※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。片づけを始める前に確認しておくことや、相続放棄という選択肢が残っているかどうかは、相続人の人数、財産と負債の状況、実家をどなたが管理しているかによって一人ひとり異なります。実際に片づけを始める前に、お住まいの市区町村の窓口、家庭裁判所、弁護士、司法書士、(税務が関係する場合は)税理士、行政書士などの専門家にご確認ください。
四十九日が過ぎ、誰も住まなくなった実家をそろそろ片づけようか、という時期が来ます。荷物は多く、遠方から通うのも大変で、業者に頼めば一日で終わるという話も聞きます。
けれども、片づけそのものは業者に頼めても、頼む前に確認しておくことがあります。 順番を間違えると、あとから取り返しがつかないことがあるからです。
法律も、その順番を想定しています。民法915条2項は、熟慮期間中に相続財産の状況を調べたうえで、相続を承認するか放棄するかを決めることを予定しています。先に中身を確かめるというのは、法律が想定している手順なのです。
この記事では、実家の片づけに取りかかる前に確認しておきたいことを、順を追って整理します。そのうえで、業者に依頼するときの注意点と、片づけたあとに家をどうするかまでをご案内します。
目次
- 片づける前に、まず確保するもの
- 相続放棄を考えているなら、片づけの前に
- 相続放棄後にも、保存義務が残る場合があります
- 価値のあるものを、先に処分しない
- 片づける前に、相続人どうしで話をしておく
- 業者に頼むときに確認すること
- 実家一軒分の多量ごみは、通常の収集に出す前に自治体へ確認する
- 片づけたあと|空き家のまま置いておかない
片づける前に、まず確保するもの
片づけを始めると、書類は真っ先に「いらないもの」の山に入ります。けれども相続の手続きは、書類から始まります。
亡くなった方がどんな財産を持っていたかは、ご家族でも正確には分からないことがほとんどです。預金がどの銀行にいくつあるのか、保険に入っていたのか、借入れは残っていないのか。それを知る手がかりが、実家の引き出しや棚の中にあります。
まず確保していただきたいものを、表にまとめました。
| 見つかったもの | 先にすること | 理由 |
|---|---|---|
| 通帳・キャッシュカード | 保管する | 財産調査の起点になります |
| 権利証・登記識別情報・固定資産税の通知書 | 保管する | 不動産の特定に使います |
| 保険証券・有価証券・契約書類 | 保管する | 請求や解約の手続きに必要です |
| 貴金属・骨董・美術品 | 処分せず記録する | 亡くなった方の所有物であれば、遺産分割の対象になり、税務の扱いも変わります |
| 請求書・督促状 | 保管する | 借入れの有無は、相続放棄を考えるときの判断材料です |
郵便物も見落とせません。金融機関や保険会社からのお知らせ、クレジットカードの明細、公共料金の請求書は、亡くなった方の取引先を教えてくれます。片づけの前に、郵便受けと直近の郵便物をひととおり確認しておくと、あとの調査がずいぶん楽になります。
貸金庫が見つかることもあります。ただし、貸金庫を開けるための手続きや必要書類は、金融機関によって異なります。通帳や鍵から貸金庫の存在が分かったら、まず取引先の金融機関にご確認ください。
財産の調べ方については、相続財産の調べ方で具体的な手順を整理しています。
相続放棄を考えているなら、片づけの前に
借入れが残っていそうだ、あるいは遠方の実家を引き継ぎたくない。そうしたご事情で相続放棄を検討している場合、片づけの順番はとりわけ慎重に考える必要があります。
民法は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなす、と定めています(民法921条1号)。単純承認とみなされると、相続放棄はできなくなります。
ここでよくある誤解を、先に解いておきます。「片づけたら必ず単純承認になる」わけではありません。 条文が挙げているのは「処分」であり、しかも保存行為と、民法602条に定める期間を超えない賃貸は、この限りでないと明記されています。現状を保つための行為まで一律に禁じられているわけではないのです。
処分に当たるかは、行為の内容や財産の価値など、個別の事情をもとに判断されます。迷うときは、処分する前に弁護士へご確認ください。
そのうえで、実務的にお伝えできることがあります。価値のあるものの売却や廃棄を先に進めることは避けてください。 家財のうち、明らかに価値のあるもの、換金できそうなものについては、判断がつくまで手をつけない。これが最も安全です。
