの制度が適用されるかは、別の話だからです。

順序としては、次のように進めます。

  • 名義人が亡くなった日を確認する
  • その方の戸籍を取り寄せる
  • 当時の戸籍上、その方がどういう立場だったかを確認する
  • 亡くなった日をもとに、適用される規律を確認する
  • そのうえで、相続人が誰だったかを確定する

戸籍の取り寄せ方や、出生から死亡までの戸籍をそろえる意味については、戸籍収集の方法で詳しく説明しています。

古い時期の戸籍は、手書きで、旧字体で書かれていることが多く、読み取りに時間がかかります。ただ、ここを飛ばして先に進むことはできません。誰が相続人だったかを判断するには、当時の戸籍上の身分関係を確認することが重要だからです。


家督相続と遺産相続は何が違うのか

明治民法では、戸主の地位を承継する家督相続と、家族などの財産を承継する遺産相続が、別の制度として存在していました。

家督相続は、家という単位を前提にした制度です。戸主の地位と、それに伴う財産を、一人が引き継ぐという形をとっていました。

一方の遺産相続は、家族が亡くなったときに、その方の財産を相続人が引き継ぐ制度です。こちらは複数の相続人が共同で相続する形になります。

つまり、同じ「相続」という言葉でも、亡くなった方がどういう立場だったかによって、まったく別の制度が動いていたことになります。

この2つの制度自体はすでに廃止されていますが、古い相続が未処理のまま残っている場合には、現在の実務でも確認が必要になります。法務局が示している法定相続情報一覧図の記載例にも、明治民法のもとで相続が生じている場合として、隠居による家督相続と死亡による遺産相続が重なっている例や、死亡による家督相続の例が掲げられています。


明治民法施行後〜昭和22年5月2日|明治民法の時代

明治民法施行後から昭和22年5月2日までに開始した相続については、明治民法を確認することになります。

家督相続は、戸主の死亡だけでなく、隠居などによっても開始する制度でした。つまり、亡くなったことだけが相続の始まりではなかったということです。具体的にどのような場合に家督相続が開始したかは、後続の記事で詳しく扱います。

ここで注意していただきたいのは、古い名義が残っているからといって、そのまま家督相続の話になるとは限らないことです。

死亡による相続を考える場合、名義人が戸主だったのか、戸主ではない家族だったのかによって、家督相続と遺産相続のどちらが問題になるかが変わります。ただし、家督相続には隠居など死亡以外の開始原因もありました。

名義人が誰で、いつ亡くなり、当時どういう立場だったのか。この3点を戸籍で確認しないことには、どちらの制度の話なのかも決まりません。

登記簿に古い名前が残っていることは、調査の出発点にはなりますが、結論そのものではないということです。


昭和22年5月3日〜同年12月31日|応急措置法の期間

日本国憲法の施行に合わせて、民法にも暫定的な措置が置かれました。日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律、いわゆる応急措置法(昭和22年法律第74号)です。

この法律は、昭和22年5月3日から施行され、昭和23年1月1日にその効力を失いました。実際に効力を持っていたのは、昭和22年5月3日から同年12月31日までの、8か月足らずの期間です。

短い期間ですが、この間に亡くなった方の相続は、前後のどちらとも違う規律で処理されることになります。

応急措置法は、家督相続に関する規定を適用しないと定めました。ここで注意していただきたいのは、この時点で家督相続の条文が民法から消えたわけではないということです。条文そのものが削除されたのは、後で触れる昭和23年1月1日の改正によります。応急措置法は暫定的な法律として、条文を残したまま適用しないという形をとりました。

では、この期間の相続はどう扱われたのか。応急措置法は、相続については同法の定めによるほか、遺産相続に関する規定に従うとしています。つまり、明治民法の遺産相続の仕組みを使いながら、相続人の範囲と相続分については応急措置法が独自に定めた、ということになります。

相続人については、直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹の順とされ、配偶者は常に相続人になるものとされました。現在につながる「配偶者を常に相続人とする仕組み」が、応急措置法で採用されました。

