※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。相続人がいない場合の手続きは、亡くなった方の親族関係、財産の内容、相続放棄の有無によって一人ひとり異なります。実際のお手続きの前に、家庭裁判所、司法書士・弁護士、税務が関係する場合は税理士、または行政書士にご確認ください。

「相続人がいない場合、その財産は最終的に国のものになる」。大まかには、そのように説明されます。ただし、亡くなった日からすぐに国庫へ入るわけではありません。その間には、家庭裁判所での手続きが挟まります。そして、その途中には、財産を受け取れる可能性のある方が現れる場面もあります。

川崎・横浜で相続のご相談をお受けしていると、このテーマは二つの入口からやってきます。ひとつは「兄弟もいない、甥や姪もいない。自分が亡くなったら家や預金はどうなるのか」という、ご自身の将来についてのご相談。もうひとつは「相続人全員で相続放棄をしたが、そのあと残された家や荷物は誰が片づけるのか」という、すでに起きてしまったことへのご相談です。

このテーマには、もうひとつ注意しておきたい点があります。相続人がいない場合の手続きは、2023年(令和5年)4月に大きく変わりました。手続きを行う人の名称も、期間の数え方も、根拠となる条文の番号も変わっています。インターネット上には改正前の説明が今も数多く残っているため、調べるほど混乱しやすい分野です。

この記事では、亡くなってから財産が国庫に入るまでの流れを、現行の制度にそって順番に見ていきます。


目次

  1. 相続人がいないと、財産はいったん「法人」になる
  2. 「相続人がいない」とは、どういう状態か
  3. 手続きは、家庭裁判所への相続財産清算人選任の申立てから
  4. 2023年4月に手続きが変わった|「管理人」から「清算人」へ
  5. 公告から国庫帰属までの流れ
  6. 特別縁故者への財産分与|請求しなければ、何も起きない
  7. 残った財産は国庫へ|「相続土地国庫帰属制度」とは別の制度です
  8. 生前にできること|遺言や死後事務で、国庫帰属を避ける備え
兄弟も甥や姪もいない60代の男性が、相続人がいない場合でも財産がすぐに国のものになるわけではないこと、戸籍をたどって相続人がいないことを確認する必要があること、家庭裁判所で相続財産清算人が選ばれること、2023年4月に手続きの名称と流れが変わったこと、相続人が権利を主張する期間は6か月を下ることができないこと、お世話になった方に財産を渡すには生前の備えが必要になることについて、行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

相続人がいないと、財産はいったん「法人」になる

相続人がいるかどうかが明らかでないとき、その財産は、宙に浮いた状態で放置されるわけではありません。民法は、相続財産そのものを法人として扱うと定めています(民法951条)。つまり、死亡と同時に当然に国庫へ入るのではなく、相続人の有無が明らかでない状態を前提として、清算のための仕組みが用意されているということです。

「法人」と聞くと会社を思い浮かべるかもしれませんが、ここでいう法人は、財産を管理し、清算するための入れ物のようなものです。亡くなった方の預金も不動産も、いったんこの「相続財産法人」に属するものとして扱われ、あとで説明する相続財産清算人が、その代表者として手続きを進めていきます。

大切なのは、この時点ではまだ、財産が国のものになっているわけではないということです。国庫に入るのは、後で見るいくつもの段階を経て、それでも引き取り手が現れなかった場合に限られます。

また、手続きの途中で相続人が見つかることもあります。その場合、相続財産法人ははじめから成立しなかったものとみなされます(民法955条)。相続人が明らかになれば、その相続人を前提に相続関係が整理されることになります。ただし、それまでに清算人が権限の範囲内で行った手続きは、そのまま効力を持ち続けます。


「相続人がいない」とは、どういう状態か

日常の会話では「身寄りがない」「おひとりさま」といった言い方をしますが、法律上の「相続人がいない」は、もう少し限定された意味を持ちます。

戸籍をたどって、配偶者も、子も、親などの直系尊属も、兄弟姉妹も、その代襲相続人である甥・姪もいない。そこまで確認できてはじめて「相続人がいない」といえます。長年連絡を取っていない兄弟や、顔も知らない甥・姪であっても、その方が存命であれば相続人です。疎遠であることと、法律上いないこととは別の話になります。