なお、熟慮期間中の相続人は、自分の財産と同じ注意をもって相続財産を管理しなければならないとも定められています(民法918条)。放置してよいという話ではありません。 傷まないように保つことと、価値のあるものを処分しないことは、両立します。
熟慮期間は延ばせます
相続放棄をするかどうかは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に決める必要があります(民法915条1項)。ここは「亡くなった日から」ではありません。
3か月では財産を調べきれないこともあります。その場合、家庭裁判所に、期間の伸長を求める申立てをすることができます。原則として、熟慮期間内に申立てます。 申立先は亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所で、費用は相続人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。切手の額は裁判所ごとに異なるため、申立先にご確認ください。
相続放棄そのものの期限と手続きは、相続放棄の期限と手続きで詳しく整理しています。
相続放棄後にも、保存義務が残る場合があります
相続放棄をすれば、それで実家とは無関係になる。そう思われがちですが、条文はもう少し細かく定めています。
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、自分の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければなりません(民法940条1項)。
ここは2023年(令和5年)4月に施行された改正で見直された部分です。改正前は「管理」でしたが、現行法では「保存」となり、対象も「放棄の時に現に占有している財産」に限定されました。
判断の基準は、放棄した時点でその財産を現に占有していたかどうかです。遠方に住んでいても、鍵を預かって出入りしていた、荷物を管理していたといった事情があれば、結論は変わり得ます。ご自身がどちらに当たるかは、実際の関わり方をもとに確認が必要です。
価値のあるものを、先に処分しない
相続人が複数いる場合、実家の家財の扱いで意見が分かれることがあります。遺産分割が済むまで、亡くなった方が所有していた家財も相続財産の一部です。
相続人は、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。相続人が複数いるときは、相続財産は相続人の共有になります(民法898条1項)。亡くなった方が所有していた家具、車、貴金属なども、この共有の中に入ります。そして遺産分割は、遺産に属する物または権利の種類および性質その他一切の事情を考慮して行うとされています(民法906条)。動産も分割の考慮対象なのです。
ここで押さえておきたい条文があります。
遺産分割の前に、共同相続人の一人が相続財産を処分した場合。処分した共同相続人を除く共同相続人全員が同意すれば、処分した本人の同意を得なくても、その財産が遺産分割の時点にもなお遺産として存在するものとみなすことができます(民法906条の2)。物そのものが戻ってくる制度ではありませんが、「売ってしまえば遺産分割の対象から外れる」ということではありません。
つまり、価値のあるものを先に処分することには、二重のリスクがあります。相続放棄を考えているなら単純承認の問題があり、相続人が複数いるなら遺産分割の問題があります。判断がつくまで手をつけないという原則は、どちらの場面でも変わりません。
家財を売ったときの税金
片づけの過程で不用品を売ることもあります。生活に通常必要な動産を売って得た所得には、原則として所得税がかかりません(所得税法9条1項9号、所得税法施行令25条)。家具や衣類、家電などが、これにあたります。
ただし例外があります。貴金属、宝石、書画、骨とう、美術工芸品などで、1個または1組の価額が30万円を超えるものは、この非課税の対象から外れます。
誤解されやすいのですが、「30万円を超えたら全部課税される」わけではありません。 非課税から外れるのは、条文に列挙された品目(貴金属・宝石・書画・骨とうなど)であって、かつ1個または1組が30万円を超えるものです。通常の生活に用いる家具や家電は、原則としてこの例外には含まれません。
とはいえ、遺品には価値の判断がつきにくいものが混ざります。相続税の申告が必要かどうかとも関わってきますので、金額が張りそうなものが出てきたら、税理士にご確認ください。
