※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。必要になる書類の種類や形式、翻訳・認証の要否は、相続人の国籍、住民登録の状況、お住まいの国、相続財産の内容、提出先によって変わります。実際のお手続きの前に、お住まいの市区町村の窓口、関係する国の大使館・領事館、または専門家にご確認ください。
海外にお住まいの相続人がいる相続手続きで、最初につまずくのが書類です。
日本の相続手続きは、実印と印鑑証明書、そして住民票を前提に組み立てられています。ところが日本の住民登録を抹消して海外にお住まいの場合、印鑑証明書も日本の住民票も取得できません。
代わりに何を、どこで、どういう形で取るのか。この記事では、署名証明・在留証明・翻訳という3つの論点を、行政書士の立場からご説明します。
目次
- なぜ印鑑証明書が使えないのか
- 署名証明には2つの形式があります
- 本人が在外公館へ行く必要があります
- 在留証明は「住民票の代わり」
- 日本国籍を失っている場合はどうするか
- 翻訳は誰がしてもよいのか|提出先によって確認が必要です
- うりずん相続手続き相談室でできること
なぜ印鑑証明書が使えないのか
理由はシンプルです。日本で住民登録を抹消して海外にお住まいになると、同時に印鑑登録も抹消されます。
印鑑登録がなければ、印鑑証明書は取得できません。実印を押しても、それが本人の実印であることを証明する手立てがなくなるわけです。
そこで法務局や金融機関は、印鑑証明書に代わるものとして署名証明の提出を求めます。署名が本人のものであることを、在外公館が証明する書類です。
住民票についても同じです。海外にお住まいだと日本の住民票が取得できないため、代わりに在留証明を使います。
なお、遺産分割協議そのものをどう進めるかについては、海外に相続人がいる場合の遺産分割協議の記事でご説明しています。この記事では、そこで必要になる書類の中身を扱います。
署名証明には2つの形式があります
ここが最初の分かれ道です。
署名証明には、形式1(綴り合わせ型)と形式2(単独型)の2種類があります。
形式1は、在外公館が発行する証明書と、申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行うものです。遺産分割協議書そのものに署名し、それと証明書が一体になります。
形式2は、申請者の署名を単独で証明するものです。証明書1枚で完結します。
形式1と形式2のどちらが必要かは、提出先の意向によって決まります。相続登記では、遺産分割協議書との一体性を重視して形式1を求められることが多いとされています。ただし、金融機関や手続きによって扱いが異なりますので、取得する前に提出先へ確認しておくことが大切です。
ここで実務上、重要な違いが出ます。形式1を取るには、遺産分割協議書そのものを現地へ送る必要があります。日本で書類を作り、海外へ送り、在外公館で署名してもらい、返送してもらう。この往復が必要になるのです。
形式2であれば証明書だけで済みますが、提出先が形式1を求めていれば、この往復は避けられません。
本人が在外公館へ行く必要があります
署名証明は、領事の面前で署名することで成立します。そのため、本人が在外公館へ直接出向く必要があります。
領事の面前で署名する必要があるため、オンラインだけで手続きを完結することはできません。代理申請や郵便申請もできません。ご家族が代わりに手続きすることもできない、ということです。
持ち物は、パスポートなどの本人確認書類です。形式1で取得する場合は、署名する書類(遺産分割協議書など)も持参します。
在外公館によっては予約制のところもあります。日本人が多くお住まいの都市では、予約が取れるまでに時間がかかることもあると聞きます。
通数についても、この段階で決めておく必要があります。金融機関によっては提出した原本を返却しないところがあります。形式2の場合でも、多めに取得しておくか、事前に提出先へ必要枚数を問い合わせておくと安心です。海外での取得は、日本のようにすぐ取り直せません。
在留証明は「住民票の代わり」
署名証明が印鑑証明書の代わりなら、在留証明は住民票の代わりです。
外国にお住まいの日本人が、どの住所を生活の本拠にしているかを、その地を管轄する在外公館が証明する書類です。
取得の要件は次のとおりです。
- 日本国籍を有していること
- 海外に3か月以上滞在し、住所が公文書で確認できること(滞在が3か月未満でも、今後3か月以上滞在する予定であれば取得できる場合があります)
