※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。遺言でできることや手続きの取り扱いは、個別の事情によって異なります。実際の遺言書の作成や保管、契約については、公証役場・法務局の窓口、または専門家にご確認ください。

「自分の葬儀は家族だけで静かに行ってほしい」「お墓は建てず、永代供養にしてほしい」。そうした希望をお持ちの方から、遺言書に書いておけばよいのでしょうか、というご相談をいただくことがあります。

結論を先にお伝えすると、書くこと自体はできます。ただし、その記載に法的な効力は生じません。しかも、効力の問題とは別に、遺言書が葬儀の場面では開かれていないことが多い、という現実的な壁もあります。

この記事では、なぜ葬儀や納骨の希望に効力が生じないのか、遺言書がいつ読まれるのか、そして希望を実現するには何を備えておけばよいのかを整理します。遺言書そのものの書き方は遺言書の書き方完全ガイドで扱っていますので、あわせてご覧ください。


目次

  1. 遺言書に葬儀や納骨の希望は書けるのか|まず結論から
  2. 効力が生じない理由|法律で定められた事項と、それ以外
  3. 同じ遺言書でも効果が生じるもの|祭祀を主宰する人の指定
  4. もう一つの壁|遺言書だけでは葬儀準備に間に合わないことがある
  5. 保管制度の通知は助けになるか
  6. 希望を実現するための備え|3つの手段の使い分け
  7. うりずんに相談できること
高齢の女性が、遺言書に葬儀や納骨の希望を書いた場合の効力、お墓を引き継ぐ人の指定、死後事務委任契約との使い分けについて行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

遺言書に葬儀や納骨の希望は書けるのか|まず結論から

遺言書に「葬儀は家族葬で」「納骨は樹木葬で」と書くことはできます。書いてはいけないという決まりはありません。

ただし、その記載によって誰かが従わなければならなくなるわけではありません。遺言に書いて法的な効果が生じる事項は法律で定められており、葬儀や埋葬の方法はそこに含まれていないためです。東京弁護士会の終活の解説でも、埋葬や葬送の方法を遺言に記載しても、そこに法的効力は生じないと説明されています。

そしてもう一つ、見落とされやすい壁があります。遺言書は、葬儀の準備が進む時点ではまだ開かれていないことが多いという点です。効力の問題と、時間の問題。この2つが重なるため、葬儀の希望を遺言書だけに託すのは心もとない、というのがこの記事の要点です。

以下、順にご説明します。


効力が生じない理由|法律で定められた事項と、それ以外

遺言は、書いた内容がすべて法的な効力を持つ書面ではありません。効果が生じる事項は法律で定められていて、たとえば次のようなものが挙げられます。

  • 相続分の指定、指定の委託
  • 遺産分割の方法の指定、指定の委託
  • 遺贈
  • 推定相続人の廃除と、その取消し
  • 配偶者居住権の設定
  • 子の認知
  • 未成年後見人の指定
  • 祭祀を主宰すべき者の指定
  • 遺言の撤回

一方、これらに当たらない記載は付言事項と呼ばれます。「家族仲良く暮らしてほしい」「介護をしてくれた長女に感謝している」といった言葉がこれにあたり、葬儀や納骨の希望も同じ扱いになります。

付言事項は、遺されたご家族が読むことを想定した言葉であって、相続人や周囲の方に従う義務を生じさせるものではありません。書いたとおりに実現するかどうかは、読んだ方の判断に委ねられます。

なお、遺言書の種類ごとの違いや遺留分との関係といった基本は、冒頭でご案内した遺言書の書き方の記事にまとめています。


同じ遺言書でも効果が生じるもの|祭祀を主宰する人の指定

ここで一つ、区別しておきたいことがあります。

お墓や仏壇、位牌といった祭祀財産を承継する人、つまり祭祀を主宰すべき者の指定については、遺言書に記載すると民法897条に基づく効果が生じます。同じ1通の遺言書のなかに、効果が生じる記載と、気持ちを伝えるだけの記載が同居することになります。

ただし、2点ご注意ください。

1つは、指定の方法は遺言に限られないということです。生前に書面で示す方法や、口頭で伝える方法もあり得ます。遺言書はその選択肢の一つで、記録として残る点に利点がある、という位置づけです。

