※この記事は2026年7月時点の税制に基づく一般的な解説です。生前贈与に関する贈与税・相続税は、2024年1月1日以後の贈与から改正内容が適用されています。暦年課税の生前贈与加算期間の延長は、相続開始時期によって適用関係が異なります。具体的な税額計算、有利不利の判定、贈与税・相続税の申告は税理士の専門業務です。個別のケースは税理士にご相談ください。最新情報は国税庁の公表資料をご確認ください。

「元気なうちに、子や孫へ少しずつ財産を渡しておきたい」——そう考えたとき、多くの方が思い浮かべるのが生前贈与です。うまく使えば相続税の負担を軽くできる一方で、2024年の改正で使い方のルールが変わり、やり方を間違えると「思ったほど節税にならない」「あとで税務トラブルになる」ということも起こります。

特に、「毎年110万円までなら非課税」という話は有名ですが、2024年1月からは、この暦年贈与の相続税への持ち戻し(加算)ルールが大きく変わりました。一方で、もうひとつの「相続時精算課税」という制度は使いやすくなり、選択肢が広がった分、どちらを選ぶかの判断が難しくなっています。

この記事では、生前贈与が相続税対策になる仕組みと、2024年改正で変わったポイント、暦年課税と相続時精算課税の違い、そして「やりがちな失敗」までを、川崎の行政書士がやさしく整理します。なお、具体的にどちらの制度が有利かの判定や税額の計算は税理士の専門業務ですので、本記事は全体像をつかむための一般的な解説としてお読みください。


目次

  1. 生前贈与とは?相続税対策になる仕組み
  2. 2024年の改正で何が変わった?
  3. 暦年課税(年110万円贈与)の仕組みと「7年ルール」
  4. 相続時精算課税(2,500万円+新・110万円)の仕組み
  5. 暦年課税と相続時精算課税の違いを比較|有利不利は税理士へ
  6. 生前贈与でやりがちな失敗
  7. 生前贈与を始める前に確認すること
  8. うりずんに相談できること
生前贈与の非課税枠と注意点を知り、税理士と連携して計画的に贈与を始める親子の様子
生前贈与を考えてから、税理士と連携して計画的に始めるまでの流れ

生前贈与とは?相続税対策になる仕組み

生前贈与とは、生きているうちに、自分の財産を子や孫などに無償で渡すことをいいます。渡した分だけ将来の相続財産が減るため、相続税がかかる規模のご家庭では、相続税の負担を軽くする一手になり得ます。

ただし、財産をただ渡せばよいわけではありません。贈与を受けた側には、原則として贈与税がかかる場面があります。贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの課税方法があり、どちらを使うか、どう使うかによって、税負担も相続税対策としての効果も変わってきます。

なお、そもそもご自身に相続税がかかる規模なのかは、生前贈与を考える前に確認しておきたいポイントです。相続税には基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があり、財産がこの範囲内なら相続税はかかりません。相続税がかかるかどうかの目安は別の記事でも解説しています。


2024年の改正で何が変わった?

生前贈与をめぐっては、2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から、税制改正の内容が適用されています。大きなポイントは次の2つです。

ひとつは、暦年課税の「生前贈与加算」の期間が、従来の相続開始前3年から、段階的に7年へ延長されたことです。これにより、亡くなる前の一定期間内に暦年贈与で渡した財産が、より長い期間さかのぼって相続税の計算に加算されるようになりました(延長された4年分については、合計100万円まで加算対象から控除されます)。

もうひとつは、相続時精算課税に、年110万円の基礎控除が新たに設けられたことです。この年110万円以下の贈与は、贈与税がかからず申告も不要で、しかも相続時に相続財産へ加算する必要もありません。これにより、相続時精算課税はぐっと使いやすくなりました。

なお、よく「110万円贈与は廃止された」と誤解されますが、それは正しくありません。暦年課税の年110万円の基礎控除は、これまでどおり残っています。変わったのは、あくまで相続時にさかのぼって加算する期間などのルールです。


暦年課税(年110万円贈与)の仕組みと「7年ルール」

暦年課税は、1年間(1月1日〜12月31日)に受け取った贈与の合計が110万円以下であれば、贈与税がかからず申告も不要という、もっともシンプルな方法です。この基礎控除を使い、毎年少しずつ贈与して相続財産を減らしていく、いわゆる「暦年贈与」は、相続税対策の基本としてよく使われてきました。

