相続税には、財産の評価額そのものを下げたり、計算した税額を直接軽くしたりできる、とても強力な特例があります。その代表格が「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の特例」です。うまく使えば、一次相続の相続税をゼロにすることもできます。

ただし、この2つにはいくつもの落とし穴があります。どちらも「申告して初めて使える」制度で、何もしなければ本来は使えたはずの軽減を取りこぼしてしまいます。さらに配偶者の税額軽減には、目先の税をゼロにすると次の相続でかえって高くつく「二次相続」という大きな注意点があります。

この記事では、相続手続きの現場に立つ社会保険労務士・行政書士の視点から、2つの制度の仕組みと、見落としやすい注意点を整理します。そもそも相続税がかかるかどうかの基本は相続税はいくらから?|基礎控除3,600万円の計算と申告が必要なケースで解説していますので、あわせてご覧ください。


目次

  1. 相続税を大きく減らす2つの特例とは
  2. 配偶者の税額軽減|1億6,000万円か法定相続分まで非課税
  3. 配偶者の税額軽減の落とし穴|二次相続で逆に高くなることがある
  4. 小規模宅地等の特例|自宅の土地評価が最大80%下がる
  5. 小規模宅地の主な類型と限度面積
  6. 小規模宅地の主な要件|誰が引き継ぐかで変わる
  7. 共通の大前提|「申告して初めて使える」特例
  8. 遺産分割が決まらないと使えない|3年以内の分割見込書
  9. 専門家の役割|制度の入口は私たち、計算・申告は提携税理士へ
配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例を8コマで解説。①相続税を減らす2つの特例 ②配偶者は1億6,000万円または法定相続分まで非課税(税額0円でも申告は必要)③遺産2億円なら配偶者の相続税0円の例 ④配偶者に寄せすぎると二次相続で負担増 ⑤自宅の土地は最大80%減額(330㎡まで・5,000万→1,000万)⑥主な類型と限度面積(居住330㎡・事業400㎡80%/貸付200㎡50%・3年ルール注意)⑦申告して初めて使える・申告期限10か月・3年以内の分割見込書 ⑧入口は行政書士・社労士、税額計算・申告は税理士と連携

相続税を大きく減らす2つの特例とは

相続税の負担を下げる考え方は、大きく2つの方向に分けられます。ひとつは「財産の評価額そのものを下げる」方法、もうひとつは「計算した税額を直接軽くする」方法です。

このうち、土地の評価額を下げる代表が「小規模宅地等の特例」、税額を軽くする代表が「配偶者の税額軽減」です。どちらも効果が非常に大きく、自宅と配偶者がいるご家庭では、この2つだけで相続税の負担が大きく変わることも珍しくありません。

一方で、両方に共通する大前提があります。それは「相続税の申告をしないと使えない」ということです。基礎控除の範囲に収まって申告自体が不要なケースとは違い、これらの特例は“使うために申告する”制度だという点を、まず押さえておきましょう。


配偶者の税額軽減|1億6,000万円か法定相続分まで非課税

配偶者の税額軽減(配偶者控除)は、亡くなった方の配偶者が遺産を相続するとき、1億6,000万円か、配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかからないという制度です。

たとえば遺産が2億円で、相続人が配偶者と子のケースを考えます。配偶者の法定相続分は2分の1の1億円ですが、これは1億6,000万円より少ないので、「多い方」である1億6,000万円までが非課税になります。つまり配偶者が1億6,000万円までを取得すれば、配偶者にかかる相続税はゼロにできます。配偶者の法定相続分の考え方は法定相続人と法定相続分|誰がどれだけ相続する?早見表でわかる順位と割合で詳しく整理しています。

非常に強力な制度ですが、注意したいのは「配偶者だから自動的に非課税」ではないという点です。この軽減を受けるには、相続税の申告(亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内)が必要で、申告をしないと適用されません。

ここがポイント
配偶者の税額軽減を使った結果、納める相続税が0円になる場合でも、「申告そのもの」は必要です。0円だから申告しなくてよい、と誤解して期限を過ぎると、軽減を受けられず本来不要だった税金が発生することがあります。


配偶者の税額軽減の落とし穴|二次相続で逆に高くなることがある

配偶者の税額軽減は効果が大きいぶん、「とりあえず配偶者に全部相続させて、今回の相続税をゼロにする」という判断をしがちです。ところが、これが後で大きな負担を生むことがあります。いわゆる「二次相続」の問題です。

