※この記事は2026年7月時点の情報に基づく一般的な解説です。家族信託は、信託法・税務・不動産登記・親族間の合意形成など複数の分野にまたがる制度です。信託契約書の設計、不動産の信託登記、税務上の影響はご家庭の事情によって異なります。信託不動産の登記は司法書士、贈与税・相続税・所得税など税務判断は税理士、権利関係に争いがある場合は弁護士の関与が必要です。個別のケースは、それぞれの専門家にご相談ください。

「親が認知症になったら、実家や預金はどうなるのだろう」——そんな不安を感じたことはありませんか。判断能力が低下すると、本人名義の不動産を売ったり、預金を下ろしたりといった手続きが、本人にも家族にもできなくなることがあります。これが、いわゆる「資産凍結」です。

この資産凍結への備えとして、近年注目されているのが「家族信託」です。元気なうちに、財産の管理を信頼できる家族に託しておくことで、認知症になった後も、信託した財産について家族が管理し続けられる——そんな仕組みです。

ただし、家族信託は万能ではありません。設計が難しく、原則として元気なうちにしか始められず、向いているご家庭とそうでないご家庭があります。この記事では、家族信託の仕組み、できること、成年後見制度との違い、費用や注意点までを、川崎の行政書士がやさしく整理します。信託は信託法・税務・登記が絡む専門的な制度ですので、本記事は「わが家に合うか」を考えるための一般的な入門としてお読みください。


目次

  1. 家族信託とは?認知症による「資産凍結」を防ぐ仕組み
  2. 家族信託の登場人物(委託者・受託者・受益者)
  3. 家族信託でできること(3つの代表例)
  4. 成年後見制度との違い|どちらを選ぶ?
  5. 家族信託のメリット
  6. 家族信託の注意点・デメリット
  7. 費用と、始めるまでの流れ
  8. うりずんに相談できること
認知症による資産凍結に家族信託で備え、司法書士・税理士と連携しながら信託契約書を準備する親子のイラスト
資産凍結の不安から、家族信託で備え、専門家と連携して契約書を準備するまでの流れ

家族信託とは?認知症による「資産凍結」を防ぐ仕組み

家族信託とは、自分の財産の管理や処分を、信頼できる人に託しておく契約です。一般には、親が委託者となり、信頼できる子などの家族を受託者として、親自身を受益者にする形がよく使われます。この形が「家族信託」と呼ばれる理由です。

大きな特徴は、認知症などによる資産凍結に備えられることです。判断能力が低下すると、本人名義の不動産の売却や預金の引き出しができなくなることがありますが、家族信託を結んでおけば、契約後すぐに効力が生じ、親の判断能力が低下した後も、受託者である家族が契約で定めた範囲で財産を管理・処分し続けられます。

ここで大切な注意点があります。家族信託で管理できるのは、信託契約で「信託財産」に入れた財産だけです。信託していない預金や不動産については、この仕組みではカバーされず、判断能力が低下した後に動かせなくなる可能性があります。何を信託財産に入れるかは、設計の重要なポイントになります。


家族信託の登場人物(委託者・受託者・受益者)

家族信託には、3人の登場人物がいます。この関係を理解すると、仕組み全体が見えてきます。

  • 委託者(いたくしゃ):財産を託す人。多くの場合、財産を持つ親です。
  • 受託者(じゅたくしゃ):財産の管理・処分を任される人。多くの場合、子などの家族です。
  • 受益者(じゅえきしゃ):信託財産から生じる利益を受け取る人。多くの場合、委託者である親自身です(親のための財産管理なので、利益も親が受け取ります)。

つまり典型的には、「親(委託者)が、子(受託者)に財産管理を任せ、その利益は親(受益者)が受け取る」という形です。

なお、受託者について、よく「家族に限られる」と説明されることがありますが、法律上、受託者が家族に限られると決まっているわけではありません。実務上、子などの家族・親族が受託者になることが多い、というのが正確なところです。一方で、行政書士・司法書士などの専門家が、反復継続・営利目的で受託者を引き受ける場合には、信託業法上の問題が生じます。そのため専門家は通常、受託者そのものにはならず、制度設計や信託契約書案の作成、登記・税務の専門家として関与します。


