※この記事は2026年7月時点の情報に基づいています。「デジタル遺言」と呼ばれる新しい方式は、正式には「保管証書遺言」と整理されています。保管証書遺言を含む民法等の一部を改正する法律は、2026年6月17日に成立し、同年6月24日に公布されました。ただし、保管証書遺言の創設等は、公布の日から3年を超えない範囲内で政令で定める日に施行されるため、2026年7月時点ではまだ利用できません。一方、公正証書の作成手続のデジタル化は2025年10月1日から始まっており、保管証書遺言とは別の制度です。今すぐ遺言を残したい場合は、現行の自筆証書遺言または公正証書遺言をご検討ください。制度の詳細や施行日は、今後の政令・省令・法務省の案内により具体化されます。遺言をめぐって争いがあるなど紛争性の高いご相談は弁護士へ。最新情報は法務省の公式発表をご確認ください。

「スマホやパソコンで遺言が作れるようになるらしい」——最近、そんなニュースを見聞きした方も多いのではないでしょうか。これは「デジタル遺言」とも呼ばれる、新しい遺言のかたちです。

ただし、大事な前提があります。この新しい遺言は、2026年7月時点ではまだ使えません。民法等の一部を改正する法律は2026年6月に成立・公布されましたが、保管証書遺言の創設等は、公布の日から3年以内に政令で定める日に施行されるためです。つまり、「制度はできたが、実際に使えるのはまだ先」と理解しておく必要があります。

一方で、「遺言のデジタル化」自体は少しずつ進んでいて、公正証書については、公正証書の作成手続のデジタル化として、すでに2025年10月からウェブ会議での作成が始まっています。ここが混同されやすいところです。

この記事では、新しい「保管証書遺言(デジタル遺言)」がどんな仕組みで、いつから使えて、今の遺言と何が違うのか、そして「では今、何をすればいいのか」までを、川崎の行政書士がやさしく整理します。


目次

  1. 「デジタル遺言」=「保管証書遺言」とは
  2. いつから使える? 今の状況
  3. どうやって作る? 保管証書遺言の仕組み
  4. あわせて変わること(押印の任意化・保管手続の見直し)
  5. 現行の遺言との違い(比較表)
  6. 注意点|デジタル化しても残る落とし穴
  7. では今、何をすればいい?
  8. うりずんに相談できること
スマホで作れる新しい遺言を知り、今できる遺言の準備を進める親子の様子
新しい遺言のニュースから、今できる準備までの流れ

「デジタル遺言」=「保管証書遺言」とは

「デジタル遺言」というのは、実は法律上の正式な名前ではありません。報道などで使われている通称で、今回の改正で新しく設けられた方式の正式名称は「保管証書遺言」といいます。

これまで、一般的に使われてきた遺言の方式は、自分で全文を書く「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人に作ってもらう「公正証書遺言」の2つが中心でした。保管証書遺言は、実務でよく使われるこの2つに加わる、新しい選択肢という位置づけです。

ねらいは、自筆証書遺言の手軽さと、公正証書遺言の安全性の「いいとこ取り」。パソコンやスマホで作れる手軽さを持ちながら、法務局が関わることで信頼性も確保しよう、という制度設計になっています。


いつから使える? 今の状況

結論からお伝えすると、保管証書遺言は2026年7月時点ではまだ使えません。ここは誤解の多いところなので、丁寧に整理します。

これまでの流れは、2024年4月に法制審議会に専門の部会が設置され、2025年7月に中間試案とパブリックコメント、2026年1月に改正の要綱案、2月に法務大臣への答申を経て、2026年4月3日に民法等の一部を改正する法律案が国会に提出されました。その後、2026年6月17日に可決・成立し、同年6月24日に公布されています。

ただし、法律が成立したからといって、すぐに保管証書遺言を利用できるわけではありません。保管証書遺言の創設等は、システムの改修を要する制度として、公布の日から3年を超えない範囲内で政令で定める日に施行されることになっています。

そのため、2026年7月時点では「法律は成立・公布されたが、制度はまだ施行前で使えない」という段階です。「もうスマホで遺言が作れる」という段階ではない、と理解しておいてください。


どうやって作る? 保管証書遺言の仕組み

改正法で新しく設けられた保管証書遺言は、おおまかに次のような仕組みが想定されています。

まず、遺言の全文をパソコンやスマホで電磁的記録(データ)として作成します(データではなく、印刷した書面で用意する方法も想定されています)。全文を手書きする必要がない点が、自筆証書遺言との大きな違いです。

次に、その証書に署名、または署名に代わる措置(電子署名等)を行います。電子署名には、マイナンバーカードを使った公的個人認証などの利用が想定されています。

そして、法務局の遺言書保管官の前で、遺言の全文を口述することが予定されています。対面のほか、一定の要件のもとでウェブ会議を利用する方法も想定されています。最終的に法務局に保管されることで、保管証書遺言としての効力が認められる仕組みです。「保管証書遺言」という名前のとおり、法務局での手続・保管を前提とする新しい方式である、という点がポイントです。もっとも、保管されたからといって、内容の有効性や遺言能力をめぐる争いがすべてなくなるわけではありません。


あわせて変わること(押印の任意化・保管手続の見直し)

今回の改正には、新しい方式の創設だけでなく、これまでの遺言のルールを見直す内容も含まれています。

ひとつは、押印要件の見直しです。改正法では、自筆証書遺言・秘密証書遺言などの押印が任意化されます。ただし、この押印要件の見直しは、公布の日から1年以内に政令で定める日に施行されるため、2026年7月時点で自筆証書遺言を作成する場合は、従来どおり「全文・日付・氏名の自書」に加えて押印が必要です。「今はもう押印不要」ではない点に注意してください。

