相続の権利・割合

家督相続とは?|戸主の地位を継ぐ制度と、開始する原因をやさしく解説

掲載:Officeうりずん社会保険労務士・行政書士事務所 代表・資格情報

相談室で50代の男性が行政書士と向かい合い、テーブルに広げた古い戸籍の写しを見ながら相談しているイラスト

※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。家督相続が関係する古い相続について、誰が承継したことになるか、いまどの手続きが必要になるかは、亡くなった日、当時の戸籍上の身分関係、その後の相続の重なり方によって一人ひとり異なります。実際のお手続きの前に、古い戸籍の取得については市区町村の窓口、不動産登記については法務局や司法書士、遺産分割調停など家庭裁判所の手続が関係する場合は家庭裁判所や弁護士、家督相続を含む相続人調査や相続関係の整理については行政書士にご確認ください。

古い戸籍を取り寄せたら「家督相続」という言葉が出てきた。祖父名義の土地を調べていたら、聞き慣れない制度の名前にぶつかった。相続のご相談では、こうした場面があります。

家督相続は、いまの民法にはない制度です。財産を分ける仕組みそのものが、現在とは違っていました。

この記事では、家督相続がどういう制度だったのか、どのような場合に始まったのかを整理します。なお本記事では、混同を避けるため、明治31年法律第9号の親族・相続法制を「明治民法」と表記します。


目次

  1. 家督相続は「家を継ぐ」制度でした
  2. 家督相続は一人が引き継ぎます|単独承継とは
  3. 家督相続はいつ始まったのか|戸主の死亡だけではありません
  4. 系譜・祭具・墳墓は家督相続の特権でした
  5. 条文番号は「どの時代の民法か」を確認してください
  6. 古い戸籍では、家督相続に関する記載が出てくることがあります
  7. 家督相続はいつまでの相続に関係するのか
  8. どこから専門家へつなぐか
古い戸籍に出てきた家督相続という言葉について、戸主の地位と財産を一人が引き継ぐ制度だったこと、隠居などによっても始まったことを、行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

家督相続は「家を継ぐ」制度でした

いまの相続は、基本的には亡くなった方の財産や債務などの権利義務を、相続人が引き継ぐ仕組みです。家そのものの代表者としての地位を承継する制度ではありません。

明治民法の家督相続は、これとは違いました。戸主の地位と、それに伴う財産の両方を承継する制度です。

戸主とは、家の代表者にあたる立場です。明治民法は「家」という単位を前提にしており、その家を誰が継ぐのかを決めるのが家督相続でした。財産の承継は、その一部という位置づけです。

つまり、いまの相続が「財産をどう分けるか」の話であるのに対し、家督相続は「誰が家を継ぐか」の話でした。この違いが、古い相続を読み解くときの出発点になります。


家督相続は一人が引き継ぎます|単独承継とは

家督相続のもうひとつの大きな特徴は、引き継ぐのが一人だけという点です。

明治民法986条は、家督相続人は相続が開始した時から前の戸主が持っていた権利義務を承継する、と定めていました。前の戸主に一身専属のものは除かれますが、それ以外はまとめて一人に移ります。これを単独承継といいます。

現在の相続では、相続人が複数いれば、それぞれが相続分に応じて権利義務を引き継ぎます。話し合いで分け方を決めることもできます。家督相続には、この「分ける」という発想がありませんでした。

なお、明治民法にも遺産相続という別の制度があり、こちらは複数の相続人が共同で相続する形でした。死亡による相続でいえば、戸主が亡くなったときは家督相続、戸主でない家族が亡くなったときは遺産相続が問題になりました。同じ「相続」でも、別の仕組みが動いていたことになります。

古い登記が長く手つかずになっている場合、当時どちらの制度で処理されるはずだったのかによって、いま必要な手続きが変わってきます。


家督相続はいつ始まったのか|戸主の死亡だけではありません

家督相続が始まるのは、戸主が亡くなったときだけではありません。明治民法964条は、次の場合に家督相続が開始すると定めていました。

家督相続が始まる原因内容
戸主の死亡戸主が亡くなった場合
隠居戸主が隠居した場合
国籍喪失戸主が日本国籍を失った場合
婚姻または養子縁組の取消による去家一定の場合に家を去ることになった場合
女戸主の入夫婚姻女戸主が入夫婚姻をした場合
入夫の離婚入夫が離婚した場合

ここで注目したいのは、生きている間に家督相続が起きる場合があったことです。

なかでも隠居は、いまの感覚では相続と結びつきません。戸主が存命のまま家督を次の代に譲る、という仕組みでした。古い戸籍に隠居の記載がある場合は、家督相続が関係している可能性があります。死亡日だけでなく、戸籍に書かれた出来事を確認することが重要です。

