「自分が亡くなった後、葬儀やお墓のこと、役所の手続き、部屋の片付けは、いったい誰がやってくれるのだろう」——おひとりさまや、子どもや親族が遠くにいる方にとって、これは切実な不安です。

亡くなった後の事務は、これまで多くの場合、家族が自然に担ってきました。しかし、頼れる家族が近くにいない方が増えている今、その受け皿を生前に自分で用意しておく必要があります。そのための手段が死後事務委任契約です。この記事では、死後事務委任契約とは何か、何を頼めて何は頼めないのか、遺言や任意後見との違い、誰に頼めるのか、費用や始め方まで、全体像をやさしく整理します。


目次

  1. 死後事務委任契約とは|亡くなった後の手続きを生前に託す
  2. 死後事務委任で頼めること・頼めないこと
  3. 遺言・任意後見との違い|役割の住み分け
  4. 誰に頼める?依頼先と選び方の注意点
  5. 費用の目安と預託金の考え方
  6. 契約の始め方と必要な準備
おひとりさまが死後事務委任契約で葬儀や行政手続きを生前に託す流れを描いたイラスト
亡くなった後の手続きを、生前のうちに信頼できる相手へ託しておく流れ

死後事務委任契約とは|亡くなった後の手続きを生前に託す

死後事務委任契約とは、自分が亡くなった後に必要となる事務を、生前のうちに、信頼できる相手(受任者)に委任しておく契約です。葬儀や納骨の手配、行政手続き、各種の解約や精算、部屋の片付けなど、亡くなった後に「誰かがやらなければならない」事務をあらかじめ託しておくものです。

ここで、ひとつ疑問が浮かぶかもしれません。「亡くなった後のことなのに、契約は有効なのか」という点です。

🌱 なぜ「死亡後」なのに契約が使えるのか

民法では、委任契約は委任者の死亡によって終了するのが原則です(民法653条)。しかし最高裁は、自分の死後の事務を行うことを目的として、「死亡後も契約を終了させない」趣旨で結ばれた委任契約について、その有効性を認めています(最高裁平成4年9月22日判決)。そのため、死後事務委任契約は、実務上、有効な契約として広く利用されています。

なお、似た制度に任意後見契約がありますが、任意後見人の権限は本人が生きている間の財産管理などに限られ、本人の死亡とともに終了します。つまり、生前の備えと死後の備えは別の契約で用意する必要がある、という点が出発点になります。


死後事務委任で頼めること・頼めないこと

死後事務委任で頼める事務は幅広いですが、何でも頼めるわけではありません。「頼めること」と「別の制度が必要なこと」を分けて理解しておくことが大切です。

頼めることの代表例

  • 葬儀・火葬・納骨・埋葬の手配
  • 医療費・施設利用料・家賃などの精算
  • 公共料金、携帯電話、インターネット、サブスクなどの解約
  • 関係者への連絡
  • 家財・遺品整理の手配
  • ペットの引き取り先への連絡・引き渡し
  • デジタル遺品に関する手続きの補助
  • 死亡届・火葬許可に関する手続きの準備や、関係者との連絡

⚠ 注意:死亡届は「受任者なら誰でも出せる」わけではありません

死亡届を提出できる人(届出人)の範囲は、戸籍法で定められています。同居の親族、その他の同居者、同居していない親族、家主・地主・家屋管理人・土地管理人、後見人・保佐人・補助人・任意後見人・任意後見受任者などです。死後事務委任契約の受任者であれば当然に届出人になれる、というものではありません。受任者がどの立場で関われるかは、契約の設計とあわせて個別に確認しておく必要があります。

頼めない・別の制度が必要なこと

  • 財産を誰に渡すか決めること → 遺言書の領域
  • 相続登記(不動産の名義変更)の代理申請 → 司法書士の領域
  • 相続税の申告 → 税理士の領域
  • 相続人どうしの紛争への対応・交渉 → 弁護士の領域
  • 生前の財産管理や契約の支援 → 財産管理委任契約・任意後見契約の領域
  • 本人の介護や身の回りの世話そのもの → 介護サービスなどの領域

特に間違えやすいのが、財産の承継です。「誰に何を遺すか」は遺言書で定めるもので、死後事務委任契約では決められません。死後の手続きの実行は死後事務委任、財産の行き先は遺言、という線引きを押さえておきましょう。


遺言・任意後見との違い|役割の住み分け

死後事務委任契約は、遺言や任意後見契約としばしば混同されます。3つの制度は、使う時期と役割が異なります。

制度主に使う時期主な役割
任意後見契約生前・判断能力が低下した後財産管理や契約手続きを支援する
死後事務委任契約死亡後葬儀・納骨・行政手続き・整理などを実行する
遺言書死亡後財産を誰に引き継がせるかを決める

