
※この記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説です。公正証書のデジタル化についての説明は、法務省・日本公証人連合会が2026年9月時点で公表している案内に基づくもので、個別の事情でウェブ会議や出張による作成が認められるかどうかを示すものではありません。公正証書遺言の作成方法や、ウェブ会議・出張での作成の可否については公証役場に、遺言をめぐる争いについては弁護士にご確認ください。
川崎市にお住まいの50代の方から、こんなご相談をいただきました。
「長野県の施設に入っている80代の父に、公正証書遺言を作ってもらいたいと考えています。公正証書がオンラインで作れるようになったと聞きました。父は施設から出られないのですが、ウェブ会議で作れるのでしょうか」
令和7年(2025年)10月1日から、公正証書を作る手続きがデジタル化されました。嘱託人からの申出があり、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議で公正証書を作れる場合があります。ただ、遺言については、公証人の出張という方法もあり、どの方法が合うかは事情によって違います。
このコラムでは、公正証書のデジタル化で遺言の作り方の何が変わり、何が変わっていないのかを整理します。
目次
- 公正証書の作成手続がデジタル化された
- 変わったこと|公正証書は原則として電子データに
- 変わっていないこと|証人二人以上など、公正証書遺言の基本的な方式
- 遺言では、まず公証人の出張という方法がある
- ウェブ会議で作れるのは、どんなときか
- うりずんに相談できること
公正証書の作成手続がデジタル化された
「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和5年法律第53号)によって、公証人法が改正されました。このうち公正証書の作成手続に関する部分が、令和7年10月1日に施行されています。
法務省は、書面・対面の手続を前提としていた公正証書に係る一連の手続を、全面的にデジタル化したと説明しています。嘱託人からの申出があり、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議で手続きを進められる場合があります。
なお、自筆証書遺言を法務局に預ける保管制度(デジタル遺言(保管証書遺言)とは?いつから使える?新しい遺言制度をやさしく解説で解説しています)とは、別の制度です。このコラムで扱うのは、公証人が作る公正証書の手続きです。
変わったこと|公正証書は原則として電子データに
デジタル化に対応する指定公証人(順次指定されています)が作成する公正証書は、原則として電子データ(電磁的記録)で作成されます。電子データで作成することに困難な事情がある場合は、書面で作成されます。原本を紙にするか電子データにするかを、嘱託人が好きなように選ぶ仕組みではありません。
手続きの進め方も変わりました。法務省の説明によると、一定の方法で電子署名を付し、インターネットを利用して嘱託することも可能になりました。押印に代わり、電子ペンでディスプレイ等に手書きする電子サインが使われます。
一方、作成された公正証書の正本・謄本の受け取り方は、日本公証人連合会の案内によると、次の3つから選べます。
- 電子データを出力した書面を受け取る
- インターネットからメールを受信して受け取る(クラウド経由でダウンロード)
- 自前のUSBメモリ等を使ってデータで受け取る
電子データで作成された遺言公正証書の原本は、日本公証人連合会が運営するシステムで保存され、災害等に備えたバックアップシステムも構築されていると案内されています。
変わっていないこと|証人二人以上など、公正証書遺言の基本的な方式
民法が定める公正証書遺言の方式は、変わっていません。公正証書遺言では、証人二人以上の立会いと、遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝えることが必要です。原則は口授(口頭で伝えること)ですが、口がきけない方には、自書や通訳人の通訳による申述で代える特則があります。
デジタル化で変わったのは、この方式を満たすための場の持ち方です。民法は、公正証書は公証人法の定めるところにより作成するとしており、その公証人法が改正されたという関係になっています。遺言者が自分の意思を伝えられることが前提である点は、これまでと同じです。
日本公証人連合会は、遺言者が病気等のために電子サインができない場合でも、公証人が公正証書にその旨を記録または記載することで、公正証書を作成できることが法務省令で認められていると案内しています。
遺言者が亡くなったあとの遺言検索の仕組みも変わっていません。平成元年以降に作成された遺言公正証書については、遺言の効力が生じたあと、相続人等の利害関係人が全国の公証役場で、公正証書遺言があるかどうか等を問い合わせることができます。遺言の見つけ方は、遺言書の確認方法で解説しています。
遺言では、まず公証人の出張という方法がある
遺言については、デジタル化の前から、公証人が公証役場の外で公正証書を作ることが認められています。
