※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。片付けてよいかどうかは、相続の状況、契約の内容、亡くなった方の財産と負債によって変わります。相続放棄や熟慮期間の伸長など家庭裁判所での手続については、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にご確認ください。残置物の処分が相続放棄に影響するかなど、個別の法律判断が必要な場合は、処分する前に専門家へご相談ください。賃貸借契約に関する消費者トラブルについては、消費生活センター(消費者ホットライン188)も相談先となります。

賃貸住宅でひとり暮らしをしていた親や兄弟が亡くなり、大家さんや管理会社から連絡が来る。部屋の荷物を早く出してほしいと言われて、何から手をつければよいのか分からない。川崎市・横浜市でご相談をお受けしていると、そうしたお話をうかがうことがあります。

急かされている状況では、とにかく片付けなければと思ってしまうものです。けれども、片付けの順番を間違えると、あとから選べたはずの道が閉ざされてしまうことがあります。

この記事では、亡くなったあとの部屋に残された物を誰がどう片付けることになるのか、そして手をつける前に確かめておきたいことを、行政書士の立場からご説明します。


目次

  1. 片付ける前に、いったん手を止めてください
  2. 残置物は誰のものなのか
  3. 誰が片付けることになるのか
  4. 相続放棄後も「現に占有している財産」には保存義務が残る場合がある
  5. 相続人がいない場合と、相続人の所在が分からない場合
  6. 生前に決めておけば、この混乱の多くは避けられる
  7. 連絡が来たときの進め方
  8. うりずん相続手続き相談室でできること
大家から荷物の引き取りを求められた50代の男性が、部屋に残された物は相続財産にあたること、片付けると相続を承認したとみなされる場合があること、相続放棄には期限があること、連帯保証人にも処分の権限はないこと、生前の備えで混乱を避けられることを行政書士から説明を受けている様子を描いたイラスト

片付ける前に、いったん手を止めてください

先にお伝えしておきたいことがあります。

部屋に残された物のうち、亡くなった方が所有していた物は相続財産です。相続財産に当たる物を売却・廃棄するなど、その行為が民法921条の「処分」に当たる場合には、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。

つまり、部屋を片付けたあとで多額の借金や滞納家賃が見つかっても、そのときにはもう相続放棄が認められなくなるおそれがあるということです。

何が「処分」に当たるかは、処分した物の内容や行為の態様・理由などによって判断が分かれます。「価値がなさそうだから捨てても大丈夫」と自己判断しないことが大切です。

あわせて知っておいていただきたいのが、期限です。相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。判断に必要な資料が集まらないときは、期間を延ばしてもらう制度もあります。

3か月は、思っているより短いものです。相続放棄を検討する可能性があるなら、片付けに関わる前にご相談ください。


残置物は誰のものなのか

部屋に残された物、いわゆる残置物が誰のものかを整理しておきます。

通常の賃貸借では、入居者が亡くなると、賃借権と、入居者が所有していた残置物の所有権は相続人に承継されます。つまり残置物は相続財産であり、大家さんの物ではありません。

ここから2つのことが言えます。

ひとつは、大家さんが勝手に処分することはできないということです。部屋を空にしたいのは当然の要望ですが、他人の財産を無断で処分することは認められていません。契約書に「死亡後は残置物を処分できる」旨の条項が入っていることもありますが、その条項があるというだけで当然に処分できるとは限りません。

もうひとつは、相続人の側にも制約があるということです。相続人が複数いる場合もありますし、相続放棄をする方がいる場合もあります。大家から連絡を受けた親族だからといって、当然に自由に処分できるわけではありません。

なお、部屋の中にある物がすべて亡くなった方の所有物とは限りません。借りていた物や、同居していたご家族の物が混ざっていることもあります。


誰が片付けることになるのか

関係する立場を整理すると、次のようになります。

  • 相続人 … 残置物の所有者。原則としてこの方が片付けることになります
  • 連帯保証人 … 未払家賃などの支払いに関わる立場です
  • 大家さん・管理会社 … 部屋の明渡しを求める側です

ここで誤解が生じやすいのが、連帯保証人の立場です。

連帯保証人は、保証契約の範囲内で未払家賃などの保証債務を負うことがありますが、連帯保証人であるというだけで残置物を処分する権限が生じるわけではありません。

つまり、お金の面では責任を求められる一方、物を処分してよいかどうかは別の話だということです。良かれと思って片付けたことが、あとからトラブルになることがあります。


相続放棄後も「現に占有している財産」には保存義務が残る場合がある

相続放棄をすれば、それですべての関わりが終わるとお考えの方もいらっしゃいますが、そうとは限りません。

2023年4月に施行された改正民法940条は、次のように定めています。相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

この改正で重要なのは、「現に占有している」という要件が明確にされたことです。義務を負うかどうかは、遠方に住んでいるかどうかではなく、放棄の時にその財産を現に占有しているかどうかが基準になります。

「現に占有している」とは、その財産を事実上支配し、管理している状態を指すとされています。実際に当てはまるかどうかは、そのときの事情によって変わります。ご自身の状況が該当するかどうかは、専門家にご確認ください。


相続人がいない場合と、相続人の所在が分からない場合

この2つは、似ているようで別の制度が用意されています。混同されやすいところです。

相続人がいない場合

相続が開始したものの、相続人の存在・不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をした場合を含みます)は、家庭裁判所が相続財産清算人を選任する制度があります(民法951条から959条)。利害関係人または検察官の申立てにより選任されるもので、未納家賃があるときには大家さんが利害関係人に当たる場合もあります。選任された清算人が、相続財産の管理や清算を行います。