相続人全員が相続放棄した場合

戸籍上は相続人がいても、その全員が相続放棄をした結果、財産を受け継ぐ人がいなくなることがあります。借金のほうが多いケースや、遠方の空き家を引き継ぎたくないケースで実際に起きることです。

裁判所の案内では、相続人の存在・不存在が明らかでないときには、相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する者がいなくなった場合も含まれると説明されています。つまり、この場合も相続財産清算人の選任を検討する場面になります。

なお、相続放棄をした方に何の責任も残らないわけではありません。放棄した時点でその財産を現に占有していた場合には、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、自分の財産と同じ注意をもって保存する義務があります(民法940条1項)。この点は改正で範囲が整理された部分ですので、詳しくは相続放棄の期限と手続きをご覧ください。

相続人が行方不明の場合は、別の制度です

混同されやすいのですが、「相続人が誰かは分かっているものの、その方の所在が分からない」という状況は、相続人がいない場合とは別に扱われます。この場合に検討するのは相続財産清算人ではなく、不在者財産管理人の選任です。

両者の違いについては、孤独死と残置物の整理で具体的な場面とあわせて整理しています。


手続きは、家庭裁判所への相続財産清算人選任の申立てから

相続人がいないとき、財産の清算は自動的には始まりません。誰かが家庭裁判所に申立てをすることで、はじめて動き出します。

申立てができるのは、利害関係人または検察官です(民法952条1項)。利害関係人とは、亡くなった方の債権者、遺贈を受けた方、賃貸物件の貸主、そして後で説明する特別縁故者にあたる方などが該当します。申立先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

家庭裁判所は、申立てを受けて相続財産清算人を選任します。選ばれるのは弁護士や司法書士であることが多く、以後は、この清算人が相続財産法人の代表者として、財産の調査、債務の弁済、不動産の売却といった清算の実務を担っていきます。

申立てにかかる費用

申立てには、収入印紙、連絡用の郵便切手、官報公告料のほか、事案によっては予納金が必要になります。予納金は、清算人が財産を管理し、報酬を受け取るための費用に不足が出る可能性がある場合に、申立てをした方があらかじめ納めるお金です。

金額は事案ごとに家庭裁判所が決めるため、一律ではありません。参考として、東京家庭裁判所の案内では、亡くなった方の預貯金・現金が十分にない場合には原則として100万円とされています。実際の金額と要否は、申立先の家庭裁判所の最新の案内でご確認ください

ここは、申立てを検討される方に必ずお伝えしている点です。大阪家庭裁判所の手引きには、相続財産が十分に形成されない場合には予納金の全額または一部が返還されないことがあると明記されています。申立てをしたからといって、予納金が必ず全額戻るとは限りません。自分が求めている結果と、かかる費用とを見比べたうえで、申立てをするかどうかを慎重に検討する必要があります。


2023年4月に手続きが変わった|「管理人」から「清算人」へ

ここまで「相続財産清算人」という言葉を使ってきましたが、以前は相続財産管理人と呼ばれていました。2023年(令和5年)4月1日に施行された民法の改正で、名称が変わっています。

変わったのは呼び方だけではありません。改正前は、選任のあと、債権者・受遺者への公告や相続人を探すための公告が、段階を追って進む仕組みでした。現行法では、家庭裁判所が清算人の選任とあわせて、相続人がいる場合に権利を主張すべき期間を公告し、その期間は6か月を下ることができないとされています(民法952条2項)。債権者・受遺者への公告も、この期間内に終わるように進められる仕組みに再編されました。

条文の番号も動いています。あとで説明する特別縁故者への財産分与は、改正前は民法958条の3に置かれていましたが、現行では民法958条の2です。

インターネットで調べると、いまも改正前の名称で書かれた解説や、改正前の条文番号を根拠として挙げている記事が数多く見つかります。これらは改正前の情報です。手続きの流れそのものが再編されているため、古い説明のまま準備を進めると、期間の見込みを誤ることがあります。


