「親の物忘れが心配になってきた」「自分の判断能力が衰えたときに備えたい」——そんなとき検討することになるのが成年後見制度です。ただ、調べ始めると「任意後見」と「法定後見」という2つの言葉が出てきて、違いが分かりにくいと感じる方は少なくありません。
両者の最も大きな違いは、いつ・誰が後見人を決めるかです。元気なうちに自分で選んで備えておくのが任意後見、判断能力が低下してから家庭裁判所が選ぶのが法定後見です。この記事では、それぞれの仕組み・費用・選び方を、できるだけやさしく整理します。
目次
- 成年後見制度とは|任意後見と法定後見の2つがある
- 任意後見とは|元気なうちに自分で備える
- 法定後見とは|判断能力が低下してから家庭裁判所が選ぶ
- 任意後見と法定後見の違いを比較【一覧表】
- どちらが向いている?ケース別の考え方
- 手続きの始め方と相談先|行政書士・司法書士・弁護士の役割
成年後見制度とは|任意後見と法定後見の2つがある
成年後見制度は、認知症や障害などにより判断能力が不十分になった方について、預貯金の管理、不動産の処分や施設入所などの契約、各種手続きを支援する制度です。自分に不利益な契約から本人を守る役割もあります。
この制度には、大きく分けて任意後見と法定後見の2つがあります。元気なうちに自分の意思で備えるのが任意後見、判断能力が低下した後に制度として対応するのが法定後見、というのが基本的な位置づけです。
🌱 ポイント:後見=介護そのものをする制度ではありません
成年後見人等は、本人の生活や療養看護に関する契約・手続きに関わりますが、実際に介護や身の回りの世話をする人という意味ではありません。あくまで財産管理や契約などの法律行為を支援する制度です。なお、医療行為への同意については、成年後見人等に当然に包括的な同意権が認められているわけではありません。後見人を立てれば、医療同意まで当然に任せられるというものではない点には注意が必要です。
任意後見とは|元気なうちに自分で備える
任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来に備えて、自分で選んだ相手(任意後見受任者)と「どんな事務を任せるか」を契約で定めておく制度です。そして、実際に本人の判断能力が不十分になった後、その相手が任意後見人として、契約で定めた事務を本人に代わって行います。
任意後見で特に押さえておきたいのは、次の3点です。
- 判断能力があるうちに契約する(低下してからでは結べない)
- 任意後見契約は公正証書で作成する必要がある
- 契約しただけでは始まらず、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時に効力が生じる
🌱 任意後見は「契約してすぐ始まる」ものではありません
任意後見契約を結んでも、すぐに任意後見人の仕事が始まるわけではありません。本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に申し立てて任意後見監督人が選任されて、はじめて効力が生じます。任意後見監督人は、任意後見人がきちんと仕事をしているかをチェックする役割を担います。
任意後見には、将来に備えて契約だけしておく「将来型」、見守り契約や財産管理委任契約と組み合わせる「移行型」、判断能力が低下し始めた段階ですぐの利用を見込む「即効型」など、実務上いくつかの使い方があります(詳しくは別記事で扱います)。
法定後見とは|判断能力が低下してから家庭裁判所が選ぶ
法定後見は、すでに判断能力が低下している方について、家庭裁判所が後見人等を選任して支援する制度です。本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれます。
| 類型 | 本人の判断能力の状態 | 支援する人 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態 | 成年後見人 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 保佐人 |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 補助人 |
3類型は、支援する人に与えられる権限の範囲が異なります。後見では、成年後見人に広い代理権と取消権が与えられ、日常生活に関する行為を除いて、本人がした契約を後から取り消すことができます。保佐・補助では、法律や家庭裁判所の審判で定められた範囲に応じて、同意権・取消権が認められ、後見より限定的になります。これは、本人に残された判断能力をできるだけ尊重するためです。
⚠ 注意:候補者を挙げることはできますが、最終的に選ぶのは家庭裁判所です
法定後見では、申立ての際に後見人等の候補者を挙げることはできます。ただし、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。事案によっては、親族ではなく弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれることもあります。また、いったん始まると、原則として本人の判断能力が回復するまで続き、専門職が選ばれた場合などには報酬が継続して発生します。
任意後見と法定後見の違いを比較【一覧表】
ここまでの内容を一覧で整理します。
