※この記事は2026年7月時点の制度に基づく一般的な解説です。成年後見制度については、2026年6月に見直しの改正法が成立・公布されていますが、施行は公布の日から2年6か月以内の政令で定める日とされており、2026年7月時点では現行制度が続いています。個別の事情に応じた制度選択は、専門家にご相談ください。

「親が認知症になったら、実家や預金はどうなるのだろう」——そう考えたことはありませんか。判断能力が低下すると、本人名義の不動産を売ったり、預金を下ろしたりといった手続きが、本人にも家族にもできなくなることがあります。いわゆる「資産凍結」です。

この資産凍結に備える制度が、大きく分けて「成年後見(法定後見・任意後見)」と「家族信託」です。それぞれ目的も仕組みも異なり、どれが自分の家庭に合うかはご家族の状況によって変わります。この記事では、3つの制度を横断的に比較し、「わが家にはどれが向くのか」を考えるための入口として、川崎の行政書士がやさしく整理します。各制度の詳しい仕組みは、それぞれの個別記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。

なお、ここでいう相続対策は、相続税の対策だけを指すものではありません。認知症による資産凍結を防ぎ、将来の財産管理や手続きをスムーズにするための「生前対策」を広く含みます。


目次

  1. なぜ「認知症になる前」の備えが重要なのか
  2. 認知症に備える3つの制度の全体像
  3. 3つの制度をひと目で比較
  4. どんな人に、どの制度が向いているか
  5. 制度は組み合わせられる
  6. 成年後見制度の最新動向(2026年改正)
  7. 対策を始めるタイミングと進め方
  8. うりずんに相談できること
認知症に備える任意後見・法定後見・家族信託の3制度を比較し、家庭に合った組み合わせを相談員と選ぶ親子のイラスト
資産凍結の不安から、3つの制度を比較し、家庭に合った備えを専門家と選ぶまでの流れ

なぜ「認知症になる前」の備えが重要なのか

認知症対策で最も大切なのは、「時間軸」です。判断能力があるうちと、低下した後とでは、選べる制度が大きく変わります。

判断能力があるうちなら、任意後見・法定後見・家族信託という複数の選択肢の中から、家庭の事情に合ったものを選べます。ところが、判断能力がすでに大きく低下してしまった後は、本人が新たに契約を結ぶこと自体が難しくなります。任意後見契約や家族信託は、いずれも本人が契約を結ぶ必要があるため、判断能力が十分でなくなると新たに始めることが難しく、法定後見制度を検討する場面が多くなります。

つまり、「元気なうちにしか選べない制度」があるということです。実家の売却や預金の管理といった重要な手続きを、いざというときに家族が動かせず困る——そうした事態を避けるためにも、判断能力があるうちに備えを整理しておくことが大切です。


認知症に備える3つの制度の全体像

まず、3つの制度がそれぞれ「どんな制度か」を大まかに押さえておきましょう。細かい違いは、次の比較表で整理します。

法定後見は、判断能力が低下した後に、家庭裁判所へ申し立てて後見人等を選任してもらう制度です。本人の判断能力の程度に応じて「後見・保佐・補助」の3つの類型に分かれ、選ばれた後見人等が財産管理や契約などを支援・代理します。

任意後見は、判断能力があるうちに、「将来、判断能力が低下したら、この人に、こういうことを任せたい」という内容をあらかじめ契約で決めておく制度です。契約しただけでは効力は生じず、実際に判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してはじめて効力が生じます。

家族信託(民事信託)は、自分の財産の管理・処分を、信頼できる家族などに託しておく契約です。契約の時点から効力が生じ、認知症などで判断能力が低下した後も、受託者となった家族が、信託財産に入れた財産について、契約で定めた範囲で管理し続けられます。家族信託の詳しい仕組みは、別の記事でくわしく解説しています。

