※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。相続税の納税方法や延納・物納を利用できるかどうかは、相続税額、相続財産の内容、納税資金の状況、取得した財産の種類、担保の有無によって一人ひとり異なります。実際のお手続きの前に、税務署、税理士、金融機関、不動産会社、司法書士、土地家屋調査士、または行政書士などの専門家にご確認ください。

相続税の申告と納税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内。そして納税は、原則として現金で一括です。

けれども、相続した財産の大半が不動産だった場合はどうでしょうか。手元に現金がないまま、期限だけが近づいてきます。

こうしたとき、いきなり延納や物納を検討するのは順序が違います。まず、納税資金をどうつくるかを考える。そのうえで、それでも足りない場合に延納、延納でも難しい場合に物納。この順序は法律が定めているものです。

この記事では、相続税の納税資金が足りないときに何から確認していくかを、順を追って整理します。相続人が複数いる場合に見落とされやすい連帯納付義務についても触れます。


目次

  1. 相続税は、期限内に現金で一括が原則
  2. 払えないと分かったら、最初に確認すること
  3. 相続財産から納税資金をつくる|不動産の売却
  4. 延納|分割して納める
  5. 延納の許可には、もうひとつの効果がある
  6. 物納|相続した財産そのもので納める
  7. 延納から物納へ切り替えるとき(特定物納)
  8. 誰に相談するか|税理士・金融機関・不動産会社
相続税は期限内に現金で納めるのが原則であること、他の相続人の分まで請求が来る連帯納付義務があること、まず財産の換金を検討し、それでも足りないときに延納、延納でも難しいときに物納という順序について、行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

相続税は、期限内に現金で一括が原則

相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。納付の期限も同じ日です。

そして納付の方法は、金銭による一括納付が原則です。

期限を過ぎると、延滞税や加算税がかかります。申告期限そのものについては、別の記事で詳しくご案内しています。

⚠ あわせてお読みください
相続税の申告期限と10か月の数え方については、相続税の申告期限と納付|10か月のスケジュールと延滞税を避ける進め方 をご覧ください。

延納も物納も、原則として申告期限までに申請し、税務署長の許可を受ける必要があります。「払えないから、とりあえず放っておく」という選択はありません。期限が近づいてから慌てないよう、財産の内容が分かった段階で見通しを立てておくことが大切です。


払えないと分かったら、最初に確認すること

誰が、いくら納めるのか

相続税は、相続人それぞれが自分の取得した財産に応じて納めます。まず、遺産分割の内容と各自の納税額を確認してください。

このとき見落とされやすいのが、他の相続人が納めなかった場合に自分へ請求が来ることがあるという点です。

連帯納付義務という仕組み

相続税法34条は、同じ相続で財産を取得した人どうしが、互いの相続税について連帯して納付する義務を負うと定めています。

ただし、無制限に負わされるわけではありません。

⚠ 自分が受け取った以上に無限責任を負うわけではありません
連帯納付義務の範囲は、その人が相続によって受けた利益の価額に相当する金額が限度です。自分が受け取った以上の負担を求められる仕組みではありません。

この義務が問題になるのは、たとえば次のような場面です。

  • 相続人の一人が納税資金を用意できないまま、期限を過ぎてしまった
  • 分割協議の後に連絡が取れなくなった相続人がいる
  • 不動産を取得した相続人が、売却できずに納税が滞っている

こうした事情がありそうな場合は、遺産分割の段階から納税資金の手当てを話し合っておくことが有効です。誰がどの財産を取得するかと、その人が納税できるかは、切り離せない問題です。

連帯納付義務の対象外になる場合もあります

連帯納付義務は、次のいずれかに当たる相続税額については負わない扱いになります。

対象外になる場合
申告期限から5年を経過する日までに、納付通知書が発せられていないとき
本来の納税義務者が延納の許可を受けた相続税額であるとき
本来の納税義務者が、農地等・非上場株式等について相続税の納税猶予の適用を受けた相続税額であるとき

⚠ 「5年で消える」ではありません
一つ目は、5年が経てば自動的に対象外になるという意味ではありません。5年を経過する日までに税務署から納付通知書が発せられていない場合に限られます。通知書が発せられていれば、5年を過ぎても義務は残ります。

