※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。利用できるかどうかは、住宅が制度の対象かどうか、ご本人やご家族の状況によって変わります。実際のお手続きの前に、お住まいの地域の居住支援協議会の相談窓口、市区町村の住宅担当窓口、または専門家にご確認ください。
高齢のご家族の住まいを探していると、「終身建物賃貸借」という言葉を目にすることがあります。名前だけを見ると、いわゆる普通の賃貸とどう違うのか、施設への入居と何が違うのか、分かりにくいかもしれません。
これは、原則として亡くなるまで住み続けることができ、死亡時に契約が終了する、一代限りの賃貸借契約です。2025年10月には手続きが見直され、以前より使いやすい形に整えられました。
この記事では、終身建物賃貸借がどういう契約なのか、誰がどこで使えるのか、そして注意しておきたい点を、行政書士の立場からご説明します。
目次
- 終身建物賃貸借とはどういう契約か
- 普通の賃貸借と何が違うのか
- 誰が使える制度なのか
- どんな住宅が対象になるのか
- 2025年10月に手続きが変わった
- いきなり終身の契約を結ばなくてもよい
- 契約が終了しても、家財の整理は別の問題
- うりずん相続手続き相談室でできること
終身建物賃貸借とはどういう契約か
終身建物賃貸借は、高齢者の居住の安定確保に関する法律にもとづく制度です。借地借家法の特例として設けられたもので、2001年(平成13年)に始まりました。
特徴は3つです。
- 賃借人が生きている限り、契約が存続する
- 終身建物賃貸借は、最後の賃借人が亡くなった時点で契約が終了し、賃借権(借家権)は相続されません。
- 契約上の義務を守っている限り、原則として亡くなるまで安定して居住できる
「一代限りの契約」と呼ばれるのは、2つ目の特徴によります。契約上の地位が次の世代に引き継がれないため、その人だけの契約になります。
なお、一つの住宅について賃借人が二人以上いる場合は、原則として賃借人全員が亡くなった時点で契約が終了します。ご夫婦がそろって賃借人になっている場合、お一人が亡くなっても、もうお一人がご存命であれば契約は続きます。
なお、事業者側からの解約にも一定の制限があり、一定の場合には知事等の承認や事前の申入れが必要とされています。長く住むことを前提とした制度なので、貸す側の都合だけで終わらせることはできない仕組みです。
普通の賃貸借と何が違うのか
比べてみると、性格の違いがはっきりします。
普通の賃貸借の場合
賃借人が亡くなると、契約上の地位は相続人に引き継がれます。借地借家法による借主保護がありますので、簡単に追い出されるわけではありません。ただし、契約更新や将来の住み替えに不安を感じる高齢者もいます。
終身建物賃貸借の場合
亡くなった時点で契約が終了し、賃借権は相続されません。契約上の義務を守っている限り、原則として亡くなるまで住み続けられる仕組みです。
貸す側にとっては、賃借権の承継をめぐる問題が起きにくくなります。契約が安定的に終了するため、その後の手続きを進めやすくなるという利点があります。
つまり、借りる側と貸す側の双方に意味のある仕組みだということです。高齢者が賃貸住宅を借りにくいと言われる背景には、貸す側の不安がありますが、この制度はその一部を和らげるものだと言えます。
誰が使える制度なのか
入居できる方の要件は、次のとおりです。
- 入居者本人が60歳以上であること
- 本人が単身であるか、同居者が配偶者または60歳以上の親族であること(配偶者は60歳未満でも構いません)
ご夫婦での入居も可能ですし、60歳以上のごきょうだいとお住まいの場合も対象になります。
同居しているご家族には、期限のある大切な手続きがあります。
賃借人ではなかった同居の配偶者または60歳以上の親族は、賃借人の死亡を知った日から1か月を経過する日までに事業者へ申出をすることで、原則として従前と同一の条件で新たな終身建物賃貸借契約を結び、継続して居住できます。亡くなった方の契約をそのまま引き継ぐのではなく、あらためて契約を結び直すという仕組みです。
この期限を過ぎると、継続居住の申出ができなくなります。ご家族が同居されている場合は、あらかじめこの仕組みを知っておいていただきたいところです。悲しみの中で1か月はあっという間に過ぎてしまいます。
どんな住宅が対象になるのか
ここが、この制度でもっとも大切な点です。終身建物賃貸借は、認可を受けた事業者が届け出た住宅でなければ利用できません。
住宅には基準があります。段差のない床、浴室等の手すり、幅の広い廊下といったバリアフリーの構造を備えていることや、一定以上の床面積が必要とされています。また、権利金その他の借家権の設定の対価を受領しないものであることも条件です。
こうした基準の詳細は、公開時点のものです。実際に検討される際は、お住まいの自治体の窓口や公式の情報でご確認ください。
大切なのは、どこでも使える制度ではないということです。気に入った物件について「終身建物賃貸借にしてほしい」と大家さんに頼めば済む、という性質のものではありません。事業者側が認可を受け、その住宅を届け出ていることが前提になります。
なお、サービス付き高齢者向け住宅で終身建物賃貸借が利用されることもありますが、サ高住そのものと終身建物賃貸借は別の制度です。サ高住は住宅の登録制度、終身建物賃貸借は賃貸借契約の特例と考えると整理しやすくなります。
