本記事は2026年7月時点の公表情報をもとに作成しています。制度の運用や必要書類は変更される可能性があるため、最新情報は法務省・法務局の案内をご確認ください。
「親が亡くなったけれど、どこに不動産を持っていたのか分からない」——相続の現場で、とても多いお悩みです。自宅は分かっても、遠方の田畑や山林、昔購入した別荘地などは、家族も把握していないことがあります。固定資産税の通知書だけでは、その市区町村内の不動産しか分からず、全国の不動産を漏れなく把握するのは大変でした。
こうした悩みに応える新しい制度が、2026年(令和8年)2月2日から始まった「所有不動産記録証明制度」です。この記事では、この制度で何ができるのか、どう使うのか、そして知っておきたい限界まで、行政書士の視点からやさしく解説します。
目次
- 所有不動産記録証明制度とは?|2026年2月に始まった新制度
- なぜこの制度ができたのか|相続登記義務化と登記漏れ防止
- 誰が請求できる?|本人・相続人・代理人に限定
- 請求方法・手数料・必要書類
- 利用するときの注意点|わかること・わからないこと
- 相続手続きの中でどう活用するか
所有不動産記録証明制度とは?|2026年2月に始まった新制度
所有不動産記録証明制度とは、亡くなった方などが「所有権の登記名義人」として登記簿に記録されている不動産を、法務局(登記官)が検索し、一覧的にリスト化した証明書として交付する制度です。2026年(令和8年)2月2日から始まりました。
これまで、不動産の登記記録は土地や建物ごとに作られており、「特定の人が全国にどのような不動産を所有しているか」を一度に把握する仕組みはありませんでした。そのため、相続人は固定資産税の通知書、名寄帳、権利証、過去の郵便物などを手がかりに、不動産を一つずつ調べる必要がありました。
この制度を使うことで、登記簿上、被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、全国横断で確認しやすくなります。ただし、未登記建物や、登記上の氏名・住所と検索条件が一致しない不動産は抽出されないことがあるため、名寄帳や登記事項証明書などとあわせて確認することが大切です。
🌱 登記された所有不動産を、全国横断で確認しやすくなりました
これまで市区町村ごとにバラバラに調べる必要があった不動産の調査が、法務局への請求で一覧化できるようになりました。「親が遠方に持っていた土地に気づかず、相続登記が漏れていた」といった事態を防ぎやすくなります。ただし、これは登記簿上、所有権の登記名義人として記録されている不動産を検索する制度です。未登記の建物や、登記上の氏名・住所が一致しない不動産は抽出されないことがあるため、「これ一つで全国の不動産がすべて漏れなく分かる」わけではない点に注意しましょう。
なぜこの制度ができたのか|相続登記義務化と登記漏れ防止
この制度は、2024年(令和6年)4月から始まった「相続登記の義務化」と同じ法改正の流れで生まれました。
相続登記が義務化され、相続により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければならなくなりました(正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になることがあります)。しかし、そもそも「どこに不動産があるか」を相続人が把握できなければ、登記のしようがありません。把握漏れがあると、その不動産だけ登記されないまま放置され、いわゆる「所有者不明土地」が生まれてしまいます。
そこで、相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくして、登記漏れを防ぐために、この所有不動産記録証明制度が創設されました。相続登記義務化を支える環境整備策の一つ、という位置づけです。
相続登記の義務化そのものについては、別の記事でも解説する予定です。あわせて、相続手続き全体の中で不動産の名義変更がどう位置づけられるかは、次の記事も参考になります。
誰が請求できる?|本人・相続人・代理人に限定
不動産の所有情報は、極めて重要な個人情報・プライバシーにあたります。そのため、この制度で証明書を請求できる人は、法律で厳格に限定されています。
請求できるのは、次の方に限られます。
- 所有権の登記名義人本人(法人を含む)
- その相続人その他の一般承継人(法人を含む)※一般承継人とは、相続や法人の合併などにより権利義務を包括的に引き継ぐ人・法人をいいます。通常の相続では、主に相続人をイメージすれば十分です。
- 上記の方から委任を受けた代理人(委任状が必要)
つまり、赤の他人が自由に誰かの所有不動産を調べられる制度ではありません。相続の場面では、相続人が「亡くなった親(被相続人)」名義の不動産を調べる、という使い方が中心になります。行政書士などの専門家が、相続人から委任を受け、相続手続きに必要な書類収集・確認の一環としてサポートすることも考えられます。ただし、相続登記の申請代理は司法書士の業務となるため、登記申請が必要な場合は司法書士と連携して進めます。
なお、被相続人が不動産を単独で所有している場合だけでなく、共有持分だけを持っている場合でも、所有権の登記名義人として記録されていれば抽出の対象になります。ただし、持分割合や権利関係の詳細までは分からないため、個別の登記事項証明書で確認する必要があります。
請求方法・手数料・必要書類
請求できる場所
全国どの法務局・地方法務局でも請求できます。不動産の所在地を管轄する法務局でなくてもかまいません。請求方法は、窓口・郵送・オンラインの3通りです。
手数料(検索条件1件・1通あたり)
| 請求方法 | 手数料(1件・1通あたり) |
|---|---|
| 書面請求(窓口・郵送) | 1,600円 |