二つ目については、あとの節で詳しくご説明します。


相続財産から納税資金をつくる|不動産の売却

延納や物納を考える前に、まず確認したいのが相続した財産を換金できないかです。

換価分割と代償分割

不動産を売って納税資金にあてる場合、遺産分割の方法として次の2つがあります。

方法内容
換価分割相続財産を売却し、その代金を相続人で分ける
代償分割一人が現物を取得し、他の相続人へ代償金を支払う

換価分割は、売却を前提とする場合の分け方です。全員が現金で受け取れるため、納税資金の確保という点では分かりやすい方法です。

⚠ 換価分割は相続税法上の用語ではありません
換価分割は実務上の呼称で、相続税法に定義規定があるわけではありません。国税庁の質疑応答事例では、換価のための便宜として相続人の一人の名義に登記し、売却代金を遺産分割の内容に従って実際に分配する事案について、その登記だけで贈与税が問題になるものではないとされています。ただし、これは一定の事実関係を前提にした回答です。実際の登記方法や代金の分け方によって課税関係が変わることがあるため、税理士にご確認ください。

売却による譲渡所得は、実際に代金を取得する相続人ごとに確認が必要です。

代償分割は、実家を残したい場合などに使われます。ただし代償金を支払う相続人に、その資金が必要になります。

⚠ 代償金の額は、決める前に確認を
代償分割では、代償金の額の決め方によって相続税の計算に影響することがあります。評価額と実際の取引価額がずれることもあるため、代償金の額を決める前に税理士へご確認ください。

売却したときの所得税

相続した不動産を売却すると、譲渡所得として所得税・住民税がかかります。相続税を払うために売ったのに、さらに税金がかかるということです。

このとき使える可能性があるのが、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(租税特別措置法39条)です。納めた相続税の一部を、譲渡所得の計算上、取得費に加えられます。

⚠ 期限の数え方に注意してください
この特例が使えるのは、相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合です。「相続開始から3年10か月」という言い方を目にすることがありますが、これは目安であって、起算点は上記のとおりです。

売却の手続きそのものや、譲渡所得の申告は、不動産会社や税理士の領域です。うりずんでは、売却の前提となる相続人の確定や遺産分割協議書の文案作成をお手伝いしています。


延納|分割して納める

財産を換金しても納税資金が足りない、あるいは換金に時間がかかる。そうした場合に検討するのが延納です。

3つの要件

延納が認められるには、次のすべてを満たす必要があります。

要件
納付すべき相続税額が10万円を超えること
金銭で納付することを困難とする事由があり、その納付を困難とする金額の範囲内であること
担保を提供すること(一定の場合を除く)

二つ目の「困難とする金額の範囲内」という条件が重要です。手元に現金があるのに全額を延納にする、ということはできません。

担保については、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下であれば提供が不要です。

延納できる期間

延納期間は、相続財産に占める不動産等の割合によって変わります。

⚠ 「最長20年」だけを覚えないでください
延納期間の上限は区分によって5年から20年までの幅があります。不動産等の割合が50%未満の場合は、最長でも5年です。長く分割できるのは、不動産等の割合が高い場合に限られます。

利子税がかかります

延納をすると、分割して納める期間に応じて利子税がかかります。

割合は区分ごとに定められ、その年の基準となる割合によって変動します。最新の割合は国税庁のページでご確認ください。


延納の許可には、もうひとつの効果がある

ここまで延納を「分割して納める制度」としてご説明してきましたが、実はもう一つ、見落とされやすい効果があります。

本来の納税義務者が延納の許可を受けると、その延納の許可を受けた相続税額に係る相続税については、他の相続人の連帯納付義務の対象から外れます。

前の節でご説明した連帯納付義務は、相続税法34条1項ただし書で対象外となる場合が定められており、そのうちの一つが「延納の許可を受けた相続税額」です。

これは、次のような場面で意味を持ちます。

  • 相続人の一人が納税資金を用意できず、他の相続人が請求を受けることを心配している
  • 不動産を取得した相続人の納税が長期化しそうで、他の相続人が不安を感じている

こうしたとき、納税が難しい相続人が延納の許可を受けることで、その許可を受けた相続税額に係る部分については、他の相続人が連帯納付義務を負わない整理になります。

⚠ 物納は含まれていません
相続税法34条1項ただし書に列挙されているのは、延納の許可を受けた相続税額と、農地等・非上場株式等の納税猶予の適用を受けた相続税額です。物納の許可を受けた場合は列挙されていません。

延納の申請は、あくまで本人が申告期限までに行うものです。ただ、相続人の間で「誰がどう納めるか」を話し合う際には、この効果を知っているかどうかで結論が変わることがあります。


物納|相続した財産そのもので納める

延納にしても納められない。そうした場合に、相続した財産そのもので納める方法があります。

物納は「延納でも難しい場合」の制度です

物納が認められるには、次のすべてを満たす必要があります。

要件
納付すべき相続税額が10万円を超えること
延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、その納付を困難とする金額の範囲内であること
物納しようとする財産が、定められた種類・順位にあてはまり、日本国内にあること
管理処分不適格財産でないこと。物納劣後財産の場合は、他に適当な財産がないこと
申告期限までに物納申請書と手続関係書類を提出すること