このように、3つの制度は「いつ始めるか」「誰が担うか」「何を任せられるか」がそれぞれ異なります。次に、主な違いを表で見てみましょう。


3つの制度をひと目で比較

3つの制度の主な違いを、8つの視点で整理しました。ご家庭の状況を思い浮かべながらご覧ください。

比較する視点法定後見任意後見家族信託
始められる時期判断能力が低下した後元気なうちに契約(効力は低下後)元気なうちに
効力が生じる要件家庭裁判所の後見開始等の審判家庭裁判所が任意後見監督人を選任して発効契約を結んだ時から
財産管理の範囲本人の財産管理全般(類型により範囲は異なる)契約で定めた範囲信託財産に入れた財産のみ
身上監護対象になる対象になる対象外(財産管理が中心)
取消権あり(日常生活に関する行為を除く。類型により範囲あり)なしなし
監督家庭裁判所・後見監督人(選任される場合あり)任意後見監督人(必須)任意(信託監督人を置くこともできる)
費用の構造申立費用のほか、専門職後見人等が選任された場合は継続的な報酬が生じ得る契約時の費用のほか監督人の報酬等初期の設計・契約費用が中心(構造が異なる)
向いている人すでに判断能力が低下している元気で、財産管理も身上監護も託したい元気で、不動産の管理や承継の設計をしたい

表の中でも、特に押さえておきたいのが「取消権」です。法定後見では、本人(成年被後見人)が行った法律行為を、日常生活に関する行為を除いて、後から取り消すことができます。判断能力が低下した本人が不利な契約を結んでしまったとき、それを取り消せるのは大きな保護になります。ただし、取消権の範囲は後見・保佐・補助の類型によって異なります。一方、任意後見と家族信託には、法定後見のような取消権はありません。

任意後見と法定後見の違いについては、別の記事でさらにくわしく解説しています。あわせてご覧ください。


どんな人に、どの制度が向いているか

比較表だけでは、自分の家庭にどれが合うか判断しづらいものです。よくあるケースごとに、考え方の目安を整理します。あくまで一般的な目安であり、実際の選択はご家庭の事情によって変わります。

すでに判断能力が大きく低下している場合は、本人が新たに契約を結ぶことが難しいため、法定後見制度を検討する場面が多くなります。遺産分割や施設入所の契約など、判断能力が必要な手続きが今まさに必要なときは、この制度が中心になります。

元気で、財産管理だけでなく身上監護も託したい場合は、任意後見が候補になります。「将来、判断能力が低下したら、財産の管理も、施設入所や医療の契約も、この人にお願いしたい」という希望を、あらかじめ契約に反映できます。

元気で、実家などの不動産管理や、次世代への承継の設計をしたい場合は、家族信託が候補になります。ただし、家族信託で管理できるのは、信託契約で信託財産に入れた財産だけです。信託していない財産や、介護・医療の契約などの身上監護はカバーしません。この点は、家族信託を検討するうえで必ず押さえておきたいポイントです。

頼れる家族が身近にいないおひとりさまの場合は、家族信託は主役になりにくい制度です。家族信託は、財産の管理を託せる「信頼できる受託者」がいることが前提になるためです。おひとりさまの場合は、任意後見・死後事務委任・身元保証などを組み合わせる方が、現実的な備えになることがあります。


制度は組み合わせられる

3つの制度は、「どれか一つを選ぶ」だけでなく、組み合わせて使うこともできます。制度ごとに得意な領域が違うため、足りない部分を補い合う形が有効な場合があります。

ここで大切なのが、家族信託がカバーしない「身上監護」の考え方です。身上監護とは、介護そのものを行うことではなく、施設への入所、介護サービスの利用、医療・入院に関する契約や手続きなどを支えることをいいます。これは後見制度が担う領域で、家族信託の対象ではありません。だからこそ、財産管理は家族信託、身上監護は後見で、という組み合わせが考えられます。

代表的な組み合わせを挙げます。

  • 任意後見+家族信託:不動産の管理や承継は家族信託で行い、身上監護や信託に入れなかった財産の管理は任意後見で補う。
  • 任意後見+死後事務委任:判断能力が低下した後の財産管理や契約は任意後見で、亡くなった後の葬儀・納骨・各種手続きは死後事務委任で担う。
  • おひとりさま+身元保証+任意後見+死後事務:入院・施設入所の身元保証、生前の財産管理、亡くなった後の手続きを、それぞれの仕組みで役割分担する。