家族信託でできること(3つの代表例)

家族信託が使われる代表的な場面を、3つ挙げます。

ひとつめは、実家など自宅不動産の管理・処分です。親が認知症になった後でも、信託財産に入れておいた実家であれば、受託者が契約で定めた範囲で、修繕や売却などを行えます。「親の施設入所費用のために実家を売りたいのに、本人の判断能力がなく売れない」という事態を避けられます。

ふたつめは、収益不動産の管理です。アパートなどの賃貸物件を信託財産にしておけば、受託者が入居者との契約や建物の管理を続けられます。所有者である親の健康状態に左右されず、賃貸経営を止めずに済みます。

みっつめは、次の世代への承継先の指定です。家族信託では、「自分の亡き後は自宅を妻に、妻も亡き後は長男に」というように、次の世代以降の承継先を指定できる設計が可能な場合があります。これは遺言では難しい機能です。ただし、受益者を何代も先まで無制限に指定できるわけではなく、信託法上の期間制限にも注意が必要です。

なお、信託財産として管理するお金の入出金や支払いについては、信託専用の口座で管理するのが一般的ですが、信託口口座の開設の可否や取扱いは金融機関によって異なります。この点は、事前に確認しておきたいところです。


成年後見制度との違い|どちらを選ぶ?

認知症に備える制度としては、成年後見制度もよく知られています。家族信託とは目的も仕組みも異なるので、主な違いを整理します。

項目家族信託成年後見制度(法定後見)
始められる時期元気なうち(判断能力があるうち)判断能力が低下した後でも申立て可能
財産管理の柔軟性契約内容に応じて柔軟に設計でき、定めた範囲で処分・活用しやすい本人保護が原則で、積極的な運用は制限される
家庭裁判所の関与原則なしあり(後見人の選任・監督)
費用の構造初期費用がかかる。継続報酬は設計による専門職が後見人だと継続的な報酬が発生することが多い
身上監護(介護・医療の契約等)対象外対象
承継先の指定次の世代以降も指定できる場合があるできない
向いている場面元気なうちに実家・収益不動産の管理や承継に備えたいすでに判断能力が低下している・本人保護や身上監護が必要

ここでいう「身上監護」とは、介護そのものを行うことではなく、施設への入所、介護サービスの利用、医療・入院に関する契約や手続きを支えることを指します。家族信託は財産の管理に特化した仕組みなので、この身上監護はカバーしません。介護や医療の手続きまで支える必要がある場合は、成年後見制度などが別途必要になります。任意後見と法定後見の違いは、別の記事でも解説しています。

大切なのは、どちらが優れているかではなく、使い分けです。元気なうちの財産管理や承継の備えには家族信託が、すでに判断能力が低下した後の本人保護や身上監護には成年後見が向いています。ご家庭の状況によっては、両方を組み合わせることもあります。


家族信託のメリット

家族信託の主なメリットを整理します。

まず、認知症による資産凍結を防げることです。元気なうちに契約しておけば、判断能力が低下した後も、信託財産について家族が管理・処分を続けられます。

次に、柔軟な財産管理ができることです。家庭裁判所の関与がなく、契約内容を家庭の事情に合わせて設計できるため、実家の売却や収益不動産の管理なども、契約で定めた範囲で行えます。

また、費用の構造が成年後見とは異なります。家庭裁判所が選任した専門職後見人に継続的な報酬が発生する成年後見とは違い、家族が受託者になる家族信託では、その形の継続報酬は生じません。ただし、家族信託でも受託者報酬を定めたり、信託監督人などを置く設計にすると費用がかかる場合があります。

そして、次の世代以降への承継先を指定できる設計が可能な場合があること、契約後すぐに効力が生じることも、家族信託の特徴です。


家族信託の注意点・デメリット

メリットの一方で、家族信託には知っておくべき注意点があります。始める前に、必ず確認してください。

第一に、原則として、認知症を発症した後は家族信託を始められません。信託は契約なので、委託者に契約を結ぶ判断能力が必要だからです。「元気なうちに準備する」ことが大前提で、備えとして考えるなら早めの検討が大切です。