日本公証人連合会は、遺言者が高齢で体力が弱り、あるいは病気等のために、公証役場に出向くことが困難な場合などには、公証人が、遺言者の自宅や老人ホーム、介護施設、病院等に出張して遺言公正証書を作成することが行われている、と案内しています。
冒頭のご相談のように、施設に入っている親に遺言を作ってもらいたい場合は、まず遺言者の所在地に近い公証役場に、出張で作成できるかを相談するのが順序です。出張の場合の費用は、公証役場で確認してください。公正証書遺言の作り方や必要書類の全体は、公正証書遺言の作り方で解説しています。
ウェブ会議で作れるのは、どんなときか
ウェブ会議(リモート方式)で公正証書を作るには、次の3つを満たす必要があります。
- 嘱託人(または代理人)からウェブ会議の利用の申出があること
- 公証人が、その申出を相当と認めること
- ほかに嘱託人がいる場合は、その嘱託人に異議がないこと
法務省は、ウェブ会議の相当性について、全国で統一的な運用となるよう通達で基準を定めていると説明しています。日本公証人連合会は、相当かどうかは、リモートでの本人確認、真意の確認、判断能力の確認のしやすさ等を総合的に考慮して判断されると案内しています。
遺言について、日本公証人連合会は、離島等で公証役場へのアクセスが困難であったり、感染症予防の観点から公証人等の出張が困難であるなどの事情があり、かつ、本人確認や遺言の意思の確認に支障がないものとして公証人が相当と認めた場合に、ウェブ会議で公正証書を作成することも可能だと案内しています。
| 公証人の出張 | ウェブ会議(リモート方式) | |
|---|---|---|
| 仕組み | 公証人が自宅・老人ホーム・介護施設・病院等に来る | 公証役場の外から、映像と音声でつなぐ |
| 遺言での位置づけ | 公証役場に出向くことが困難な場合に使われている | 出張も困難な事情があり、公証人が相当と認めた場合 |
ウェブ会議は、どこの公証役場でも同じように使えるわけではありません。日本公証人連合会は、10月1日以降、順次指定される指定公証人の役場でのみ利用可能になると案内しています。
使う機器にも条件があります。日本公証人連合会の案内では、ウェブ会議に参加するにはパソコンと、カメラ・マイク・スピーカーが必要で、スマートフォン・タブレットは使用できません。電子サインのために、タッチ入力ができるディスプレイ、またはペンタブレットと電子ペンも必要です。
ウェブ会議では、こうした機器を操作できることも確認事項になります。日本公証人連合会は、ウェブ会議中に電子サイン等のための機材の操作が必要なため、その操作が困難な場合は、許容性に欠けると判断されるとしています。また、遺言や任意後見など、本人の意思の確認が重要なものについては、慎重に判断されることになると案内しています。
ウェブ会議に対応しているかどうかは、利用を考える前に、各公証役場に問い合わせてください。川崎市内には、川崎公証役場(電話044-222-7264)と溝ノ口公証役場(電話044-811-0111)があります。
うりずんに相談できること
公正証書を作成するのは公証人です。ウェブ会議の申出を相当と認めるかどうかも、公証人が判断します。遺言の内容をめぐる争いは、弁護士の領域です。
当事務所では、公正証書遺言を作る前の準備として、遺言の文案の作成、公証役場との日程の調整、必要な書類の収集をお手伝いしています。遠方に住むご家族に遺言を残してもらいたいときは、出張とウェブ会議のどちらについて公証役場へ相談するかも含め、必要書類や日程など、事前準備の段取りを一緒に整理します。最終的にウェブ会議を利用できるかどうかは、公証人が判断します。
相続のお手続きでお困りの方へ
うりずん相続手続き相談室では、遠方のご家族に遺言書を残してもらいたい方の確認の入口として、戸籍の収集による相続人調査、財産調査、遺産分割協議書の作成、銀行口座の解約手続きのサポート、遺族年金・未支給年金の請求支援など、行政書士・社会保険労務士として対応できる手続きを中心にお手伝いしています。相続登記や相続税申告、紛争対応が必要な場合には、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携し、必要な専門家へ適切におつなぎします。市区町村や年金事務所での手続きに不安をお持ちの方も、どうぞ安心してご相談ください。
川崎・横浜エリアを中心に、初回のご相談は60分無料・土日祝もご予約可能・秘密厳守・お問い合わせには翌営業日までにご返信しています。お電話・LINE・お問い合わせフォームから、お気軽にご連絡ください。
まとめ
令和7年10月1日から始まった公正証書のデジタル化について、遺言を考えるときに押さえておきたい点は次のとおりです。
- 指定公証人が作成する公正証書は、原則として電子データで作成される。困難な事情がある場合は書面で作成される
- 証人二人以上の立会いなど、公正証書遺言の基本的な方式は変わっていない
- 遺言では、公証人が自宅や施設、病院等に出張して作成する方法がある
- ウェブ会議は、申出があり公証人が相当と認めた場合に使える。遺言では、出張も困難な事情がある場合として案内されている
- ウェブ会議は指定公証人の役場でのみ順次利用できる。パソコンが必要で、スマートフォン・タブレットは使用できない



