※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。受け取れる年金の組み合わせや実際の支給額は、年齢、加入歴、現在受けている年金、ご家族の状況によって一人ひとり異なります。実際のお手続きの前に、年金事務所、街角の年金相談センター、関係する共済組合等、または社会保険労務士にご確認ください。

年金事務所の窓口で、「こちらは併給調整になりますね」と言われる。書類には見慣れない言葉が並び、聞き返すきっかけを失ったまま説明が進んでいく。

併給調整とは、2つ以上の年金を受け取れるようになったときに、どちらをどれだけ受け取るのかを調整する仕組みのことです。ご家族を亡くされたあと、あるいはご自身が年金を受け取り始める年齢にさしかかったときに、多くの方が一度は耳にします。

気になるのは、結局のところ「両方もらえるのか、片方だけなのか」という一点ではないでしょうか。答えは、受け取れる年金の組み合わせと、ご自身の年齢によって変わります。とくに65歳を境に、扱いが大きく変わります。

この記事では、併給調整の考え方を整理したうえで、65歳の前と後で何がどう変わるのかを順に見ていきます。


目次

  1. 併給調整とは|2つの年金を受け取れるようになったときの調整
  2. 同じ支給事由なら「1つの年金」とみなされる
  3. 65歳未満は、支給事由が異なる年金は原則どちらか一方を選ぶ
  4. 65歳から変わる|老齢基礎年金と遺族厚生年金は一緒に受け取れる
  5. 65歳以上で老齢厚生年金がある場合|額が決まる段階と、実際に支給される段階は別
  6. 障害年金がからむ場合
  7. 遺族基礎年金・寡婦年金・死亡一時金は扱いが違う
  8. 手続きで漏れやすいこと
遺族厚生年金と自身の老齢年金の両方を受けられるようになった60代の女性が、1人1年金の原則、同じ支給事由の基礎年金と厚生年金は一緒に受け取れること、65歳以降に併給できる組み合わせが広がること、老齢厚生年金の請求も必要になることについて、社会保険労務士から説明を受けている様子を描いたイラスト

併給調整とは|2つの年金を受け取れるようになったときの調整

日本の公的年金には、老齢・障害・遺族という3つの支給事由があります。年齢を重ねたとき、障害の状態になったとき、家族を亡くしたとき。それぞれの場面で年金が支給される仕組みです。

このうち2つ以上の受給権を同時に持つことは、めずらしくありません。夫を亡くして遺族厚生年金を受け取っている方が、ご自身も年金を受け取る年齢になる。障害年金を受け取っている方が、配偶者を亡くす。こうしたときに働くのが併給調整です。

日本年金機構は、これを「1人1年金が原則」と説明しています。支給事由が異なる2つ以上の年金を受け取れるようになったときは、原則としていずれか1つを選ぶことになる、という考え方です。

⚠ 法律の条文に「一人一年金」という言葉はありません
国民年金法第20条と厚生年金保険法第38条は、いずれも見出しが「併給の調整」です。支給を停止することを原則としたうえで、同じ支給事由の基礎年金と厚生年金などを除外し、申請や特例によって実際に受け取る年金が決まる、という構造になっています。「1人1年金」は、この仕組みをわかりやすく言い表した説明用語です。

条文の構造まで押さえる必要はありませんが、「原則は止まる。そのうえで例外がある」という順序で理解しておくと、このあとの話が追いやすくなります。


同じ支給事由なら「1つの年金」とみなされる

まず、併給調整の対象にならない組み合わせから確認します。

日本の公的年金は、20歳以上60歳未満のすべての方が加入する国民年金(基礎年金)と、会社員・公務員の方が加入する厚生年金の2階建て構造です。基礎年金に厚生年金が上乗せされる形になっています。

そのため、同じ支給事由で受け取れる次の組み合わせは、1つの年金とみなされ、あわせて受け取ることができます

  • 老齢基礎年金 と 老齢厚生年金
  • 障害基礎年金 と 障害厚生年金
  • 遺族基礎年金 と 遺族厚生年金

「遺族基礎年金と遺族厚生年金を両方もらっているけれど、これは併給調整にならないのか」と思われるかもしれません。なりません。 同じ「遺族」という支給事由の1階部分と2階部分なので、もともと1つの年金として扱われます。

