
※この記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説です。資格や職業への影響は、制度ごとの規定や、ご本人の心身の状況などによって異なります。資格や職業についての規定は各資格の所管機関、個別の法的な判断は弁護士、後見・保佐の申立手続の案内は家庭裁判所にご確認ください。
後見や保佐の手続きを考えるとき、「仕事や資格に影響しないか」と心配される方がいます。かつては、成年被後見人や被保佐人であることを理由に、資格や仕事から一律に外す規定が多くの法律に置かれていましたが、これらの規定は令和元年(2019年)中に削除されました。令和8年(2026年)2月18日、最高裁判所大法廷は、この改正前の警備業法のうち、被保佐人であることを警備員になれない理由としていた部分について、平成29年3月の時点で憲法に違反するに至っていたと判断しました。この記事では、判決が判断したこと・判断していないことと、いまの制度を整理します。
目次
- 「欠格条項」とは|資格や仕事から一律に外す規定
- 最高裁が判断した事案
- 判決の結論①|改正前の規定は憲法に違反するに至っていた
- 判決の結論②|国への賠償は認められなかった
- 令和元年の一括整備法で何が変わったか
- いまの警備業法はどうなっているか
- 2026年の成年後見制度の改正とは別の話です
- この判決が判断していないこと
- 後見・保佐を考えている方が確認しておきたいこと
- 行政書士に相談できること
「欠格条項」とは|資格や仕事から一律に外す規定
この記事でいう欠格条項とは、資格や職業から一律に排除する規定のことです。ある事情に当てはまる人について、個別の事情を見ずに、その資格を持つことやその仕事に就くことを認めない、という形の規定です。
相続の場面で出てくる「相続欠格」や、遺言執行者・任意後見監督人になれない人を定めた「欠格事由」とは別の話です。この記事では、資格や職業についての規定だけを扱います。
かつては、成年被後見人や被保佐人であることを、このような欠格条項の理由としている法律が多くありました。最高裁の判決は、170余の法律に設けられたこうした規定の全てについて、統一的な見直しの方針が策定されたうえで、令和元年中にいずれも削除されるに至っている、と述べています。
最高裁が判断した事案
この裁判で問題になったのは、令和元年の改正前の警備業法の規定です。当時の警備業法は、被保佐人であることを、警備員になれない理由(欠格事由)の一つとしていました。
判決によると、知的障害のある方が、警備業を営む会社との雇用契約にもとづいて警備員として働いていたところ、平成29年3月に保佐開始の審判が確定しました。この雇用契約は、警備業法上の欠格事由に当たることになった場合に終了する内容になっていたため、契約が終わり、退職することになりました。
判決は、最高裁判所大法廷 令和8年2月18日判決(令和5年(オ)第360号、同年(受)第445号)です。
判決の結論①|改正前の規定は憲法に違反するに至っていた
判決は、令和元年の改正前の警備業法14条・3条1号のうち、被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めた部分は、平成29年3月の時点において、憲法22条1項と14条1項に違反するに至っていた、と判断しました。
最高裁が示したのは、少なくとも平成29年3月の時点では、この規定が憲法に違反するに至っていたということです。規定が設けられた当初の合憲性について判断したものではありません。判決は、障害者の権利に関する条約の批准やこれに伴う国内法の整備などが積み重なり、障害者を取り巻く社会や国民の意識が徐々に変化して、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきだという考え方が確立したことなどを挙げています。
ここでの結論は、あくまで改正前の規定について、平成29年3月の時点を基準にしたものです。
判決の結論②|国への賠償は認められなかった
一方で判決は、国会が平成29年3月の時点までにこの規定を改めたり廃止したりする立法措置をとらなかったことについて、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない、と判断しました。国に対する賠償の請求は、認められていません。
判決は、その理由として次のような事情を挙げています。
- 社会や国民の意識の変化は、外から見て分かる形の事実として観察できるものではなく、容易に読み取れるものではなかったこと
- 当時、規定の見直しの必要性は指摘されていたものの、憲法上の問題があることを理由とするものではなく、憲法上の問題があるとする学説もほとんどなかったこと
- 規定は統一的な見直しの方針のもとで、令和元年中に削除されるに至っていること
憲法に違反するに至っていたという判断と、国に賠償を求められるかどうかは、別々に判断されています。
令和元年の一括整備法で何が変わったか
成年被後見人・被保佐人を理由とする欠格条項を見直した法律は、「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」です。判決はこれを「一括整備法」と呼んでいます。令和元年6月7日に成立し、同月14日に公布されました(令和元年法律第37号)。
政府の資料では、この法律は、成年被後見人・被保佐人の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、欠格条項などの適正化を図るものと説明されています。