ここで注意したいのが「生前贈与加算(持ち戻し)」です。相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人から相続開始前の一定期間内に暦年課税で贈与を受けていた場合、その贈与財産は相続税の課税価格に加算されます。この加算対象期間が、2024年1月1日以後の贈与から、段階的に最長7年へ延びていきます。

とりわけ誤解が多いのが、「110万円までなら絶対に相続税と関係ない」という思い込みです。暦年課税の110万円基礎控除は残っていますが、相続開始前の一定期間内の贈与は、110万円以下で贈与税の申告をしていないものでも、相続税の計算上は加算対象になる場合があります。「非課税だから関係ない」とは限らない、という点は押さえておいてください。

もうひとつ、加算期間は一気に7年へ変わるのではなく、2024年1月1日以後の贈与から段階的に延びていきます。2031年以降の相続では、2024年以後の贈与が7年分そろうため、7年ルールの影響が本格的に出てくると考えると分かりやすいでしょう。いずれにせよ、暦年贈与は早いうちから計画的に始めるほど効果が出やすい、という性格は変わりません。


相続時精算課税(2,500万円+新・110万円)の仕組み

相続時精算課税は、原則として、贈与の年の1月1日時点で60歳以上の父母・祖父母などから、18歳以上の子・孫などへの贈与に使える制度です(正確には、受贈者は贈与者の直系卑属である推定相続人または孫が対象です)。累計2,500万円までの特別控除があり、これを超える部分には一律20%の贈与税がかかります。贈与時にまとめて渡しやすい一方、相続時には、この制度で贈与した財産を相続財産に合算して相続税を計算する(精算する)のが基本の仕組みです。

2024年1月1日以後は、これに加えて、特定贈与者ごとに年110万円の基礎控除が設けられました。この年110万円以下の部分は、贈与税がかからず、原則として贈与税申告も不要で、相続時に相続財産へ加算する必要もありません。ただし、相続時精算課税を選択する最初の年には、相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。従来は少額でも申告が必要でしたが、この点が大きく改善されています。

利用にあたって、特に押さえておきたいのは次の3点です。

  • 最初に贈与を受けた年の翌年に、「相続時精算課税選択届出書」を税務署へ提出する必要があります。
  • 一度この制度を選ぶと、その贈与者からの贈与について、あとから暦年課税に戻すことはできません。
  • 年110万円の基礎控除分は、贈与税の申告が不要で、相続時の加算も不要です。

「戻せない」制度なので、選ぶ前に、暦年課税とどちらが自分に合うかを慎重に検討することが大切です。


暦年課税と相続時精算課税の違いを比較|有利不利は税理士へ

2つの制度の主な違いを整理すると、次のようになります。ただし、どちらが有利かは、相続税がかかるかどうか、財産の内容、相続人の構成、贈与者の年齢などによって大きく変わります。具体的な有利不利の判定は、税理士によるシミュレーションが必要です。

項目暦年課税(暦年贈与)相続時精算課税
非課税枠年110万円(基礎控除)累計2,500万円(特別控除)+年110万円(2024年新設の基礎控除)
対象者制限なし(誰への贈与でも可)60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫などへ
相続時の加算相続開始前の一定期間(段階的に最長7年)の贈与を加算。延長された4年分は総額100万円を控除年110万円の基礎控除後の残額が相続財産に加算される
申告・届出年110万円以下は申告不要最初の適用時に「相続時精算課税選択届出書」が必要。基礎控除内は原則申告不要
変更毎年選べる一度選ぶと、その贈与者からは暦年課税に戻せない
検討されるケース早くから長期でコツコツ贈与したい/相続人以外(孫など)へ渡したいまとまった額を一度に渡したい/値上がりが見込まれる資産などで検討されることがある

なお、孫への贈与については注意が必要です。暦年課税の生前贈与加算は、基本的に「相続または遺贈で財産を取得した人」が対象です。そのため、孫が相続や遺贈で財産を取得しない場合には、生前贈与加算の対象外となることがあります。ただし、孫が遺言で財産を受け取る場合や、代襲相続人になる場合などは扱いが変わるため、「孫なら必ず7年ルールの対象外」と考えず、税理士に確認してください。


