
※この記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説です。農地は、売る・貸す・転用するときに許可や届出が必要とされており、相続で引き継いだときにも農業委員会への届出が定められています。届出や許可の手続については農地のある市町村の農業委員会や行政書士、相続登記については司法書士、相続税や固定資産税については税理士、相続人の間で争いがある場合については弁護士にご確認ください。
父が亡くなり、実家とあわせて田畑を相続することになりました。
私は会社勤めで、農業をしたことがありません。住んでいるのも、実家から車で2時間ほど離れた場所です。
近所の方から「農業委員会に届けないといけないよ」と言われました。ただ、何をどこに出すのかが分かりません。将来は手放したいとも思っていますが、農地は簡単に売れないとも聞きました——そうしたご相談をいただきます。
このコラムでは、農地を相続したときに、まず何をすればよいのかを整理します。
目次
- 親から田畑を相続することになった
- 農地を相続したら、農業委員会に届出をします
- 届出と相続登記は、別の手続きです
- 届出をしなかった場合
- 手放したい・貸したいとき
- そのままにしておくとどうなるか
- ご相談いただけること
親から田畑を相続することになった
相続した財産の中に農地があると、ほかの不動産とは少し違う手続きが出てきます。
ご自身で農業をされている方なら見慣れた手続きでも、農業をしていない相続人にとっては、初めて聞く言葉ばかりです。しかも、何もしないまま時間が過ぎてしまいがちです。
実家の建物のほうについては、空き家を相続したらどうする?税金・管理リスクと選び方を解説で整理しています。ここでは、農地について必要になる手続きに絞ってお伝えします。
農地を相続したら、農業委員会に届出をします
農地の権利を相続などで取得したときは、その農地のある市町村の農業委員会に届け出ることとされています(農地法3条の3)。
法律の条文は、期限を「遅滞なく」と定めています。そのうえで、国の処理基準では、この「遅滞なく」を権利を取得したことを知った時点からおおむね10か月以内としています。
⚠ 法律上は「遅滞なく」とされています
国の処理基準や自治体の案内では、おおむね10か月を目安としているものがあります。具体的な期限の扱いは、届出先の農業委員会にご確認ください。
届出書は、農業委員会の窓口に用意されているほか、市のホームページからダウンロードできる場合があります。川崎市では、手数料は無料とされています。
添付する書類は市区町村によって案内が異なります。川崎市では、権利の取得を確認できる書類の例として、登記事項証明書の写しや遺産分割協議書の写しなどが挙げられています。実際に必要なものは、届出先の農業委員会にご確認ください。
なお、川崎市は「届出の必要があるのは、川崎市内にある農地だけです」としています。ほかの市町村に農地をお持ちの場合は、それぞれの農業委員会が届出先になります。
届出と相続登記は、別の手続きです
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
⚠ 登記をすれば届出が要らない、ということではありません
農林水産省は、この届出について「本届出は、法務局への相続登記とは別に必要な手続です」としています。農地の相続については、届出と登記がそれぞれ法律により義務付けられている、とも説明されています。
2つの手続きを並べると、次のようになります。
| 農業委員会への届出 | 法務局への相続登記 | |
|---|---|---|
| 何の手続きか | 農地の権利を相続などで取得したことを知らせる | 不動産の名義を相続人に変える |
| 手続先 | 農地のある市町村の農業委員会 | 法務局 |
| 期限 | 法律は「遅滞なく」。国の処理基準では、知った時点からおおむね10か月以内 | 相続を知った日から3年以内 |
| しなかったとき | 10万円以下の過料が科される可能性がある | 相続登記の記事で解説 |
| 権利は移るか | 移らない | 本記事では扱わない |
この2つは、どちらかをすればよいというものではありません。
届出をしても、それによって農地の権利が移るわけではありません。国の処理基準も、この届出は権利取得の効力を発生させるものではないとしています。川崎市も、届出を受理したときに交付される通知について「受理通知書は権利関係を証明するものではありません」と案内しています。
相続登記の期限や進め方については、相続登記の義務化とは?期限・過料・「実家が親名義のまま」の進め方をご覧ください。
届出をしなかった場合
届出をしなかったり、事実と違う届出をしたりした場合の定めがあります。
農林水産省は「届出を行わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります」としています(農地法69条)。
過料は、刑罰としての罰金とは性質が違うものです。金額も「10万円以下」と上限が定められたもので、必ずその額になるわけではありません。
手放したい・貸したいとき
相続した農地をどうするかには、いくつかの選択肢があります。ただし、農地の売買や貸借には、農地法上の制約があります。
| 選択肢 | 確認できたこと | 誰が判断するか |
|---|---|---|
| 自分で耕す | 相続した農地を自分で耕作する場合、売買・貸借・転用のための新たな許可手続はありません。農業委員会への相続届出や相続登記は別に必要です | — |