⚠ 当時だけの割合です
次の割合は、昭和22年5月3日から同年12月31日までに開始した相続についてのものです。現在の法定相続分とは異なります。

配偶者と一緒に相続する人当時の配偶者の相続分
直系卑属3分の1
直系尊属2分の1
兄弟姉妹3分の2

ただし、この期間の相続について、これ以上の細かい点を一般論で決めてしまうことはできません。

応急措置法は、全10条からなる短い暫定法です。具体的な相続分の計算や、明治民法の遺産相続の規定のうちどこまでが適用されるのか、といった点は、条文だけでは決まりきらない部分が残ります。実際には、登記の先例や家庭裁判所の実務の積み重ねによって処理されてきました。

この期間に開始した相続が絡む場合は、早い段階で専門家に確認されることをおすすめします。


昭和23年1月1日以後|改正された民法へ

昭和22年法律第222号によって民法が改正され、昭和23年1月1日から施行されました。この改正で家督相続制度は廃止され、応急措置法で暫定的に採られていた「配偶者を常に相続人とする仕組み」などが、改正民法の制度として引き継がれました。

応急措置法が効力を失った日と、改正された民法が施行された日は、同じ昭和23年1月1日です。暫定的な措置から、新しい制度へ、切れ目なく引き継がれる形になっています。

ここまでの整理をまとめると、次のようになります。

  • 昭和22年5月3日 … 家督相続に関する規定が適用されなくなった日
  • 昭和23年1月1日 … 家督相続の条文そのものが民法から削除され、改正された民法が施行された日

「家督相続は昭和22年に廃止された」と説明されることがありますが、実際にはこのように二段階で切り替わっています。古い相続を調べるときに、どちらの日付を基準にするかで結論が変わることがあるため、分けて理解しておく必要があります。

なお、昭和23年1月1日以後も、相続に関する民法はその後何度も改正されています。代襲相続や相続放棄、配偶者の法定相続分などについて、改正が重ねられてきました。具体的な相続人や相続分を判断するときは、相続開始日ごとの改正法と経過措置を確認する必要があります。


どこから専門家へつなぐか

古い相続の調査は、戸籍を集めて相続関係を整理するところから始まります。ただ、そこから先は、内容によって関わる専門家が変わります。

内容主な専門家
戸籍収集・相続人調査・相続関係の整理・争いのない場合の遺産分割協議書の文案行政書士
不動産の登記・家庭裁判所に提出する書類の作成司法書士
相続人間の対立・協議が調わない場合・遺産分割調停などで法的代理が必要な場合弁護士

古い相続では、相続人の数が想定より多くなることがあります。何十年もの間に次の世代の相続が重なり、面識のない親族が相続人に含まれる、ということも起こります。

相続人同士で意見が対立し、協議がまとまらない場合は、弁護士への相談が必要になります。また、相続人の所在が分からず家庭裁判所の手続が必要になる場合には、手続の内容に応じて司法書士や弁護士への確認が必要です。

どの専門家に相談すればよいか迷われる場合は、相続の相談先の選び方もあわせてご覧ください。


このあと詳しく扱うテーマ

この記事では、古い相続を調べるときの入口として、昭和22年から昭和23年にかけての制度の切替を中心に整理しました。それぞれの論点については、別の記事で詳しく扱う予定です。

  • 家督相続の詳しい仕組み(開始原因・承継の範囲)
  • 古い戸籍の読み方(明治・大正期の戸籍の見方)
  • 配偶者や兄弟姉妹の相続分がどう変わってきたか
  • 何十年も未処理だった相続を実際に調べる手順

まとめ

古い名義のまま残っている不動産や、何十年も前の未処理の相続にぶつかったときは、いまの民法の考え方だけで判断せず、順を追って確認していくことが大切です。

  • 最初に確認するのは、名義人が亡くなった日
  • 昭和22年5月3日と昭和23年1月1日が、大きな切替の境界になる
  • 明治民法では、家督相続と遺産相続という別の制度が置かれていた
  • 古い名義が残っていることは調査の出発点であって、適用される規律を決める材料ではない
  • 昭和23年1月1日以後も改正は重ねられているため、相続開始日ごとの確認が必要

古い相続は、調べ始める前は途方もない話に見えます。けれども、亡くなった日を起点に、戸籍で当時の身分関係をたどり、適用される規律を確認する。この順序で一つずつ進めていけば、整理できることがほとんどです。

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