ご家族を亡くされて、これから相続のお手続きを進めていらっしゃる皆さま。心から、お悔やみ申し上げます。

大切な方を見送られたあと、「相続の手続きを進めなければ」と思っても、そもそも亡くなった方がどんな財産を持っていたのか、はっきり分からない——そんな状態から始まる方がほとんどです。同居していたご家族でも、預金がどの銀行にいくつあるのか、保険に入っていたのか、借入はないのか、すべてを把握しているケースはむしろ少ないものです。

この記事では、亡くなった方の財産を、①プラスの財産(預貯金・不動産・有価証券・生命保険など)、②マイナスの財産(借入・連帯保証などの負債)、③その全体をまとめる財産目録——の順に、漏れなく調べていく方法を、はじめての方にも分かるように整理しました。少し手間のかかる作業ですが、順番に進めれば必ず形になります。財産に手をつける前に、どうか一度この記事に目を通していただければと思います。


目次

  1. なぜ「財産調査」を早めにやるべきなのか
  2. まず押さえる:調べるのは「プラス」と「マイナス」の両方
  3. プラスの財産の調べ方(預貯金・不動産・有価証券・生命保険・その他)
  4. マイナスの財産(負債)の調べ方
  5. 調べた内容を「財産目録」にまとめる
  6. 期限との関係を意識する
  7. よくある落とし穴
  8. 専門家に相談したほうがよいケース


なぜ「財産調査」を早めにやるべきなのか

財産調査は、相続のなかでも特に早い段階で着手すべき手続きです。理由は、その後の重要な判断のほとんどが「財産の全体像が分かっていること」を前提にしているからです。

具体的には、財産調査の結果が、次の3つの判断や手続きの土台になります。

  • 相続放棄をするかどうかの判断:亡くなった方に借金が多い場合、相続を「放棄」する選択肢があります。ただし相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という期限(民法915条1項)があります。借金の有無や金額が分からないまま3か月が過ぎてしまうと、原則として借金も含めてすべて相続したことになりかねません。
  • 遺産分割協議の前提:誰が何をどう分けるかを話し合う遺産分割協議は、財産の一覧(財産目録)がないと進められません。後から財産が出てくると、協議をやり直すことにもなります。
  • 相続税が必要かどうかの判定:相続税には基礎控除があり、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える財産があると、原則として申告(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)が必要になります。申告の要否は、財産の総額が分からなければ判断できません。

つまり財産調査は、「相続放棄するかどうか」「どう分けるか」「税金がかかるか」を決めるための、いちばん最初の土台です。だからこそ、戸籍を集めて相続人を確定する作業と並行して、できるだけ早めに動き始めることをおすすめします。

➡ 関連ページ:相続手続き全体の流れと期限の順番は、相続手続きロードマップでご確認いただけます。財産調査は、戸籍収集と同じ「早めに」のステージに位置づけられる手続きです。


まず押さえる:調べるのは「プラス」と「マイナス」の両方

財産調査というと、つい預金や不動産などのプラスの財産ばかりに目が向きがちです。しかし相続では、借入金や保証債務といったマイナスの財産(負債)も、原則としてそのまま相続の対象になります。

調べる対象を整理すると、次のようになります。

プラスの財産(資産)の例

  • 預貯金(銀行・ゆうちょ・信用金庫・ネット銀行など)
  • 不動産(土地・建物・私道・山林など)
  • 有価証券(上場株式・投資信託・国債・社債など)
  • 生命保険・共済(契約者・被保険者が誰かに注意)
  • その他(出資金、貸付金、自動車、貴金属、暗号資産・ネット上の資産など)

マイナスの財産(負債)の例

  • 金融機関やカード会社からの借入金・カードローン
  • 消費者金融・信販・リースの債務
  • 個人間の借用、未払いの税金・医療費・家賃
  • 連帯保証・保証債務(最も見落としやすい)

🌱 大切なポイントプラスとマイナスを必ずセットで調べること。マイナスの調査が不十分なまま「財産がそれなりにあるから相続しよう」と判断し、後から多額の借金が判明する——これが相続で最も避けたい事態の一つです。