| 貸す | 原則として農業委員会の許可などが必要。農地中間管理機構に貸し付ける方法もある | 農業委員会 |
| 売る(農地のまま) | 農業委員会の許可などが必要。許可を受けていない売買は無効とされている | 農業委員会 |
| 売る(農地以外にするため) | 都道府県知事等の許可が必要。市街化区域内は届出で足りる場合がある | 都道府県知事等 |
| 国に引き取ってもらう | 農地も承認申請をすることができる。事前に農業委員会に相談することもできる | 法務大臣(窓口は法務局) |
| そのままにする | 調査や意向の確認を経て、農地中間管理機構と協議するよう勧告されることがある | 農業委員会 |
農地のまま売買・貸借する場合は、原則として農業委員会の許可など、法令に基づく手続が必要です。農林水産省は、この許可を受けていない売買は無効だとしています。
農地以外のものにするために売る場合は、都道府県知事等の許可を受けることになります。市街化区域内にある農地については、あらかじめ農業委員会に届け出ることで足りる場合があります。
⚠ 遠方にお住まいでも、相談先があります
農林水産省は、相続したものの地元を離れていて管理ができない場合について、農業委員会が管理の相談や借り手を探す手伝いをするとしています。自分で借り手を探さずに、農地中間管理機構(農地バンク)に貸し付ける方法もあります。
国に引き取ってもらう制度(相続土地国庫帰属制度)については、法務省が「農地も承認申請をすることができます」としています。あわせて、農地については事前に農業委員会に相談することもできる、とも案内されています。
ただし、農地バンクの権利が設定されている場合や、土地改良区の賦課金がかかっている場合は、申請できない、または承認されない例として挙げられています。制度の要件や費用は相続した「いらない土地」を手放す方法で解説しています。
そのままにしておくとどうなるか
農業委員会は、毎年1回、区域内の農地の利用の状況を調査することとされています。
その調査の結果、耕作されておらず、今後も耕作される見込みがないと判断された農地については、所有者に対して利用の意向を確認する調査が行われます。そのうえで、農地中間管理機構と協議するよう勧告されることがあります。
⚠ 勧告を受けた農地は、固定資産税の計算が変わる場合があります
勧告を受けた農業振興地域内の遊休農地については、固定資産税の評価の計算が変わり、結果として税額が上がるとされています。すべての農地が対象になるわけではありません。
勧告を受ける前に機構への貸付けの意思を示した場合や、勧告のあとに遊休農地が解消された場合などには、勧告が撤回されるとされています。
なお、農地には、相続税にも固定資産税にも、宅地とは違う取扱いが用意されている場面があります。どの制度が使えるかは個別の事情で変わりますので、税理士にご確認ください。
ご相談いただけること
うりずん相続手続き相談室では、行政書士として、次のお手伝いをしています。
- 農業委員会への届出書の作成と、提出手続の代理
- 農地法の許可申請書の作成と、提出手続の代理
- 戸籍の収集による相続人の調査
- 相続財産の調査
- 争いのない案件での遺産分割協議書の作成
- 相続土地国庫帰属制度の承認申請書・添付書類の作成
なお、相続土地国庫帰属制度の承認申請そのものは、申請者ご本人が行います。
相続した財産にどのような農地があるかを調べるところからお手伝いできます。財産の調べ方は相続財産の調べ方で整理しています。
相続登記は司法書士、相続税や固定資産税は税理士、相続人の間で争いがある場合は弁護士の分野です。どの専門家に何を相談すればよいかは、相続の相談はどこにする?をご覧ください。
まとめ
農地を相続したときに、まず何をすればよいのかを整理しました。
農地を相続したら、その農地のある市町村の農業委員会に届出をします。 法律は期限を「遅滞なく」と定めており、国の処理基準では、知った時点からおおむね10か月以内とされています。
届出と相続登記は、別の手続きです。 どちらかをすればよいというものではありません。届出をしても、それによって権利が移るわけではありません。
届出をしなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
手放したいときには選択肢がありますが、それぞれに許可や要件があります。 農地のまま売買・貸借する場合は原則として農業委員会の許可などが必要で、農地以外にするために売る場合は都道府県知事等の許可を受けることになります。
そのままにしておくと、農地中間管理機構と協議するよう勧告されることがあります。 勧告を受けた農業振興地域内の遊休農地は、固定資産税の計算が変わるとされています。
相続のお手続きでお困りの方へ
うりずん相続手続き相談室では、相続人調査や相続財産の調査からお手伝いしています。戸籍の収集、相続関係の整理、争いのない案件での遺産分割協議書案の作成など、行政書士として対応できる手続きを承ります。相続登記や相続税、相続人の間で争いがある場合には、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携し、必要な専門家へ適切におつなぎします。まずはお話をお聞かせください。どうぞ安心してご相談ください。
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