スマートフォンやパソコンが生活の中心になった今、相続の現場でも「目に見えない財産」が増えています。ネット銀行やネット証券、暗号資産、電子マネー、有料サブスク、SNSのアカウント——こうした「デジタル遺産」は、通帳やカードのような手がかりが少なく、ご家族が存在に気づかないまま放置されたり、毎月の料金が引き落とされ続けたりすることがあります。中には、ANAマイルのように「手続きの期限」が決まっているものもあり、気づくのが遅れると引き継げなくなる財産もあります。

この記事では、デジタル遺産の探し方から、ネット銀行・証券の相続手続き、暗号資産の評価と課税の注意点、電子マネー・ポイント・マイルの扱い、サブスク・スマホの解約、SNSアカウントの整理、そして生前にできる備えまでを、優先順位とともに整理します。亡くなった方の財産全体の調べ方は相続財産の調べ方で、葬儀後の名義変更・解約の全体像は葬儀後の名義変更・解約リストでまとめていますので、あわせてご覧ください。


目次

  1. デジタル遺産とは|見えにくい財産・契約が増えている
  2. まず洗い出しから|端末・メール・通帳レス口座をどう見つけるか
  3. ネット銀行・ネット証券の相続手続き
  4. 暗号資産(暗号通貨)の相続|評価と課税の注意点
  5. 電子マネー・ポイント・マイルの扱い
  6. サブスク・有料サービスの解約|課金を止める
  7. スマホ・携帯電話の解約とデータ
  8. SNS・メール・クラウドのアカウント|追悼と削除
  9. 生前にできるデジタル終活|家族が困らないための備え
デジタル遺産の相続を8コマで解説。ネット銀行・ネット証券・暗号資産・マイル・サブスク・スマホ・SNSアカウントの探し方と引き継ぎ・解約、相続税の注意点、生前のリスト化までをやさしくまとめた図解

デジタル遺産とは|見えにくい財産・契約が増えている

「デジタル遺産」とは、インターネットや電子機器の中にある、亡くなった方の財産や契約・アカウントの総称です。法律上の正式な用語ではありませんが、実務では大きく次のように分けて考えると整理しやすくなります。

ひとつは、金銭的な価値があり相続の対象になるものです。ネット銀行の預金、ネット証券の株式・投資信託、暗号資産、電子マネーの残高、一部の航空マイルなどが当てはまります。もうひとつは、それ自体に相続財産としての価値はないものの、放置すると不都合が生じるものです。有料サブスクの契約、SNSやメールのアカウント、スマートフォンの中の写真や連絡先などです。

デジタル遺産がやっかいなのは、手がかりが残りにくい点です。通帳やカードのような「紙」が発行されないペーパーレスの口座が増え、明細もメールやアプリの中。さらにIDやパスワードが分からなければ、家族が中身を確認することすらできません。結果として、財産があるのに気づかれない、あるいは不要な課金が続く、といったことが起こります。


まず洗い出しから|端末・メール・通帳レス口座をどう見つけるか

デジタル遺産の手続きは、「何があるかを見つける」ことから始まります。手がかりは次のような場所に残っています。

  • スマートフォン・パソコン:銀行・証券・決済アプリ、暗号資産取引所のアプリが入っていないか。ブラウザのブックマークや保存されたログイン情報も手がかりになります。
  • メール:「ご利用明細」「お支払い」「残高」「会員」などで検索すると、取引のある金融機関やサブスクの通知が見つかります。メールは契約の“ハブ”なので、停止する前に中身を確認しておくと安心です。
  • クレジットカードや銀行口座の明細:毎月・毎年の引き落としをたどると、サブスクやネット金融サービスを逆引きできます。
  • 郵便物:ペーパーレスでも、年に一度の取引報告書や本人確認の通知が届くことがあります。

ここで大きな壁になるのが、端末のロックです。パスコードや生体認証が分からないと、スマホの中の情報にたどり着けないことが少なくありません。メーカーやキャリアでも、ロック解除は原則として応じてもらえません。だからこそ、後述する「生前の備え」が重要になります。

ポイント:まずは「お金が動いている場所」を優先して洗い出します。引き落とし・入金のあるネット銀行や証券、課金が続くサブスクから着手すると、損失と手間を最小限にできます。


ネット銀行・ネット証券の相続手続き

ネット銀行・ネット証券にも、店舗型の金融機関と同じく相続手続きがあります。基本の流れは共通です。

  1. 死亡の連絡:金融機関に連絡すると、その口座は凍結されます(勝手な引き出しを防ぐためです)。
  2. 必要書類の準備:被相続人と相続人の戸籍(または法定相続情報一覧図)、遺言書または遺産分割協議書、相続人の本人確認書類、金融機関所定の相続届などです。
  3. 払戻し・名義変更・移管:預金は払戻しまたは相続人口座への振込、証券は次のとおりです。