ここで、見落とすと取り直しになる点があります。在留証明を相続登記に使う場合は、本籍を記載してもらう必要があります。申請の際に「本籍の記載あり」で発行してもらうということです。
これを知らずに取得すると、書類が届いてから使えないことが分かり、もう一度お願いすることになります。海外との往復を考えると、この一手間の差は大きいものです。
なお、不動産を相続しない相続人であっても、署名証明を提出する場面では在留証明を求められることがあります。
日本国籍を失っている場合はどうするか
ここからは、少し事情が変わる場合のお話です。
以前は日本国籍だったものの、現在は外国籍になっている方については、日本の在外公館で署名証明や在留証明を当然に取得できるとは限りません。原則として、これらの証明は日本国籍を有する方に向けたものだからです。
ただし、相続手続きに関しては例外的に発給される場合もあるとされています。まずは管轄の在外公館にご確認ください。
発給を受けられない場合には、居住国の公証人による署名証明や宣誓供述書などを利用して対応することがあります。
宣誓供述書は、公証人などの面前で特定の事実を宣誓し、その内容と署名を証明してもらうものです。次のような事項を確認できます。
- 本人であること
- 現在の住所
- 署名が本人のものであること
- 帰化の前と後で、氏名は違うが同一人物であること
最後の点が重要です。日本の戸籍には帰化前の氏名で記録が残っていることがあり、現在の氏名との結びつきを示す必要が生じます。宣誓供述書はその役割も果たします。
もともと外国籍の相続人についても、考え方は同じです。署名を証明するのは、基本的に現地の公証人になります。日本の領事館があらゆる私文書について署名を証明できるわけではありません。
翻訳は誰がしてもよいのか|提出先によって確認が必要です
外国語で作成された書類を日本の手続きで使うときは、日本語の訳文を添付します。
では、その翻訳は誰がすればよいのでしょうか。
誰が翻訳するかや、翻訳者の証明が必要かどうかは、提出する書類や提出先によって取扱いが異なる場合があります。
提出先によっては、翻訳が正確であることを翻訳者が証明する翻訳証明書の添付を求められることがあります。その場合は、翻訳会社などに依頼することになります。
いずれの場合も、誤訳がないかの確認は欠かせません。内容が違っていれば、そこで手続きが止まります。
金融機関や法務局で扱いが異なる可能性がありますので、どの手続きに何がどこまで求められるかは、先に確認しておくことをおすすめします。
なお、外国で発行された書類については、それが正規のものであることを示すため、アポスティーユや領事認証を求められることもあります。こちらも提出先への確認が必要です。
うりずん相続手続き相談室でできること
当相談室では、行政書士として、次のようなご相談をお受けしています。
- どの手続きに、どの書類が、何通必要かの洗い出し
- 有効期限を考慮した、取得の順番の組み立て
- 相続人間に争いがなく、前提となる相続関係や必要書類を確認できる場合の、遺産分割協議書・遺産分割証明書の作成
- 提出先へ確認しておくべき事項の整理
一方で、できないこともお伝えしておきます。署名証明と在留証明は、ご本人が在外公館へ出向いて取得するものです。当室が代わりに取得することはできません。また、翻訳業務そのものは行っておりません。翻訳証明書が必要な場合は、翻訳会社をご案内します。
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まとめ
海外にお住まいだと、印鑑証明書も住民票も取得できません。代わりに署名証明と在留証明を使います。
署名証明には形式1と形式2があり、どちらが必要かは提出先によって決まります。相続登記では形式1を求められることが多く、その場合は遺産分割協議書を現地へ送る必要があります。取得には本人が在外公館へ出向くことになりますので、時間の見積りが欠かせません。
在留証明は、相続登記に使うなら本籍を記載してもらいます。これを忘れると取り直しになります。
日本国籍を失っている場合は、現地の公証人による署名証明や宣誓供述書などで対応する場合があります。帰化の前後で氏名が変わっている場合の同一性も、ここで確認できます。
翻訳については、誰が訳すか、翻訳者の証明が要るかが提出先によって変わります。
共通しているのは、取りかかる前に提出先へ確認するということです。海外との往復には時間がかかりますので、一度で正しく取ることが何より大切になります。