この記事は、2026年7月時点の情報に基づいています。成年後見制度を見直す改正民法は2026年6月に成立しましたが、施行はこれからです。実際の運用や細かな手続きは、今後の政省令・最高裁規則・家庭裁判所の運用などで具体化される可能性があります。最新の情報は法務省などの公式発表をご確認ください。

「親の物忘れが増えてきた。預金の管理や、いずれ実家を売るときの手続きはどうなるのだろう」——そんな不安から成年後見制度を調べ始めると、必ず出てくるのが「一度始めると、本人が亡くなるまでやめられない」という評判です。使いにくさを指摘され続けてきたこの制度が、2026年、約26年ぶりに大きく見直されることになりました。

2026年6月に成立した改正民法によって、成年後見制度は「必要なときに、必要な範囲で使える制度」へと生まれ変わろうとしています。ただし、成立したからといって、すぐに新しい制度が使えるわけではありません。この記事では、何がどう変わるのかを5つのポイントに整理し、そのうえで「では、いま何をしておくべきか」まで、行政書士の視点でやさしく解説します。


目次

  1. 成年後見制度とは?|まず現行制度の基本をおさらい
  2. なぜ改正されるのか|「使いにくい」と言われてきた理由
  3. 2026年改正の5つのポイント
  4. いつから変わる?|成立・施行のスケジュール
  5. 改正を待つべき?|いまからできる備え
  6. 認知症に備える相談は、判断能力があるうちに
認知症になり始めた親を持つ娘が行政書士に相談し2026年の成年後見制度改正と任意後見の備えを知る流れを描いたイラスト
認知症になり始めた親の後見や相続について家族が相談し、2026年改正と判断能力があるうちの備えへ進む流れ

成年後見制度とは?|まず現行制度の基本をおさらい

成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などで判断能力が不十分になった方を、法律の面から保護・支援する仕組みです。法定後見では家庭裁判所が本人に必要な支援者を選任し、その支援者が財産管理や契約などを支えます。

この制度には、大きく2つの種類があります。判断能力が低下した後に家庭裁判所が支援者を選ぶ「法定後見」と、判断能力があるうちに自分で任せる相手と内容を決めて契約しておく「任意後見」です。現行の法定後見には、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つの類型があります。

🌱 「法定後見」と「任意後見」の違いが出発点

法定後見は、判断能力が下がってしまった「後」に、家庭裁判所が支援者を選ぶ制度です。これに対して任意後見は、元気なうちに「もし将来判断できなくなったら、この人に、こういうことを頼みたい」と自分で決めて契約しておく制度です。今回の改正は主に法定後見の見直しですが、後半で説明するとおり、任意後見の重要性はむしろ高まります。法定後見と任意後見の詳しい違いは、別の記事でも解説しています。


なぜ改正されるのか|「使いにくい」と言われてきた理由

成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産や権利を守る大切な制度です。ただ、現行の仕組みには柔軟に使いにくい面があり、必要な場面でも利用をためらう人がいたことが、今回の改正の背景にあります。

これまで指摘されてきた主な課題は、次のようなものです。

  • 一度始めると、原則として本人が亡くなるまで続きやすい:たとえば遺産分割のために利用を始めても、その協議が終わった後も、日常的な財産管理まで支援が続くケースがありました
  • 支援者の権限が広く、本人の自己決定が制約されやすい:とくに「後見」類型では包括的な代理権が与えられ、本人の希望が後回しになりがちでした
  • 支援者を交代しにくい:相性が合わないといった理由では、交代が認められにくい仕組みでした
  • 費用の負担が続く:専門職が支援者につくと、報酬が長期間にわたって発生します

こうした「使いにくさ」から、認知症の高齢者が数百万人規模とされる一方で、成年後見制度の利用者は令和7年末時点で約26万人にとどまっています。今回の改正は、この状況を変え、「必要なときに、必要な範囲で使える制度」へと転換することをめざしています。


2026年改正の5つのポイント

改正でどう変わるのか、大きく5つのポイントに整理します。いずれも方向性が定まったものですが、細かな運用は今後の政省令や家庭裁判所の運用で具体化されます。

① 終身制の見直し ——「終われる制度」へ

これまでは、一度利用を始めると、本人の判断能力が回復しない限りやめられませんでした。改正後は、必要な目的を終えて支援の必要性がなくなったと家庭裁判所が認めた場合に、制度の利用を終了できる仕組みへ見直されます。「実家の売却が終わるまで」「遺産分割協議が終わるまで」といった、目的を定めた利用がしやすくなると期待されています。

② 3類型の見直し ——「補助」を基本にした制度へ

現行の「後見」「保佐」「補助」という3類型は見直され、「補助」を基本に、本人に必要な代理権・同意権・取消権を個別に設計する方向です。ただし、判断能力を大きく欠く常況にあり、幅広い取消権が必要な場合にも対応できるよう、「特定補助」という仕組みも予定されています。「補助に一本化=重い支援ができなくなる」わけではなく、重い支援が必要な方にも対応できる設計になっています。

③ オーダーメイド型 ——必要な支援だけを、本人の同意を得て

これまでのように類型で大きく分けるのではなく、本人の状態や課題に応じて、不動産の売却、預金の管理、遺産分割など、必要な事務ごとに支援内容を決める方向です。しかも、支援者に代理権・同意権を与えるには、原則として本人の同意が必要とされます。本人の意思を出発点にする、という考え方です。

④ 支援者の交代の柔軟化

これまでは、不正などがない限り支援者を交代しにくい仕組みでした。改正後は、本人の生活状況や必要な支援が変わった場合に、本人の利益のため特に必要があるときは、支援者の解任・交代を柔軟に行えるようにする方向です。

