※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。書類の取得にかかる期間、必要な通数、証明書の取扱いは、相続人がお住まいの国や地域、郵送方法、手続先によって変わります。実際のお手続きの前に、お住まいの市区町村の窓口、関係する国の大使館・領事館、または専門家にご確認ください。
「弟がアメリカに住んでいるのですが、相続の手続きはできますか」。川崎市・横浜市でご相談をお受けしていると、こうしたお問い合わせをいただくことがあります。
できます。ただし、日本国内だけで完結する場合と比べて、時間の見積り方が変わります。
相続人の中に海外にお住まいの方がいると、書類のやり取りに思った以上の日数がかかります。相続税の申告は10か月、相続放棄は3か月という期限がありますので、そこから逆算して動く必要があります。
この記事では、海外に相続人がいる場合の遺産分割協議の進め方を、行政書士の立場からご説明します。
目次
- 全員そろわないと、協議は成立しません
- 書類のやり取りに、思った以上の時間がかかります
- 持ち回りをやめる、という選択肢
- 何通必要か、先に決めておく
- 証明書の有効期限に気をつける
- 印鑑証明書に代わる書類が必要になります
- うりずん相続手続き相談室でできること
全員そろわないと、協議は成立しません
まず、動かせない前提から。
遺産分割協議には相続人全員の参加が必要で、海外にお住まいの方を外して進めることはできません。「連絡が取りづらいから」「時差があるから」という理由で除外して作った協議書は、効力を持ちません。
一方で、全員が一堂に会する必要もありません。集まれないから協議ができない、ということではないのです。
話し合い自体は、電話・メール・オンライン会議などを使って進めることができます。時差があるご家族の場合、日程調整だけで数日を要することもありますので、早めに声をかけておくことをおすすめします。
ただし、話し合いがまとまったことと、書面が整うことは別です。合意ができたら、それを書面にし、各相続人の署名・押印と、必要に応じて印鑑証明書や署名証明などを整える作業が残ります。時間がかかるのは、この後半の部分です。
なお、協議書そのものの書き方や記載事項については、遺産分割協議書の書き方と雛形の記事で詳しくご説明しています。この記事では、海外が絡む場合の進め方に絞ってお話しします。
書類のやり取りに、思った以上の時間がかかります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
日本から書類を送り、海外の相続人が受け取り、必要な手続きをして、日本へ返送する。この一連の流れを見積もってみてください。
海外との書類の送付や現地での手続、返送まで含めると、数週間以上を見込んでおく必要があります。国や地域、郵送方法、現地での手続状況によって大きく異なりますが、実務上の目安として3〜6週間程度、またはそれ以上を見込むことがあります。
特に、印鑑証明書に代わる書類を現地で取得する必要がある場合、日本人の海外在住相続人であれば、在外公館での証明手続が必要になることがあります。日本人が多くお住まいの都市では、予約が取れるまでに時間がかかることもあると聞きます。
一方で、日本国内の期限は待ってくれません。相続放棄を検討するなら3か月、相続税の申告が必要なら10か月。期限から逆算すると、動き出しは早いほどよいということになります。
もうひとつ、進め方でお伝えしておきたいことがあります。日本国内での戸籍収集や金融機関とのやり取りが多いケースでは、日本在住の相続人が窓口役になると進めやすいことがあります。海外にお住まいの方には、必要な書類の取得と返送に専念していただく。この役割分担にすると、結果として早く進むことが多いものです。
持ち回りをやめる、という選択肢
書類のやり取りにかかる時間を減らす方法があります。
一般的な遺産分割協議書は、1通の書類に相続人全員が署名・押印します。作成したら、AさんからBさんへ、BさんからCさんへと順番に郵送していくことになります。これを持ち回りと呼びます。
この方式だと、海外を経由するたびに数週間が加算されます。相続人が4人いて、そのうち1人が海外という場合でも、その1人のところで往復の時間が発生します。書類が今どこにあるのかを把握しておかないと、途中で止まっていることに気づくのが遅れます。
そこで、遺産分割証明書という方法があります。相続人それぞれが単名で作成するもので、内容は同じですが、全員の連名にはなっていません。
これを使うと、全員に同時に発送できます。待ち時間が順番に積み上がるのではなく、並行して進むことになります。海外との書類の往復回数を減らしたい場合には、この方法も検討できます。
ただし、提出先によって必要書類や取扱いが異なるため、実際に使用する前に金融機関・法務局などへ確認しておくと安心です。