プラスの財産の調べ方

ここからは、資産の種類ごとに「手がかりの探し方」と「正式な調査方法」を順に見ていきます。

1. 故人の預貯金(銀行口座)の調べ方

手がかりを探す

まずは自宅で、次のようなものを集めます。

  • 通帳・キャッシュカード
  • 金融機関名の入ったカレンダー・タオル・ノベルティ
  • 郵便物(取引明細、定期預金の満期案内、キャンペーン通知)
  • 銀行アプリが入ったスマートフォン、パソコンのブックマークやメール

金融機関に照会する

取引のある金融機関が分かったら、その金融機関に対して、相続人として次の書類を請求します。

  • 残高証明書(亡くなった日時点の残高。相続税や遺産分割の基礎資料になります)
  • 取引明細(過去分)(直前の出金や、ほかの口座への振替の有無を確認できます)

このとき、同じ金融機関の中に支店をまたいで複数の口座がある場合に備えて、「全店照会(名寄せ)」を依頼できます。一つの通帳しか見つからなくても、同じ銀行内に別の口座が眠っていることは珍しくありません。

必要書類は金融機関によって異なりますが、一般的には「亡くなった方の死亡が分かる戸籍(除籍)謄本」「請求する相続人と亡くなった方の関係が分かる戸籍」「相続人の本人確認書類」などです。

➡ 関連ページ:金融機関は、口座名義人の死亡を把握すると口座を凍結します。凍結後の当面の資金繰りについては、別記事「銀行口座が凍結された時の対処法」で、預貯金の仮払い制度(民法909条の2)を含めて解説しています。

ネット銀行に注意

近年は紙の通帳がないネット銀行の利用が増えています。通帳がないため見落とされやすく、手がかりはスマホのアプリ・パソコンのブックマーク・登録メールアドレスに届く通知が中心になります。メールの受信箱を「銀行」「残高」「お振込」などで検索すると見つかることがあります。

2. 故人の不動産の調べ方(名寄帳・登記事項証明書)

手がかりを探す

  • 固定資産税の納税通知書(毎年春に市区町村から届きます)
  • 権利証・登記識別情報通知
  • 売買契約書、賃貸借契約書

「名寄帳」で漏れをなくす

納税通知書だけに頼ると、固定資産税が非課税の私道・山林・持分のごく小さい共有地などが漏れることがあります。確実なのは、不動産がある市区町村ごとに「名寄帳(固定資産課税台帳)の写し」を相続人として取得する方法です。名寄帳には、その市区町村内で亡くなった方が所有していた不動産が一覧で記載されます。

亡くなった方が複数の市区町村に不動産を持っていた可能性がある場合は、それぞれの市区町村に対して請求が必要です。

登記の内容を確認する

不動産が特定できたら、法務局で登記事項証明書を取得し、所有者・持分・担保(抵当権など)の有無を確認します。登記事項証明書は誰でも取得でき、オンラインの登記情報提供サービスでも内容を確認できます。

3. 故人の株式・投資信託の調べ方(ほふりへの開示請求)

手がかりを探す

  • 証券会社からの取引報告書・運用報告書
  • 配当金の通知・株主総会の案内
  • 証券会社アプリ、関連するメール

取引先が分からないとき

どの証券会社と取引していたか分からない場合は、証券保管振替機構(通称「ほふり」)に対して、相続人が「登録済加入者情報の開示請求」を行うことができます。これにより、亡くなった方名義の口座を開設している証券会社などを確認できます。

なお、単元未満株(端株)や、過去に証券会社の口座を経由せず保有していた株式は、信託銀行などの特別口座で管理されていることがあります。配当金の通知や郵便物が手がかりになります。

4. 故人の生命保険・共済の調べ方(生命保険契約照会制度)

手がかりを探す

  • 保険証券
  • 保険会社からの郵便(契約内容のお知らせ、配当金通知)
  • 通帳から定期的に引き落とされている保険料

契約先が分からないとき

どの保険会社と契約していたか分からない場合は、一般社団法人生命保険協会の「生命保険契約照会制度」(2021年7月開始)を利用できます。相続人などが申し出ることで、協会加盟の各生命保険会社に対し、亡くなった方を被保険者などとする契約の有無を一括で照会できます。

