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死後事務委任契約はなぜ有効なのか|民法の原則と、最高裁が示した考え方

掲載:Officeうりずん社会保険労務士・行政書士事務所 代表・資格情報

契約書を前に死後事務委任契約の仕組みを行政書士から聞いている男性のイラスト

※この記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説です。どのような事務を死後事務委任契約で頼めるか、実際に受任者が手続きを行えるかは、ご本人の状況、契約の内容、届出の資格や手続先のルールによって一人ひとり異なり、判決や制度の解釈も個別の事案によって結論が変わることがあります。公正証書の作成や手数料については公証役場、契約書の文案や必要書類については行政書士、死後事務の実務の引き受けについては受任する事業者、相続人の方との間に争いがある場合や契約の解除が問題になる場合については弁護士、遺言による財産の承継については公証人や行政書士にご確認ください。

70代の男性から、こんなご相談をいただくことがあります。「身寄りがないので、亡くなった後の手続きを頼んでおきたい。あるいは、家族はいるけれど、遠方に住んでいたり、負担をかけたくなかったりする。自分が死んだ後のことを、生きているうちに契約で頼むというのは、法的に大丈夫なのだろうか」

もっともな疑問です。契約というのは、当事者が生きていて初めて意味を持つもののように感じられます。実際、民法には「委任は、委任者が亡くなったときに終了する」という定めがあります。

それにもかかわらず、死後事務委任契約は実務で広く使われています。なぜ成り立つのか。このコラムでは、民法の原則と、最高裁が示したとされる考え方を整理します。法律の細かい話にはあまり立ち入らず、「なぜ有効といえるのか」という一点に絞ってお伝えします。


目次

  1. 民法の原則は「亡くなったら終わり」です
  2. それでも有効とされる理由
  3. 「急ぐときの応急処分」とは別のものです
  4. 契約で定める事務の例
  5. 公正証書にする理由と、誰が何をするのか
  6. 残っている論点
死後の手続きを生前に頼めるのかを行政書士に相談している男性のイラスト

民法の原則は「亡くなったら終わり」です

まず、原則から確認します。

民法653条は、委任者または受任者が亡くなったときに委任が終了すると定めています。誰かに何かを頼む契約は、頼んだ人が亡くなればそこで終わる、というのが出発点です。

代理についても同じ考え方です。民法は、代理権は本人が亡くなったときに消滅すると定めています。

このため、任意後見契約や財産管理委任契約は、ご本人が亡くなった時点で役割を終えます。 これらは、判断能力が低下したときや、体が不自由になって手続きが負担になったときに備える制度です。生きている間のための仕組みなので、亡くなった後には及びません。財産管理を任せる契約の詳しい内容は、財産管理委任契約とはで扱っています。

ここに空白が生まれます。亡くなった後にも、しなければならないことは残っているからです。葬儀の手配、施設や病院の精算、住居の片づけ、行政への届出。ご家族がいれば自然にその方々が担いますが、身寄りのない方の場合、誰が担うのかという問題が出てきます。


それでも有効とされる理由

では、死後事務委任契約はなぜ有効とされているのでしょうか。

根拠として挙げられるのが、最高裁判所が平成4年9月22日に第三小法廷で言い渡した判決です。

法務省の法制審議会に提出された資料では、この判決について、死後の事務を委ねる契約は、委任者が亡くなったことによって当然に終了するものではない、という考え方を示した判例として整理されています。

つまり、民法の原則は「亡くなったら終わり」ですが、この原則は、当事者が別の合意をすることを妨げるものではないという理解です。死後の事務まで委ねる合意がある場合には、委任者の死亡によって当然に契約が終了するとは限らない、という考え方です。

⚠ 判決全文は裁判所サイトで確認できません
最高裁平成4年9月22日判決については、裁判所の判例検索で判決全文を確認できませんでした。裁判所のサイトには、すべての裁判例が収録されているわけではないという注記があります。一方、法務省の法制審議会資料では、委任者の死亡後の事務処理を委ねる契約があり得ること、またこの判決がそのような死後の委任を認めた判例として引用されています。この記事では、法務省資料で確認できる範囲に限って紹介します。判決が具体的にどの事務を対象にしたのかは断定しません。

このコラムで「最高裁は葬儀や納骨を認めた」といった具体的な説明をしていないのは、そのためです。公開されている資料から確認できるのは、死後の事務を委ねる契約が有効とされているという点までになります。


「急ぐときの応急処分」とは別のものです

ここで、混同されやすい制度に触れておきます。

民法654条は、委任が終了した場合でも、急を要する事情があるときには、受任者などが必要な処分をしなければならないと定めています。「委任が終わったからといって、その場で全部投げ出してよいわけではない」という趣旨の規定です。

これがあるなら、わざわざ死後事務委任契約を結ばなくてもよいのではないか。そう思われるかもしれません。ただ、この2つはかなり性質が違います。

比べる点委任終了後の応急処分死後事務委任契約
前提委任はすでに終了死亡後も契約を続ける合意
使える場面急迫の事情があるとき契約で定めた場面
できること必要な処分に限られる契約で定めた事務
いつまで相続人などが処理できるようになるまで契約内容による
性質終了後に法律上生じる応急的な義務本人の生前の意思に基づく契約

いちばん大きな違いは、そもそも委任が終わっているかどうかです。応急処分の規定は、委任が終わったことを前提に、それでも放置できない事態に備えるものです。相続人などが対応できる状態になれば、そこで役割を終えます。

これに対して死後事務委任契約は、亡くなった後も契約そのものを続けるという合意です。何を、どこまで、いつまで頼むのかは契約で定めます。ご本人が生前に決めた内容が、亡くなった後に実現されることになります。