法律全体の方針は、資格・職種・業務などから一律に排除する規定を設けている制度について、心身の故障などの状況を個別的・実質的に審査し、制度ごとに必要な能力の有無を判断する規定(個別審査規定)へと適正化する、というものです。ただし、これは法律全体の方針です。個々の資格や職業でどのような規定になっているかは、制度ごとに異なります。
判決の事案で問題になった警備業法の規定も、この改正で削除されました。
いまの警備業法はどうなっているか
警備業法については、事情が少し異なります。改正で削除されたのは、被保佐人であることだけを理由とする一律の欠格規定です。一方で、心身の障害の状況を個別にみる規定は、この改正の前から設けられていました。
現在の警備業法3条7号は、「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」を定めています。そして14条は、これに当たる人は警備員となってはならない、としています。
判決によると、警備業法を所管する警察庁は、平成30年2月に、成年被後見人等を警備員の欠格事由とする規定の削除について政策評価を行い、心身の障害がある人の適格性を個別的・実質的に審査する7号の規定がすでに設けられているため、特段の影響は想定されないと評価していました。
つまり、いまの警備業法では、保佐を受けていること自体ではなく、心身の障害によって警備業務を適正に行うことができるかどうかが、規則にもとづいて個別に審査される形になっています。
2026年の成年後見制度の改正とは別の話です
この記事で扱っているのは、令和元年(2019年)の一括整備法と、その前の規定についての判決です。
2026年6月には、成年後見制度を見直す改正法が成立・公布されました。法務省は、この改正の内容として、後見と保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化し、本人にとって必要な範囲で利用できるようにすることなどを挙げています。ただし、成年後見制度の見直しに関する部分は、2026年9月現在まだ施行されていません。年が近いので混同されやすいのですが、この記事で扱う令和元年の一括整備法とは、別の改正です。2026年の見直しの内容は2026年改正で成年後見制度はどう変わる?家族が知っておきたい5つのポイントの記事と、成年後見は「必要な範囲で使う」制度への記事で説明しています。
この判決が判断していないこと
判決が判断したのは、改正前の警備業法のうち、被保佐人であることを警備員の欠格事由としていた部分についてです。次のことは、この判決では判断されていません。
- いまの警備業法の規定(3条7号)が憲法に適合するかどうか
- ほかの法律に置かれている個別の規定が憲法に適合するかどうか
- 成年被後見人についての判断(この裁判で問題になったのは被保佐人の部分です)
- 個々の人が、資格や仕事を失うかどうか
⚠ いまの制度が違憲と判断されたわけではありません
判決が違憲と判断したのは、令和元年の改正前の警備業法のうち、被保佐人を警備員の欠格事由としていた部分です。いまの規定や、ほかの資格・職業の規定について判断したものではありません。
後見・保佐を考えている方が確認しておきたいこと
成年被後見人・被保佐人であることを理由に一律に外す規定は、令和元年中に削除されました。ただし、資格や職業によっては、心身の状態などを個別にみる規定が置かれている場合があります。後見や保佐を使うことで、お持ちの資格や仕事に何らかの手続きが必要になるかどうかは、制度ごとに異なります。
- 資格・許認可上の取扱いは、その資格や制度を所管する機関の案内を確認する
- 勤務上必要な手続きがあるかは、勤務先に確認する
- 個別の法的判断が必要な場合は、弁護士に相談する
後見や保佐を使うかどうかを考える段階であれば、任意後見と法定後見の違いから整理しておくと判断しやすくなります。制度の違いは任意後見と法定後見の違いの記事、相続の手続きの中で後見が必要になる場面は相続人に認知症の人がいるときの記事、元気なうちにできる備えは認知症になる前にやるべき相続対策の記事で説明しています。
行政書士に相談できること
行政書士は、権利義務に関する書類の作成を業務としています。後見・保佐に関連しては、次のようなお手伝いができます。
- 任意後見契約の文案の作成(契約は公正証書で結ぶ必要があり、公正証書を作成するのは公証人です)
- 制度の一般的な説明と、状況に応じた相談先の整理
後見開始・保佐開始の申立ては、ご本人や親族などが行うこともできます。家庭裁判所へ提出する書類の作成を専門家に依頼する場合は司法書士または弁護士、申立ての代理を専門家に依頼する場合は弁護士へ相談します。当事務所では、裁判所提出書類の作成や申立代理は行っていません。また、資格や仕事への影響について個別の法的判断が必要な場合は、弁護士へご相談ください。
まとめ
最高裁の判決は、いまの制度ではなく、改正前の規定についての判断です。
- 違憲と判断されたのは、令和元年の改正前の警備業法のうち、被保佐人を警備員の欠格事由としていた部分で、平成29年3月の時点についての判断です
- 国への賠償は認められていません
- 成年被後見人・被保佐人を理由とする一律の欠格条項は、令和元年中に削除されました
- 警備業法では、心身の障害の状況を個別にみる規定が、改正の前から設けられており、いまも残っています
- いまの制度や、個々の資格・仕事への影響を判断した判決ではありません。心配なときは、資格の取扱いは所管機関、勤務上の手続きは勤務先に確認し、個別の法的判断が必要なら弁護士に相談しましょう
後見や保佐は、ご本人の暮らしと財産を守るための制度です。仕事や資格のことも含めて、分からないことを一つずつ確かめながら、ご本人に合った備えを選ぶことが大切です。
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