利用には所定の利用料がかかります。2026年5月時点では、調査対象者1名につきWEB申請6,000円・書面申請7,000円です(2026年4月に、それまでの3,000円から改定されました。災害により被災された場合の利用は無料です)。利用料や対象範囲は今後も改定されることがあるため、申請前に必ず制度の公式案内で最新の金額をご確認ください。

なお、JA共済・県民共済・全労済(こくみん共済 coop)などの共済は、生命保険協会の会員ではないため、この制度では照会できません。共済については、共済証書や、通帳・クレジットカードの引き落とし履歴、保険料控除証明書などから個別に確認する必要があります。

⚠ ここに注意:生命保険金は「相続財産」ではないことがある
受取人が指定されている死亡保険金は、原則として受取人固有の財産であり、遺産分割の対象となる相続財産ではありません。そのため、相続放棄をした人でも、受取人に指定されていれば保険金を受け取ることができます。一方で、相続税の計算上は「みなし相続財産」として課税対象になり得ます(一定の非課税枠があります)。「保険金があるから放棄できない」と早合点しないよう、注意が必要なポイントです。

5. 見落としやすいその他の相続財産(出資金・デジタル遺産など)

見落とされやすいものとして、次のような財産があります。

  • 出資金:信用金庫・農協・生協などの出資金
  • 貸付金:個人や会社への貸し付け(借用書・金銭消費貸借契約書を探す)
  • 自動車・バイク:車検証で所有者を確認
  • 貴金属・骨董・会員権:ゴルフ会員権、リゾート会員権など
  • 暗号資産・電子マネー・デジタル遺産:取引所アプリ、ウォレット、電子マネー残高、ポイント。スマホ・パソコン・メールが手がかりです。放置すると不明財産になったり、サブスクの課金が続いたりするため、早めの確認が大切です。

マイナスの財産(負債)の調べ方 ★ここが相続放棄の分かれ目

ここからは、相続放棄をすべきかどうかを左右する、最も重要な調査です。

1. 借金の手がかりを自宅で探す

  • 督促状・請求書・催告書
  • 借用書、ローン契約書、カードの利用明細
  • 通帳から定期的に引き落とされている返済(毎月ほぼ同額の出金は要注意)
  • 保証人・連帯保証人になっている契約書

2. 信用情報機関(CIC・JICC・KSC)で借金を調べる

借入の全体像をつかむには、信用情報機関への開示請求が有効です。日本には主に次の3つがあり、扱っている情報源が異なります。

  • CIC:主にクレジットカード会社・信販・割賦販売の情報
  • JICC:主に消費者金融・信販・リースなどの情報
  • KSC(全国銀行個人信用情報センター):銀行・銀行系カードローン・保証会社などの情報

相続人は、所定の手続き(亡くなった方との関係が分かる戸籍類、相続人の本人確認書類など)により、亡くなった方の信用情報の開示を請求できます。1社だけでは把握しきれないため、3社すべてに請求するのが安全です。手続きや必要書類は各機関で異なるため、各機関の公式案内をご確認ください。

3. 見落としやすい連帯保証債務の調べ方

注意していただきたいのが、連帯保証・保証債務です。亡くなった方が誰かの借入や事業の連帯保証人になっていた場合、その保証債務も相続の対象になり得ます。

⚠ 注意・トラブル例:保証債務は信用情報機関に記録されていないことが多く、督促が来るまで気づかないことが少なくありません。手がかりは、保証に関する契約書・念書、取引先や知人からの連絡です。事業をされていた方の相続では、特に慎重な確認をおすすめします。


調べた内容を「財産目録」にまとめる

調査がひととおり進んだら、結果を財産目録として一覧に整理します。決まった様式はありませんが、最低限、次の項目を入れておくと、その後の判断や手続きで役立ちます。

  • 種類(預貯金/不動産/有価証券/保険/負債 など)
  • 内容(金融機関名・支店・口座、不動産の所在、銘柄、契約番号など)
  • 金額(亡くなった日時点の残高・評価額、負債は残債)
  • 確認に使った資料(残高証明書、名寄帳、登記事項証明書など)

