※この記事は2026年7月時点の情報に基づく一般的な解説です。個別の事情によって取り扱いは異なります。実際の手続きや判断については、専門家にご相談ください。
相続の手続きを進めていると、「お墓や仏壇は誰が引き継ぐのだろう」という疑問が出てきます。預貯金や不動産のように、相続人で分けるものなのか。長男が継ぐものなのか。
実は、お墓や仏壇は、預貯金や不動産とは別のルールで引き継がれます。民法897条に定めがあり、「祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)」という立場の人が引き継ぐことになっています。
この記事では、祭祀承継者はどう決まるのか、遺産分割とはどう違うのか、決まった後に何をすればよいのかを、川崎の行政書士が整理します。お墓を実際にどうするか(墓じまいや供養方法の選択)は別の記事で解説していますので、ここでは「誰が引き継ぐか」に絞ってご案内します。
目次
- お墓や仏壇は「相続財産」ではない|祭祀財産という考え方
- 祭祀承継者は誰がなるのか|3つの決まり方
- 祭祀承継者は相続人でなくてもよい
- 遺産分割や相続放棄とは別|祭祀承継を混同しないために
- 祭祀承継者が決まった後にすること|墓地使用者の名義変更・規約確認
- 決まらない・もめそうなときは
- うりずんに相談できること
お墓や仏壇は「相続財産」ではない|祭祀財産という考え方
まず押さえておきたいのが、お墓や仏壇は、法律上「相続財産」とは別に扱われるという点です。
民法897条は、次の3つを「祭祀財産」として、通常の相続とは別のルールで承継されるものと定めています。
- 系譜:家系図など、先祖からのつながりを記したもの
- 祭具:仏壇、位牌、神棚、仏具など、祭祀に使うもの
- 墳墓:お墓、墓石、墓碑など
これらは、預貯金や不動産のように法定相続分で分けるものではありません。相続人全員で分割するのではなく、祭祀承継者となった一人が引き継ぐのが原則です。
なお、遺骨については、民法897条が挙げる3つのなかに直接は含まれていません。ただし裁判の実務では、特段の事情がなければ、祭祀財産を承継する人が遺骨も取得すると扱われています。
税金の面でも、相続財産とは扱いが異なります。墓地・墓石や、日常的に礼拝に使う仏壇・仏具などには、原則として相続税がかかりません。ただし、骨董品として価値のあるものや、投資の目的で所有しているものは別に扱われます。相続税がかからない財産については、別の記事で詳しく解説しています。
祭祀承継者は誰がなるのか|3つの決まり方
では、祭祀承継者は誰がなるのでしょうか。民法897条は、次の順序で決まると定めています。
1. 亡くなった方が指定していた場合は、その人
生前に「お墓は次男に頼む」と決めていた場合、その指定が優先されます。指定の方法に決まった形式はなく、遺言書に書いておく方法のほか、生前に口頭で伝えておく方法でも構いません。
ただし、口頭だけだと「本当にそう言っていたのか」で揉めることがあります。確実にしたいなら、遺言書に明記しておくのが安心です。遺言書の書き方については別の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
2. 指定がない場合は、慣習に従う
指定がなければ、その地域や家の慣習に従って決まります。ただし、現代では「この地域ではこう」という明確な慣習が残っていないことも多く、この段階で決まらないケースは少なくありません。
3. 慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所が定める
指定もなく、慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所が祭祀承継者を定めます。詳しくは後の章でご説明します。
こうして見ると、亡くなった方が生前に指定しておくことが、残された家族の負担をいちばん軽くする方法だとわかります。
祭祀承継者は相続人でなくてもよい
ここで、よくある誤解を解いておきます。
「祭祀承継者は長男がなるもの」と思われがちですが、民法にそのような決まりはありません。長男でも、次男でも、娘でも構いません。
さらに言えば、祭祀承継者は法定相続人である必要もありません。たとえば、内縁の配偶者や、血縁関係のない親しい方が祭祀承継者になることも、法律上は可能です。実際に長年お世話をしてくれた方に託す、という選択もあり得ます。
もちろん、実際には家族や親族のなかから選ばれることがほとんどです。ただ、「相続人でなければならない」という制約はないため、家族の事情に応じて柔軟に決められます。
一方で、慣習として「長男が継ぐもの」と考えている親族がいる場合、実際の指定と食い違って摩擦が生じることもあります。指定をするなら、その理由も含めて、生前に家族へ伝えておくと安心です。
遺産分割や相続放棄とは別|祭祀承継を混同しないために
祭祀承継は、通常の相続手続きとは別のものです。ここを混同すると、思わぬ食い違いが起こります。
祭祀財産は、遺産分割の対象ではありません
お墓や仏壇は相続財産ではないため、遺産分割の対象になりません。したがって、法定相続分に応じて分けるものでもなく、遺留分の対象にもなりません。
遺産分割協議書は、相続財産をどう分けるかを記録する書面です。祭祀財産はその対象ではないため、協議書に書けば承継関係が確定する、というものではありません。ただし、争いのない場合に、話し合いで決まった内容を確認のために記録しておく、という使い方をすることはあります。遺産分割協議書そのものの作り方は、別の記事で解説しています。
祭祀承継者が、財産を多くもらえるわけでもありません
お墓を引き継いだからといって、その分だけ相続分が増えるという決まりはありません。むしろ、管理料や法要の費用など、負担が生じる面もあります。実務では、この点を踏まえて相続人同士で話し合いをすることがあります。
