相続が起きると、多くの方が「相続手続きは自分でできるのか、それとも専門家に頼むべきか」で迷います。費用は抑えたい、でも書類の不備や期限切れで失敗するのも怖い——これはとても自然な悩みです。実際のところ、相続の状況によって、自分で進められるケースと、専門家に頼んだ方が安全なケースがあります

この記事では、行政書士の視点から、自分でやる場合にかかる手間、自分でやりやすいケースと頼んだ方がよいケース、費用の考え方、そして「一部だけ頼む」という選択肢までを、できるだけ公平に整理します。相続全体の流れは親が亡くなったらやるべき10のことで、どの専門家に相談すべきかは相続の相談はどこにする?でまとめていますので、あわせてご覧ください。


目次

  1. 相続手続きは自分でできる?|まずは結論から
  2. 自分でやる場合にやること|手間の全体像
  3. 自分でやりやすいケース|こんな相続なら挑戦できる
  4. 専門家に頼んだ方がよいケース|無理は禁物
  5. 頼むなら誰に?|士業の役割分担
  6. 同じ資格でも「相続を専門にしているか」で変わる|税理士の例
  7. 相続に強い行政書士・そうでない行政書士|何が違う?
  8. 費用の考え方|「実費」と「専門家報酬」
  9. 「一部だけ依頼」という選び方|全部任せなくてよい
  10. 自分でやるときの落とし穴|期限と書類の不備
  11. 迷ったら|まず無料相談で棚卸しを
相続手続きを自分でやるか専門家に頼むかを8コマで解説。自分でやる手続きとやりやすいケース、頼んだ方がよいケース、士業の役割分担、一部だけ依頼する選択肢までをやさしくまとめた図解

相続手続きは自分でできる?|まずは結論から

結論から言うと、自分でできる相続もあれば、専門家に頼んだ方が安全な相続もあります。「相続はすべて専門家に頼むもの」でも「全部自分でやれる」でもなく、ご家庭の状況によって分かれます。

判断の分かれ目になるのは、おもに次の4つです。

  • 相続人の数と関係(少なく協力的か、多い・疎遠・もめそうか)
  • 財産の中身(預貯金中心でシンプルか、不動産や相続税が絡むか)
  • 期限の余裕(急ぐ手続きがあるか)
  • 自分が動ける時間(平日に役所や金融機関へ行けるか)

大切なのは、いきなり手をつける前に、相続全体の流れと「何が必要か」を把握してから判断することです。途中まで自分でやって行き詰まると、かえって時間も費用もかかってしまいます。


自分でやる場合にやること|手間の全体像

「自分でやる」と決めた場合、おおまかに次のような作業が必要になります。

  • 相続人の確定:亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をすべて集め、相続人を確定します(戸籍を集める3つのルート)。
  • 財産の調査:預貯金・不動産・有価証券・保険、そして借金などのマイナスの財産も調べます(相続財産の調べ方)。
  • 遺産分割協議書の作成:相続人全員で分け方を話し合い、合意内容を書面にまとめます。全員の実印と印鑑証明書が必要です(遺産分割協議書の作り方)。
  • 各種手続き:銀行口座の解約、名義変更、年金、保険金の請求など、提出先ごとに書類をそろえて進めます。

ひとつひとつは難しすぎるものではありませんが、提出先ごとに必要書類・窓口・期限が異なり、平日に動く場面も多いのが実情です。「やればできる」一方で、想像より時間と手間がかかる、と知っておくと判断しやすくなります。


自分でやりやすいケース|こんな相続なら挑戦できる

次のような条件がそろっている相続は、自分で進めて費用を抑えるのが十分に現実的です。

  • 相続人が少なく、全員が協力的(連絡が取りやすく、関係が良好)
  • 財産がシンプル(預貯金が中心で、不動産がない、または1件で権利関係が単純)
  • 亡くなった方の戸籍が比較的シンプル(転籍・引っ越しが少ない)
  • 相続税がかからない(遺産が基礎控除の範囲内)
  • 期限に余裕があり、平日に動ける時間がある

こうしたケースでは、戸籍集めや協議書づくりも手が届く範囲です。わからない部分だけ専門家に確認する、という使い方もできます。


専門家に頼んだ方がよいケース|無理は禁物

一方、次のような事情がある場合は、最初から専門家に頼んだ方が、結果的に早く・安全で、費用面でも損をしにくいことがあります。

  • 相続人が多い、疎遠で連絡が取りにくい、関係がこじれそう
  • 不動産がある(相続登記が必要。2024年4月から義務化されています)
  • 相続税がかかりそう(遺産が基礎控除を超える。申告・納付は10か月以内→相続税の申告期限は10か月
  • 戸籍が大量・古い・何度も転籍していて、収集が大変
  • 仕事や介護で、平日に役所・金融機関を回る時間が取れない
  • 相続放棄を検討している(原則3か月以内という期限があります→相続放棄の期限
  • 相続人どうしで意見が対立している、代理交渉が必要