財産目録は、相続放棄をするかの判断材料になり、遺産分割協議書のたたき台になり、相続税が必要かの判定にもそのまま使えます。一度きちんと作っておくことで、その後の手続きが大きく楽になります。

このとき、名義預金にも注意してください。配偶者やお子さま名義の預金でも、実質的に亡くなった方が管理・原資を出していたものは、相続財産(あるいは相続税の課税対象)として扱われることがあります。


期限との関係を意識する

財産調査を「早めに」とお伝えしているのは、次の期限が関係するためです。

📖 関連する期限・法律

  • 相続放棄・限定承認:3か月(民法915条1項。「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算)
  • 準確定申告:4か月(亡くなった方に一定の所得があった場合)
  • 相続税の申告・納付:10か月(基礎控除を超える場合。法定の固定期限)

もし、財産(特に負債)の調査が3か月以内に終わりそうにない場合は、家庭裁判所に対して「熟慮期間(相続放棄を考える期間)の伸長」を申し立てることができます。期限ぎりぎりで慌てないために、早い段階で「間に合いそうか」を見極めておくことが大切です。


よくある落とし穴

最後に、財産調査でつまずきやすいポイントをまとめます。

  • 借金の調査を後回しにする:プラスの財産だけ見て相続を決め、後から多額の負債が判明する。必ずマイナスから先に、と考えるくらいで丁度よいです。
  • 連帯保証を見落とす:信用情報に出てこないため、契約書や関係先への確認が頼りになります。
  • ネット銀行・ネット証券・暗号資産を見落とす:通帳がなく、スマホ・メールが唯一の手がかりになることがあります。
  • 生命保険金を相続財産と勘違いする:受取人指定の保険金は原則として受取人固有の財産。相続放棄をしても受け取れます(相続税の扱いは別)。

⚠ もっとも注意したい落とし穴:調査中に預金を使ってしまう
相続財産を処分・費消すると、法律上「単純承認」したとみなされ(民法921条)、相続放棄ができなくなるおそれがあります。放棄を検討している段階では、亡くなった方の財産には手をつけないのが原則です。


専門家に相談したほうがよいケース

次のような場合は、早めに専門家へご相談ください。

  • 借金や連帯保証がありそうで、相続放棄をするか迷っている
  • 不動産や金融機関が複数にまたがり、調査の範囲が広い
  • 取引先・金融機関が分からず、何から手をつければよいか分からない
  • 3か月・10か月の期限が迫っている

財産調査は、一つひとつの作業は難しくありませんが、抜け漏れなく、期限内に終えることに価値があります。途中まで進めてみて行き詰まったときも、その時点からのご相談で問題ありません。

当室では、社会保険労務士・行政書士として、戸籍の収集から財産調査、財産目録の作成、その後の遺産分割協議書の作成までを一つの窓口でお手伝いしています。「どこから手をつければよいか分からない」という段階こそ、もっともお役に立てるところです。どうかお一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。

うりずん相続手続き相談室は、川崎を拠点に、相続のお手続きをご家族に寄り添いながら一つひとつ丁寧にお手伝いしています。お話をうかがうところから、ご一緒に進めてまいります。

「うりずん」とは、私の故郷・沖縄のことばで、冬が終わり夏へと向かう、草木がいきいきと潤い始める初夏のころを指します。長い手続きのあとに、ご家族に穏やかな季節が訪れますように——そんな願いを込めて、この名をつけました。


まずは、お気軽にご相談ください。

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「どこから手を付けたらよいか分からない」――そんな段階のご相談も歓迎しております。
川崎・横浜エリアを中心に、ご訪問でも対応可能です。

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執筆者プロフィール

前西原 清城(まえにしはら せいじょう)
うりずん相続手続き相談室/事務所代表
社会保険労務士・行政書士・身元保証診断士 1 級・終活カウンセラー 1 級

1965年、沖縄県那覇市壺屋に生を受ける。2020年、川崎市川崎区にOfficeうりずん社会保険労務士・行政書士事務所を開業。社会保険労務士・行政書士・身元保証診断士1級・終活カウンセラー1級の4資格を活かし、ご家族の相続から、おひとりさまの終身サポートまで、人生の節目を一貫してお支えする事務所として地域に根ざした活動を続けている。