片づける前に、相続人どうしで話をしておく
「誰も要らないものだから」と、良かれと思って一人で片づけを進める。これが後々のわだかまりになることがあります。
形見分けも同じです。 思い出の品として持ち帰ったものが、あとから「あれは値打ちのあるものだった」と分かる。そのときに「勝手に持っていった」という話になってしまうと、相続の手続き全体がこじれます。
避けるための方法は、そう複雑ではありません。片づけを始める前に、相続人全員に連絡し、少なくとも価値のあるものや形見分けの扱いについて合意を取っておくことです。誰が何を引き取るか、全員が同意したことを、写真に加えてメールやLINEなどにも残しておくと安心です。
最終的には、誰が何を取得するかを遺産分割協議書にまとめます。不動産や預金だけでなく、特に価値のある動産についても書いておくと、後からの行き違いを大きく減らせます。書き方は遺産分割協議書の作成で整理しています。
なお、実家が兄弟の共有名義になっている場合は、片づけとは別に、その名義をどうするかという問題が残ります。共有のまま置いておくと、次の相続でさらに関係者が増えていきます(共有名義の不動産は何が困るのか)。
業者に頼むときに確認すること
書類と貴重品を確保し、相続人の合意も取れた。ここでようやく、片づけの実務に入れます。
業者選びで最初に押さえていただきたいのが、やってもらうことによって、確認すべき許可が違うという点です。
| 依頼すること | 確認する許可・条件 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 家庭から出る廃棄物の収集・運搬 | 市町村の一般廃棄物収集運搬業の許可、または市町村の委託 | 自治体の許可業者一覧・窓口 |
| 中古品としての買取 | 古物商の許可 | 許可証・許可番号 |
| 仕分け・搬出の作業 | 回収・買取を誰が行うかで、確認すべきことが変わる | 契約書で回収・買取・再委託先を確認 |
環境省は、家庭の廃棄物を回収するには市町村の一般廃棄物処理業の許可や委託が必要であり、産業廃棄物処理業の許可や古物商の許可では回収できないと注意を促しています。産業廃棄物処理業の許可は工場や企業の廃棄物を処理するための許可、古物商の許可は中古品などの売買を行うための許可だからです。
横浜市は、許可業者は収集車両に4桁の許可番号を表示していること、軽トラックで街宣しながら回収することはないことを案内しています。現場で見分ける手がかりになります。
見積もりについては、国民生活センターが具体的な確認事項を挙げています。市区町村のホームページ等から許可業者を探すこと、追加料金の有無を確認すること、作業内容と料金を明確に出してもらうこと、キャンセル料を確認すること。 そして、複数社から見積もりを取ることです。
実際に起きているトラブル
国民生活センターが公表している相談事例のうち、この記事の主題に直結するものをご紹介します。
亡父宅の不用品処分を事業者に依頼した。大切な書類等は残しておく約束が、アルバムや回線のつながっている電話機まで処分された。 事業者に苦情を申し出たが、ゴミ処理場に運搬済みで取り戻せないと言われた。
出典:国民生活センター「遺品整理を頼むときは、事業者選びは慎重に」(2025年10月30日)
同じ資料には、料金についての事例もあります。「当初20万円ぐらいと聞いていたが、作業後に30万円と言われた。見積書はもらっていない」というものです。書面の見積もりを取らないまま作業を始めないことが、重要な予防策になります。
作業中や作業後に、事前に聞いていない高額な料金を請求された場合は、後日、納得した金額を支払う意思があることを伝えたうえで、その場での支払いを断りましょう。見積もりのために呼んだ事業者とその場で契約した場合などは、特定商取引法のクーリング・オフ等が適用できる可能性もあります。
実家一軒分の多量ごみは、通常の収集に出す前に自治体へ確認する
実家一軒分の荷物を一度に出す場合は、通常の収集や粗大ごみだけでは対応できないことがあります。そして、その扱いは自治体によって違います。
川崎市の場合
川崎市には一時多量ごみという制度があり、引越しや遺品整理等で出る多量のごみが対象とされています。
流れは、市の許可業者を選び、地域を所管する生活環境事業所へ「一時多量ごみ申込書」を提出したうえで、分別したごみを許可業者に有料で引き渡すというものです。申込みは窓口のほかオンラインでも受け付けられています。