もうひとつは、法務局における遺言書保管手続の見直しです。今後、保管証書遺言の創設にあわせて、法務局での保管・閲覧・証明などの手続も整備される予定です。既存の自筆証書遺言書保管制度についても、提出書類の事前確認など一部でデジタル化・利便性向上の取組が進んでいますが、具体的な手続は今後の法務省の案内を確認する必要があります。


現行の遺言との違い(比較表)

新しい保管証書遺言が、今ある遺言とどう違うのかを整理すると、次のようになります。

項目自筆証書遺言公正証書遺言保管証書遺言(新制度・未施行)
今使える?使える使えるまだ使えない
作成方法本文・日付・氏名を自書し、押印する(財産目録は一定条件で自書不要)公証人が関与して作成。公正証書の作成手続のデジタル化も開始パソコン・スマホ等で作成した電磁的記録または書面を、法務局で保管する方式
押印2026年7月時点では必要。改正の施行後に任意化予定デジタル化手続では電子的な確認等が行われる場合あり署名または電子署名等が想定される
本人確認基本的には本人の作成に委ねられる公証人が本人確認・意思確認を行い、証人2人も関与遺言書保管官の前で本人確認・全文口述等を行う制度設計
保管自宅など(法務局の自筆証書遺言書保管制度も利用可)公証役場で原本を保管法務局で保管
検認原則必要(法務局の保管制度を利用した場合は不要)不要不要となる制度設計。ただし施行前のため具体的運用は今後確認
費用の目安自作なら低額。現行の法務局保管制度は保管申請1件3,900円財産額等に応じた公証人手数料未定
向いている人費用を抑えたい人、内容が簡易な人確実性・紛争予防を重視したい人手書きの負担を減らしつつ、法務局保管の安全性も求めたい人

このほかに「秘密証書遺言」という方式もありますが、手続きの手間のわりに使われることが少ないため、ここでは主要な方式に絞って整理しています。


注意点|デジタル化しても残る落とし穴

手軽になる一方で、注意しておきたい点もあります。

まず、保管証書遺言では、原則として、遺言者が遺言書保管官の前で遺言の全文を口述することが予定されています。そのため、認知機能が低下し、遺言の内容を理解して自分の言葉で説明できない状態では、この制度を利用することは難しくなります。「元気なうちに準備しておく」ことが前提になる、という点は変わりません。

そしてもうひとつ、デジタル化で減るのは、あくまで紛失や改ざん、書き方の不備といった「方式・保管」に関するトラブルです。遺言者に十分な判断能力があったか(意思能力)、遺留分を侵害していないか、誰かの不当な影響を受けていないか、内容があいまいで解釈が分かれないか——こうした「中身」をめぐる争いは、デジタルになっても残ります。デジタル遺言だから安心、という単純な話ではありません。


では今、何をすればいい?

新しい制度の施行を待つあいだも、今できることはあります。

いちばん確実なのは、現行の自筆証書遺言や公正証書遺言で、今できる準備を進めておくことです。特に、体調や判断能力は待ってくれません。「新制度が始まってから」と先延ばしにするより、まずは現行の方法で意思を形にしておくほうが安心です。

すぐに正式な遺言まで踏み切れないという場合は、エンディングノートに意思を書き留めておくのもおすすめです。法的な効力はありませんが、家族へ気持ちを伝える手段になりますし、制度が始まってから正式な遺言にまとめる際の下書きにもなります。

そのうえで、法務省が公表する施行日、手数料、申請方法、ウェブ会議の利用条件などを確認し、保管証書遺言が使えるようになった段階で、あらためて見直す——この二段構えが、今できる現実的な備えです。


うりずんに相談できること

うりずん相続手続き相談室では、「どの遺言の方式が自分に合うのか分からない」という段階から、ご相談を承っています。行政書士として、現行の自筆証書遺言の文案作成のサポート、公正証書遺言の原案づくりや証人の手配・段取りのサポート、必要書類の収集などをお手伝いします。終活カウンセラーとして、遺言の入口となる終活全般のご相談にも対応しています。

遺言の有効・無効をめぐる争い、遺留分をめぐる対立、相続人間で紛争がある場合などは弁護士、相続税は税理士、相続登記は司法書士と連携し、必要な専門家へおつなぎします。公正証書の作成そのものは公証人が行います。そして、新しい保管証書遺言が使えるようになったら、その活用も一緒に検討します。川崎・横浜エリアで、これからの遺言のかたちも見据えながら、今できる備えを一緒に整えていきましょう。


まとめ

  • 「デジタル遺言」は通称で、正式には「保管証書遺言」。自筆証書遺言・公正証書遺言に加わる新しい方式です。
  • 保管証書遺言を含む民法等の一部を改正する法律は、2026年6月17日に成立し、同年6月24日に公布されました。ただし、保管証書遺言はまだ施行前で、2026年7月時点では使えません。
  • 保管証書遺言の創設等は、公布の日から3年を超えない範囲内で政令で定める日に施行されます。一方、公正証書の作成手続のデジタル化は、2025年10月1日から始まっています。
  • 保管証書遺言は、パソコン・スマホ等で作成した電磁的記録または書面を、法務局で保管する新制度です。遺言書保管官の前での本人確認・全文口述などが予定されています。
  • 自筆証書遺言等の押印要件も見直されますが、施行前の現時点で自筆証書遺言を作成する場合は、従来どおり押印が必要です。
  • デジタル化により方式や保管の不安は減る可能性がありますが、意思能力・遺留分・不当な影響・内容のあいまいさをめぐる争いは残ります。
  • 今すぐ遺言を残したい場合は、新制度を待たず、現行の自筆証書遺言や公正証書遺言で準備を進めることが大切です。迷ったら、まずはお気軽にご相談ください。