入夫婚姻というのも、いまは使われない言葉です。女性が戸主である家に、婚姻によって夫が入るという形です。これによって戸主が交代する場合がありました。

いずれも、亡くなった日だけを見ていると見落とします。古い相続では、戸籍に書かれた出来事を一つずつ確認していくことになります。


系譜・祭具・墳墓は家督相続の特権でした

明治民法987条は、系譜、祭具、墳墓の所有権は家督相続の特権に属する、と定めていました。

系譜は家系図にあたるもの、祭具は位牌・仏壇など、墳墓はお墓です。これらは通常の財産とは別に扱われ、家を継ぐ人がまとめて引き継ぐものとされていました。

現在の民法にも、これらを引き継ぐ人を決める仕組みがあります。ただし、家督相続の特権という位置づけではなくなり、承継の考え方も変わっています。現在の制度については、祭祀承継で詳しく説明しています。

古い相続を調べていると、お墓や仏壇を誰が引き継いだのかが問題になることがあります。当時の制度では、これらが家を継ぐ人に一括して移る扱いだった、という前提を知っておくと理解しやすくなります。


条文番号は「どの時代の民法か」を確認してください

古い相続を調べていると、条文番号が出てくる場面があります。ここで注意が必要です。

⚠ 条文番号は時代によって内容が違います
ここでいう964条・986条・987条は、明治民法の条文番号です。現行民法の同じ番号とは内容が異なります。古い資料を読むときは、条文番号だけでなく、どの時代の民法を指しているのかを確認する必要があります。

昭和22年から昭和23年にかけて、家族法・相続法の仕組みは大きく改められました。そのため、同じ番号の条文でも、明治民法と現在の民法ではまったく別の内容になっているものがあります。

古い書籍や資料を参照するときは、番号だけを頼りにせず、その資料がどの時期の法律について書いているのかを確かめることが大切です。


古い戸籍では、家督相続に関する記載が出てくることがあります

古い戸籍を読んでいると、隠居、入夫婚姻、家督相続など、現在の戸籍ではあまり見慣れない言葉が出てくることがあります。

ただし、戸籍の記載の仕方は時代や戸籍の種類によって異なります。この記事では記載例の読み方までは踏み込まず、まず「家督相続という制度が何だったのか」を整理しています。

戸籍の取り寄せ方や、出生から死亡までの戸籍をそろえる意味については、戸籍収集の方法で説明しています。

古い時期の戸籍は、手書きで旧字体のものが多く、読み取りに時間がかかります。見慣れない記載が出てきたときは、その言葉が当時どういう意味を持っていたのかを確認しながら進めることになります。


家督相続はいつまでの相続に関係するのか

家督相続の規定が問題になるのは、原則として昭和22年5月2日以前に開始した相続です。

昭和22年5月3日から同年12月31日までは、応急措置法により家督相続の規定は適用されなくなりました。そして昭和23年1月1日からは、改正された民法が施行されています。

つまり、家督相続の規定をまず確認する必要があるのは、原則として昭和22年5月2日以前に開始した相続ということになります。

どの時期にどの法律が適用されるかは、昔の相続の調べ方で整理しています。古い相続にぶつかったときは、まず亡くなった日を確認するところから始めることになります。


どこから専門家へつなぐか

古い相続の調査は、戸籍を集めて当時の身分関係を確認するところから始まります。そこから先は、内容によって関わる専門家が変わります。

内容主な専門家
戸籍収集・相続人調査・相続関係の整理・争いのない場合の遺産分割協議書の文案行政書士
不動産の登記・家庭裁判所に提出する書類の作成司法書士
相続人間の対立・協議が調わない場合・遺産分割調停などで法的代理が必要な場合弁護士

家督相続が関係する相続は、開始から長い年月が経っています。その間に次の世代の相続が重なり、相続人が想定より多くなることがあります。

相続人同士で意見が対立し、協議がまとまらない場合は、弁護士への相談が必要になります。また、相続人の所在が分からず家庭裁判所の手続が必要になる場合には、手続の内容に応じて司法書士や弁護士への確認が必要です。

どの専門家に相談すればよいか迷われる場合は、相続の相談先の選び方もあわせてご覧ください。


まとめ

家督相続は、いまの民法にはない制度です。古い戸籍や古い登記にぶつかったときは、当時の仕組みを前提に確認していくことになります。

  • 家督相続は、戸主の地位と財産の両方を承継する制度だった
  • 家督相続人が一人で承継する仕組みで、現在の共同相続とは考え方が大きく異なっていた
  • 戸主の死亡だけでなく、隠居や入夫婚姻などによっても開始した
  • 系譜・祭具・墳墓は、家を継ぐ人がまとめて引き継ぐものとされていた
  • 条文番号は時代によって内容が違うため、資料を読むときは確認が必要
  • 家督相続の規定が問題になるのは、原則として昭和22年5月2日以前に開始した相続

古い相続は、見慣れない言葉が続いて途方もなく感じられます。けれども、亡くなった日を起点に、戸籍で当時の身分関係をたどっていけば、一つずつ整理できることがほとんどです。

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「うりずん」とは、私の故郷・沖縄のことばで「春から初夏にかけて新緑が芽吹く季節」を意味します。大切なご家族を亡くされたつらい時期を過ごされている皆さまが、少しでも前を向いて新しい一歩を踏み出していただけるようお支えしたい――そんな想いで、お一人おひとりのご事情に丁寧に向き合っています。