ネット証券で注意したいのは、株式や投資信託は「売却して現金で受け取る」のではなく、相続人名義の証券口座へ“移管”するのが原則という点です。被相続人名義のまま売却することはできないため、相続人が同じ証券会社等に口座を持っていない場合は、新たに口座を開設してから移管する流れになります。移管後に売却するかどうかは相続人の判断です。

ネット銀行・ネット証券は店舗がないため、手続きは電話やWeb、郵送が中心になります。なお、証券会社や商品によって必要書類・移管方法が異なるため、実際には各金融機関の相続専用窓口で確認します。 相続税の申告が必要なケースでは、相続開始日(亡くなった日)時点の残高証明書を取り寄せておくと評価がスムーズです。


暗号資産(暗号通貨)の相続|評価と課税の注意点

ビットコインなどの暗号資産も、相続税の対象です。評価は、相続開始日(被相続人が亡くなった日)の時価で行います。

  • 活発な市場がある場合(ビットコイン等):暗号資産交換業者(取引所)が公表する相続開始日時点の取引価格などをもとに評価します。実務上は、取引所の残高証明書や取引履歴、相続開始日の価格情報を確認します。
  • 活発な市場がない場合(取扱いの少ない新興のコイン等):客観的な相場がないため、取引実態などをもとに個別に評価します。

ここで知っておきたいのが、課税の扱いです。相続時には相続税がかかります。さらに、相続後に暗号資産を売却して利益が出た場合、その利益は原則として所得税(雑所得)の対象になりますが、売却益の計算では被相続人の取得価額の取扱いなど専門的な判断が必要です。「相続税がかかった後に売却したから税金は不要」とは考えず、税理士に確認するのが安全です。また、価格変動が大きい資産のため、相続税評価時より相続後に大きく値下がりすると、納税資金の確保に困ることがあります。早めに税理士へ相談しましょう。

注意:暗号資産は、秘密鍵(パスワード)や復元情報が分からないと取り出せないものがあります。取引所が管理しているものは相続手続きで対応できる可能性がありますが、自分で管理するウォレットは秘密鍵・シードフレーズがないとアクセスできなくなる場合があります。評価・課税の詳細は国税庁の「暗号資産等に関する税務上の取扱い(FAQ)」も確認してください。


電子マネー・ポイント・マイルの扱い

「ポイントやマイルも相続できるのか」は、よくいただく質問です。結論はサービスの規約によって異なり、相続できるものとできないものがあります。

  • ポイント(楽天ポイント・各種ショップポイント・クレジットカードのポイントなど):会員本人限りの利用とされ、相続や第三者への承継が認められないものも少なくありません。実際の可否は各サービスの規約確認が必要です。
  • 航空会社のマイル:ANA・JALは規約で相続が認められています。ただし期限や対象者に注意が必要です。
  • ANA:法定相続人が承継できます。会員の死亡日から180日以内に、必要書類がそろった状態で申請する必要があり、期間内に申し出ないと積算マイルはすべて取り消されます(手続きは電話で問い合わせ)。
  • JAL:所定の手続きにより、有効なマイルを相続できる場合があります。JALカード関連の案内では、合意書の返送により2親等以内の法定相続人へ引き継げるとされています。必要書類や対象者、有効期限の取扱いは会員種別・契約内容により確認が必要です。
  • 電子マネー(Suica・PayPayなどの残高):残高は経済的価値を持つため、相続財産として問題になります。ただし、払戻しや承継の可否・手続方法はサービスごとの規約に左右されます。残高がある場合は、各事業者の相続・解約窓口に確認しましょう。

ポイント:マイルは「相続できるが期限がある」財産の代表例です。出張や旅行が多かった方の場合、早めにANA・JALへ連絡しておきましょう。


サブスク・有料サービスの解約|課金を止める

動画・音楽配信、アプリ、クラウドストレージ、新聞・雑誌の電子版、各種有料会員——こうしたサブスク(定額課金)は、解約しない限り料金が引き落とされ続けます。亡くなった後に気づかず、何か月も支払いが続いていた、というケースは珍しくありません。

見つけ方は、第2章の洗い出しと同じくクレジットカード・口座の引き落とし明細が基本です。あわせて、App Store(Apple)やGoogle Play の「定期購入」一覧を確認すると、アプリ経由の課金がまとめて把握できます。