ただし、ここに落とし穴があります。

⚠ 同じ支給事由でも、2つあるときは選択になります
2つ以上の基礎年金、または2つ以上の厚生年金を受け取れるようになったときは、いずれか1つを選ぶことになります。たとえば、夫を亡くして遺族厚生年金を受け取っていた方が、その後お子さんを亡くして新たに遺族厚生年金を受け取れるようになった場合、2つの遺族厚生年金をあわせて受け取ることはできません。

つまり「1人1年金」には、支給事由という軸と、基礎年金・厚生年金という階層の軸の2つがあります。同じ支給事由なら1階と2階はセットで受け取れますが、同じ階が2つになったときは選択です。


65歳未満は、支給事由が異なる年金は原則どちらか一方を選ぶ

ここからが本題です。

65歳になるまでは、支給事由が異なる年金をあわせて受け取ることはできません。 どちらか一方を選ぶことになります。

日本年金機構は、次のような例を挙げています。

これまで遺族厚生年金を受け取っていた方が、63歳になって特別支給の老齢厚生年金を受け取れるようになったとき。遺族給付と老齢給付をあわせて受け取ることはできないため、いずれかを選択することになります。

どちらを選ぶかは、金額を比べて決めることになります。一般に、遺族厚生年金は非課税で、老齢年金は課税対象(雑所得)です。額面だけでなく、手取りで比べておくと判断しやすくなります。

⚠ 選ぶときは「年金受給選択申出書」の提出が必要です
支給事由が異なる2つ以上の年金を受け取れるようになったときは、どちらを受け取るかを届け出る手続きが必要です。年金事務所にご確認ください。

なお、いったん選んだあとで状況が変わった場合は、選び直すこともできます。65歳になれば扱いそのものが変わるため、そのタイミングでの見直しは特に重要です。


65歳から変わる|老齢基礎年金と遺族厚生年金は一緒に受け取れる

65歳になると、それまで「どちらか一方」だった扱いが変わります。支給事由が異なる年金でも、特例的にあわせて受け取れる組み合わせが出てきます。

そのひとつが、老齢基礎年金と遺族厚生年金です。

65歳以上で老齢基礎年金を受け取っている方が、遺族厚生年金を受け取れるようになったときは、あわせて受け取ることができます。ご自身が納めてきた保険料にもとづく老齢基礎年金は、遺族厚生年金によって止められません。

これは、自分自身が納めた保険料を年金額に反映させる、という考え方にもとづくものです。

⚠ 繰上げ受給をしている場合は、65歳になるまで併給できません
老齢基礎年金を繰り上げて受け取っている方は、65歳になるまでの間、遺族厚生年金とあわせて受け取ることはできません。この特例は65歳に達している方を対象としたものだからです。65歳になれば、あわせて受け取れるようになります。

遺族年金そのものの受給要件や請求手続きについては遺族年金の請求手続き完全ガイドをご覧ください。


65歳以上で老齢厚生年金がある場合|額が決まる段階と、実際に支給される段階は別

ここからは、亡くなった方の配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合の説明です。

65歳以上で、ご自身の老齢厚生年金と遺族厚生年金の両方を受け取れる権利がある。この場合の扱いは、少し複雑です。多くの解説がひとつの話としてまとめてしまうため、かえって分かりにくくなっています。

実際には、まったく別の2つの段階があります。

第1段階|遺族厚生年金の「額」が決まる

まず、遺族厚生年金がいくらになるかが決まります。

その前に、確認しておきたいことがあります。対象となるお子さんがいて、同じ死亡を理由とする遺族基礎年金も受けている方は、この扱いになります。

⚠ 遺族基礎年金を受けている間は、比較は行われません
同じ死亡を支給事由とする遺族基礎年金を受けている間は、遺族厚生年金の額は「亡くなった方の報酬比例部分の4分の3」に固定されます。次に説明する2つの額の比較は行われません(厚生年金保険法第60条第1項ただし書)。