相続人はいるが、所在が分からない場合

こちらは相続財産清算人の制度ではありません。相続人が誰かは分かっているものの、その方が行方不明で連絡が取れないという場合には、不在者財産管理人の選任が問題となり得ます。どちらの制度に当たるのかは、状況を整理したうえで判断することになります。

ただし、この制度を使えばすぐに解決するというものではありません。相続財産だけでは清算人の事務費用や報酬等が不足する可能性がある場合には、家庭裁判所から予納金の納付を求められることがあります。手続きにも時間がかかります。

なお、選任の申立ては家庭裁判所へ提出する書類の作成を伴いますので、司法書士または弁護士にご相談ください。


生前に決めておけば、この混乱の多くは避けられる

ここまでお読みになって、亡くなったあとの片付けがこれほど面倒なのかと感じられたかもしれません。裏を返せば、生前に決めておけば避けられるということでもあります。

国土交通省と法務省は、残置物の処理等に関するモデル契約条項というひな形を示しています。単身の高齢者が賃貸住宅に入居する場面を想定したもので、使用が義務づけられているものではありません。

中心となるのは2つの契約で、これに賃貸借契約側の関連条項を組み合わせる仕組みです。

  • 解除関係事務委任契約 … 亡くなったあとに賃貸借契約を解除する代理権を、受任者に授与しておくもの
  • 残置物関係事務委託契約 … 賃貸借契約の終了後に、残置物の送付・廃棄・換価などを行う事務を委託するものです。保管に適した非指定残置物については、モデル条項では死亡から3か月を経過し、かつ賃貸借契約が終了したあとに処理する仕組みになっています

また、2025年(令和7年)10月1日に施行された改正により、居住支援法人の業務に、入居者本人からの委託にもとづく残置物処理が加えられました。ただし、居住支援法人がこの業務を行うには、指定や業務変更の認可に加えて、残置物処理等業務規程について都道府県知事の認可を受ける必要があります。

いずれにも共通しているのは、本人が生前に、自分の意思で委託しておくという点です。亡くなったあとに周囲が慌てるのではなく、契約という形で先に決めておく発想です。

死後事務委任契約で賃貸住宅の明け渡しまで頼めるのか、大家・不動産会社の側で気をつけることは何かについては、それぞれ別の記事で詳しくご説明します。


連絡が来たときの進め方

実際に大家さんや管理会社から連絡が来たときの、おおまかな順番です。

  • 1 まず状況を聞き取ります。契約の名義、滞納の有無、鍵の所在、部屋の状態を確認します
  • 2 「相続関係と相続方針を確認してから回答します」と伝え、その場で処分を約束しないようにします
  • 3 亡くなった方の財産と負債の全体像を確認します
  • 4 相続放棄を検討するなら、片付けに関わる前に司法書士・弁護士にご相談ください
  • 5 相続する方針が固まってから、遺品整理・原状回復・明渡しへ進みます

大家さんの側にも、次の入居者を迎えられないという事情があります。何もお答えしないのではなく、「確認してからご返事します」と伝えることが、双方にとって無用の摩擦を避ける方法です。


うりずん相続手続き相談室でできること

当相談室では、行政書士・社会保険労務士として、次のようなご相談をお受けしています。

  • 亡くなったあとに必要となる手続きの洗い出しと、順番の整理
  • 戸籍の収集と、相続人の確定
  • 財産と負債の調査、遺産分割協議書の作成
  • 生前の備えとしての死後事務委任契約の内容の整理と、契約書の原案作成
  • 任意後見契約の原案作成、必要資料の整理、公証人との事前調整(任意後見契約は公正証書で締結する必要があります)

一方で、相続放棄の申述や、相続財産清算人の選任の申立ては、家庭裁判所へ提出する書類の作成を伴いますので、当室が担う領域ではありません。提携する司法書士・弁護士へおつなぎします。大家さんとの交渉や、争いのある事案の代理も、行政書士の業務範囲外です。

相続のお手続きでお困りの方へ

また、不動産の相続登記、相続税の申告、明渡しや原状回復をめぐる紛争への対応については、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携してお手伝いします。

川崎・横浜エリアを中心に、初回のご相談は60分無料・土日祝もご予約可能・秘密厳守・お問い合わせには翌営業日までにご返信しています。お電話・LINE・お問い合わせフォームから、お気軽にご連絡ください。

川崎市・横浜市を中心に、ご相談をお受けしています。急かされていて何から手をつけてよいか分からない、という段階からで構いません。


まとめ

残置物のうち、亡くなった方が所有していた物は相続財産です。原則として相続人が片付けることになり、大家さんが勝手に処分することはできません。連帯保証人も、保証債務を負うことはあっても、それだけで処分の権限が生じるわけではありません。

片付ける前に確かめていただきたいのは、相続放棄を検討する必要がないかどうかです。売却や廃棄が民法921条の「処分」に当たる場合には単純承認をしたものとみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。申述の期限も原則として3か月です。順番を間違えると、選べたはずの道がなくなります。

そして、この混乱の多くは生前に決めておくことで避けられます。残置物の処理等に関するモデル契約条項のような仕組みを、元気なうちに検討しておく。それが、残される方への一番の配慮になります。

どこから手をつけてよいか分からないときは、一度ご相談ください。