公告から国庫帰属までの流れ

ここまでの内容を、時間の流れにそって整理します。相続財産清算人が選任されてから財産の行き先が決まるまでには、いくつかの段階があります。

段階誰が行うか期間
相続財産清算人の選任の申立て利害関係人または検察官
清算人の選任と公告家庭裁判所相続人が権利を主張する期間は6か月を下ることができない
相続債権者・受遺者への公告相続財産清算人2か月以上(上の期間内に満了する)
相続人等が権利を行使できなくなる段階公告期間が満了したとき
特別縁故者への財産分与の申立て特別縁故者にあたる方期間の満了後3か月以内
残った財産の国庫への帰属相続財産清算人が国庫へ引き継ぐ

家庭裁判所が行う公告は、官報に掲載されます。「相続人がいるなら、この期間内に権利を主張してください」という呼びかけです。並行して、相続財産清算人が相続債権者や受遺者に向けて「請求があれば申し出てください」という公告を行い、申し出のあった債務を財産の中から支払っていきます。

公告で定められた期間内に、相続人として権利を主張する方が現れなかった場合、その相続人と、清算人に知られていなかった相続債権者・受遺者は、その権利を行使することができなくなります(民法958条)。ここを過ぎることで、相続人がいないことを前提に、次の段階へ進むことになります。

公告期間が満了し、相続人として権利を主張する方が現れなかった場合、次に問題になるのが特別縁故者への財産分与です。実際に分与されるのは、清算後に残る財産の全部または一部です。


特別縁故者への財産分与|請求しなければ、何も起きない

法律上の相続人ではないけれど、亡くなった方と深いつながりのあった方がいる場合、その方に財産を分け与えることができる制度があります。特別縁故者に対する相続財産の分与です(民法958条の2)。

条文は、対象となる方を次のように挙げています。被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者、の三つです。三つ目が受け皿になっており、前の二つはその例として挙げられている、という構造です。ですから「前の二つのどちらかに当てはまらないと認められない」というものではありません。

この制度でもっとも見落とされやすいのが、家庭裁判所が自分から財産を分け与えてくれるわけではないという点です。分与を受けるには、その方が自分で家庭裁判所に請求する必要があります。請求できるのは、相続人が権利を主張すべき期間が満了してから3か月以内です。この期間を過ぎると、原則として請求できなくなります。

請求をしたとしても、必ず認められるとは限りません。条文は、家庭裁判所が相当と認めるときに、清算後に残った財産の全部または一部を与えることができる、という書き方をしています。認められるかどうかも、どの範囲で分与されるかも、家庭裁判所が個別の事情をもとに判断します。

内縁のパートナーの立場からこの制度をどう考えるかは、内縁・事実婚と相続で詳しく整理しています。

相続人が一人でもいる場合は使えません

この制度が使えるのは、相続人がいない場合に限られます。長年連絡が途絶えている兄弟姉妹や、会ったこともない甥・姪であっても、相続人として存在していれば、特別縁故者への分与という道はありません。

「相続人はいるけれど疎遠だから、身の回りの世話をしてくれたあの人に財産を渡したい」というご希望であれば、必要なのはこの制度ではなく、遺言です。

特別縁故者への財産分与の申立てや、相続財産清算人の選任の申立てなど、家庭裁判所に提出する書類の作成は司法書士・弁護士の業務領域であり、裁判所での手続代理は原則として弁護士の業務領域です。当事務所では、戸籍の収集、相続人の調査、財産の調査、必要書類の整理と、専門家へおつなぎする段取りをお手伝いしています。


残った財産は国庫へ|「相続土地国庫帰属制度」とは別の制度です

特別縁故者への分与が行われなかった場合、または分与してもなお財産が残った場合、残った財産は国庫に帰属します(民法959条)。

実務上は、預金は解約して現金にしたうえで日本銀行を通じて国庫に納められ、不動産は所轄の財務局に引き継がれます。この引継ぎと、家庭裁判所への管理終了の報告をもって、実務上、相続財産清算人の職務は終わるとされています。なお、民法959条の後段は、国に対して清算に係る計算をする義務を定めています。

