※この記事は2026年8月時点の情報に基づく一般的な解説です。可否は、物件や貸主の方針、契約の内容、ご本人の状況によって変わります。実際のお手続きの前に、お住まいの地域の居住支援協議会の相談窓口、市区町村の住宅担当窓口、または専門家にご確認ください。
高齢のご家族が住み替えを考えたとき、あるいはご自身が長年住んだ家を離れることになったとき、「年齢を理由に断られた」という話を耳にすることがあります。単身の高齢者が民間の賃貸住宅を探すと、時間がかかることは少なくありません。
実際に、年齢だけで判断される場合もあります。ただ、その背景には貸す側の具体的な懸念があります。何を心配しているのかが分かれば、ひとつずつ形にして埋めていくことができます。2025年10月には、こうした場面を後押しする制度も動き出しました。
この記事では、その背景を整理したうえで、どこから手をつければよいかを行政書士の立場からご説明します。
目次
- 貸す側が高齢の入居希望者に抱く代表的な懸念
- 貸す側の不安を、3つの「空白」に整理する
- 連帯保証人を立てられないときにどうするか
- 本記事で押さえたい3つの制度
- 川崎市・横浜市で相談できる窓口
- 亡くなったあとの備えが、入居のしやすさにつながる
- うりずん相続手続き相談室でできること
貸す側が高齢の入居希望者に抱く代表的な懸念
貸す側が抱く心配ごとは、おおむね次の4つに整理できます。代表的なものとして押さえておくと、話が進めやすくなります。
- 家賃を支払い続けてもらえるか
- 室内で体調を崩したとき、気づく人がいるか
- 亡くなったあと、家財や荷物を誰が片付けるのか
- 何かあったときに連絡が取れる相手がいるか
このうち、亡くなったあとの家財の片付けは、貸す側にとって大きな不安の一つです。通常の賃貸借では、室内に残された家財は亡くなった方の財産として相続人に引き継がれるため、大家さんが原則として勝手に処分することはできません。次の入居者を迎えるには部屋を空にする必要がありますが、そこに手をつけられません。
貸す側の不安を、3つの「空白」に整理する
先ほどの4つの懸念を、入居を希望する側から見て「埋めるべきもの」として並べ直すと、次の3つになります。
- 家賃保証(連帯保証人を含む) — 家賃が支払われなかったときに、誰が、どこまで責任を負うのか
- 緊急時の連絡・見守り — 体調の急変や災害のときに、誰に連絡が行き、誰が動くのか
- 死亡後の明渡し・残置物 — 亡くなったあと、賃貸借契約の終了と部屋の片付けを誰がどう進めるのか
入居を断られる場面では、このどれかが空白のままになっていることがよくあります。それぞれが埋まっていると説明できれば、貸す側の判断材料は変わってきます。
見落とされやすいのは、この3つが別々の仕組みで埋まるという点です。ひとつの契約や、ひとりの人がすべてを引き受けてくれるとは限りません。誰が何を担当するのかを分けて考えることが近道です。
連帯保証人を立てられないときにどうするか
親族に連帯保証人を頼めない場合、実務では家賃債務保証会社を利用するのが一般的です。保証料を支払うことで、家賃が支払われなかったときに保証会社が貸主へ立て替えます。近年は、連帯保証人ではなく保証会社の利用を入居の条件とする物件も増えています。
ここで注意していただきたいことが2つあります。
ひとつは、保証の範囲です。家賃債務保証は、主に家賃等の金銭債務を対象とする仕組みです。緊急連絡先、亡くなったあとの明渡しや残置物の対応まで含むかは、保証契約や別契約の内容を確認しましょう。
もうひとつは、立て替えが免除ではないことです。保証会社が貸主に支払ったあと、入居者は保証会社から立替額の請求(求償)を受けます。支払わなくてよくなるわけではありません。
保証の範囲や求償の取扱いは、保証委託契約書、約款、保証内容の説明書で確認してください。契約したから安心と考えて進むと、入居審査で「緊急連絡先はどなたですか」と問われ、そこで止まることがあります。
なお、身元保証人がいない場合の賃貸入居については、別の記事で詳しくご説明します。
本記事で押さえたい3つの制度
住宅の確保が難しい方の入居を後押しするため、住宅セーフティネット法などの改正法が2025年(令和7年)10月1日に施行されました。改正の内容は幅広く、地域の居住支援体制の強化なども含まれますが、ここでは賃貸住宅を探す高齢者に直接関わる3つの制度を取り上げます。
居住サポート住宅
安否確認や見守り、福祉サービスへの連携といった入居中のサポートが付いた住宅を認定する制度です。一定期間センサーの反応がなければ支援団体に連絡が入り、訪問して必要な窓口につなぐ、といった仕組みです。貸す側の「気づく人がいない」という不安が和らぎます。
認定家賃債務保証業者
登録家賃債務保証業者または居住支援法人のうち、一定の要件を満たす者を国土交通大臣が認定する制度です。認定の基準には、居住サポート住宅に入居する住宅確保要配慮者からの申込みを正当な理由なく断らないことや、緊急連絡先を親族等の個人に限定しないことなどが含まれています。
ただし、入居や保証を無条件に約束する制度ではありません。個々の審査があることに変わりはなく、「認定制度ができたから必ず借りられる」わけではありません。
終身建物賃貸借
認可を受けた事業者が行う、高齢者向けの賃貸借契約です。入居者が亡くなったときに契約が終了し、相続人に引き継がれないという特徴があります。2025年10月からは、住宅ごとの認可から、事業者の認可と住宅ごとの届出へと手続が簡素化されました。この制度については、対象となる方の要件も含めて別の記事でご説明します。