第二に、契約設計が難しいことです。将来の介護費用の増大や家族構成の変化などを見越して、受託者にどこまでの権限を与えるかを設計しておかないと、いざというときに身動きが取れなくなります。専門家と一緒に、将来を見据えた設計をすることが重要です。

第三に、受託者以外の親族の理解が欠かせないことです。仕組みを知らない親族から見ると、受託者が財産を独り占めしているように誤解されることがあります。家族会議などで、目的と仕組みを家族全員に正確に伝えておくことが、後のトラブルを防ぎます。

第四に、身上監護をカバーしないことです。前述のとおり、介護・医療に関する契約や手続きが必要な場合は、成年後見制度などが別途必要になります。

第五に、税務上の注意点があることです。たとえば、収益不動産を信託する場合、損益通算の制限など税務上の注意点が生じることがあります。具体的な課税関係は、必ず税理士に確認してください。

なお、頼れる受託者となる家族・親族がいないおひとりさまの場合は、家族信託よりも、任意後見・死後事務委任・身元保証などを組み合わせる方が、現実的な備えになることがあります。


費用と、始めるまでの流れ

家族信託にかかる費用は、財産の種類、不動産の有無、契約設計の複雑さ、公正証書にするかどうか、信託登記の有無などによって大きく変わります。特に不動産を信託する場合は、専門家への報酬に加え、信託登記の登録免許税、公正証書の作成費用などが絡み、ケースによっては数十万円以上になることもあります。金額は一律ではないため、財産の内容を踏まえて見積もりを確認することが大切です。

始めるまでの大まかな流れは、次のようになります。

まず、家族で話し合い、何のために・誰に・どの財産を託すのかを整理します。次に、専門家に相談して、信託の設計を固めます。設計が決まったら、信託契約書を作成します(公正証書にするのが一般的です)。不動産を信託財産に入れる場合は、信託の登記を行います。最後に、信託財産を管理するための口座などを整えて、管理を開始します。

この過程では、信託契約書案の作成や必要書類の整理は行政書士が、不動産の信託登記は司法書士が、税務の判断は税理士が、というように、複数の専門家が役割を分担して関わることになります。


うりずんに相談できること

うりずん相続手続き相談室では、行政書士として、家族信託を検討する段階からのご相談、ご家族の状況整理、そして家族信託の設計に必要な情報整理と、信託契約書案の作成支援をお手伝いします。「わが家に家族信託が向いているのか」「成年後見や遺言と、どう使い分ければよいのか」という入口から、一緒に整理していきます。

信託不動産の登記は司法書士、贈与税・相続税・所得税など税務の判断は税理士、権利関係に争いがある場合や紛争性のある法的判断は弁護士と連携し、必要な専門家と協力しながら進めます。認知症への備えは、家族信託だけでなく、任意後見や遺言など複数の選択肢を組み合わせて考えるものです。終活カウンセラーとして、その全体像の整理から、川崎・横浜エリアの皆さまのご相談に対応しています。どうぞ、お気軽にご相談ください。


まとめ

  • 家族信託は、元気なうちに財産の管理を信頼できる家族に託し、認知症による資産凍結に備える仕組みです。
  • 管理できるのは信託財産に入れた財産だけで、信託していない預金・不動産は別途の対策が必要です。
  • 受託者は、実務上は子などの家族・親族が多いですが、法律上「家族限定」ではありません。士業などが反復継続・営利目的で受託者になると信託業法上の問題が生じるため、専門家は通常、設計・契約書案作成・登記・税務の面で関与します。
  • 家族信託は財産管理に特化した仕組みで、介護・医療の手続きを支える身上監護はカバーしません。元気なうちの財産管理・承継は家族信託、判断能力低下後の本人保護・身上監護は成年後見、という使い分けが基本です。
  • 原則として認知症発症後は始められない、設計が難しい、親族の理解が必要、初期費用がかかる、といった注意点があります。
  • 信託登記は司法書士、税務は税理士、争いは弁護士へ。うりずんは入口の整理と信託契約書案の作成支援を行い、必要な専門家と連携します。まずはお気軽にご相談ください。