⚠ 順序が法律で決まっています
二つ目の要件が「延納によっても金銭で納付することを困難とする事由」となっている点にご注目ください。現金が足りないから物納、という順序ではありません。まず延納を検討し、延納でも難しい場合に物納を検討する、という順序が法律に定められています。

物納できる財産には順位があります

どの財産でも物納できるわけではなく、順位が定められています。

順位財産の例注意点
第1順位不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等物納劣後財産に当たるものは、同順位内でも後回しになる
第2順位非上場株式等物納劣後財産に当たるものは、同順位内でも後回しになる
第3順位動産第1順位・第2順位に適当な財産がない場合に検討

先の順位の財産がある場合、後の順位の財産を物納にあてることは原則としてできません。

物納劣後財産は、順位そのものが別になるのではなく、同じ順位の中で後回しに扱われる財産です。 市街化調整区域内の土地や、接道義務を満たしていない土地などが該当します。

受け取ってもらえない財産があります

物納に適さないとされる財産があります。

  • 抵当権が設定されている不動産
  • 所有権の帰属について争いがある不動産
  • 境界が明らかでない土地
  • 借地権者が不明である土地
  • 他の土地と一体でなければ利用が困難な不動産

このほか、譲渡制限のある株式や、共有関係にあるため国が管理・処分しにくい財産なども、物納に適さない財産として問題になることがあります。管理処分不適格財産に該当する場合、物納の申請は却下されます。

⚠ 「使わない土地だから物納すればいい」とはなりません
境界が確定していない土地や、抵当権が残っている不動産は、そのままでは物納できません。物納を考える場合、測量や抵当権の抹消といった準備に時間がかかることがあります。申告期限から逆算して動く必要があります。

審査には時間がかかります

物納の申請があると、税務署長は原則として申請期限の翌日から3か月以内に許可または却下をすることとされています。ただし、事案によっては6か月または9か月まで延長されることがあります。

申請すれば必ず認められる制度ではなく、財産の状態や提出書類の内容によっては却下されることがあります。


延納から物納へ切り替えるとき(特定物納)

延納の許可を受けたものの、その後に事情が変わって延納を続けられなくなることもあります。このとき使えるのが特定物納です。

項目内容
申請できる期限相続税の申告期限から10年以内
対象延納の許可を受けた相続税額のうち、まだ納付していない部分

⚠ 収納価額が通常の物納と異なります
通常の物納では、財産の収納価額は相続税の課税価格の計算の基礎となった価額(相続時の評価額)です。これに対し特定物納では、物納申請の時の価額になります。相続時の評価額ではなく申請時の評価額を基準にするため、価額の変動が実際の負担に影響します。

延納を続けるか特定物納に切り替えるかは、税理士に試算を依頼して判断してください。


誰に相談するか|税理士・金融機関・不動産会社

納税資金の問題は、一人の専門家で完結しません。

相談先内容
税理士相続税額の計算、延納・物納の可否の判断、申請書類の作成、譲渡所得の申告
金融機関納税資金の借入れ、担保の提供
不動産会社相続した不動産の売却
司法書士相続登記、抵当権の抹消
土地家屋調査士境界の確定、測量

延納・物納の可否判断や申請書類の作成を専門家に依頼する場合は、税理士の領域です。物納のための測量や抵当権抹消には、土地家屋調査士や司法書士が関わります。

うりずんでは、これらの手続きの前提となる部分をお手伝いしています。相続人が誰かを確定させ、どのような財産があるかを調べ、遺産分割協議書の文案をつくる。ここが整わないと、納税資金の検討そのものが進みません。


まとめ

相続税の納税資金が足りないとき、確認する順序は決まっています。

  • 相続税の納付期限は申告期限と同じ。原則は現金による一括納付
  • 相続人が複数いる場合、他の相続人の相続税について連帯納付義務を負うことがある。ただし範囲は受けた利益の価額が限度
  • まず、相続した財産を換金できないかを検討する。不動産の売却には取得費加算の特例が使える場合がある
  • それでも難しい場合に延納。要件は3つ。期間は財産の構成によって5年から20年まで幅がある
  • 延納の許可を受けた相続税額は、他の相続人の連帯納付義務の対象から外れる
  • 延納によっても難しい場合に物納。財産の種類・順位・状態に制限があり、準備に時間がかかる
  • 延納から特定物納への切り替えは申告期限から10年以内。収納価額は申請時の価額

延納や通常の物納は、原則として申告期限までに申請する必要があります。特定物納は、延納の許可を受けた後に事情が変わった場合に検討する制度です。財産の内容が分かった段階で、早めに見通しを立ててください。

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