(出典:国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」)
川崎市・横浜市で相談できる窓口
自力で不動産店を回っても見つからないときは、公的な相談窓口を使う方法があります。川崎市と横浜市には居住支援協議会の相談窓口があり、いずれも無料です。
川崎市「すまいの相談窓口」
川崎市と川崎市住宅供給公社が運営しています。高齢の方やご家族からの住み替え相談を受け付け、情報提供が可能な不動産事業者等を紹介するなど住まい探し全般を支援し、必要な支援先との連携も行います。窓口が直接物件を紹介するわけではありません。
なお、利用にあたっては、原則として親族・知人等の緊急連絡人を確保できることが条件とされています。緊急連絡人は連帯保証人とは別のものですが、「連絡が取れる人」を求められる点は入居審査と共通しています。
横浜市「よこはま住まいサポート」
横浜市、不動産関係団体、福祉団体などが連携する横浜市居住支援協議会の相談窓口です。物件の斡旋は行いませんが、民間賃貸住宅の探し方や、利用できる制度、福祉の相談窓口、居住支援サービスの案内を受けることができます。
亡くなったあとの備えが、入居のしやすさにつながる
最後の空白である「死亡後の明渡し・残置物」は後回しにされがちですが、貸す側の判断に影響します。
通常の賃貸借では、賃借人が亡くなると契約上の地位は相続人に引き継がれます。部屋に残された家財も相続の対象になる財産です。そのため大家さんは原則として勝手に片付けられず、相続人と連絡が取れなければ、部屋が長期間そのままになることがあります。この負担の重さが、高齢の単身者の入居に慎重になる理由のひとつです。
この問題については、国土交通省と法務省が残置物の処理等に関するモデル契約条項を策定しています。単身高齢者などで残置物のリスクがある場面を想定し、賃貸借契約とあわせて、亡くなったあとの契約解除と残置物の取扱いをあらかじめ委任しておく考え方です。使用が義務づけられたものではなく、任意のひな形です。
また、2025年10月の改正では、居住支援法人の業務に、入居者本人からの委託にもとづく残置物処理が加えられました。ただし、居住支援法人がこの業務を行うには、指定や業務変更の認可に加えて、残置物処理等業務規程について都道府県知事の認可を受ける必要があります。どの法人でも当然に行えるわけではありません。
いずれにも共通するのは、本人が生前に、自分の意思で委託しておくという点です。亡くなったあとに周囲が慌てるのではなく、契約という形で先に決めておく発想です。
入居を申し込む段階で、こうした備えがあることを説明できれば、貸す側の見え方は変わります。孤独死後の残置物を誰が片付けるのか、死後事務委任契約で賃貸住宅の明け渡しまで頼めるのかについては、それぞれ別の記事で詳しくご説明します。
うりずん相続手続き相談室でできること
住み替えは、住まいの問題であると同時に契約と段取りの問題でもあります。当室では、行政書士・社会保険労務士として次のようなご相談をお受けしています。
- 死後事務委任契約の内容の整理と、契約書の文案作成
- 任意後見契約の文案作成と、公証人との手続きの準備(任意後見契約は公正証書で締結する必要があります)
- 亡くなったあとに必要となる手続きの洗い出しと、費用の見通しの整理
- ご家族が遠方の場合の、緊急時の連絡体制の組み立て
- 年金の請求に関するご相談(社会保険労務士として承ります)
一方で、物件の紹介、賃貸借の代理または媒介、入居審査の代行、契約条件の交渉は、当室の業務範囲外です。特に、賃貸借の代理・媒介を業として行うには、宅地建物取引業法上の免許が必要です。当室がお手伝いするのは、ご事情と必要な支援を整理し、ご本人の意思を前提に、関係先との連絡の準備を整えるところまでです。
相続のお手続きでお困りの方へ
また、不動産の相続登記、相続税の申告、明渡しや原状回復をめぐる紛争への対応については、提携する司法書士・税理士・弁護士と連携してお手伝いします。どこに何を相談すればよいか分からない状態を解消することが、当室の役割だと考えています。
川崎・横浜エリアを中心に、初回のご相談は60分無料・土日祝もご予約可能・秘密厳守・お問い合わせには翌営業日までにご返信しています。お電話・LINE・お問い合わせフォームから、お気軽にご連絡ください。
川崎市・横浜市を中心に、おひとりで暮らす方やそのご家族からのご相談をお受けしています。まずはお話をお聞かせください。
まとめ
高齢者が賃貸住宅を借りにくいと言われる場面では、年齢だけで判断されることもありますが、その背景には貸す側の具体的な懸念があります。家賃保証、緊急時の連絡・見守り、死亡後の明渡しと残置物という3つの空白が埋まっていないことが、判断を難しくしている面があります。
この3つは、それぞれ別の仕組みで埋めていくものです。家賃債務保証がどこまでを対象としているのかを確認し、緊急時に連絡が取れる体制を整え、亡くなったあとの段取りを生前に契約という形にしておく。順番に手をつければ、ひとつずつ形にできます。
2025年10月の制度改正は追い風になりますが、制度があるから必ず借りられるというものではありません。公的な相談窓口も活用しながら、ご自身の状況に合った組み合わせを見つけていくことが大切です。
どこから手をつけてよいか分からないときは、一度ご相談ください。ご事情をうかがったうえで、必要な準備を順番に整理してお伝えします。