| オンライン請求・郵送で受取 | 1,500円 |
| オンライン請求・窓口で受取 | 1,470円 |
検索条件(氏名・住所の組み合わせ)が増えると、その分手数料も加算されます。たとえば引越しなどで旧住所も検索したい場合は、条件が増えるため、条件数×手数料がかかります。
必要書類(主なもの)
必要書類は、本人が請求する場合・相続人が請求する場合・代理人が請求する場合、また窓口・郵送・オンラインの別によって異なります。以下は主な書類です。実際に請求する際は、最新の法務省・法務局の案内で確認してください。
- 交付請求書(法務省所定の様式)に実印を押印
- 印鑑証明書(発行期限の定めはありません)
- 本人確認書類の写し(書面請求の場合。窓口では原本提示も)
- 過去の氏名・住所を検索条件にする場合は、それを証する戸籍・住民票の写しなど
- 相続人が請求する場合は、相続関係が分かる戸籍等
- 代理人が請求する場合は、委任状
✅ 請求前に確認しておきたいことチェックリスト
- 請求できる立場か(本人・相続人・代理人か)
- 被相続人の氏名と、登記されている当時の住所が分かるか
- 引越し・結婚などで氏名や住所が変わっていないか(旧氏名・旧住所も検索条件に)
- 印鑑証明書と実印の準備
- 本人確認書類の準備
- 相続関係が分かる戸籍等(相続人が請求する場合)
⚠ 交付まで時間がかかる場合があります
制度開始当初は請求が混み合い、交付まで2週間程度かかる場合があると案内されています。相続税の申告(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)など、期限のある手続きに使う場合は、余裕をもって早めに請求しましょう。
利用するときの注意点|わかること・わからないこと
とても便利な制度ですが、「これ一つで全国の不動産がすべて完璧に分かる」わけではありません。仕組み上の限界を知っておくことが大切です。
⚠ この制度でわからないこと・抽出されない不動産があります
- 登記上の氏名・住所が一致しないと抽出されません。検索は「氏名」と「住所」で行うため、結婚で名字が変わっている、引越し後に住所変更登記をしていない、といった場合、その不動産は一覧に出てこないことがあります。
- 未登記の建物や、表示に関する登記だけの不動産は対象外です。証明されるのは、所有権の登記がされている不動産に限られます。
- 記載されるのは所有権の情報のみです。抵当権などの担保がついているかどうかは、この証明書では分かりません。確認するには、別途その不動産の登記事項証明書を取得する必要があります。
こうした限界があるため、より確実に財産を把握するには、市区町村ごとの「名寄帳」や、実際の登記事項証明書など、他の資料とあわせて確認するのが安心です。特に、登記上の住所・氏名が現在の情報と食い違っていそうな場合は注意が必要です。2026年4月1日から住所等の変更登記も義務化されていますが、過去の住所変更が未了の不動産が直ちにすべて解消されるわけではありません。そのため、当面は現在の住所・氏名だけでなく、旧住所・旧氏名も検索条件に含めるかどうかを検討することが重要です。
相続手続きの中でどう活用するか
所有不動産記録証明制度は、相続手続きの「入口」で特に役立ちます。相続が始まったら、まず被相続人の財産の全体像を把握することが必要です。預貯金は通帳や郵便物から手がかりを得やすい一方、不動産は所在が分からず調査が止まってしまうことが少なくありません。そんなとき、この制度で不動産の一覧を得ておくと、その後の遺産分割や相続登記がスムーズに進みます。
実務的には、次のような流れで使うことになります。まず所有不動産記録証明書で被相続人名義の不動産をリストアップし、次にそれぞれの不動産について登記事項証明書を取得して権利関係(抵当権など)を確認し、そのうえで遺産分割協議・相続登記へ進む、という順序です。
大切なのは、所有不動産記録証明制度は不動産調査の「入口」として非常に有効ですが、証明書を取得したあとに、相続人調査、遺産分割協議、相続登記、預貯金の解約といった手続きへ進める必要があるということです。証明書を取っただけでは相続は完了しません。取得した情報をもとに、その後の手続きまで見通して進めることが大切です。
証明書を取得した後は、たとえば次のような確認・手続きが必要になります。
- 記載された不動産ごとに登記事項証明書を取得し、権利関係(抵当権など)を確認する
- 固定資産評価証明書・名寄帳で評価額や課税状況を確認する
- 遺産分割協議の対象となる財産に含める
- 相続登記の要否を確認し、必要なら司法書士と連携して申請する
- 相続税の申告が必要な場合は税理士と連携する
相続手続きは、不動産の把握だけでなく、戸籍の収集、遺産分割協議書の作成、預貯金の解約、相続登記など、多くの手続きが連なります。何から手をつければよいか分からないときは、早めに専門家に相談すると、全体を見通して進められます。遺産分割協議書の作成については、次の記事でも解説しています。
まとめ
所有不動産記録証明制度は、2026年2月に始まった、相続の不動産調査を大きく助けてくれる新しい制度です。亡くなった方が所有権の登記名義人として記録されている全国の不動産を、法務局が一覧化して証明してくれるため、「どこに不動産があるか分からない」という相続人の悩みや、相続登記の漏れを防ぎやすくなりました。一方で、登記上の氏名・住所が一致しないと抽出されない、未登記建物は対象外、抵当権などは分からない、といった限界もあります。この制度の強みと限界を理解したうえで、名寄帳や登記事項証明書とあわせて活用することが大切です。
相続のお手続きでお困りの方へ
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