身寄りのない方の場合、「相続人などが処理できるようになるまで」という前提が成り立たないこともあります。応急処分の規定だけでは足りない理由が、ここにあります。


契約で定める事務の例

では、実際にはどのようなことを頼んでおくのでしょうか。

ここでお伝えするのは、実務上、契約書で定められることの例です。 先ほどの判決が具体的にどの事務について判断したのかは公開資料から確認できないため、判例とは切り離してご覧ください。

一般的に、次のような事務が契約の対象になります。

  • 亡くなったことの関係者への連絡
  • 葬儀・火葬に関する手配
  • 納骨や埋葬に関する手続き
  • 病院や施設の費用の精算
  • 賃貸住宅の明渡しと、室内の家財の整理
  • 公共料金や携帯電話などの契約の解約
  • 行政機関への届出・連絡のうち、受任者が行うことのできるもの
  • インターネット上のサービスやアカウントの解約

ただし、契約書に定めれば、受任者がすべての手続きを必ず行えるという意味ではありません。 届出資格や契約先のルールによっては、受任者自身では手続きできない場合があります。実際に実行できる内容かどうかを、契約前に確認しておくことが重要です。

どこまでを頼むかは、ご本人の希望と状況によります。すべてを一律に決める必要はありません。「葬儀は親族に任せるが、住居の片づけだけは頼みたい」といった組み合わせも可能です。

一方で、死後事務委任契約では扱えないこともあります。誰にどの財産を相続・遺贈させるかは、死後事務委任契約だけで定めるものではありません。遺言など、財産承継のための別の仕組みで整理する領域です。遺言との役割の違いについては、死後事務委任契約とはで詳しく扱っています。


公正証書にする理由と、誰が何をするのか

死後事務委任契約は、公正証書で作成しておく方法があります。うりずんでは、契約内容やご本人の意思を明確な形で残すため、公正証書での作成をおすすめしています。

理由は主に2つあります。ひとつは、契約の内容と、ご本人が確かにその意思を持っていたことを、公的な形で残せることです。もうひとつは、契約が成立したことや、その内容を後から確認しやすくすることです。

なお、公正証書にしたからといって、受任者に法律上認められていない権限が新たに生まれるわけではありません。 実際の手続きは、それぞれの法令や手続先のルールに従います。

ここで、役割の分かれ方を整理しておきます。

公正証書を作成するのは公証人です。 公証役場で、公証人がご本人の意思を確認したうえで作成します。

行政書士は、死後事務委任契約書案の作成支援や必要書類の収集、公証役場との連絡調整を行います。 ご本人の希望を伺い、契約書の文案にまとめ、公証役場との日程調整や事前のやり取りを担当します。

実際に亡くなった後、契約に基づいて事務を行うのは受任者です。 うりずんの場合、契約書の作成は行政書士事務所が、死後事務の引き受けは一般社団法人いきいきライフ協会川崎南が担当しています。この二者体制については、おひとりさまの生前契約セットでご説明しています。

公正証書の作成には、公証役場の手数料が別途かかります。金額は契約の内容によって変わりますので、事前にご確認ください。


残っている論点

死後事務委任契約には、まだ整理しきれていない論点があります。

死後事務委任契約では、ご本人が亡くなった後に、相続人から契約の解除や内容の変更を求められることがあります。

この点については裁判例もありますが、契約内容や締結の経緯、個別の事情によって問題となる論点です。そのため、「相続人なら必ず解除できる」「生前の契約だから絶対に解除できない」と一律にいうことはできません。

国の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」でも、本人の生前の意思と相続人の希望が異なる場合には、まず本人の意向を丁寧に説明して理解を得ることが望ましいとされています。それでも相続人が解除や変更を求める場合には、法的紛争を避ける観点から、合意による解除や変更をすることも考えられるとされています。

ただし、これは個別の契約について相続人に一方的な解除権があると示したものではありません。

相続人の方との間で意見が食い違っている、といった状況であれば、弁護士にご相談ください。 うりずんでは、争いのある事案についての判断や対応はできません。


まとめ

「自分が死んだ後のことを、生きているうちに契約で頼めるのか」という疑問について整理してきました。

民法の原則は、委任は委任者が亡くなったときに終了する、というものです。任意後見契約や財産管理委任契約も、ご本人が亡くなった時点で役割を終えます。

一方で、最高裁が平成4年に示したとされる考え方によれば、死後の事務まで委ねる合意がある場合には、委任者の死亡によって当然に契約が終了するとは限らないとされています。この最高裁判決は、死後事務委任契約の有効性を説明する重要な根拠の一つとして、法務省資料でも紹介されています。

委任が終わった後の応急処分の規定とは、性質が違います。あちらは急を要する場面での限定的なものですが、死後事務委任契約は、ご本人が生前に決めた内容を、亡くなった後に実現するための仕組みです。

何を頼むかは契約で定めます。ただし、契約に書けば何でもできるわけではありません。実際に手続きができる内容かどうかを、契約の前に確認しておくことが大切です。

相続のお手続きでお困りの方へ

うりずん相続手続き相談室では、死後事務委任契約についてのご相談を承っています。どのような事務を頼んでおきたいかを一緒に整理し、契約書の文案の作成、必要書類の収集、公証役場との連絡調整を行政書士としてお手伝いします。公正証書を作成するのは公証人です。契約が効力を持ったあと、実際に死後の事務を引き受けるのは一般社団法人いきいきライフ協会川崎南です。相続人の方との間に争いがある場合や、相続税・不動産の名義変更が必要な場合には、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携し、必要な専門家へ適切におつなぎします。まずはお話をお聞かせください。どうぞ安心してご相談ください。

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