「うちは夫婦二人だから、終活なんてまだ先の話」——そう思っている方も多いかもしれません。けれども、夫婦で暮らしていても、人生の最後まで必ず二人で同じように動けるとは限りません。どちらか一方が病気や認知症で判断が難しくなったり、先に亡くなったりすると、残された配偶者が、一人で手続きや暮らしを抱えることになります。

だからこそ、元気なうちに二人で備えておくことが、残された配偶者の安心につながります。この記事では、夫婦で取り組む終活の全体像と、遺言・住まい・年金・後見といった夫婦ならではの備えを、行政書士・社会保険労務士の視点から整理します。


目次

  1. 夫婦で終活を考える意味|「どちらかが先に」を見すえて
  2. 夫婦で確認しておきたい終活の全体像
  3. 遺言書は夫婦それぞれで|連名は無効・予備的遺言という備え
  4. 残された配偶者の住まいと生活|居住権・年金・税
  5. 二人の判断能力に備える|任意後見と財産管理
  6. 一方が亡くなった後に備える|おひとりさまへの移行
高齢の夫婦が相談員と遺言や住まい・生活費の備えを二人で確認する流れを描いたイラスト
遺言・住まい・生活費・後見など、夫婦の終活の備えを二人で一つずつ確認していく流れ

夫婦で終活を考える意味|「どちらかが先に」を見すえて

夫婦で暮らしていると、「自分たちは二人だから大丈夫」と思いがちです。けれども、どちらか一方が病気や認知症で判断が難しくなったり、先に亡くなったりすることは、いつか必ず訪れます。そのとき、残された配偶者が一人で手続きや生活を抱えることになります。

夫婦の終活で大切なのは、「二人が元気な今」と「どちらかが欠けたとき」の両方を見すえて備えることです。

🌱 話し合っておくこと自体が、最大の備えです

終活というと契約や書類の準備を思い浮かべますが、その前に大切なのが夫婦での話し合いです。お互いの財産がどこにあるか、どんな最期を望むか、誰に何を遺したいか。元気なうちに共有しておくだけで、いざというときの負担は大きく変わります。まずは二人で話すことから始めましょう。


夫婦で確認しておきたい終活の全体像

夫婦の終活では、次の項目を二人で確認・共有しておくと安心です。片方だけが把握している状態を避けることがポイントです。

✅ 夫婦で確認しておきたいことチェックリスト

  • 預貯金・不動産・保険・有価証券など、どちらの名義に何があるか
  • 借入やローンの有無
  • 加入している年金・保険の種類と受取人
  • 医療や介護について望むこと
  • 葬儀・お墓の希望
  • 財産を誰に遺したいか(遺言の方針)
  • エンディングノートの共有

特に注意したいのが、次のような状態です。夫婦だからこそ陥りやすい落とし穴です。

  • 夫婦連名で1通の遺言書を書いてしまう(次章のとおり無効になります)
  • 預貯金・保険・年金の情報を、どちらか一方しか把握していない
  • 「子どもが何とかしてくれる」と、具体的に決めないまま先送りにする
  • 相続税のことばかりを考えて、残された配偶者の生活資金を後回しにする

これらは、いざというときに残された配偶者や子を困らせる原因になります。元気なうちに、二人で情報を整理し、共有しておきましょう。


遺言書は夫婦それぞれで|連名は無効・予備的遺言という備え

夫婦で同じ気持ちを残したいと思っても、遺言書は夫と妻がそれぞれ別々に作成する必要があります

⚠ 夫婦連名で1通の遺言書を書くと無効になります

民法975条は「遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない」と定めています。これを共同遺言の禁止といい、夫婦であっても、1通の遺言書に二人で連名で書くと、その遺言は無効になるおそれがあります。「先に亡くなったほうの財産は相手に渡す」という同じ内容であっても、必ず一人ずつ、別々の用紙に作成してください。

夫婦の遺言でぜひ知っておきたいのが、予備的遺言(補充遺言)という備えです。これは、第一希望が実現できなかった場合の次の受取人を定めておくものです。

たとえば「妻に全財産を相続させる。ただし、妻が私より先に、または同時に死亡していた場合は、長男に相続させる」というように書いておきます。夫婦は同じ時期に高齢になっていくため、どちらが先に亡くなるか分かりません。予備的遺言を入れておくと、万一の順番でも遺言が無駄にならず、改めて遺産分割協議をする手間を防げます。

遺言書の具体的な書き方は、次の記事で解説しています。


残された配偶者の住まいと生活|居住権・年金・税

一方が亡くなった後、残された配偶者が「住まい」と「生活費」を確保できるかは、夫婦の終活で最も大切なテーマのひとつです。ここでは3つの制度を押さえておきましょう。

住まいを守る|配偶者居住権

配偶者居住権は、残された配偶者が、亡くなった方の所有していた自宅に、無償で住み続けられる権利です(2020年4月施行)。自宅の権利を「住む権利(居住権)」と「所有権」に分け、配偶者が居住権を、子などが所有権を取得することで、配偶者は自宅に住み続けながら、預貯金など他の遺産も確保しやすくなります。