遺族基礎年金を受けていない場合は、次の2つの額を比べます。

  • ① 亡くなった方の報酬比例部分の4分の3
  • ② ①の3分の2 + 自分の老齢厚生年金(加給年金額を除く)の2分の1

①と②を比較して、高いほうが遺族厚生年金の額になります。

⚠ 有利なほうを「選ぶ」わけではありません
条文は「いずれか多い額」(厚生年金保険法第60条第1項第2号)と定めており、日本年金機構も「比較し、高い方の額が遺族厚生年金の額となります」と説明しています。受け取る方が選択するのではなく、法律上そのように決まります。

なお、②の「①の3分の2」は、「亡くなった方の報酬比例部分の2分の1」と同じ額です(4分の3の3分の2は2分の1)。資料によって書き方が違いますが、指しているものは同じです。

受給権が発生する順序によって、根拠となる条文が変わります。 先に遺族厚生年金を受けていて、後から65歳でご自身の老齢厚生年金を受けられるようになった場合は、厚生年金保険法第61条第2項により、②の額が①を上回るときに遺族厚生年金の額が改定されます。最終的に高いほうの額になる点は同じです。

第2段階|そこから「支給停止」される

額が決まったら、次は、併給調整後に実際に支給される額の話です。ここで別のルールが働きます。

ご自身の老齢厚生年金が優先して支給され、遺族厚生年金は、ご自身の老齢厚生年金の額(加給年金額を除く)に相当する部分が支給停止になります(厚生年金保険法第64条の2)。

結果はこうなります。

  • 遺族厚生年金の額が、ご自身の老齢厚生年金の額を上回る場合 → その差額が支給されます
  • 上回らない場合 → 遺族厚生年金は全額が支給停止となります

「遺族厚生年金の額が決まったのだから、その分がもらえる」と考えると、実際の支給額とのずれに驚くことになります。年金額が決まる話と、併給調整後の支給額の話は別です。

⚠ 「優先して支給される」の意味にご注意ください
ここでいう優先支給は、遺族厚生年金との併給調整のうえでの扱いです。在職老齢年金など、別の制度による支給停止が行われることがあります。

この方式になったのは、2007年(平成19年)4月からです。ご自身が納めた保険料を年金額に反映させる、という考え方によるものです。

⚠ 経過措置があります
2007年4月1日前に遺族厚生年金を受ける権利があり、同日時点ですでに65歳以上だった方は、従来の選択方式が適用されます。

65歳をはさんで年金がどう推移するかを、具体的な事例で確認したい方は夫を亡くした50代妻の年金と生活設計をご覧ください。


障害年金がからむ場合

障害年金を受け取っている方が、老齢年金や遺族厚生年金を受け取れるようになった場合も、65歳を境に扱いが変わります。

65歳以後に認められる主な組み合わせは、次のとおりです。

組み合わせ扱い
障害基礎年金 + 老齢厚生年金併給可
障害基礎年金 + 遺族厚生年金併給可
障害厚生年金 + 遺族厚生年金原則として併給不可・いずれかを選択

併給が認められるのは、障害基礎年金との組み合わせです。 障害厚生年金と遺族厚生年金をあわせて受け取る特例はないため、原則として一方を選択します。

なお、障害基礎年金と老齢基礎年金のように、2つの基礎年金をあわせて受け取ることはできません

⚠ 障害基礎年金とあわせて受け取る場合の注意
障害基礎年金の受給権があり、実際に支給されている場合、遺族厚生年金の経過的寡婦加算は支給停止になります。このほかにも個別の調整が行われることがありますので、実際の金額は年金事務所にご確認ください。