一次相続(たとえば父の相続)で配偶者である母にすべてを寄せると、その財産は母のもとに集まります。そして次に母が亡くなる二次相続では、配偶者の税額軽減はもう使えず、相続人の数も一人減るため基礎控除も小さくなります。財産が母に集中しているぶん高い税率がかかりやすく、一次・二次を合計すると、最初に子へも分けておいた場合よりかえって税負担が大きくなる、というケースが少なくありません。

ポイントは、目先の一次相続だけでなく、一次・二次を通算したトータルの税負担で考えることです。どの程度を配偶者に、どの程度を子に分けるのが有利かは、財産構成や家族構成によって変わるため、配分を決める前のシミュレーションが効いてきます。


小規模宅地等の特例|自宅の土地評価が最大80%下がる

小規模宅地等の特例は、亡くなった方が住まいや事業に使っていた土地について、一定の要件を満たすと相続税評価額を最大80%減額できる制度です。残された家族が、住み慣れた家や引き継いだ事業を手放さずに済むように設けられています。

たとえば、自宅の土地(特定居住用宅地等)が330㎡以内で評価額5,000万円だったとします。この特例が使えると、80%にあたる4,000万円が減額され、評価額は1,000万円として計算されます。土地は相続財産の中でも金額が大きくなりやすいので、この減額が効くかどうかで相続税額が大きく変わります。

なお、土地が限度面積を超える場合でも、特例がまったく使えなくなるわけではありません。限度面積までの部分が減額の対象となり、それを超えた部分が通常の評価になります。


小規模宅地の主な類型と限度面積

小規模宅地等の特例は、土地の使われ方によっていくつかの類型に分かれます。一般のご家庭で特に関係しやすいのは、自宅の土地である「特定居住用宅地等」、個人事業などに使っていた「特定事業用宅地等」、賃貸アパートや貸駐車場などの「貸付事業用宅地等」の3つで、それぞれ限度面積と減額割合が決まっています。このほか、一定の同族会社の事業に使われていた土地については「特定同族会社事業用宅地等」として扱われる場合があります。

  • 特定居住用宅地等(自宅の土地):330㎡まで、80%減額
  • 特定事業用宅地等(お店・工場など事業用の土地):400㎡まで、80%減額
  • 貸付事業用宅地等(賃貸アパート・貸駐車場など):200㎡まで、50%減額

自宅と事業用の土地を両方お持ちの場合、特定居住用宅地等(330㎡)と特定事業用宅地等(400㎡)などは、要件を満たせば併用でき、最大で330㎡+400㎡=730㎡まで80%減額を受けられる場合があります。一方、貸付事業用と組み合わせる場合は、限度面積を調整する計算が必要になり、どの土地に特例を当てるのが有利かで結果が変わります。

注意したいポイント
貸付事業用の宅地については、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として特例の対象から除かれます(2018年の税制改正による「3年ルール」)。「相続税対策に駆け込みでアパートを建てる」といった手法は、この改正で効果が制限されています。ただし、事業的規模で長く貸付を続けていた場合など一定の例外もあるため、貸付不動産がある場合は税理士への確認が必要です。


小規模宅地の主な要件|誰が引き継ぐかで変わる

小規模宅地等の特例は、誰がその土地を引き継ぐかによって要件が変わります。特定居住用宅地等(自宅)の場合、代表的なのは次のとおりです。

  • 配偶者が取得する場合:居住や保有の継続要件はなく、取得するだけで適用できます。
  • 同居していた親族が取得する場合:相続税の申告期限まで、その家に住み続け、かつ土地を保有していることが必要です。
  • 別居の親族(いわゆる「家なき子」)が取得する場合:被相続人に配偶者や同居の相続人がいないことなど、一定の条件を満たせば適用できます。

このように、同じ自宅でも「誰が・どう引き継ぐか」で使えるかどうかが分かれます。なお、いわゆる「家なき子」の要件は非常に細かく、本人だけでなく配偶者や一定の親族が所有する家屋に住んでいたかどうかなども問題になります。該当しそうな場合は、必ず税理士に確認しましょう。遺産分割を決める段階で、特例が使える形になっているかを意識しておくことが大切です。