生前贈与でやりがちな失敗

生前贈与は、手続きや記録の残し方を誤ると、「贈与したつもりが認められない」「かえって税負担が増える」ことがあります。よくある3つの失敗を知っておきましょう。

ひとつめは「名義預金」です。子や孫の名義の口座にお金を入れていても、その通帳や印鑑を親が管理し、本人が自由に使える状態になっていない場合、贈与が成立していないとみなされ、相続財産に含まれてしまうリスクがあります。「あげた・もらった」の合意と、受け取った側が自分で管理・使用できる状態が大切です。

ふたつめは「定期贈与」です。毎年同じ時期に同じ額を渡し続けると、最初からまとまった額を贈与する約束があったとみなされ、総額に対して課税されるリスクが指摘されることがあります。ただし、毎年その都度、贈与の意思を確認し、契約を結び、受領・管理がされていれば、直ちに否認されるわけではありません。ここは断定できない部分なので、心配な場合は専門家に相談するのが安心です。

みっつめは「不動産の生前贈与」です。不動産を生前に贈与すると、登録免許税・不動産取得税・登記費用がかかり、相続で取得していれば使えたかもしれない小規模宅地等の特例との比較も必要になります。税負担の見比べは税理士、名義変更の登記は司法書士と、それぞれの専門家の関わりが必要になる場面です。


生前贈与を始める前に確認すること

生前贈与を検討するときは、いきなり贈与を始める前に、次の点を整理しておくと失敗が減ります。

まず、そもそもご自身に相続税がかかる規模なのかを確認します。相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の範囲内なら相続税はかからないため、相続税対策としての生前贈与は必ずしも必要ありません。目的が「節税」なのか「早めに子や孫を支援したい」のかを整理すると、選ぶべき制度も見えてきます。

次に、贈与をした事実を残すことです。いつ・誰が・誰に・いくら贈与したのかを、贈与契約書などの形で記録しておくと、名義預金や定期贈与と疑われるリスクを減らせます。特に暦年贈与では、この「記録」が後々の安心につながります。

そして、暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かは、財産や家族構成によって変わり、相続時精算課税は一度選ぶと戻せません。判断を誤らないためにも、税額の試算や制度選びは、早めに税理士へ相談することをおすすめします。


うりずんに相談できること

うりずん相続手続き相談室では、行政書士として、贈与契約書の作成サポート、生前対策の段取り整理、必要書類の整理、終活全般の入口相談をお手伝いします。「そもそも生前贈与をした方がいいのか」「何から準備すればいいのか」という段階から、一緒に整理していきます。

贈与税・相続税の計算、有利不利のシミュレーション、申告は、提携する税理士と連携して進めます。不動産の名義変更が必要な場合は司法書士、相続人間に争いがある場合は弁護士へおつなぎします。税務の判断は税理士に、書類づくりと段取りはうりずんに——という形で、川崎・横浜エリアの皆さまの生前対策を、無理のないところから一緒に始めましょう。


まとめ

  • 生前贈与は、相続財産を減らして相続税の負担を軽くする一手になり得ますが、贈与税との兼ね合いや制度の使い方が重要です。
  • 2024年1月以後の贈与から、暦年課税の生前贈与加算が段階的に最長7年へ延長され、相続時精算課税には年110万円の基礎控除が新設されました。
  • 暦年課税の年110万円の基礎控除は廃止されていません。ただし、相続開始前の一定期間内の贈与は、110万円以下・申告なしでも相続税の計算上は加算対象になる場合があります。
  • 加算期間は段階的に延び、7年分がフルに対象となるのは2031年以降の相続からと考えると分かりやすいです。
  • 相続時精算課税は、届出が必要・一度選ぶと暦年課税に戻せない・年110万円の基礎控除分は申告不要かつ相続時加算不要、の3点が要注意です。
  • 名義預金・定期贈与・不動産贈与といった失敗を避け、贈与の記録を残すことが大切です。
  • どちらの制度が有利かの判定や税額計算・申告は税理士の専門業務です。制度の全体像の整理や書類づくりは、お気軽にうりずんにご相談ください。