⑤ 報酬の透明化

報酬についても、本人や家族にとって分かりやすく、透明性のある仕組みとなるよう、算定の考え方や運用の見直しが進むことが期待されています。具体的な算定ルールや運用は、今後の制度設計・家庭裁判所の運用を確認する必要があります。

🌱 キーワードは「終わらない制度」から「終われる制度」へ

5つのポイントに共通するのは、「本人にとって必要なときに、必要な範囲だけ、必要な期間だけ使える制度へ」という方向性です。これまで「大げさすぎる」「一度始めたらやめられない」と感じて敬遠されがちだった制度が、より選びやすい選択肢の一つになっていくことが期待されています。


いつから変わる?|成立・施行のスケジュール

ここが、とても大切なポイントです。改正法は2026年6月に成立しましたが、成立したからといって、すぐに新しい制度を使えるわけではありません。

改正法は2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。施行(実際に制度が動き出すこと)は内容ごとに段階的に定められており、成年後見の本体部分については、公布から2年6か月以内とされています。そのため、実際に新しい制度が使えるようになるのは、早くても2028年ごろになる見込みです。家庭裁判所や行政のシステム整備、運用ルールづくりに時間がかかるためです。

⚠ 「もう変わった」わけではありません

報道では「成年後見制度が変わる」と大きく伝えられましたが、いま現在は、これまでの制度がそのまま続いています。新しい制度が実際に使えるのは2028年ごろの見込みで、具体的な施行日は今後の政令などで定められます。「制度が変わるのを待ってから動こう」と考えていると、その間に必要な手続きが進められなくなることもあるため、注意が必要です。


改正を待つべき?|いまからできる備え

「制度が使いやすくなるなら、改正を待った方がよいのでは」と考える方もいます。しかし、判断はご本人の状況によって大きく変わります。

すでに親の判断能力が低下している場合、改正を待つ余裕はありません。 施行は2028年ごろの見込みで、それまでの間に、預金の解約、不動産の売却、施設の入所契約、遺産分割などが必要になっても、判断能力が不十分だと手続きが進められなくなることがあります。この場合は、改正を待つのではなく、いま使える制度や手続きを検討することが大切です。

一方、ご本人がまだ元気で、判断能力がしっかりしている場合は、選択肢が広がります。ここで重要になるのが、判断能力があるうちにしかできない備えです。

  • 任意後見契約:判断能力があるうちに、「誰に」「どのような事務を」任せるかを自分で決めて契約しておけます。制度が改正されても、元気なうちに自分の意思で備えておく重要性は変わりません
  • 見守り契約・財産管理委任契約:判断能力が低下する前の段階から、定期的な連絡や、通帳の管理・支払いの代行などを頼んでおける契約です
  • 遺言書の作成:財産の分け方を、自分の意思で確実に残しておけます
  • 家族信託:家族が受託者になれる場合には、選択肢になることもあります。ただし、信託契約・税務・不動産登記・金融機関対応などが関係するため、司法書士・税理士などと連携して慎重に検討する必要があります

✅ 判断能力があるうちにしかできない備えチェックリスト

  • 任意後見契約(誰に何を任せるかを自分で決めておく)
  • 見守り契約・財産管理委任契約(判断能力が下がる前からの支援)
  • 遺言書の作成(財産の分け方を自分の意思で)
  • 家族での話し合い(もしものとき、誰に何を頼むかを共有)

※これらはいずれも、ご本人に判断能力があることが前提です。認知症などで判断能力が低下すると、多くが行えなくなります。

なお、任意後見制度についても今回の改正で見直しが予定されていますが、監督の仕組みや具体的な運用は今後の確認が必要です。詳しくは、法定後見と任意後見の違いを解説した記事もあわせてご覧ください。


認知症に備える相談は、判断能力があるうちに

成年後見制度がどう変わっても、変わらない大切なことがあります。それは、「ご本人の判断能力があるうちに動く」ことの重要性です。任意後見も、遺言も、家族信託も、判断能力があることが前提です。「まだ元気だから大丈夫」と先延ばしにしているうちに判断能力が低下すると、選べる手段が大きく減ってしまいます。

うりずん相続手続き相談室では、行政書士として、任意後見契約、見守り契約、財産管理委任契約、死後事務委任契約、遺言書の作成支援など、判断能力があるうちに備えるための書類作成をサポートしています。「何から考えればいいか分からない」という段階でも、ご本人やご家族のご希望をうかがいながら、必要な備えを一緒に整理していきます。すでに判断能力が低下しており、法定後見の申立てが必要な場合には、家庭裁判所での手続きに対応する提携先の司法書士・弁護士と連携してご案内します。まずはお気軽にご相談ください。


まとめ

2026年6月に成立した改正民法によって、成年後見制度は「終わらない制度」から「必要なときに必要な範囲で使える、終われる制度」へと大きく見直されることになりました。5つのポイント(終身制の見直し・補助を基本にした制度への一元化と特定補助・オーダーメイド型・支援者交代の柔軟化・報酬の透明化)は、いずれも本人の意思を尊重する方向です。ただし、施行は2028年ごろの見込みで、いまはまだ現行制度が続いています。大切なのは、改正を待つかどうかにかかわらず、判断能力があるうちにできる備え——任意後見や遺言など——を早めに整理しておくことです。制度の見直しをきっかけに、ご家族の将来について話し合ってみてはいかがでしょうか。

※この記事は2026年7月時点の情報に基づく一般的な解説です。個別の手続きや最新の制度内容については、法務省などの公式情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。