2025年10月に手続きが変わった
高齢者の居住の安定確保に関する法律は、2025年(令和7年)10月1日に施行された改正により、手続きが見直されました。
従来は住宅ごとに認可を受ける方式でしたが、改正後は事業者ごとの認可と住宅ごとの届出という形に変わりました。事業者があらかじめ認可を受けておき、対象となる住宅を届け出るという流れです。
この見直しは、一般の賃貸住宅でも終身建物賃貸借を使いやすくすることを目的としています。これまで手続きの負担から導入をためらっていた事業者が参入しやすくなれば、選べる物件が増えていくことが期待されます。
認可の窓口は、原則として都道府県知事です。ただし政令指定都市などは各市が窓口になります。神奈川県内では、川崎市・横浜市・相模原市・横須賀市が、それぞれ各市の認可となっています。
なお、認可や届出は事業者側の手続きであり、入居希望者が自分で申請して、希望する物件を終身建物賃貸借に変更できるものではありません。
いきなり終身の契約を結ばなくてもよい
「終身」という言葉には重みがあります。一生ここに住むと決めてから契約しなければならないのか、と身構えてしまう方もいらっしゃるでしょう。
制度上は、そうではありません。入居希望者から申出があった場合に、終身建物賃貸借に先立って、1年以内の期間を定めた定期建物賃貸借をする仕組みがあります。仮入居と呼ばれるものです。
実際に住んで暮らしやすさや周囲の環境を確認したうえで、あらためて終身建物賃貸借契約を結ぶかを検討できます。仮入居から終身契約へ自動的に切り替わるわけではありません。また、すべての事業者が必ず対応しているとは限りませんので、検討される際は事業者にご確認ください。
契約が終了しても、家財の整理は別の問題
ここは誤解が生じやすいところなので、はっきりお伝えしておきます。
終身建物賃貸借では、亡くなった時点で契約が終了し、賃借権は相続されません。しかし、契約が終わることと、部屋の中の荷物が片付くことは別の話です。
お部屋に残された家具や衣類などのうち、亡くなった方が所有していた物は、原則として相続財産になります。契約が終了しても、家財が自動的に処分されるわけではありません。誰が引き取るのか、どう整理するのかは、あらためて考えておく必要があります。
国土交通省と法務省は、残置物の処理に関するモデル契約条項というひな形も示しています。終身建物賃貸借の契約を結んだだけで、残置物の処理まで当然に片付くわけではありません。
つまり、終身建物賃貸借を選んだとしても、亡くなったあとの段取りは別に決めておくことになります。孤独死後の残置物を誰が片付けるのか、死後事務委任契約で賃貸住宅の明け渡しまで頼めるのかについては、それぞれ別の記事で詳しくご説明します。
うりずん相続手続き相談室でできること
終身建物賃貸借は、住まいの制度であると同時に、亡くなったあとを見据えた契約でもあります。当相談室では、行政書士・社会保険労務士として、その周辺にある準備のお手伝いをしています。
- 死後事務委任契約の内容の整理と、契約書の原案作成
- 任意後見契約の原案作成、必要資料の整理、公証人との事前調整(任意後見契約は公正証書で締結する必要があります)
- 亡くなったあとに必要となる手続きの洗い出しと、費用の見通しの整理
- 同居のご家族がいる場合に、継続居住の申出期限や必要な確認事項を整理すること
一方で、物件の紹介、賃貸借の代理または媒介、入居審査の代行、契約条件の交渉は、当室の業務範囲外です。特に、賃貸借の代理・媒介を業として行うには、宅地建物取引業法上の免許が必要です。また、終身建物賃貸借事業の認可申請は事業者側の手続きですので、入居を希望される方に代わって当室が認可を取得できるものではありません。
相続のお手続きでお困りの方へ
また、不動産の相続登記、相続税の申告、明渡しや原状回復をめぐる紛争への対応については、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携してお手伝いします。
川崎・横浜エリアを中心に、初回のご相談は60分無料・土日祝もご予約可能・秘密厳守・お問い合わせには翌営業日までにご返信しています。お電話・LINE・お問い合わせフォームから、お気軽にご連絡ください。
川崎市・横浜市を中心に、おひとりで暮らす方やそのご家族からのご相談をお受けしています。
まとめ
終身建物賃貸借は、高齢者の居住の安定確保に関する法律にもとづく、借地借家法の特例です。原則として賃借人が亡くなるまで契約が存続し、死亡時に終了する一代限りの契約で、賃借権は相続されません。賃借人が二人以上いる場合は、原則として全員が亡くなった時点で終了します。
借りる側は原則として亡くなるまで安定して暮らせ、貸す側は賃借権の承継をめぐる問題が起きにくくなります。2025年10月の改正で手続きが簡素化され、今後は選べる物件が増えていくことが期待されます。
ただし、認可を受けた事業者が届け出た住宅でなければ使えないため、現時点では物件が限られます。まずは、お住まいの地域にそうした住宅があるかを確かめるところからになります。
そして、契約が終了しても家財の整理は別に決めておく必要があります。住まいの安心と、亡くなったあとの段取りは、分けて準備しておくものだとお考えください。
どこから手をつけてよいか分からないときは、一度ご相談ください。