おひとりさまの終活では、この任意後見契約・死後事務委任契約・遺言書を組み合わせて備えることが多くなります。生前の判断能力の低下に備えるのが任意後見、亡くなった後の手続きを託すのが死後事務委任、財産の行き先を決めるのが遺言、と役割を分けて準備しておくと安心です。

それぞれの詳細は、次の記事で解説しています。


誰に頼める?依頼先と選び方の注意点

死後事務委任の受任者(依頼先)には、いくつかの選択肢があります。

  • 親族・知人
  • 行政書士などの専門家
  • 身元保証・死後事務を担う事業者

親族や知人に頼める場合もありますが、おひとりさまや、頼れる人が遠方にいる場合は、専門家や事業者を利用することになります。ここで知っておきたいのが、契約書を作る業務と、実際に死後事務を継続的に引き受ける業務は、担い手が異なるという点です。

🌱 契約書の作成と、実際の引き受けは役割が分かれます

当事務所では、行政書士として死後事務委任契約書の作成支援や内容の整理をお手伝いします。一方、実際に死後事務を継続的に引き受けるサービスについては、別主体である一般社団法人いきいきライフ協会川崎南と役割を分けてご案内しています。ご相談の際には、行政書士業務として対応する範囲と、身元保証・死後事務サービスとして別途契約が必要になる範囲を、明確にご説明します。

事業者に依頼する場合は、選び方にも注意が必要です。サービスの内容と費用、解約の条件、預託金の管理方法などが、契約書や重要事項説明書で明確になっているかを確認しましょう。国(内閣府等)が示す「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」の趣旨を踏まえ、こうした点を丁寧に説明する事業者かどうかが、ひとつの目安になります。


費用の目安と預託金の考え方

死後事務委任契約で気になるのが費用です。金額は依頼する範囲や地域、依頼先によって大きく変わるため、ここでは費用の「構成」を押さえておきましょう。

費用の主な構成

  • 契約書の作成費用
  • 公正証書にする場合の公証人手数料
  • 葬儀・火葬・納骨・遺品整理などにかかる実費
  • 受任者・事業者への報酬
  • 預託金(あらかじめ預けておく場合)

具体的な金額は、依頼内容によって幅があります。実際にいくらかかるかは、依頼先に見積もりを出してもらい、契約前に確認することをおすすめします。

⚠ 預託金は「どう管理されるか」を必ず確認

預託金は、将来の葬儀費用や死後事務の費用に充てるため、契約時にあらかじめ預けておくお金です。大切なのは、その預託金が事業者の運営資金と混ざらずに区分して管理されているか、解約時に未使用分がどう返金されるかが、契約書や重要事項説明書で明確になっているかどうかです。

また、身元保証や死後事務の契約と、事業者への寄附・遺贈・死因贈与を安易にセットにする契約は、利用者よりも事業者の利益が優先されるおそれ(利益相反)があります。サービスの契約内容・費用と、財産の行き先は、分けて確認することが大切です。


契約の始め方と必要な準備

死後事務委任契約は、まず「自分の死後、何をどうしてほしいか」を整理することから始まります。

✅ 契約前に決めておきたいことチェックリスト

  • 葬儀の形式(規模・宗教・呼んでほしい人など)
  • 火葬・納骨・埋葬先(墓じまい・永代供養を含めて)
  • 連絡してほしい人のリスト
  • かかりつけ医・入所施設・介護事業所の連絡先
  • 賃貸住宅の明渡し、家財の処分方法
  • ペットの引き取り先
  • スマホ・パソコン・SNS・サブスクなどデジタル関連の整理
  • 医療費・施設費・公共料金などの精算方法
  • 通帳・保険証券・賃貸借契約書など重要書類の保管場所
  • 遺言書との整合(財産の行き先は遺言で定める)
  • 費用と預託金の負担方法

これらを整理したうえで、受任者と契約内容を取り決めます。なお、死後事務委任契約は、任意後見契約と違って、法律上必ず公正証書で作成しなければならないわけではありません。ただし、本人の意思や契約内容を明確にし、亡くなった後に関係機関へ示しやすくするため、実務上は公正証書で作成しておくことが望ましい場合があります。

考えを整理する第一歩としては、エンディングノートの活用も役立ちます。書き留めた希望を、最終的に死後事務委任契約や遺言書という形にしていくとよいでしょう。


まとめ

死後事務委任契約は、自分が亡くなった後の手続きを、生前のうちに信頼できる相手へ託しておく契約です。葬儀や行政手続き、各種の整理などを頼める一方で、財産の行き先は遺言、相続登記は司法書士、相続税は税理士、紛争対応は弁護士、というように、別の制度や専門家が必要な領域もあります。任意後見・遺言と組み合わせて、生前から死後まで切れ目なく備えておくことが、おひとりさまの安心につながります。

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