Q. 相続放棄をすれば、お墓も引き継がなくてよいですか?
民法には、相続放棄のように、祭祀承継だけを放棄する制度はありません。相続放棄をしても、祭祀承継者になること自体はあり得ます。いったん承継者となった後に、その地位だけを放棄して白紙に戻すことは、一般に難しいと考えられています。
一方で、お墓を今後どのように扱うかは別の問題です。維持が難しい場合は、墓地の管理規約や改葬の手続きを確認したうえで、墓じまいを検討することがあります。墓じまいの手続きと費用については、別の記事で詳しく解説しています。
祭祀承継者が決まった後にすること|墓地使用者の名義変更・規約確認
祭祀承継者が決まったら、それで終わりではありません。ここが実務で見落とされやすい点です。
お墓の場合、多くは墓地の土地そのものを所有しているわけではなく、墓地を使用する権利(使用契約)を持っている状態です。そのため、民法上の祭祀承継とは別に、墓地の管理者に対して使用者の名義変更の手続きが必要になります。
確認しておきたいのは、次のような点です。
- 管理規約の内容:寺院墓地や霊園には、それぞれ管理規約があります。承継できる人の範囲が「親族に限る」などと定められている場合があり、民法上は承継者になれても、墓地側の規約で認められないことがあります。
- 名義変更の手続きと書類:戸籍や、承継を証明する書類、申請書などが求められます。手数料がかかることもあります。
- 管理料の引き継ぎ:これまでの管理料の支払い状況と、今後の支払い方法を確認します。
民法で祭祀承継者になっても、墓地側の手続きをしなければ、実際にお墓を使うことができない——これが実務上の要点です。承継が決まったら、早めに墓地の管理者に連絡し、必要な手続きを確認しましょう。
仏壇や位牌についても、誰が引き取り、どこに安置するかを、家族で具体的に決めておくと後の混乱を防げます。
決まらない・もめそうなときは
話し合いでも決まらない、あるいは親族間で意見が食い違う場合には、家庭裁判所に「祭祀承継者の指定」を求める申立てをすることができます。
ここで注意したいのは、これは遺産分割の調停とは別の手続きだという点です。同じ家庭裁判所で扱われますが、遺産分割調停、成年後見の申立て、遺言書の検認とは、それぞれ別の手続きになります。
申立てにあたっては、亡くなった方や関係する方の戸籍のほか、墓地の使用権を証明する書類などが求められることがあります。手続きの詳細は、申立てをする家庭裁判所に確認してください。
なお、祭祀承継者を誰にするかだけでなく、墓地の使用権や費用の負担をめぐって争いになっている場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。感情的な対立に発展しやすい分野だからこそ、第三者を交えて整理する意味があります。
うりずんに相談できること
うりずん相続手続き相談室では、行政書士として、祭祀承継に関するご相談に対応しています。
生前の準備としては、遺言書のなかで祭祀承継者を明確に指定しておくための、遺言書案の作成支援を行っています。「誰に何を託すか」を文書として残しておくことで、残された方が迷わずに済みます。また、祭祀承継の意思を書面にしておく方法や、墓地に関する書類の整理もお手伝いします。
相続が起きた後については、戸籍の収集による相続人調査、財産調査、遺産分割協議書の作成、銀行口座の解約手続きのサポートなど、行政書士・社会保険労務士として対応できる手続きを中心にお手伝いしています。
家庭裁判所への申立書の作成が必要な場合は司法書士、承継者や墓地の使用権、費用負担をめぐって争いがある場合は弁護士と連携し、必要な専門家へ適切におつなぎします。相続登記や相続税申告についても、提携する司法書士・税理士と連携します。
事務所は川崎区中島にあり、川崎市・横浜市の皆さまのご相談に対応しています。「お墓のことを、どう決めておけばよいか分からない」という段階からのご相談も承っていますので、どうぞお気軽にお声がけください。
まとめ
- お墓・仏壇・位牌などの祭祀財産は、預貯金や不動産とは別のルールで引き継がれます(民法897条)。相続財産ではないため、法定相続分で分けるものではありません。
- 祭祀承継者は、①亡くなった方の指定 → ②慣習 → ③家庭裁判所、の順で決まります。指定の方法に決まった形式はなく、遺言書に書いておく方法が確実です。
- 祭祀承継者は、長男である必要も、法定相続人である必要もありません。家族の事情に応じて決められます。
- 祭祀財産は遺産分割の対象ではありません。相続放棄をしても、祭祀承継者になることはあり得ます。
- 承継者が決まったら、墓地の管理者に対する使用者の名義変更が必要です。管理規約で承継できる人の範囲が定められていることもあるため、早めに確認しましょう。
- 決まらない場合は、家庭裁判所に祭祀承継者の指定を求める申立てができます。これは遺産分割調停とは別の手続きです。
- うりずんは、遺言書での指定の支援や、承継の意思の書面化をお手伝いします。争いがある場合は弁護士と連携します。