何通必要か、先に決めておく
1通の遺産分割協議書を複数部作成する場合の話です。
協議書は何通作っても構いませんが、そのすべてに相続人全員の署名と押印が必要です。3通なら3通すべてに、5通なら5通すべてに、それぞれ署名と押印をもらうことになります。
相続手続きでは、金融機関、証券会社、法務局と、複数の窓口に提出することになります。窓口ごとに原本の提出を求められることもあります。
日本国内だけなら、足りなくなってから追加することもできます。しかし海外との往復が絡むと、あとから1通追加するだけで数週間かかります。
そこで、次の2点を先に確認しておくことをおすすめします。
- どの手続きに何通必要か
- 原本還付(提出した原本を返してもらう取扱い)が使えるか
原本還付が使えれば、少ない通数で複数の手続きを回せることがあります。
証明書の有効期限に気をつける
もうひとつ、時間との関係で気をつけたい点があります。
提出する証明書に、有効期限が問われることがあります。
金融機関によっては、印鑑証明書やそれに代わる証明書について、発行後一定期間以内のものを求めることがあります。一方、不動産の相続登記については、印鑑証明書の有効期限は特に定められていません。
つまり、先に取った書類が、実際に手続きで使う前に期限切れになるという事態が起こり得ます。海外での取得には時間がかかりますので、取り直しとなると大きな遅れになります。
対策は、取得の順番を考えることです。期限のある手続きに使うものを後に回す、あるいは提出先に先に確認しておく。この一手間で、やり直しを避けられます。
実務では、先に金融機関へ問い合わせて必要書類と有効期限を確認し、そのうえで海外の相続人に依頼する、という順番をとることが多いものです。依頼してから「期限が足りませんでした」となると、もう一度お願いすることになってしまいます。
印鑑証明書に代わる書類が必要になります
海外にお住まいで日本に住民登録がない場合、印鑑登録ができません。そのため、遺産分割協議書に押す実印と印鑑証明書という日本の実務が、そのままでは使えないことになります。
代わりに、署名が本人のものであることを証明する書類が必要になります。住所を証明する書類も、住民票とは別のものを用意することになります。
どの書類を、どこで、どういう形式で取るのか。外国語の書類・署名証明・翻訳については、別の記事で詳しくご説明します。
なお、相続放棄をお考えの場合は、海外にお住まいでも家庭裁判所での手続きが必要です。期限は自分のために相続があったことを知ってから3か月ですので、早めにご検討ください。3か月の数え方や必要書類については、相続放棄の期限と手続きの記事をご覧ください。
うりずん相続手続き相談室でできること
当相談室では、行政書士として、次のようなご相談をお受けしています。
- 戸籍の収集と、相続人の確定
- 相続人間に争いがなく、前提となる相続関係や必要書類を確認できる場合の、遺産分割協議書・遺産分割証明書の作成
- 必要な通数の見積りと、書類を取得する順番の整理
- 期限から逆算した、進め方の組み立て
海外にお住まいのご家族との連絡は、日本国内の相続人の方に担っていただくことになります。当室では、その方が何を、いつまでに、どういう順番で進めればよいかを整理します。
一方で、海外の相続人と連絡がつかない場合や、協議がまとまらない場合の対応は、弁護士の領域です。相続放棄の申述も家庭裁判所への提出書類となりますので、司法書士・弁護士へおつなぎします。
相続のお手続きでお困りの方へ
不動産の相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士。これらについては、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携してお手伝いします。
川崎・横浜エリアを中心に、初回のご相談は60分無料・土日祝もご予約可能・秘密厳守・お問い合わせには翌営業日までにご返信しています。お電話・LINE・お問い合わせフォームから、お気軽にご連絡ください。
川崎市・横浜市を中心に、ご相談をお受けしています。何から手をつけてよいか分からない、という段階からで構いません。
まとめ
海外に相続人がいても、遺産分割協議の基本は変わりません。全員の参加が必要で、話し合いはオンラインでもできます。
違うのは、時間です。書類の送付、現地での手続き、返送まで含めると、数週間以上を見込んでおく必要があります。相続放棄の3か月、相続税申告の10か月という期限から逆算すると、早く動き出すほど余裕が生まれます。
時間を短くする工夫もあります。ケースによっては遺産分割証明書を使って持ち回りを減らす、必要な通数を先に決めておく、有効期限を考えて取得の順番を組む。この3つで、かかる時間はずいぶん変わります。
どこから手をつけてよいか分からないときは、一度ご相談ください。