こうした組み合わせは、財産の内容や家族の状況によって最適な形が変わります。うりずんでは、Officeうりずん(行政書士・社会保険労務士)が制度選びの整理や契約書作成のサポートを、一般社団法人いきいきライフ協会川崎南が身元保証や死後事務の実務を担う二者体制で、こうした組み合わせをご一緒に整理しています。


成年後見制度の最新動向(2026年改正)

成年後見制度については、2026年に大きな見直しの改正法が成立しました。制度選びに関わる話なので、要点だけ触れておきます。

2026年6月、成年後見制度を見直す改正法が成立・公布されました。「後見・保佐・補助」の3つの類型を「補助」に一本化し、必要な範囲・必要な期間だけ利用できる仕組みへと見直される方向です。これまで「一度始めると終わりにくい」と指摘されてきた点を改める内容です。

ただし、改正法が成立・公布されても、すぐに新しい制度が使えるわけではありません。施行は公布の日から2年6か月以内の政令で定める日とされており、2026年7月時点では、まだ現行の制度が続いています。制度の切り替え期だからこそ、判断能力があるうちにできる生前対策を早めに整理しておくことが、将来の選択肢を守ることにつながります。

改正の具体的な内容や今後のスケジュールについては、別の記事でくわしく整理しています。


対策を始めるタイミングと進め方

認知症対策で共通して言えるのは、「元気なうちに始める」ことが何より大切だということです。任意後見も家族信託も、本人が契約を結ぶ必要があるため、判断能力があるうちでなければ選べません。

進め方の目安は、次のような流れです。まず、ご家族で「もしものとき、誰に、何を任せたいか」を話し合い、希望を整理します。次に、家庭の状況(財産の内容、不動産の有無、頼れる家族の有無など)を踏まえて、どの制度が合いそうかを検討します。そのうえで、専門家に相談しながら、必要な契約書の作成や手続きを進めていきます。

費用については、制度や財産の内容によって大きく変わります。制度ごとに費用の構造が異なり、一律ではないため、実際に見積もりを確認しながら比較することが大切です。「何にいくらかかるのか」を早い段階で把握しておくと、安心して準備を進められます。


うりずんに相談できること

「わが家にはどの制度が合うのか分からない」「元気なうちに、何か備えておきたい」——そうしたお悩みは、認知症対策の第一歩です。

相続のお手続きでお困りの方へ

うりずん相続手続き相談室では、制度選びの段階からのご相談、ご家族の状況の整理、任意後見契約書や家族信託の契約書案の作成サポートなど、行政書士・社会保険労務士として対応できる手続きを中心にお手伝いしています。判断能力が低下した後の法定後見の申立てや、相続税申告、権利関係に争いがある場合などには、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携して対応します。また、身元保証や死後事務の実務は、一般社団法人いきいきライフ協会川崎南が担う二者体制で、生前から亡くなった後までを見据えたサポートを行っています。

川崎・横浜エリアを中心に、初回のご相談は60分無料・土日祝もご予約可能・秘密厳守・お問い合わせには翌営業日までにご返信しています。お電話・LINE・お問い合わせフォームから、お気軽にご連絡ください。

認知症の備えは、早く始めるほど選べる制度が広がります。「まだ元気だから」と先延ばしにせず、選択肢があるうちに、一度ご家庭の状況を整理してみませんか。まずはお気軽にご相談ください。


まとめ

認知症による資産凍結に備える制度には、法定後見・任意後見・家族信託があります。それぞれ「始められる時期」「任せられる範囲」「担い手」が異なり、どれが優れているというものではなく、家庭の状況に応じた使い分けが大切です。

特に押さえておきたいのは、任意後見も家族信託も、本人が元気なうちにしか始められないという点です。判断能力が低下してからでは、選べる制度が法定後見に限られてきます。家族信託は信託財産に入れた財産だけが対象で、身上監護はカバーしないこと、法定後見には取消権という保護があることも、制度選びのポイントになります。

「わが家に合う備えは何か」を考えることが、将来の安心につながります。選択肢があるうちに、ご家族で話し合い、必要に応じて専門家に相談してみてください。