もう1つは、この指定で決まるのは祭具や墳墓などの承継であるという点です。誰がお墓や仏壇を引き継ぐかは定まりますが、葬儀の形式や費用の負担、参列を知らせる範囲までが法的に決まるわけではありません。

祭祀を主宰する人の決まり方や、指定がない場合の扱いは祭祀承継者とは?で、引き継ぐ方がいない場合の考え方はおひとりさまのお墓・納骨は誰が決めるのかで詳しく扱っています。


もう一つの壁|遺言書だけでは葬儀準備に間に合わないことがある

効力の話とは別に、時間の問題があります。

ご逝去の直後から、ご遺体の搬送先の決定、葬儀社への連絡、日程の調整、参列者への連絡と、判断と手配が次々に始まります。通夜や葬儀は数日のうちに行われるのが一般的です。

これに対して、遺言書が開かれて内容が確認されるまでには、いくつかの段階があります。

自宅などで保管されていた自筆証書遺言の場合

まず、遺言書の存在に気づいてもらう必要があります。保管場所をご家族が知らなければ、発見そのものが遅れます。

見つかった後も、家庭裁判所の検認という手続きが必要です。検認は、相続人に遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言書の形状や日付、署名などその日現在の状態を明確にして、偽造や変造を防ぐための手続きです。遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。

そして、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのうえ開封しなければならないとされています。手元にあっても、その場で開いて内容を確かめることはできません。

公正証書遺言・法務局に保管された自筆証書遺言の場合

公正証書遺言は検認が不要です。法務局に保管された自筆証書遺言について交付される遺言書情報証明書も、検認は必要ありません。この点で手続きは軽くなります。

ただし、遺言があること自体が分からなければ始まりません。平成元年以降に作成された公正証書遺言については、全国の公証役場で有無を検索できます。遺言者の死亡後に検索を申し出られるのは、相続人その他の法律上の利害関係人です。通常は、遺言者の死亡を証明する除籍謄本等、申出人の相続関係または法律上の利害関係を証明する書類、本人確認書類が必要になります。遺言者の生存中は、本人しか検索を申し出ることができません。

つまり、ご逝去を受けてご家族が動き出し、書類をそろえて初めて確認できる仕組みです。葬儀の準備と並行して進めるには、それなりの手間がかかります。

遺言書の探し方の全体像は遺言書の確認方法、保管制度の手続きは自筆証書遺言の保管制度、公正証書遺言の作り方は公正証書遺言の作り方をご覧ください。


保管制度の通知は助けになるか

法務局の自筆証書遺言書保管制度には、遺言書の存在を知らせる通知の仕組みがあります。

1つは指定者通知です。あらかじめ指定しておいた方に対し、法務局が戸籍担当部局と連携して遺言者の死亡を確認したときに、遺言書が保管されている旨を知らせます。指定できるのは3名までです。

もう1つは関係遺言書保管通知で、相続人等のいずれかの方が遺言書を閲覧したり証明書の交付を受けたりしたときに、他の関係相続人等へ通知されます。

これらは、遺言書の存在に気づいてもらう助けになります。ご家族が保管場所を知らない場合でも、通知によって発見につながる可能性があります。

ただし、通知が葬儀の準備までに届くことを保証するものではありません。指定者通知は死亡の事実が確認された後に行われますし、関係遺言書保管通知はどなたかが閲覧等をした後の仕組みです。発見を早める助けにはなっても、葬儀の段取りを進めるための連絡網の代わりにはならない、と考えておくのが安全です。


希望を実現するための備え|3つの手段の使い分け

では、葬儀や納骨の希望をどう残せばよいのでしょうか。手段ごとに役割が違いますので、組み合わせて備えるのが実務的です。

手段法的な効果内容が伝わるタイミング葬儀・納骨の希望との相性
遺言書法律で定められた事項には効果が生じる。葬儀・納骨の希望には法的拘束力がない保管・周知の方法によって異なる。自宅保管で存在や場所が共有されていない場合は、発見・検認に時間を要することがある希望を記録に残す意味はあるが、単独では実現の手段にならない
エンディングノート法的な効力はない保管場所を伝えておけば、生前でも直後でも読める希望を具体的に書き残し、早く伝えるのに向く
死後事務委任契約委任者の死亡後も契約を存続させる旨を定めることにより、受任者が契約内容を実行する根拠になる受任者が死亡の連絡を受け、契約で定めた開始条件を満たした後に動く実行まで見据えるならこれが中心になる