解約は各サービスの窓口で行いますが、本人アカウントにログインできないと手続きが難しい場合があります。その際は、引き落とし元のクレジットカード会社へ連絡してカード自体を解約・停止する、各サービスへ死亡の事実を伝えて個別対応を依頼する、といった方法を検討します。ただし、クレジットカードを停止しても、サービス側の契約が直ちに解約されるとは限りません。可能な限り、各サービスで正式に解約手続きを行うのが望ましいです。


スマホ・携帯電話の解約とデータ

スマートフォン・携帯電話は、承継(名義変更)するか、解約するかを選びます。手続きはキャリア(携帯電話会社)の窓口で行い、死亡を確認できる書類(戸籍など)と、来店する方の本人確認書類・続柄が分かる書類が必要になるのが一般的です。承継すれば電話番号を引き継げ、解約すれば回線が停止します。

注意したいのは、端末のロックが解除できないと、中のデータ(写真・連絡先・各種認証アプリ)を取り出せないことが多い点です。最近はスマホが銀行やSNSの「二段階認証」の受け取り先になっていることも多く、端末が使えないと他の手続きまで止まってしまうことがあります。

なお、Appleなどの端末では、パスコードロックをメーカー側で解除できるわけではなく、利用を再開するには端末の消去(初期化)が必要になる場合があります。 中の写真や連絡先を取り出したいときは、解約や初期化の前に慎重に確認しましょう。解約のタイミングも、他のデジタル遺産の確認が一通り済んでからにすると安全です。


SNS・メール・クラウドのアカウント|追悼と削除

SNSやメール、クラウドのアカウントは、金銭的価値はなくても「どう扱うか」を決める必要があります。主要なサービスには、故人のアカウントに対応する仕組みが用意されています。

  • Facebook・Instagram:アカウントを「追悼アカウント」にする、または削除する対応が可能です。生前に「追悼アカウント管理人」を指定しておくこともできます(追悼アカウントへの変更には死亡を証明する資料が必要で、ログイン情報は提供されません)。
  • Google:生前に「アカウント無効化管理ツール」で、一定期間操作がない場合の扱いを設定できます。死後は、遺族がデータの提供やアカウント閉鎖をリクエストできる窓口があります。
  • Apple:「デジタル遺産プログラム(故人アカウント管理連絡先)」を生前に設定しておくと、指定された人がアクセスキーと死亡証明書類で故人のデータにアクセスできます。
  • X(旧Twitter)など:遺族や権限のある遺産管理人がアカウント削除を依頼できます(故人との関係にかかわらず、ログイン情報は公開されません)。

注意:各社の仕組みや名称・手順は変わることがあります。実際に手続きする際は、必ず各サービスの公式ヘルプで最新の方法を確認してください。

メールアカウントは、各種サービスの通知や本人確認の起点になっています。停止・削除する前に、未確認の金融・契約情報が残っていないかをチェックしておきましょう。


生前にできるデジタル終活|家族が困らないための備え

デジタル遺産のトラブルの多くは、「家族が存在を知らない」「IDやパスワードが分からない」ことから生まれます。元気なうちに次の備えをしておくと、ご家族の負担が大きく減ります。

  • “ありか”をリスト化する:利用しているネット銀行・証券、暗号資産取引所、サブスク、主要なSNS・メールを一覧にしておきます。パスワードそのものは書き残さず、保管場所だけを伝える方法が安全です。
  • 端末のロック解除情報を備える:スマホ・パソコンのパスコードや重要情報は、信頼できる家族に直接伝えるか、封印した書面・エンディングノート・専門家による管理など、安全な方法で保管します。
  • 各サービスの生前設定を使う:Appleの「故人アカウント管理連絡先」、Googleの「アカウント無効化管理ツール」、Facebookの「追悼アカウント管理人」などをあらかじめ設定しておきます。
  • エンディングノートに残す:デジタル資産の情報は、エンディングノートにまとめておくと家族が確認しやすくなります。

こうした準備は、財産の引き継ぎを円滑にするだけでなく、ご家族が「探し回る」負担そのものを軽くします。


まとめ

デジタル遺産は、「探しにくい・放置すると損をする・手続きに期限があるものがある」という、これまでの相続にはなかった難しさを持っています。ポイントは、お金が動いている場所(ネット銀行・証券・暗号資産・サブスク)から優先して洗い出すこと、そしてマイルなど期限のあるものを見逃さないことです。あわせて、元気なうちに“ありか”を残しておく生前の備えが、ご家族を大きく助けます。

ネット銀行・証券の相続手続きや財産の洗い出しでお困りのときは、専門家に相談することで、抜け漏れなく・安全に進めることができます。

デジタル遺産は見落とされやすく、気づいたときには期限が過ぎていた、不要な課金が続いていた、ということが起こりがちです。財産調査の一環として、できるだけ早い段階で確認を始めることをおすすめします。

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