ここで、名前がよく似ていて混同されやすい制度があります。相続土地国庫帰属制度です。この二つは、まったく別の制度です。

項目民法959条の国庫帰属相続土地国庫帰属制度
前提相続人がいない相続人がいる
きっかけ清算手続きの結果として申請して法務大臣の承認を受ける
対象残った財産すべて土地のみ(一筆ごと)
窓口家庭裁判所、そのあと財務局など法務局・地方法務局
費用申立ての費用、必要に応じて予納金審査手数料と負担金

民法959条の国庫帰属は、相続人がいないという事情のもとで、清算の結果として財産が国に移るものです。これに対して相続土地国庫帰属制度は、相続人がいる方が、要らない土地を国に引き取ってもらうために自分から申請する制度です。要件や費用の詳しい内容は、相続した土地を国に引き取ってもらう制度をご覧ください。

亡くなった方が不動産を誰かと共有していた場合には、少し注意が必要です。共有者の一人が亡くなって相続人がいないときはその持分が他の共有者に移る、という規定がありますが(民法255条)、相続人がいないからといって直ちに他の共有者に移るわけではなく、まず特別縁故者への分与の対象になり得るとした最高裁の判断があります。なお、この判断は改正前の条文を前提としたものですが、現在の特別縁故者の制度は民法958条の2に置かれています。共有不動産が含まれる場合は、早い段階で専門家にご相談ください。


生前にできること|遺言や死後事務で、国庫帰属を避ける備え

ここまで見てきたとおり、相続人がいない場合の手続きは、申立てをする人が必要で、費用がかかり、時間もかかります。そして、亡くなった方が「あの人に渡したい」と思っていた相手がいたとしても、その方が自分で家庭裁判所に請求しなければ、財産は届きません。

遺言で財産の行き先を決めておくことで、この清算手続きを避けられる場合があります。 法定相続人ではない方にも、遺言によって財産を渡すことができます(遺贈)。お世話になった方、内縁のパートナー、支援を続けている団体への遺贈寄付も選択肢になります。

あわせて考えておきたいのが、財産以外のことです。葬儀や納骨、住まいの片づけ、各種の解約手続きは、遺言だけでは動きません。死後事務委任契約身元保証を生前に用意しておくことで、亡くなった後に誰が何をするのかを決めておくことができます。

相続人がいない方にとって、遺言と死後事務の備えは対になるものです。遺言は「財産をどこへ渡すか」を決めるもの、死後事務は「誰が手続きを進めるか」を決めるものです。どちらか片方だけでは、残された課題が生じます。

おひとりさまの終活として、何をどの順番で準備すればよいかは、おひとりさまの終活ガイドにまとめています。川崎市・横浜市にお住まいの方は、お住まいの区役所や地域包括支援センターの相談窓口もご活用ください。


まとめ

  • 相続人がいるかどうか明らかでないとき、相続財産は「相続財産法人」として扱われる(民法951条)。死亡と同時に国のものになるわけではない
  • 手続きは、利害関係人または検察官が家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることから始まる。事案によっては予納金が必要で、全額が戻るとは限らない
  • 2023年4月に手続きが変わり、名称は「管理人」から「清算人」へ。相続人が権利を主張する期間は6か月を下ることができない
  • 公告の期間内に相続人として権利を主張する方がいなければ、その相続人と、清算人に知られていなかった債権者・受遺者は権利を行使できなくなる(民法958条)
  • 特別縁故者への財産分与は、その方が自分で請求しなければ行われない。期間は公告期間の満了後3か月以内。認められるか、どの範囲で分与されるかは家庭裁判所が判断する(民法958条の2)
  • 残った財産は国庫へ帰属する(民法959条)。名前の似た「相続土地国庫帰属制度」は、相続人がいる方が土地を国に引き取ってもらう別の制度
  • 相続人がいない方にとって、遺言と死後事務の備えは対になる。遺言があれば、この清算手続きを避けられる場合がある

相続人がいない場合の手続きは、ご自身の将来を考えるときにも、身近な方が亡くなった後に直面するときにも、どこから手をつければよいのか分かりにくい分野です。しかも、調べて出てくる情報の多くが改正前のままになっています。まずは戸籍をたどって、本当に相続人がいないのかを確認するところから始まります。

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