無理に自分で進めて期限を逃したり、書類のやり直しになったりするより、はじめから頼んだ方が安心なこともあります。


頼むなら誰に?|士業の役割分担

「専門家」といっても、相続では分野ごとに担当する資格者が異なります。

  • 行政書士:戸籍の収集、相続関係説明図、遺産分割協議書の作成、預貯金の解約サポート、自動車の名義変更 など
  • 司法書士:不動産の相続登記(名義変更)
  • 税理士:相続税の申告
  • 弁護士:相続人どうしの紛争・代理交渉
  • 社会保険労務士:遺族年金・未支給年金の請求

「自分のケースはどこに相談すればいいのか」で迷ったら、相続の相談はどこにする?で詳しく整理しています。窓口がひとつでも、必要に応じて各分野の専門家へつないでもらえるので、まずは入りやすいところに相談するのがおすすめです。


同じ資格でも「相続を専門にしているか」で変わる|税理士の例

同じ資格でも、相続を専門的に扱っているかどうかで、手続きの精度やスピードは変わります。それが分かりやすいのが税理士です。

国税庁の統計では、相続税の課税件数は年間およそ15万件(令和4年)。一方で税理士の登録者数は約8万人で、単純に割ると税理士1人あたり年1〜2件にとどまります。実際には相続税を専門に扱う税理士が多くの申告を引き受けており、「税理士なら誰でも相続税に強い」とは限らないのが実情です。会社の顧問税理士が、相続税の申告はほとんど扱っていない、ということも珍しくありません。

  • 相続を専門にしている税理士のメリット:小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の適用、土地の評価減、二次相続まで見据えた分割の提案など、税額を大きく左右するノウハウがあります。税務調査の対応にも慣れています。
  • 専門にしていない税理士に頼むデメリット:経験が少ないと、特例の適用漏れや、本来より多い納税につながるおそれがあります。

相続税がかかりそうな場合は、「顧問税理士がいるから安心」と決めず、相続を専門に扱う税理士に相談・依頼するのが安全です。


相続に強い行政書士・そうでない行政書士|何が違う?

行政書士も「相続を専門にしているか」で進み方が変わります。そして、その違いは「遺産分割協議書を作れるかどうか」ではなく、相続手続き全体を事故なく設計できるかどうかにあります。

なお、行政書士が扱えるのは、相続人調査・戸籍収集・相続関係説明図・遺産分割協議書・遺言書作成のサポート・公正証書遺言の証人・相続に関する書類作成などです。法的紛争の段階にある事案、税務申告、登記申請そのものは行政書士の業務範囲外で、この点は日本行政書士会連合会も「法的紛争段階にある事案や、税務・登記申請業務に関するものを除き」書類作成・調査を行う、と説明しています。

相続を専門にしている行政書士は、戸籍の読み解きから財産調査、遺言の有無、相続放棄の期限、遺産分割協議、金融機関の手続き、不動産登記への橋渡し、税理士・司法書士・弁護士との連携、さらに二次相続・認知症の相続人・前妻の子・代襲相続・数次相続・相続人不存在といった複雑な事案までを、ひとつの流れとして見ています。そのため、早い段階で「行政書士だけで進めてよいか」「司法書士に回すべきか」「税理士の確認が必要か」「弁護士の案件になっていないか」を判断できます。ここが最大の違いです。

一方、相続を専門にしていない行政書士でも、書類の作成自体は可能です。ただし実務経験が少ないと、戸籍のつながりの見落とし、相続人の漏れ、代襲・数次相続の誤り、相続放棄者と生命保険金の扱いの混同、登記や相続税の必要性の見落とし、紛争性が出ているのに書類作成を続けてしまう、といったリスクが出やすくなります。

専門の行政書士に頼むメリット・デメリット

  • メリット:手続き全体の見通しが立ちます。最初の相談の段階で「簡単に見えて危ない」「税理士の確認が必要」「司法書士に先に確認した方がよい」「弁護士の案件になりうる」といった交通整理ができ、何を・どの順番で・誰に頼めばよいかが分かりやすくなります。
  • デメリット:費用は、書類作成だけを頼む場合より高めになりやすいです(相続人調査・財産確認・手続き管理・他士業との連携・リスク判断まで含むため)。また、専門性が高い先生ほど業務範囲を慎重に線引きします。相続人どうしが揉めている場合、行政書士が一方の代理人として相手方と交渉することはできません(弁護士でない者が報酬目的で法律事務を扱うことは弁護士法72条で禁じられています)。「全部やってくれると思ったのに弁護士へ、と言われた」と感じることもありますが、これは不親切ではなく、適切なリスク管理です。