ほかにも受給権がある場合は、組み合わせの選択手続きが必要になることがあります。

中高齢寡婦加算・経過的寡婦加算の仕組みと金額は中高齢寡婦加算とはで詳しく解説しています。


遺族基礎年金・寡婦年金・死亡一時金は扱いが違う

ここまでは遺族厚生年金の話でした。同じ遺族給付でも、次の3つは扱いが異なります。

遺族基礎年金は、老齢年金と併給できません

65歳以降の特例は、遺族厚生年金についてのものです。遺族基礎年金には及びません。 老齢基礎年金・老齢厚生年金のいずれとも、あわせて受け取ることはできず、どちらか一方を選ぶことになります。

もっとも、遺族基礎年金は、対象となるお子さんがいる間の給付です。お子さんが対象年齢を過ぎると受給権が消滅するため、老齢年金と重なるケースは多くありません。

寡婦年金は、繰上げ請求で受け取れなくなります

寡婦年金は、国民年金の第1号被保険者としての保険料納付済期間などが一定の要件を満たす夫を亡くした妻に、60歳から65歳になるまでの間、支給される年金です。ここに、見落とすと取り返しのつかない注意点があります。

⚠ 老齢基礎年金を繰り上げると、寡婦年金は受け取れません
老齢基礎年金を繰上げ請求した日以後は、寡婦年金は支給されません。すでに寡婦年金の受給権がある方が繰上げによる老齢基礎年金の受給権を取得すると、寡婦年金の受給権は消滅します。繰上げ請求は取り消せないため、請求の前に確認が必要です。

「支給が止まる」のではなく「権利そのものがなくなる」という点が、ほかの調整とは違います。

死亡一時金は、寡婦年金との選択です

死亡一時金と寡婦年金の両方を受け取れる場合は、どちらか一方を選ぶことになります(国民年金法第52条の6)。

また、死亡した方の死亡日に、その死亡によって遺族基礎年金を受けられる方がいるときは、原則として死亡一時金は支給されません。ただし、死亡日の属する月に遺族基礎年金の受給権が消滅した場合は除かれます(同法第52条の2第2項)。


手続きで漏れやすいこと

制度の理解とは別に、手続きで見落とされやすい点が3つあります。

受け取る年金を選ぶときは、届け出が必要です。 併給調整により、いずれかの年金を選ぶ必要がある組み合わせでは、「年金受給選択申出書」を提出します。一方、先ほど説明した65歳以上の老齢厚生年金と遺族厚生年金のように、法律上自動的に額が決まる組み合わせもあります。

老齢厚生年金の受給権がある方は、老齢厚生年金の請求も必要です。 遺族厚生年金の額を決め、支給停止額を計算するためには、ご自身の老齢厚生年金の裁定請求も必要です。「遺族年金だけ請求すればよい」と考えていると、遺族厚生年金の支給額を決定できないため、注意が必要です。実務でよく漏れる点です。

日本年金機構と共済組合等の双方から年金を受けている場合は、様式や必要書類が異なることがあります。 共済年金の年金額を確認できる改定通知書等が必要になる場合もあるため、年金事務所と関係する共済組合等の双方に確認してください。

なお、遺族厚生年金は2028年(令和10年)4月から大きく見直される予定です。改正の内容は【2028年4月改正】遺族厚生年金はこう変わるをご覧ください。


まとめ

併給調整について、押さえておきたい点を整理します。

  • 併給調整は、2つ以上の公的年金を受ける権利が生じたときに、組み合わせに応じて支給を調整する仕組み
  • 同じ支給事由の基礎年金と厚生年金は、1つの年金とみなされてあわせて受け取れる
  • 65歳未満は、支給事由が異なる年金は原則としてどちらか一方を選ぶ
  • 65歳以上になると、老齢基礎年金と遺族厚生年金など、あわせて受け取れる組み合わせが出てくる
  • 遺族厚生年金の額が決まる段階と、併給調整後に実際に支給される段階は別のルールで動く
  • 遺族基礎年金・寡婦年金・死亡一時金は、遺族厚生年金とは扱いが異なる

年金の組み合わせは、ご家族の状況とご自身の加入歴によって変わります。「自分の場合はどうなるのか」は、年金事務所や関係する共済組合等で受給関係を確認し、必要に応じて試算を受けるのが確実です。

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