相続の手続きでは、銀行・法務局・年金事務所など、提出先ごとに「亡くなった方の出生から死亡までの戸籍」をそろえて出す必要があります。何通もの戸籍の束を、行く先々で出し直す——これが相続手続きを大変にしている原因のひとつです。
この負担をぐっと軽くしてくれるのが「法定相続情報一覧図」です。戸籍の束を一度だけ法務局に提出すれば、相続関係を1枚にまとめた証明書を無料で何枚でも受け取れ、各手続きで戸籍の代わりに使えます。この記事では、その作り方と使い方を、行政書士の視点でやさしく整理します。戸籍そのものの集め方は相続人調査|戸籍を集める3つのルートで、相続全体の流れは親が亡くなったらやるべき10のことでまとめていますので、あわせてご覧ください。
目次
- 法定相続情報一覧図とは|戸籍の束を1枚にまとめる制度
- 使うメリット|手続きのたびに戸籍を出し直さなくてよい
- どんな手続きに使える?|登記・預貯金・年金・相続税など
- 作成・申出の流れ|戸籍を集めて登記所に申し出る
- 戸籍集めが楽になった|広域交付制度(2024年3月から)
- 申出する登記所はどこ?|4つの中から選べる
- 必要な書類|戸籍一式・住民票・申出書
- 一覧図の写しは無料で何枚でも|有効期限と再交付
- 注意点|載る人・載らない人、使えないケース
- 自分で作る?専門家に頼む?|行政書士に依頼する選択肢

法定相続情報一覧図とは|戸籍の束を1枚にまとめる制度
法定相続情報一覧図とは、亡くなった方(被相続人)と相続人の関係を1枚にまとめた図で、法務局の登記官が「この内容で間違いない」と認証してくれる公的な証明書です。2017年(平成29年)5月から始まった「法定相続情報証明制度」で交付されます。
仕組みはシンプルです。相続人が、被相続人の戸籍一式と、自分で作成した一覧図を法務局(登記所)に提出すると、登記官が内容を確認し、認証文の付いた「法定相続情報一覧図の写し」を交付してくれます。提出した戸除籍謄本等は返却されます。この写しは、各種の相続手続きで戸籍謄本の束の代わりとして使えます。
使うメリット|手続きのたびに戸籍を出し直さなくてよい
最大のメリットは、戸籍の束を何度も準備・提出しなくてよくなることです。これまでは、銀行A・銀行B・法務局・年金事務所…と、提出先ごとに戸籍一式を用意するか、1セットを使い回して順番に手続きする必要がありました。戸籍は通数が多いと厚みも費用もかさみ、返却を待つ間は次の手続きに進めない、ということも起こりがちです。
法定相続情報一覧図なら、写しを無料で必要な枚数受け取れるので、複数の提出先に同時並行で手続きを進められます。相続手続き全体のスピードが上がり、戸籍の取り直しにかかる費用も抑えられます。
どんな手続きに使える?|登記・預貯金・年金・相続税など
法定相続情報一覧図の写しは、相続に関わる幅広い手続きで使えます。主なものは次のとおりです。
- 不動産の相続登記(法務局)
- 預貯金の払戻し・名義変更(銀行・ゆうちょなど)
- 相続税の申告(2018年4月から利用可)
- 遺族年金・未支給年金などの年金手続き
- 自動車の名義変更 など
利用できる範囲は少しずつ広がっています。使えるかどうか分からないときは、提出先の機関に確認すると確実です。なお、相続税の申告で使う場合は、図形式の一覧図であること、子について実子・養子の区別が分かる続柄で記載されていることなど、税務上の条件があります(養子がいる場合は、別途その養子の戸籍謄本等が必要になることもあります)。
また、不動産登記では、2024年4月から、登記申請書に「法定相続情報番号」を記載することで、一覧図の写しの添付を省略できる場合があります。ただし、省略できるのは一覧図に記載された相続関係などの情報に限られ、遺産分割協議書や相続放棄に関する書類など、別途必要な書類まで省略できるわけではありません。不動産登記以外の手続きでは、この番号は使えません。
作成・申出の流れ|戸籍を集めて登記所に申し出る
作成から交付までは、大きく次の流れです。
- 戸籍を集める:被相続人の出生から死亡までの戸籍一式と、相続人の現在の戸籍をそろえます(ここが一番手間のかかる工程です)。
- 一覧図を作る:集めた戸籍をもとに、被相続人と相続人の関係を図にまとめます。様式と記載例は法務局のホームページで公開されています。
- 申出書を作って法務局へ申し出る:必要書類と一覧図を添えて登記所に提出します(郵送も可能です)。
- 写しの交付を受ける:登記官の確認後、認証文付きの写しが無料で交付され、戸籍は返却されます。
書類がそろっていれば、申出から交付までは1〜2週間程度が目安です(混雑状況などで前後します)。
戸籍集めが楽になった|広域交付制度(2024年3月から)
一覧図づくりで一番大変なのが、戸籍集めです。ここを大きく助けてくれるのが、2024年3月1日に始まった「戸籍の広域交付制度」です。
これまで戸籍は本籍地のある市区町村ごとに請求する必要があり、被相続人が転籍をくり返していると、各地の役場に取り寄せて回らなければなりませんでした。広域交付制度では、本籍地以外の市区町村の窓口でも、複数の自治体の戸籍(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍)をまとめて請求できます。最寄りの役場1か所で戸籍をそろえられるようになり、相続人ご本人で集める負担がぐっと軽くなりました。
ただし、いくつか制限があります。