死後事務委任契約については、契約の設計そのものが要になります。委任契約は委任者の死亡によって終了するのが原則ですので(民法653条)、死後も契約を存続させ、死後事務を実行する旨を契約に定めておくことが重要です。

また、1点だけ留保があります。契約は実行の根拠になりますが、親族・葬儀社・寺院等を当然に拘束するものではありません。死亡届の届出人になれる者も法律で定められており、死後事務の受任者であることだけを理由に届出人になれるわけではありません。ただし、死後事務の受任者が、親族、同居者、任意後見人・任意後見受任者など、戸籍法上の届出資格を別に備えている場合は、その資格に基づいて届出人となることができます。関係先との事前の調整は、契約とあわせて必要になります。

この点を含めた死後事務委任契約の実務は死後事務委任契約で葬儀・納骨は頼めるのかで詳しく扱っています。エンディングノートの書き方はエンディングノートの書き方を、納骨先そのものの選び方は永代供養・樹木葬・散骨を選ぶ前にをご覧ください。

遺言書は、財産の承継や、祭祀を主宰する人の指定に力を発揮する大切な書面です。一方で、葬儀や納骨はご逝去の直後から連絡・判断・手配が始まります。遺言書に書くことと、葬儀の希望を実現することは、役割が違うのだとお考えください。


うりずんに相談できること

うりずん相続手続き相談室では、遺言書に何を書けば効果が生じるのか、書いても効果が生じない希望はどこに残しておくべきかを、一つずつ整理するお手伝いをしています。

遺言書の文案作成、死後事務委任契約の内容整理・契約書作成等は、Officeうりずん社会保険労務士・行政書士事務所が対応します。葬儀社・寺院・納骨先との連絡調整、契約に基づく葬儀・納骨の実行支援は、受任者となる一般社団法人いきいきライフ協会川崎南が担当します。

ご相談の内容に応じて、次のようなお手伝いをしています。

  • 葬儀・納骨の希望の整理と、どの書面に残すかの切り分け
  • 遺言書の文案作成と、公正証書化の段取り
  • 祭祀を主宰する人の指定を書面に残す場合の文案の整理
  • 死後事務委任契約と組み合わせる場合の設計
  • 相続開始後の戸籍収集、財産調査、遺産分割協議書の作成、口座解約のサポート、年金の請求支援

相続登記の申請は司法書士、相続税の申告は税理士、紛争にわたる事案は弁護士と、それぞれ連携して対応します。公正証書の作成は公証人が行います。

川崎市・横浜市を中心にご相談をお受けしています。まずはお話をお聞かせください。


まとめ

  • 遺言書に葬儀や納骨の希望を書くことはできるが、法律で定められた事項ではないため、その記載に法的な効力は生じない
  • 祭祀を主宰すべき者の指定を遺言書に記載した場合は民法897条に基づく効果が生じる。ただし指定の方法は遺言に限られず、決まるのは祭具や墳墓などの承継であって、葬儀の形式や費用までではない
  • 効力の問題とは別に、時間の問題がある。自宅保管の自筆証書遺言は発見が遅れることがあり、封印があれば家庭裁判所で相続人等の立会いのうえ開封する必要がある
  • 公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言は検認が不要である。ただし、遺言の存在や内容が生前に共有されていない場合は、相続人等による検索、証明書の請求または通知を待つことになり、葬儀準備の時点で内容を確認できないことがある
  • 保管制度の通知は発見を早める助けになるが、葬儀の準備に間に合うことを保証するものではない
  • 希望を実現するには、遺言書に書くだけでなく、生前から希望を共有し、実行する人と契約の内容を整えておくことが要になる

おひとりさまの終活全体の進め方はおひとりさまの終活完全ガイドにまとめています。