ただし、配偶者居住権は自動的に発生するものではありません。遺産分割、遺言による遺贈、死因贈与などによって取得する必要があります。遺産分割で話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割審判の中で問題になることもあります。また、登記をしておかないと、自宅が第三者に売られたときに住む権利を主張できないおそれがあります。不動産登記や相続税評価にも関わるため、司法書士・税理士と連携して検討することが大切です。

なお、配偶者居住権を設定していなくても、相続開始時に亡くなった方の所有する自宅に無償で住んでいた配偶者には、一定期間、自宅に住み続けられる「配偶者短期居住権」が認められます。遺産分割が関係する場合には、少なくとも6か月間は保護される仕組みがあり、亡くなった直後にすぐ退去を迫られる心配はありません。

生活費を支える|遺族年金

遺族年金は、残された配偶者の生活を支える大切な制度です。ただし、受給できるかどうか、金額、加算の有無は、亡くなった方の年金加入歴、配偶者の年齢、子の有無などによって変わります。特に遺族厚生年金は、子の有無や配偶者の年齢、亡くなった方の厚生年金の加入状況によって受給内容が大きく変わります。今後の制度改正も予定されているため、記事執筆時点の情報だけで判断せず、実際の受給見込みは個別に確認することが大切です。

相続税の負担を抑える|配偶者の税額軽減

配偶者には、相続税の負担を大きく軽くする「配偶者の税額軽減」という制度があります。ただし、一次相続で配偶者に多く寄せることが、必ずしも有利とは限りません。残された配偶者が亡くなる二次相続まで含めて考えると、かえって全体の税負担が増えることもあります。具体的な税額や分け方は、税理士に相談して検討しましょう。


二人の判断能力に備える|任意後見と財産管理

夫婦の終活では、「どちらかが亡くなったとき」だけでなく、「判断能力が低下したとき」への備えも欠かせません。

つい「夫が妻を支える」「妻が夫を支える」と考えがちですが、二人とも高齢になっていくため、夫婦だけで支え合う前提には限界があります。いわゆる老老介護・認認介護の状態になると、配偶者だけを頼りにするのは難しくなります。

そこで、任意後見契約や財産管理委任契約を、夫婦それぞれが「誰に何を任せるか」を考えて準備しておくことが大切です。受任者を配偶者だけにせず、子や信頼できる第三者、専門家を含めておくと、二人同時に判断能力が低下した場合にも備えられます。


一方が亡くなった後に備える|おひとりさまへの移行

夫婦の終活は、二人でいる間だけの準備ではありません。一方が亡くなった後、残された配偶者は「おひとりさま」になります。そのときに困らないための備えも、元気な今のうちに考えておきましょう。

残された配偶者が一人になると、入院や施設入所のときの身元保証を頼める人がいなくなったり、自分が亡くなった後の手続きを託す相手が必要になったりします。身元保証や死後事務委任といった備えは、おひとりさまになったときにこそ意味を持ちます。夫婦でいる間に、残された側が一人になった後の連絡先・支援者・契約関係まで話し合って決めておくと、将来の不安を大きく減らせます。

また、見落としがちなのが二次相続の手続き面です。二次相続というと相続税の話になりがちですが、それだけではありません。一次相続では残された配偶者が手続きを担えても、その配偶者が亡くなる二次相続では、子や次の世代が手続きを進めることになります。財産や書類の所在が分からないと、次の世代に大きな負担が残ります。だからこそ、夫婦のうちに財産を整理し、記録を残しておくことが大切です。

おひとりさまになったときの備えは、次の記事で詳しく解説しています。


まとめ

夫婦の終活は、「二人が元気な今」と「どちらかが欠けたとき」の両方を見すえて備えることが大切です。遺言書は夫婦それぞれ別々に作り、予備的遺言でどちらが先でも対応できるようにする。配偶者居住権や遺族年金で残された配偶者の住まいと生活を守る。任意後見で二人の判断能力低下に備える。そして、一方が亡くなった後のおひとりさまの生活や二次相続まで見すえておく。こうした備えを、二人で話し合いながら整えておくことが、何よりの安心につながります。

相続のお手続きでお困りの方へ

うりずん相続手続き相談室では、行政書士として遺言書の作成支援や任意後見契約・財産管理委任契約の整理を、社会保険労務士として遺族年金のご相談を承っています。ご夫婦で終活を始めたい方の窓口として、まずは全体像の整理からお手伝いします。配偶者居住権の登記や相続税の試算、二次相続を見すえた具体的な対策が必要な場合には、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携してご案内します。おひとりさまや残された配偶者の身元保証・死後事務については、当事務所代表が代表理事を務める一般社団法人いきいきライフ協会川崎南と役割を分けてご説明します。ご相談時には、行政書士・社会保険労務士として対応する範囲と、身元保証・死後事務サービスとして別途契約が必要になる範囲を分けて、契約内容・費用・預託金の管理方法などを分かりやすくご説明します。まずはお気軽にご相談ください。

川崎・横浜エリアを中心に、初回のご相談は60分無料・土日祝もご予約可能・秘密厳守・お問い合わせには翌営業日までにご返信しています。お電話・LINE・お問い合わせフォームから、お気軽にご連絡ください。