専門でない行政書士に頼むメリット・デメリット

  • メリット:相続人が配偶者と子だけ、全員が合意済み、財産は預貯金のみ、不動産なし、相続税もかからず争いもない、といったシンプルな案件なら、費用を抑えやすいことがあります。会社設立や許認可などで付き合いのある先生なら、相談しやすいという安心感もあります。
  • デメリット:一見簡単に見える相続の中の落とし穴に気づきにくい点です。認知症や未成年の相続人、前妻の子、兄弟姉妹相続で戸籍が広範囲、代襲・数次相続、相続放棄者、遺言、不動産、借金、相続税、特別受益や寄与分の主張、相続人間の感情対立——こうした事情があると、形式だけ整えても後から無効・やり直し・紛争化するおそれがあります。

観点ごとに整理すると、次のようになります。

観点相続専門の行政書士相続専門ではない行政書士
得意分野相続手続き全体の設計・進行管理一般的な書類作成
戸籍調査複雑な相続関係にも慣れているシンプルな案件向き
リスク判断税理士・司法書士・弁護士への切替えが早い見落としが出る可能性
費用やや高めになりやすい比較的安く済むことがある
複雑案件向いている不向きなことがある
紛争案件弁護士連携に切り替えやすい非弁リスクに注意
依頼者の安心感ワンストップに近い案内が可能相談しやすさはあるが範囲の確認が必要

要するに、相続に強い行政書士は「単に遺産分割協議書を作る人」ではなく、「誰が相続人か」「何が相続財産か」「どの手続きを、どの順番で進めるか」「税理士・司法書士・弁護士につなぐ場面か」を判断しながら、手続き全体を整理する専門家です。前妻の子・認知症・未成年・不動産・相続税・相続放棄・遺言・相続人間の不仲といった事情があるなら、最初から相続に慣れた専門家に相談する方が安全です。


費用の考え方|「実費」と「専門家報酬」

費用は、大きく「実費」と「専門家報酬」に分けて考えると整理しやすくなります。

  • 自分でやる場合:戸籍や証明書の取得手数料などの実費が中心です。
  • 専門家に頼む場合:実費に加えて、専門家への報酬がかかります。報酬は、手続きの内容・財産の規模・依頼する範囲・事務所によって幅があります。

ここで見落としがちなのが、自分でやる場合の「時間コスト」と「失敗のリスク」です。平日に何度も役所へ通う手間や、書類の不備でやり直しになる可能性まで含めて、「自分でやる」と「頼む」を比べると判断しやすくなります。具体的な金額は事務所によって異なるため、依頼を検討する際は見積もりで確認しましょう。


「一部だけ依頼」という選び方|全部任せなくてよい

専門家に頼む=すべてを丸ごと任せる、と思われがちですが、必要な部分だけ依頼することもできます。

  • 「戸籍の収集だけ」「遺産分割協議書の作成だけ」など、手間のかかる部分だけをプロに任せる
  • 法定相続情報一覧図の取得だけ頼んで、あとの手続きは自分で進める

自分でできるところは自分で、難しいところだけ専門家に——この組み合わせなら、費用を抑えつつ、失敗しやすいポイントだけ押さえることができます。最初の相談のときに「どこまで自分でやりたいか」を伝えると、ちょうどよい範囲を提案してもらえます。


自分でやるときの落とし穴|期限と書類の不備

自分で進める場合に、特に気をつけたいポイントです。

  • 戸籍の取り漏れ:出生から死亡までが途切れなくつながっていないと、金融機関などで受け付けてもらえず、やり直しになります。
  • 遺産分割協議書の不備:書式・記載漏れ、実印や印鑑証明書のそろえ忘れがあると、手続きに使えません。
  • 期限の見落とし:相続放棄は原則3か月、相続税の申告・納付は10か月、相続登記は取得を知った日から3年(義務化)など、過ぎると不利益が出る期限があります。
  • 二次相続・数次相続:相続の途中で別の相続が重なると、関係者も書類も一気に増えて複雑になります。

「途中まで自分でやって行き詰まる」前に、最初に全体像を把握しておくことが、いちばんの予防になります。


迷ったら|まず無料相談で棚卸しを

「自分でやれるのか、頼むべきなのか」は、判断材料がそろっていないと決められないことがほとんどです。そんなときは、まず一度相談して、相続人・財産・期限を棚卸しするのがおすすめです。

全体像が見えれば、「ここまでは自分で」「ここは頼もう」という線引きができ、ムダな手間も費用も避けられます。多くの事務所が初回の相談を設けているので、「まだ何も決まっていない」という段階でも気軽に使って大丈夫です。


まとめ

相続手続きは、自分でできる相続もあれば、専門家に頼んだ方が安全な相続もあります。判断の分かれ目は、「相続人の数と関係」「財産の中身(特に不動産・相続税)」「期限の余裕」「自分が動ける時間」の4つです。

そして、全部やる/全部頼む の二択ではなく、「一部だけ頼む」という選び方もできます。迷ったら、まず相続人・財産・期限を棚卸しして、自分でやる範囲と頼む範囲を見極めるところから始めましょう。

自分でやるか専門家に頼むかは、費用だけでなく、相続人・財産・期限の状況によって変わります。無理に進めて期限を逃したり、書類のやり直しになったりする前に、まずは全体像を把握することをおすすめします。

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