- 請求できるのは、本人・配偶者・直系尊属(父母・祖父母)・直系卑属(子・孫)のみです。兄弟姉妹は請求できません(兄弟姉妹が相続人になるケースでは使えない場面があります)。
- コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍は、広域交付の対象外です。その場合は、従来どおり本籍地の市区町村へ請求する必要があります。
- 戸籍の附票や戸籍抄本は対象外です。
- 本人が窓口に出向く必要があり、郵送・オンラインや、委任状による代理請求はできません。窓口では、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど、顔写真付きの本人確認書類が必要です。本籍地に確認を取るため、後日の受け取りになることもあります。
直系のご家族がご自分の手で戸籍を集めるケースでは、特に便利な制度です。一方で、兄弟姉妹が相続人になる場合や、古い戸籍が絡む場合は、これだけではそろわないこともあります。
申出する登記所はどこ?|4つの中から選べる
申出は、どこの法務局でもできるわけではなく、次の4つのいずれかを管轄する登記所から選びます。
- 被相続人の本籍地(死亡時の本籍)
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人(手続きをする相続人)の住所地
- 被相続人名義の不動産の所在地
複数が当てはまる場合は、行きやすい登記所を選べます。窓口に行くほか、郵送での申出・受取も可能です(その場合は返信用の封筒と切手を同封します)。
必要な書類|戸籍一式・住民票・申出書
申出には、主に次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む一式)
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の現在の戸籍
- 申出人の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードの写しなど)
- 申出書(法務局の様式)と、自分で作成した法定相続情報一覧図
一覧図に各相続人の住所も載せたい場合は、相続人の住民票の写しを添えます(住所の記載は任意です)。専門家に依頼する場合は、これに委任状が加わります。
なお、古い相続では、被相続人の住民票の除票が保存期間の経過などで取得できないことがあります。その場合は、戸籍の附票などで最後の住所を確認することがありますので、早めに確認しておくと安心です。
一覧図の写しは無料で何枚でも|有効期限と再交付
法定相続情報一覧図の写しは、必要な通数を無料で交付してもらえます。銀行や法務局など複数の提出先がある場合は、手続きの数を見込んで、まとめて必要枚数を請求しておくと便利です。
一覧図は申出日の翌年から5年間、法務局で保管され、その間は無料で再交付を受けられます(足りなくなったときも安心です)。ただし、再交付を申し出られるのは当初の申出人に限られ、他の相続人が受け取る場合は委任状が必要です。なお、一覧図の写し自体に有効期限はありませんが、提出先によっては「発行から3か月以内」などの独自ルールを設けていることがあるため、提出のタイミングには気をつけましょう。
注意点|載る人・載らない人、使えないケース
法定相続情報一覧図は、戸籍の記載に基づいて法定相続人を示すものです。そのため、いくつか押さえておきたい点があります。
- 相続放棄をした人や、遺産分割で取り分がなかった人も、一覧図には記載されます(法定相続人であることに変わりはないため)。一覧図は「誰が相続するか」ではなく「誰が法定相続人か」を示すものだと理解しておきましょう。
- 廃除された人は記載されません(相続権がはく奪されているため)。
- 一覧図に相続分(持分)は記載できません。
- 被相続人や相続人が日本国籍を持たないなど、戸籍で出生から死亡までをたどれない場合は、この制度を利用できません。
自分で作る?専門家に頼む?|行政書士に依頼する選択肢
法定相続情報一覧図は、ご自身で作成・申出することもできます。様式は公開されており、費用も基本的に戸籍の取得実費だけです。一方で、戸籍を出生までさかのぼって正確に集め、関係を漏れなく図にまとめる工程は、家族関係が複雑なほど手間と知識が必要になります。
ご自身での対応が難しい場合は、資格者代理人に申出を委任できます。委任できるのは、行政書士・司法書士・弁護士・税理士・社会保険労務士などの専門家です。専門家に依頼した場合、受任業務に必要な範囲で戸籍を取り寄せながら、戸籍の収集から一覧図の作成・申出までまとめて任せることができます。広域交付制度では対応しにくい兄弟姉妹相続や、古い戸籍が絡むケースでも、実務に慣れた専門家に相談することで進めやすくなります。「戸籍を集める時間がない」「正確に作れるか不安」という方は、専門家への依頼も検討してみてください。
まとめ
法定相続情報一覧図は、戸籍の束を1枚にまとめ、各種の相続手続きで使い回せる便利な証明書です。写しは無料で何枚でも受け取れ、5年間は再交付もできます。銀行・法務局・年金・相続税など、手続きが多いほど効果を実感できます。
進め方は、①戸籍を集める →②一覧図を作る →③法務局(4つの登記所のいずれか)に申し出る、の3ステップです。戸籍の収集が最初の関門なので、ここでつまずきそうなときは、早めに専門家に相談すると手続き全体がスムーズに進みます。
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