通常の粗大ごみは、インターネットまたは粗大ごみ受付センターで申し込みます。ただし収集は月2回で、市も「既に申し込みが多数の場合、希望の日に受付ができないことがあります」と案内しています。片づけの日程を組むときは、余裕を見ておく必要があります。
横浜市の場合
横浜市では、一時多量ごみは「市では収集できないごみ」に分類されています。通常の収集や粗大ごみ収集では対応できない、という整理です。
対応は2通りです。分別して市の施設へ自己搬入するか、一般廃棄物収集運搬業の許可業者に直接依頼するか。持込み先や事前手続は品目ごとに異なるため、横浜市の案内をご確認ください。許可業者は、横浜市一般廃棄物許可業協同組合で紹介してもらうこともできます。
大量のごみを通常の集積場所に出すと、その地域の収集に支障が出ます。片づけの日程を決める前に、お住まいの自治体の案内をご確認ください。
片づけたあと|空き家のまま置いておかない
荷物がなくなり、家が空になる。ここで手が止まってしまうお宅は少なくありません。売るか貸すか決めきれないまま、年月が過ぎていきます。
空き家をそのままにしておくことには、税制上のリスクがあります。
空家等対策の推進に関する特別措置法は、そのまま放置すれば倒壊等の危険がある、著しく衛生上有害となるおそれがある、といった状態の空き家を特定空家等と定めています。2023年(令和5年)12月13日に施行された改正で、その手前の段階として管理不全空家等が新設されました。適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれがある状態の空き家です。
市区町村長は、管理不全空家等に対して指導を行い、それでも状態が改善しない場合には勧告をすることができます。そして要件に該当して勧告を受けた土地は、固定資産税の住宅用地特例の対象外となります。住宅が建っている土地の税負担を軽くする仕組みが、適用されなくなるということです。
つまり、「使わないけれど、とりあえず建物を残しておけば税金が安い」という考え方は、管理を怠れば成り立たなくなります。
住み続けるのか、貸すのか、売るのか、手放すのか。この判断については空き家を相続したら何をする?で選択肢ごとに整理しています。
川崎市にはすまいの相談窓口、横浜市には空家の総合案内窓口があり、空き家の管理や利活用について相談できます。受付の方法や時間は変わることがありますので、最新の情報は各市の公式ページでご確認ください。
まとめ
- 片づけの前に、通帳・権利証・保険証券・契約書類・請求書を確保する。財産の調査は書類から始まる
- 民法915条2項は、熟慮期間中に相続財産の状況を調べたうえで、承認するか放棄するかを決めることを予定している
- 相続放棄を考えているなら、価値のあるものの売却や廃棄を先に進めない。ただし「片づけたら必ず単純承認」ではなく、保存行為は除かれている(民法921条1号)
- 熟慮期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」。期間の伸長を求める申立てができる
- 相続放棄をしても、放棄の時に現に占有している財産については、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで保存義務が残る(民法940条1項)
- 相続人が複数なら、亡くなった方が所有していた家財も相続財産の一部。共同相続人の一人が処分しても、処分者を除く共同相続人全員の同意により、処分者の同意なしで遺産分割時の遺産に含められる場合がある(民法906条の2)
- 業者に頼むときは、家庭の廃棄物の回収を行う業者が、市町村の一般廃棄物収集運搬業の許可を受けているか、または市町村の委託を受けているかを確認する。中古品の買取には古物商の許可が必要
- 実家一軒分の荷物は通常の収集や粗大ごみだけでは対応できないことがある。川崎市と横浜市で扱いが違う
実家の片づけは、気持ちの整理と手続きが同時に進む、いちばん骨の折れる場面かもしれません。それでも、順番だけは動かせません。まず中身を確かめ、書類を確保し、相続人で話をする。そのうえで業者に頼む。この順番を守るだけで、あとから困ることの多くは避けられます。
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「うりずん」とは、私の故郷・沖縄のことばで「春から初夏にかけて新緑が芽吹く季節」を意味します。大切なご家族を亡くされたつらい時期を過ごされている皆さまが、少しでも前を向いて新しい一歩を踏み出していただけるようお支えしたい――そんな想いで、お一人おひとりのご事情に丁寧に向き合っています。