共通の大前提|「申告して初めて使える」特例

ここまで見てきた配偶者の税額軽減も、小規模宅地等の特例も、原則として相続税の申告を通じて適用を受ける制度です。特例の結果、納める相続税が0円になる場合でも、申告そのものは必要です。

申告期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(通常は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から数えます)。期限を過ぎると、加算税や延滞税が発生する可能性があるため、期限内に申告することが重要です。期限の詳しい考え方と過ぎてしまったときの対処は相続税の申告期限は10か月|過ぎたらどうなる?間に合わないときの対処法で解説しています。

ちなみに、相続財産には現金や不動産だけでなく、生命保険金のような「みなし相続財産」も含まれます。保険金にも別の非課税枠があり、これも相続税を考えるうえで欠かせません。詳しくは生命保険金と相続税|「500万円×法定相続人」の非課税枠と受取人の選び方をご覧ください。


遺産分割が決まらないと使えない|3年以内の分割見込書

もうひとつ見落としやすいのが、「誰が何を相続するか(遺産分割)が決まっていないと、これらの特例は使えない」という点です。配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、申告期限までに遺産分割が成立していることが原則の要件になっています。

とはいえ、話し合いが10か月以内にまとまらないこともあります。その場合は、いったん特例を使わない形で申告・納税したうえで、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しておきます。これにより、申告期限から3年以内に遺産分割がまとまった場合には、原則として分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことで、要件を満たせば特例の適用を受け、納めすぎた税金の還付を受けられる可能性があります。

逆に言えば、この見込書の添付を忘れると、後から分割がまとまっても特例を使えなくなってしまいます。分割が難航しそうなときほど、申告のタイミングで何を添付しておくべきかが重要になります。


専門家の役割|制度の入口は私たち、計算・申告は提携税理士へ

ここまでの制度は効果が大きいぶん、要件や計算が複雑です。そして、相続税の税額計算や申告書の作成・提出は税理士の専門業務であり、特例の適用可否の最終的な判断もそこに含まれます。

一方で、こうした特例を使う「手前」には、相続人が誰かを確定する相続人調査、財産の全体像をつかむ財産調査、誰が何をどう引き継ぐかを定める遺産分割協議書の作成といった、相続手続きの土台づくりがあります。ここは行政書士・社会保険労務士としてお手伝いできる部分です。

大切なのは、「制度が使える形に手続きを整えること」と「税額を計算して申告すること」を、それぞれの専門家が連携して進めることです。入口のご相談から、必要な段階で適切な専門家へおつなぎする形にしておくと、特例の取りこぼしを防ぎやすくなります。


まとめ

配偶者の税額軽減は1億6,000万円か法定相続分まで、小規模宅地等の特例は自宅の土地を最大80%、それぞれ相続税を大きく減らせる強力な制度です。ただし、どちらも申告して初めて使え、遺産分割が決まっていることが前提で、配偶者軽減には二次相続という落とし穴もあります。

「使えるはずの特例を取りこぼさない」ためには、相続財産の全体像を早めに把握し、分割の決め方まで含めて見通しを立てておくことが何よりの対策です。判断に迷う段階でも、早めにご相談ください。

相続のお手続きでお困りの方へ

うりずんの相続手続き相談室では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が関わるご相続でも、戸籍の収集による相続人調査、財産調査、遺産分割協議書の作成、銀行口座の解約手続きのサポート、遺族年金・未支給年金の請求支援など、行政書士・社会保険労務士として対応できる手続きを中心にお手伝いしています。特例の適用可否の判断や相続税の税額計算・申告書の作成・提出、相続登記、相続人間で対立があるなど紛争対応が必要な場合には、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携し、必要な専門家へ適切におつなぎします。なお、特例の適用可否の最終判断や税額計算、申告書の作成・提出代理は税理士の業務となります。「うちは配偶者の特例が使えるのか」「自宅の土地は対象になるのか」といった段階からで構いませんので、どうぞ安心してご相談ください。

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「うりずん」とは、私の故郷・沖縄のことばで「春から初夏にかけて新緑が芽吹く季節」を意味します。大切なご家族を亡くされたつらい時期を過ごされている皆さまが、少しでも前を向いて新しい一歩を踏み出していただけるようお支えしたい――そんな想いで、お一人おひとりのご事情に丁寧に向き合っています。