| 比較項目 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|
| 利用するタイミング | 判断能力があるうちに契約して備える | 判断能力が低下した後に利用する |
| 後見人を決める人 | 本人が契約で選ぶ | 家庭裁判所が選ぶ |
| 手続き | 公正証書で任意後見契約を結ぶ | 家庭裁判所へ申立て |
| 効力の発生 | 任意後見監督人が選任された時 | 後見等開始の審判が確定した時 |
| 監督する人 | 任意後見監督人 | 家庭裁判所・必要に応じて監督人 |
| 取消権 | なし | 後見では広くあり、保佐・補助では法律や審判で定められた範囲であり |
| 本人の意思反映 | 大きい | 本人の意思も考慮されるが、家裁の判断が中心 |
| 向いている場面 | 元気なうちに信頼できる人を決めたい | すでに判断能力が低下している |
表の中でも特に実質的な違いが大きいのが「取消権」です。任意後見人には、本人がした契約を取り消す権限はありません。一方、法定後見では、後見の場合に広く取消権が認められます。保佐・補助では、法律や家庭裁判所の審判で定められた範囲に応じて、同意権・取消権が認められます。悪質商法などから本人を守る必要がある場面では、この取消権の有無が選択の分かれ目になることがあります。
🌱 任意後見契約がある場合は、本人の意思が尊重されます
任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるとき以外は、法定後見を開始しない取り扱いになっています(任意後見契約に関する法律10条)。これは、元気なうちに本人が自分で選んだ意思を、できるだけ尊重するための仕組みです。
費用の違いも確認しましょう
費用の考え方も、両者で異なります。任意後見では、まず契約を作る段階で、公正証書の作成費用や登記に関する費用がかかります。その後、本人の判断能力が低下して任意後見を開始する段階では、任意後見監督人選任の申立費用がかかります。さらに、任意後見が始まった後は、任意後見人や任意後見監督人への報酬が継続的に発生することがあります。法定後見では、家庭裁判所への申立費用、判断能力の鑑定が必要な場合の鑑定費用、後見人等への報酬などがかかります。
いずれも、財産額や専門職が関わるかどうかなどによって変わります。具体的な金額は、家庭裁判所・公証役場・専門家に確認することをおすすめします。
どちらが向いている?ケース別の考え方
任意後見と法定後見は、本人の状況によって選べるものが変わります。
任意後見が向いている人
- まだ判断能力があり、これから備えたい
- 誰に任せるかを自分で決めたい
- おひとりさまで、将来の財産管理や契約手続きが不安
- 財産管理委任契約・見守り契約・死後事務委任契約と組み合わせたい
法定後見が向いているケース
- すでに認知症などで契約内容を理解するのが難しい
- 悪質商法や不利益な契約を取り消す必要がある
- 遺産分割協議や不動産売却など、本人に代わる法的手続きが必要(ただし、本人の居住用不動産の処分などには家庭裁判所の許可が必要になる場合があります)
- 家族だけでは財産管理が難しい
🌱 選べるかどうかは「時間軸」で決まります
元気なうちであれば任意後見を選べますが、判断能力が低下して契約内容を理解できなくなった後は、原則として法定後見を検討することになります。「自分で選びたい」のであれば、元気なうちの準備が前提になります。
おひとりさまの終活全体の中での位置づけは、別の記事でも整理しています。
手続きの始め方と相談先|行政書士・司法書士・弁護士の役割
最後に、実際に進める際の入口と、相談先の役割を整理します。任意後見は公証役場で契約を結ぶところから、法定後見は家庭裁判所への申立てから始まります。どの専門家に相談するかは、必要な手続きによって変わります。
行政書士が関わりやすい部分
- 任意後見契約の内容整理、公正証書作成に向けた文案・資料の準備
- 見守り契約・財産管理委任契約・死後事務委任契約との組み合わせ
- 遺言書との併用の整理
司法書士・弁護士への相談を検討する部分
- 法定後見の申立書類の作成、家庭裁判所への申立て
- 親族間に対立があるケースや、財産管理をめぐる紛争
- 後見人候補者や専門職後見人に関する相談
⚠ 法定後見の申立ては専門家に相談を
法定後見の申立て手続きは、書類の準備や家庭裁判所とのやり取りが必要で、状況によっては専門的な判断を要します。申立てを検討する段階では、司法書士・弁護士へ相談することをおすすめします。
まとめ
任意後見と法定後見の違いは、「いつ・誰が後見人を決めるか」に集約されます。元気なうちに自分で備えるのが任意後見、判断能力が低下してから家庭裁判所が選ぶのが法定後見です。そして、自分で選びたいのであれば、元気なうちの準備が前提になる——これが選択の出発点です。
うりずん相続手続き相談室では、任意後見契約、財産管理委任契約、見守り契約、死後事務委任契約、遺言書作成支援など、元気なうちにできる備えを中心にお手伝いしています。すでに判断能力が低下しており、法定後見の申立てが必要な場合には、提携する司法書士・弁護士と連携してご案内します。あわせて、実際の身元保証や死後事務の継続的な対応については、当事務所代表が代表理事を務める一般社団法人いきいきライフ協会川崎南と連携し、国の高齢者等終身サポート事業者ガイドラインの趣旨を踏まえて、サービス内容・費用・契約範囲を分けてご説明します。まずはお気軽にご相談ください。